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建国の絆 第4回(有料版)

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建国の絆 第4回(有料版)

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イルミンスール魔法学校 1


 いち早く行動に出たのは、イニシアチブをとった教導団と魔法学校だった。
 教導団は部隊ごとにモンスターとの戦いへと繰り出していく。一方、魔法学校が目指すのは、あまりモンスターがいなさそうな方面だ。

 イルミン生のクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は仲間達に激を飛ばす。
「イルミンスール生に告ぐ! イルミンスール生に告ぐ!
 みんな、テンション上げろ、戦争だッ!
 しかし、今回に限って戦争とは、武力の衝突にあらず!
『魔法研究以外に能がない』と小馬鹿にされた以上、その魔法研究オタクの底力がどれほど恐ろしいのか、ヴィルヘルムとかいうヤツに思い知らせてやりましょう!」
 クロセルの言葉に、集まった魔法学校生達が「おおーッ!」と意気をあげる。
 あまり気合がこもっていない者にはシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が、気合注入とばかりに軽く叩いてまわる。
「ほらっ、シャキッとなさい!」
 総じてイルミン生のテンションは高い。魔法学校長のパートナー、魔女アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)もこれには満足そうだ。
「皆、がんばるのじゃぞ。期待しておるからの」
 そんなアーデルハイトを心配する生徒も多い。エル・ウィンド(える・うぃんど)もそんな一人だ。
(今回の残機はたったの3機だって。アーデルハイト殺人事件で軽く三百体以上消費してしまったので、そのせいかな。
 ボクはあの時、偽装結婚したアーデルハイト様を護ることが出来なかった。だが今回こそ護ってみせる)
 エルは決意を込めて、その時同じ金色のタキシードを着ている。
 そのように護りを固める魔法学校生徒の中に、教導団員の道明寺玲(どうみょうじ・れい)もいた。
「教導作戦との事ですから、周囲の警戒はそれがしたちにお任せあれ」
「うむ! 心強いぞ。よきに計らうのじゃ」
 アーデルハイトは上機嫌で、目の前の扉を開けた。

ちょごーん!!!

 大爆発が起きた。……アーデルハイト、一人目、爆死。

「な、何が起こったのじゃー?!」
 アーデルハイトが次の体で駆けつけ、呆然としている生徒達に怒鳴る。
 玲が爆発後に残された部品を拾い上げる。
「どうやら爆弾が設置されていたようですな。状況から考えて鏖殺寺院でしょう」
 各学校が寝所に突入する前、地中にある時から鏖殺寺院は寝所内に細工をする時間があった。
 遺跡を捜索するにしても、魔法学校一行には(魔法的な物を除いて)罠に対する心構えが足らなかったようだ。
 イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が、テケテケと玲の横に来て言う。
「魔法学校の生徒さんも意気込んではるでしょうけど、ここが敵の手に落ちた古代遺跡やゆうの忘れんように注意しはった方がよいどすえ」


 以降、アーデルハイト達はちょっとだけ慎重に、寝所内部を見て回ることにした。
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)がアーデルハイトの死体をかついで歩く。
(なにしろ、あの大ババ様の体だ。検体として鏖殺寺院が狙わんとも限らん)
 彼は万一にも備えて、やられた後の体も奪われることの無いように守るつもりだ。
 多くの生徒達は、寝所内でアイテムを探したり、彼らを護衛する事に専念している。
 だがイルミン生日堂真宵(にちどう・まよい)は憤慨していた。
「どおおぉして何も無いのよ、この遺跡!」
 トレジャーハンティングと勢い込んでやってきたが、レアアイテムも、彼女が探す魔法の杖も、アーサー・レイス(あーさー・れいす)が探す調理器具の類も、それどころか、普通の「物」ですら見つからない。
 アイテムを山積みしよと用意した、アーサーのバイクのサイドカーも空っぽのままだ。「人が生活した形跡がありませんね……」
 アーサーはつぶやいた。
 寝所内は、SF的で無機質な光景が広がっている。飾り気の無い壁や台があるだけで、いわゆる「アイテム」は見当たらない。
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が隣の部屋からフラフラとやってきて真宵に聞いた。
「ねえ、何でもいいから本、見なかった?」
「本も何も無いわね」
 真宵の返事に、カレンは「はぁ」と肩を落とす。
「珍しい本どころか、紙きれ一枚無いんだもんね。アーデルハイト様はなんで、ここを捜索しようと思ったんだろ?」
「わたくし、聞いてまいりますわ。……大ババ様超ババ様スーパーババ様、教えてくださいまし〜!」
 真宵の行った方角から、しばらくして「ちょごーん!」と爆発音が響いてくる。
「あーあ、ババ様なんて呼ぶから」
 カレンがつぶやき、アーサーは額を押さえる。
 辺りに気を配ったいたジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が言う。
「カレン、周囲の警戒は我に任せて、書の回収にあたれ。時間は無限ではないのだぞ」
「そーだった。アーデルハイト様の残機が3機やられちゃうと、強制退場みたいだし、それまでに、とにかく急いで探さなくっちゃ!」
 カレンはまた本を探して、寝所内を早足に進んだ。

 教導団員の道明寺玲(どうみょうじ・れい)が爆発物を探すために、イルミン生達から離れる。それを確認した出雲竜牙(いずも・りょうが)は、アーデルハイトに声を潜めて聞いた。
「本当に良いんですか? 教導団と手なんか組んで。キマク家との関係悪化に繋がりかねないし、本格的に教導団に肩入れをする前に、彼らがイルミンを叩き潰しに来る可能性もある」
 アーデルハイトは竜牙をぎろりと見た。
「おぬし、忠言に見せかけて、私をたばかるか? キマクとヒラニプラの対立を決定的なものにして、シャンバラ建国を遅らせようという、鏖殺寺院の手のものか?」
「いえ、そんなつもりは……」
 竜牙はあらぬ疑いをかけられて、たじろぐ。アーデルハイトは言った。
「キマクの当主はドージェにウツツをぬかし、一首長家で他家に歯向かうわ、ツァンダ家はロクな知識も集めぬまま鏖殺寺院と全面戦争に突入しようとするわ、エリザベートは何かと言うとデコ娘に張り合うわ……。若い者は血の気ばかり多くて、学校や家ごとの争いに没頭しおって困る。今回は教導団を抑えられて幸いじゃったものの」
 くどくどくどくどくどくどくど。
 アーデルハイトの説教は延々と続く。竜牙はパートナーのモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)に視線を送るが、彼女は別行動とばかりに周囲の警戒に集中していた。

 竜牙を説教から開放したのは、東雲いちる(しののめ・いちる)だった。
 いちるは、彼女を助けた「小さいおじさん」の話をアーデルハイトに話しに来たのだ。アーデルハイトは眉を寄せる。
「う〜む、何か五千年前の記憶がウズウズするのじゃが……。その小さいおっさんとやらに会って話してみたいのう。
 じゃが、その様子だと呪いやギアスの類をかけられているようから、話を聞くのは難しいかもしれん」
「呪い……ですか?」
 いちるが緊張した表情で聞く。
「例えば、裏切ったら死ぬとか、秘密をバラしたらカエルになる、というのが代表例じゃろうな。基本的に邪術や禁呪に多いのう」
 ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)の表情は厳しい。
「その呪いとやら、かかわった者にも影響するのか?」
 彼の不遜な態度の質問に、アーデルハイトは隠されたいちるへの想いを感じ取り、にまにまと笑う。
「若い者はえぇのう。まあ、見て聞いたところでは、おっさんめが呪いを他に広げないようにしておる印象じゃのう」
「…………」
 ギルベルトは黙りこくる。いちるはアーデルハイトに言う。
「じゃあ、その呪いを解いてあげれば、彼も自由に話せるようになるんですね」
 ギルベルトの予想通りの言葉だ。いちるが、そういう「生ぬるい」考えなのは、よく知っている。
(だからこそ俺は……)


 アーデルハイトが話している間にも、イルミン生は熱心に寝所内部の捜索をしていた。そのイルミン生に混じり、蒼空学園生志位大地(しい・だいち)も共に捜索をしている。
 曰く「イルミンは蒼学よりよっぽどまともである。蒼学の俺が言うのだから間違いない」
 大地が隠し扉でも無いかと探し回っていると、シーラ・カンス(しーら・かんす)がパイルバンカーを壁に向けようとしている。
「待ってください、シーラさん。壁を破ろうとでも言うのですか?」
「ええ、壁の向こうに何かあるかもしれないから」
「……この壁の向こうは、先程、捜索を終えた隣の部屋です」
 大地は軽く頭痛を覚える。
 その壁には用途の分からない金属片が付いていた。彼のトレジャーセンスは、金属片が「何も無いよりはマシ」と告げる。
「他に何も見つかりませんし、これも何かの足しになるかもしれません」
 大地は手先の器用さを生かしてピッキングを駆使し、壁から金属片を剥がし取った。
 が、背後から素早く伸びた手が、金属片を奪おうとする。
「何をするのです?!」
 金属片に手を伸ばすイルミン生、仮面の忍者ケロリンことナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)が、ふふんと不敵に笑う。
「大地殿は蒼学でござろう! 拙者によこすでござる!」
 ナーシュはそれまで、光学迷彩や隠れ身で身を潜めていたのだ。
「何を馬鹿な。私はイルミンスールの味方です」
「蒼学生の言葉など信じられんでござるよ」
 二人は金属片を引っ張り合い……パキン、と音を立てて、それは割れてしまった。
「なんて事をするでござるか!」
「それは俺のセリフ、あっ?!」
 ナーシュは大地の手から破片を奪い取ると、二枚の破片を井ノ中ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)に投げ渡す。
「おっととと! あぶねー。投げてよこすんじゃねーよ」
 カエルなゆる族ケロ右衛門はぴょんと飛んで破片をキャッチし、背負った唐草模様の風呂敷に突っこむ。
「さあ、逃げるでござる!」
「やれやれ……俺に盗みの片棒担がせる気かよ」
「それはイルミンの押収物だからかまわないでござるよ」
 ナーシュとケロ右衛門は光学迷彩を利用しつつ退却していく。唖然とした大地が、後にとり残された。