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リアクション
ダークヴァルキリー戦 1
クイーンヴァンガード親衛隊長ヴィルヘルム・チャージルに、友軍である百合園女学院を率いる教師ヘルローズ・ラミュロスから申し出があった。
「ダークヴァルキリーを追って寝所中を走り回るより、戦いやすい場所で相手が来るのを待った方が良いのじゃなくて?」
「……結果的にそのようだな」
お気楽そうな女教師の言葉に、親衛隊長は不承不承うなずく。
当初、彼らはダークヴァルキリーや鏖殺寺院が、真っ向から向かってくると考えていた。
だが狂えるダークヴァルキリーは、人間など相手にしていなかった。人の心をつんざくような悲鳴をあげながら、寝所の中を飛び回っているだけだ。
ダークヴァルキリーは壁、床、天井をすり抜けて飛ぶ。彼女が通った場所は、魔物化して人々に襲いかかった。ダークヴァルキリーの後を追いかけても、モンスターとの戦いが続くだけだ。鏖殺寺院もほとんど姿を見せない。
「ダッ、ダークヴァルキリーが来たぞぉ!」
蒼空学園生達が叫びがあがった。寝所の壁面が泡立ち、海面を割るように巨大な姿が現れる。その姿は怪物そのものだ。人間の、それも赤子のような顔が無数に生え、軟体動物のような触手や突起に覆われている。よく見れば、黒い羽のような物も見えるが、その力で飛んでいる訳ではないだろう。その体の周囲に次々とモンスターが現れ、落下して人々に襲いかかる。
ヴァルキリーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は眉をひそめる。
「ダークとついているとはいえ、あれが何故『ヴァルキリー』なのでしょう?」
セルフィーナはバーストダッシュで、落ちかかるモンスターを避けては斬りかかる。
しかしパートナーの騎沙良詩穂(きさら・しほ)は、戦闘に際してドSのスイッチが入っており、返事は無い。彼女はダークヴァルキリーに向けて、殺意に満ちた笑みを浮かべる。
「あら、お目覚めですか、ダークヴァルキリーのお嬢様。そんな寝起きで、戦闘民族騎沙良 詩穂に勝てるとでも思っているのですか?」
セルフィーナが止めようとするが、間に合わない。詩穂は危険な目つきでパイルバンカーを掲げ、ダークヴァルキリーに突進する。
「その汚らしいボサボサの寝起きの髪を整えてあげますからね。それともまた眠りにつ、ゲボッ!!」
詩穂はモンスターの一撃を受け、臓物をまき散らして床に転がった。セルフィーナは悲痛に叫びながら、詩穂を回収しようとする。
同じく蒼空学園生の中でウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も、ダークヴァルキリーに近づこうとモンスターと奮戦していた。
ウィングは闇黒耐性を徹底的に高めて、ほぼ半減させている。逆に攻撃では、光の剣、光条兵器、光術、光精の指輪、則天去私を組み合わせた一撃を出そうとするが、そんな事はできずに、モンスターに取り囲まれてしまう。
また、闇の属性を帯びているからといって、必ずしも光輝に弱いという事はない。
人間の能力に比べ、数千年、数億人分もの呪いをまとう神ダークヴァルキリーの力は桁外れだ。その圧倒的すぎる力の前に、人間の放つ技ではあまりに小さすぎて、光輝耐性の大小を測る事はできない。
ウィングは頭上のダークヴァルキリーをにらむ。
「こんなやつに手間取っていたら、最終目的を果たせない。ならば自分に力をつけるために踏み越えてやる!!」
彼は、フェルブレイドのスキルで封印解除を行なう。
英霊アンブレス・テオドランド(あんぶれす・ておどらんど)は、それで自分も強化されたと考え、ヒロイックアサルト<三千世界の剣>を放つ。それはモンスターに当たるが、致命傷にはならずに逆に怒らせただけだ。モンスターの反撃に、アンブレスは血みどろになって壁に叩きつけられる。
アンブレスが戦闘不能になっては、パートナーのウィングも無事では済まされない。脱力して膝を付いたところを攻撃され、倒れ伏した。
駿河北斗(するが・ほくと)は両手剣型の光条兵器で、ダークヴァルキリーに斬りかかる。
「てめえが何であろうと、ドージェを追いかける邪魔だってんなら、ぶっ飛ばす! それだけだ!!」
その光の刃がダークヴァルキリーに届く直前、急に消えた。
「おわっ?!」
空振りになって北斗は、その場に転がってしまう。そこにダークヴァルキリーの体から落ちてきたモンスターが襲いかかる。
「このっ!」
ふたたび光の刃が現れ、モンスターの首をはねた。
北斗にヒールがかかる。剣の花嫁ベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)だ。
「あなた、光条兵器で斬る対象に変な物を設定してるでしょう?」
「細けぇ事はいいんだよ! 俺はあのドージェのでっかい背中を追うだけだ!」
北斗はまた両手剣を振り回して突っこんでいく。
少し離れて、その様子を見る者がいる。百合園の教師ヘルローズだ。
「ふーん。面白いわね。唯一いたのがパラ実っ子か」
ベルフェンティータが気づき、ヘルローズの方を見ると、彼女はお気楽に笑って手を振ってきた。ベルフェンティータは無視した。
「クリスタル試してみるネ!」
パラ実生レベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が蒼空生の間を縫い、冒険でかき集めてきた水晶を抱えてダークヴァルキリーを近づく。
レベッカ達は以前、水晶化した町で黒いヴァルキリーの壁画を見た事がある。
(水晶でダークヴァルキリーを封じられるかも!)
ダークヴァルキリーはいくつも赤子の頭を生やし、怪物を掛け合わせたような姿だ。
レベッカは、そのうちイソギンチャクのような箇所に目を付ける。狙いをつける彼女を、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が光条兵器を振るって援護している。
「ZAP!」
レベッカは水晶をイソギンチャクの中心めがけて投げつけた。水晶は見事、その口(?)の中に吸い込まれた。
ギャアアアアアアア!!
ダークヴァルキリーのいくつもある顔が、ニタリと歪んだ笑みを浮かべる。その前方、直径10m程、戦おうとしていた生徒達が装備もろともに水晶像と化してしまう。ダークヴァルキリーは狂喜の表情を浮かべて、水晶像の群れの間に巨体を落下させる。水晶像は木っ端微塵に砕け散った。
水晶化は、ダークヴァルキリーの無数にある特殊能力のひとつだったのだ。
アリシアは水晶化された者にナーシングを試みようとするが、神の力の前に人の技術など何の成果も出す事はできなかった。
ダークヴァルキリーは叫びをあげながら、四方八方を水晶化させていく。幸い、狙いも何も無く滅茶苦茶に周囲に力を振るっているだけだ。
レベッカは水晶化に巻き込まれないよう駆けまわりながら、水晶の街にあった黒いヴァルキリーの壁画に何か攻略の糸口は無いかと記憶を手繰る。
だが、その壁画も、ダークヴァルキリーの勝利(街の陥落)を祝って作られたものだったのだ。
混乱する蒼空学園の部隊に、血の匂いをかぎつけてモンスターが集まってくる。
一人の蒼空生に数頭の魔物が飛びかかる。しかし爆炎波が魔物を押し戻した。
白百合団秋月葵(あきづき・あおい)も小柄な体を武装に包み、モンスターの前に立ちはだかる。爆炎波を放ったのは彼女だ。
「今のうちに怪我人は下がらせて。ここは、あたしたちが食い止める!」
エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が葵の背後を守る。
(私が背中は守るから、葵ちゃん自身がやりたい事をやればいいよ)
蒼空学園のフォローに入ったのは、意外か当然か百合園の部隊だった。葵達、凛々しいお嬢様の姿に、助けられた蒼空生は目をしばたかせる。
「神楽崎分校も忘れんじゃねーぞ!」
「優子様親衛隊」の幟を付けた羽高魅世瑠(はだか・みせる)が、光条兵器を振り回しながら葵に並ぶ。
「魅世瑠ちゃん、行くよ!」
「ヒャッハー! 優子四天王様親衛隊のお通りだぜ。雑魚モンスターは道を開けな!」
「ラズも、皆、守る」
ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も野生の本能を全開にして、魅世瑠と共に戦う。
白百合団のフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)は後方から銃撃して、百合園生と彼女達を手伝いにきたパラ実生を援護する。
(この連携が、すべての学校に広まればいいのに……)
フィルはそう思わずにいられない。
彼女の視線の先では、パラ実のD級四天王国頭武尊(くにがみ・たける)も舎弟を率いて、百合園生を守り、奮戦している。
「さっさと終わらせ、帰って合コンだ!!」
フィルの隣では、三毛猫ゆる族猫井又吉(ねこい・またきち)もショットガンで弾をバラ撒いている。
「女は国の宝だ。絶対に守って見せろよ!!」
勇ましく叫ぶ又吉だが、その毛並みに動物好きなフィルは(もふもふしたい)と思ってしまう。
百合園の部隊に、ひときわ大きなゴーレムが突っ込んでくる。
「そいつぁオレに任せろ! おらぁ! くたばれ!」
武尊はライトブレードで打ち合い、見事ゴーレムを破壊する。
「国頭さん、怪我してます。治療しなきゃ」
フィルが彼に駆け寄る。すかさずセラ・スアレス(せら・すあれす)がさりげなく前に出て、武尊の代わりに戦いの前面に立った。
「こんなの、ツバでもつけときゃ治る」
フィルは目を丸くする。
「そんな! ツバを付けるなんて失礼な事はできません」
フィルは武尊の傷口に、消毒薬の染みた脱脂綿を押し付ける。
「のわッ!」
滅茶苦茶に染みて、武尊は飛び上がる。
「うまくやってるじゃねーか、武尊」
又吉が可愛い顔にニヒルな笑いを浮かべるが、本人は染みまくって、それどころではない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」
「染みると言う事は効いているって事です。破傷風の危険もあります。治療しましょう」
セラが背中越しに武尊に言う。
「おとなしく治療された方が早いわよ。その子、怪我人とか放っておける性格じゃないから」
「うぅ、治療ならもっと優しくーッ?!」
セラに言い返そうと油断した所に、また消毒薬の脱脂綿。武尊はふたたび飛び上がった。
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