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リアクション
自称アズール、リコ
自称アズールが強硬状態になって、ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)にがむしゃらに取りついていた。
「うわああああ! 『ギャアアアア!』が来るぅーッ!」
「大丈夫ですから落ち着いてくださいっ」
埒があかないのでイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)も手を貸す。逆にアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)は少々離れ、周囲の護りを固める。
イーオンは自称アズールを抱き寄せると、その背中を優しくなでた。
「とにかく落ち着きたまえ。よしよし」
「……! のわっわわわわわ〜〜」
自称アズールは真っ赤になって、ものすごい勢いで後ずさった。イーオンは訳が分からず、不思議そうだ。
イーオンへの反応を見て、真口悠希(まぐち・ゆき)は(やっぱり)と確信する。
自分がジークリンデから離れた事に気づいた自称アズールは「うわあああ!」と叫び、その姿が消える。直後にジークリンデの横に現れ、またへばりついてしまった。テレポートが使えるようだ。
業を煮やした周囲の生徒達が、無理やり自称アズールを引き剥がそうと、その手足を引っ張ったり、頭を殴ろうとする。
「待ってください。怖がってる人に乱暴はやめて」
ジークリンデが止めようとする。
本来、彼女の戦闘力ならば、自力で引き剥がすのは容易い。それをしないのは、自称アズールがおびえ、泣き叫んですがってくるからだ。
見かねた悠希が、拳を固めて思いっ切り大きな声を出す。
「いい加減にしてください! 女の子に乱暴しないで!!」
悠希の言葉に、自称アズールに群がっていた生徒達がポカンとして動きを止める。自称アズール本人はあわてた様子で悠希に言う。
「ななななな何を言うておるのだね、チミは?! どこに誰が女……いやいやいや!」
舌がもつれて、イマイチ何を言っているのか分からない。だが悠希はピンと来た。
「ボクの誤解でした。でも暴力はよくないです。もう大丈夫ですよ……」
悠希は優しくほほ笑み、自称アズールの頭をなでた。
「長だから狙われたのかな。大変でしたね」
「う、うむ……」
悠希は内心ドキドキしながらも、そっと自称アズールを抱きしめる。魔術師マントで見かけでは分かりにくかったが、骨が細く、腰も細い。
英霊上杉謙信(うえすぎ・けんしん)がアドバイスするように、自称アズールに声をかける。
「小娘! 恐れるな! 戦場では死を恐れる者から死んでいくぞ!」
「む? ま、まだ言うか?! 小娘はお前であろうがーっっ」
謙信はわずかにたじろいだが、声を張って言い返す。
「無礼者! 我は軍神と謳われし上杉謙信なるぞ!」
「はーははは! しかし私は鏖殺寺院の長アズールであるぞ!」
謙信は口の端に笑みを浮かべる。
「フッ……どうやら張り合う元気が出てきたようではないか。ならば、ここは危険だ。
脱出するぞ!」
改造人間パラミアントこと五条武(ごじょう・たける)が、自称アズールに笑いかける。
「じゃあ、とっとと脱出だ。君は落ちないように、つかまっててくれればいい」
武は大型バイク姿の機晶姫イビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)に乗り、自称アズールを後ろに乗せる。よく分からないまま乗った自称アズールは、発進すると思わず武につかまり、それからあわてて手を離そうとする。
「おっとっと……」
バイクが見事な蛇行走法をし、武は落ちそうになる自称アズールを抱きとめる。
「パラ実仕込みのライディングテクニック、ナメんな!」
「まぁ実際動いてるの私なのですが……」
イビーはつっこみを入れつつ、寝所の出口を目指して走っていった。
「気をつけて脱出してくださいねー」
ジークリンデは安心した様子で、彼らに手を振った。
「問題は無くなったようだな。……乗れ」
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が軍用バイクを寄せ、ジークリンデにサイドカーを示す。
きょとんとした彼女に、グレンの意を汲んだイーオンが言う。
「早く行ってやれ。リコは一人では危なっかしい。怪我しないように見るための保護者役が必要だろう」
「……はい! ありがとうございます」
ジークリンデはほほ笑むと、ひらりとサイドカーに飛び乗った。グレンはすかさずバイクを発進させる。
機晶姫ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が軍用バイクで先行し、モンスターを蹴散らすように道を作った。
「飛ばすからな……黙ってないと舌噛むぞ……」
「は、はい……ッ」
ジークリンデが緊張した声で返事をする。
魔剣の主高根沢理子(たかねざわ・りこ)は、合流したクイーンヴァンガードの一隊の指揮を任されて困っていた。
その中、イルミンスール魔法学校のソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、リコに協力を申し出る。
「今は、学校間で争ってる場合じゃないはずです! 校長先生と環菜さんを仲良くさせようとしてたミーミルも悲しむと思います。
イルミンスールと蒼空学園は『良きライバル』であって、こんな時に争う相手じゃないはずです!」
ソアに疑いの目を向けるヴァンガード隊員を抑え、リコが彼女にお礼を言う。
「大歓迎よ! ありがとう!」
リコ達はさっそく作戦会議を始める。
「えーとえーと、あなたは横から回り込んで」
「あのう理子様、先程は背後からと指示を受けたのですが作戦変更でしょうか?」
ヴァンガード隊員に言われ、リコは焦る。
「あれっ、そうだっけ?」
リコは、軍隊の指揮など実戦でも訓練でも、今までやった事が無い。
「理子様に代わって俺が指揮しましょうか?」
年長の隊員が言うが、リコは首を振った。
「ううん。任された以上は自分で責任持って指揮しないと!」
隊員達は不安げに顔を見合わせる。高貴な家柄だからと、戦場でド素人が指揮を取れば、どんな結果になるかなど容易に想像できた。
彼らがリコを説得しようとした時、そこにグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)のバイクが走り込んでくる。ジークリンデがサイドーカーから降りた。
「リコ、無事でよかった!」
「ジークリンデが来てくれて助かったわ。……指揮、お願いっ」
「……え?」
結局、実質的な部隊指揮はジークリンデが取る事になった。
「皆、がんばってガンガン戦ってー!」
リコはアバウトな命令を指揮下の隊に飛ばし、自分は魔剣をかざしてダークヴァルキリーにつっこんでいく。
「このーッ!」
バーストダッシュで跳躍し、魔剣でダークヴァルキリーに切りつけた。しかし翼か触手か分からない器官に叩き落とされる。
「ツゥッ……魔剣でも効かないの?!」
クイーンガンヴァードのプリーストがリコにヒールを飛ばす。ダークヴァルキリーの周囲に発生する魔物が、倒れたリコに襲いかかった。
ソアがサンダーブラストをモンスターに浴びせる。それで攻勢が鈍ったスキに、ジークリンデがリコを引きずって下がらせる。
しかしダークヴァルキリーは、彼らが存在しているのにも気づいていないのか、奇声をあげながら飛んで行ってしまう。後にはリコを始め、怪我を負ったヴァンガード隊員が呆然として残される。
「リコさんに早く手当てを。……起き上がれますか?」
朱黎明(しゅ・れいめい)がリコを助け起こす。
「あたしは平気よ。重傷の子からヒールしてあげて」
一行は残ったモンスターの始末や、仲間の手当てを行なう。
雪国ベア(ゆきぐに・べあ)が蒼空生に言う。
「蒼空学園に帰ったら、対立校にも協力者がいたってこと、ちゃんと環菜に伝えてくれよ?」
「ええ、皆が助けてくれたって校長先生に伝えておくわ」
リコが約束する。
黎明が彼女に尋ねた。
「ダークヴァルキリーが発している気ですが、以前その魔剣、斬姫刀スレイヴ・オブ・フォーチュンを抜いた際に剣が発していた邪気と似てはいませんか?」
リコはその当時の事を思い返す。
「そうねぇ。言われてみると、確かに似ているような……。でも、あの時以来、そういう邪気は出てこないし、あたしもシャンバラ女王様や誰かを襲いたいって思ったこと無いわ」
「そうですか。大変、参考になりました」
黎明はにっこりほほ笑み、パートナーのネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)に言う。
「ネア、あなたはリコの側に残ってください。私は疑問の解消に行ってきます」
「黎明様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ネアは不安と信頼の入り混じった表情で、主を送り出した。
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