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リアクション
百合園女学院
寝所の戦いが始まる前の事。
ヘルローズは、デパートで行なわれた百合園レース展にスタッフとして、空京に滞在していた。だが空京での魔物の被害が激しくなり、デパートは休業。
そのため安全地帯のホテルで待機していたヘルローズに、百合園女学院の桜井静香(さくらい・しずか)校長から電話があった。
静香校長は今回の学校間対立について彼女に説明すると、言った。
「ラミュロス先生は優秀なプリーストです。ウチの生徒を連れて、蒼空学園と共にダークヴァルキリーの寝所に向かってくれないでしょうか?」
ヘルローズは不平の声をあげた。
「ええー。なぜ、私が……。我が校には白百合団がいるじゃないですか」
「それが皆、用事があって出払っていて、空京に向かえる人はいないんです。先生なら、ちょうど空京にいるから……」
「私、百合園看護隊の時にも学校の都合で急に派遣されてるんで、他を当たっていただきたいんですけどー」
不遜かつ不満げな態度のヘルローズに、静香は泣きが入る。
「おっ、お願いします。蒼空学園と約束はしちゃったけど、人手がなかなか確保できなくて……」
「そう言われましても」
断りの言葉を続けようとしたヘルローズは、ふとある事に思い至った。頭の中で計算を始める。
静香校長は、黙ってしまった彼女におずおずと聞いた。
「あの……やっぱりダメですか?」
ヘルローズはコロリと態度を変えた。
「静香校長の頼みなら仕方ありませんわね。喜んで寝所に向かいます」
「えっ、いいんですか?! ありがとうございます」
校長はホッとした様子だ。ヘルローズは適当に返事をしながら考える。
(この依頼が、ラズィーヤの指示なのか、単に空京にいる百合園関係者だからと校長が泣きついてきただけか……。気になるわね)
「ほーっほっほっほ! 皆様、こちらが大ホールですわよ!」
百合園女学院生ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が同校の美術教師ヘルローズ・ラミュロス率いる百合園生達を道案内してきた。まるで自分の宮殿を案内する女主人のような態度だ。
そのホールは、寝所全体の三分の一程の地点に位置する。寝所中央部でがあるが、今や魔物だらけとなっているダークヴァルキリー復活の儀式場からは、十分に離れていた。
元々、寝所の内部に突入していたロザリィヌは、ヘルローズのリクエストに応じて、そのホールに一行を案内したのだ。
ロザリィヌのパートナー、シュブシュブ・ニグニグ(しゅぶしゅぶ・にぐにぐ)が一行の背後から、何に使うか分からないような荷物の山を背負って、ホールに入ってくる。
「重いのであるな……疲れた、のであるな……」
ヘルローズは笑顔で、シュブシュブの背負う荷物を外しにかかる。
「はーい、ご苦労様。さっそく、このホールに百合女の拠点を設置しましょう」
準備に取りかかる生徒達。しかし冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)は無視して一行を離れようとする。ロザリィヌが見咎めた。
「まあ、小夜子さん、サボタージュだなんて感心しませんわよ」
しかし彼女は断固とした口調で返す。
「ラミュロス先生の指示など受けませんわ。私、もう先生には愛想つかしていますから」
「そういう問題では……あっ、待ちなさいな」
ロザリィヌが止めるのも聞かず、小夜子はパートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)と二人だけで寝所の奥に向かってしまう。
「どういたしましょう。何人かで追いかけた方が良いかしら?」
ロザリィヌはヘルローズに尋ねる。
「放っておきなさい。身勝手な一兵卒を止めるために全軍を危機に晒すわけにいかない、ってパターンよ」
百合園の拠点に、百合園生に連れられた他校生らしき数人がやってくる。
いや、よく見れば、百合園女学院制服を着た女生徒は、パラ実神楽崎分校生徒会長羽高魅世瑠(はだか・みせる)だった。その背には「優子様親衛隊」の幟が翻る。ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も同じ幟をつけ、懸命に
「あたしらも百合園と一緒に戦うよ」
「ラズ、一緒。百合園、仲間、守る」
ヘルローズはほほ笑んだ。
「あなたが羽高さんね。話は聞いているわ」
魅世瑠に負けじと、舎弟らパラ実生の団体を引き連れたD級四天王国頭武尊(くにがみ・たける)もアピールする。
「オレもこいつらと、百合園のお嬢様を守るぜ」
「まあ、心強いわ。パラ実の皆さん、よろしくお願いしますね。ラズィーヤ様にも、この事はお伝えしますわね」
ヘルローズは意味ありげに、ほほ笑んだ。
寝所の廊下に、点々と血を落としながら鏖殺寺院のメンバーが歩いていく。
現在、鏖殺寺院からは寝所内で作戦に加わる者に、学生など放っておいて、情報収集に励むよう通達が出されていた。
だがモンスターは、無差別に襲ってくる。彼はそんなモンスターにやられ、深手を負ったのだ。
そこに教導団の一隊がやってくる。
「おいっ、あれ、鏖殺寺院の奴じゃないか?!」
「ぶっ殺せ!」
血走った目で生徒達が襲いかかろうとする。
そこに彼らの叫びを聞いたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が駆けつける。彼女はイルミンスール生だが、捜索には参加していない。
「待ってください! その人はもう戦えないじゃないですか?!」
教導団員がジーナを睨む。
「手柄を横取りする気か?」
「違います。鏖殺寺院のメンバーも、暴力や人殺し大好きなテロリストばかりではありません。私はその事を身をもって知っており、恩もあります。敢えて殺さなくてもよい人まで、殺す事はないでしょう?」
ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)も理性的に、教導団員を説得しようとする。
「人の持つ知識こそ、何物にも代えがたい宝ぞ。回収した魔道具の情報など、一から調べるより知っている者に語らせる方が早かろう?」
教導団員達は顔を見合わせる。相手は範囲魔法も使える魔法使いだ。
「……イルミンスールと教導団は協力関係にある。そいつを捕らえて尋問したければ、するがいいだろう」
そう言い捨てて、彼らは去っていった。
言いたい事は伝わらなかったが、負傷した鏖殺寺院メンバーは助ける事ができた。ジーナは彼の傷をヒールで癒す。
「す、すまない。しかし、なんだって鏖殺寺院の俺を……?」
「私の命は、鏖殺寺院の方に救っていただいたものですから。今度は私が助ける番です」
ジーナは穏やかにほほ笑んだ。
「……グエンが言ってた事は、あながちウソじゃないって事か」
彼のつぶやきにグエン・ディエムの名が出て、ジーナが目を丸くする。
「グエンさんも、ここにいるんですか? 私は彼に助けられたんです」
「そうだったのか! ああ、あいつも寝所で活動してるはずだ。ただ所属が違うから、どこで何をしているかは分からないんだよな……」
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