空京

校長室

建国の絆第2部 第2回/全4回

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建国の絆第2部 第2回/全4回

リアクション



その後
 
 
 アズール討伐を果たしたイルミンスール魔法学校では、アーデルハイト主催により、作戦に参加した者たち……イルミン生ばかりでなく、他校から参加した者たちを含み、祝勝会が開かれた。
 鏖殺寺院の長は倒れ、復活することもない。大きな障害物を倒した満足感に、会は大いに盛り上がっていた。
 そんな中。
 高月芳樹はアーデルハイトに近寄り、こう忠告した。
「今回は幸い無事だったが、大ババ様はイルミンスールの要。いくらスペアボディがあるからと言って、無茶をしすぎるのはどうかと思う」
「大ババ様は校長のことになると意外と甘いですからね」
 自分の身まで投げ出してエリザベートを守ろうとするのは、スペアボディがあるからだけではないはず、とアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が微笑むのに、アーデルハイトはどこか浮かない顔つきで言った。
「それなんじゃが、念のためにと持っていったスペアボディがひとつ足らないのじゃ……。一体どこで無くしてきたのじゃろう……?」
「自分で在処は分からないのか?」
「うむ……。落とした記憶も無いし……」
 心当たりがない、とアーデルハイトは腑に落ちない様子で首を捻るのだった。


 ナラカ城を離れていく飛空艇がある。
 荷物搬入用のテレポートサイトがしばらく封じられる事になった為、飛空艇で荷物を運ぶ必要が出たのだ。
 その薄暗い船倉に、一人の少女が隠れていた。
 ふと気配を感じ、彼女は鋭い目つきを背後に向ける。
「……?」
 盆かフリスビーのように薄い円形のロボットが近づいてきて、彼女の前で止まった。その上にアンパンと牛乳が乗っている。
 少女はしばしの躊躇の後、飛びつくようにパンをむさぼり、牛乳をガブ飲みした。
 鋭い目つきに、妙にギザギザになった衣服……まとう雰囲気はまったく違うが、その容貌はアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)にそっくりだった。


 各地の鏖殺寺院メンバーに、報道官ミスター・ラングレイから通達があった。
 まずは、イルミンスール魔法学園の襲撃により長アズール・アデプターが死亡した事を伝える。魔法学園に転生を封じ込まれ、完全なる死亡だと告げる。
 そのため、ラングレイこと砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)が鏖殺寺院の長の臨時代理に就任すると宣言。
 砕音はこの後の戦いに控えるためにと、各地の鏖殺寺院に、戦闘終結を指示した。
 従わない者や離反する者には、今後の本部からの援助は無く、邪魔になれば攻撃する旨を伝える。
 これには各地の鏖殺寺院に激震が走る。
 だがシャンバラ各地に散り、建国妨害や神子の抹殺を狙う多くのメンバーは通達には従わず、活動を続けた。


 空京の教導団第一師団仮設屯営。
「命令違反や軍規を乱す行動が甚だしく、後任も確保できた以上、アレはもう不要ですわ」
 第一師団技術科少佐カリーナ・イェルネ教授の言葉により、技術科兵士ケイティ・プロトワンの放校処分が決定した。
「とっとと持ち物をまとめて出ていけ!」
 ケイティは身の回りのものを詰めたカバンと、仔猫だけを持って屯営から追い出される。振り返り、門衛の兵士に問う。
「ママは……?」
「貴様の母親など、ここにはおらん」
「……イェルネ教授」
 ぽつりと言ったが、
「軍の高官が、無関係な市民に会う事はない」
「グングニル・ガーティ……」
 ケイティの首に、ペンダントは無い。槍を取り返そうと、彼女はフラフラと屯営内に戻ろうとする。
「不法侵入するかッ!」
 門衛達が抜刀し、銃を抜く。
「……」
 ケイティは仔猫を抱えたまま黙りこくる。体格の良い門衛が、ケイティの首筋を押さえるようにして屯営の門から無理やり彼女を離れさせる。
「お前は放校処分になったんだ。去れ!」
 突き飛ばされた。
 ケイティはそのまま道端に座り込んだ。
 ようやく自分が捨てられたと理解する。ころん、と音を立てて真っ黒な玉が地面に転がり落ちた。

 その頃、屯営の訓練場ではフレッカ・ヴォークネンが、魔槍グングニル・ガーティを振るい、扱い慣れようと励んでいた。
 と、槍がカタカタと振るえ、奇妙な音を発し始める。
 キイィィィィィ……ッ
 耳障りな音にフレッカは耳をふさぐ。そして技術科のラボに戻り、槍の調子が変だと訴える。その頃には音はやんでいた。
 調べた結果、特に異常や変化は見られなかった。
 真面目なフレッカはあまり気にせず、また訓練へと戻った。訓練などロクにした事のケイティと大違いだ、と技術科の担当者達は満足そうだ。

 仔猫は、目の前の黒い玉に小首をかしげる。
 丸い形が猫心をくすぐる。
 猫パンチ! 玉が揺れた。
 猫パンチ! 猫パンチ! 猫パンチ! 怒涛の三連続猫パンチを受けて、黒い玉は転がった。仔猫は玉に飛びかかる。すてん。つかまりきれずに、背中から落ちた。
「おいで」
 ケイティが仔猫を持ち上げる。猫は「なー」と鳴きながら前足を玉に伸ばす。まだ、それで遊びたいようだ。
 しかたなくケイティは黒い玉を拾い、カバンに入れた。ほんのわずかだが、玉の色が薄くなったようだ。
 ケイティは、ふらふらと空京の繁華街へと足を向ける。
「おなか、すいたね……」



「天才のアクリト様であれば、ナラカ城の想いを集める仕組みを理解できるかもしれませんですわ」
 そんなセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)のアドバイスで、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は空京大学にやってきた。
 さまざまな依頼で忙しい、という理由で随分と待たされてから、ようやく学長アクリト・シーカーに会う事がかなう。ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の紹介状をもらってきていなかったら、門前払いにされていたかもしれない。
 ヴァーナーはセツカに手伝ってもらい、大量の資料を持参していた。
 アクリトになるべく見てもらおうと、印刷できる資料はプリントアウトし、小柄なヴァーナーが両手いっぱいに抱えているので、紙たばに足が生えて歩いてくるように見える。
「ナラカ城のお城の説明を持ってきたです!
 みんなの想いを集めて闇龍を止めた装置のデータとか動かし方とか、全部持ってきました」
「見るだけ見させてもらおうか」
 アクリトは仕方ないといった調子で、資料に目をやる。だが
「……む?」
 アクリトは眼鏡をかけなおし、椅子に座りなおすと、資料を食い入るように読み始める。
「君、これをどこで手に入れたのだね?!」
「ナラカ城でもらってきたです。その写真はボクがとりました」
 ヴァーナーはにこにこしながら答える。
 アクリトは驚愕の表情で資料を繰る。
「これは……こうなると教導団に出動してもらって、なんとしもナラカ城を鏖殺寺院から強奪しなければならんな」
 学長のつぶやきを聞き、ヴァーナーが悲しげに止める。
「そんなことしないでください。砕音先生はみんなにお城をあげるって言ってるです」
「……なに?」
 アクリトは(この子は何を言ってるんだ?)という顔でヴァーナーを見る。
 セツカが代わりに言う。
「砕音様は、闇龍を封じる為に、皆様にナラカ城を受け渡すとおっしゃっています。
 あなた様にお会いするのに、だいぶ待たされましたから、今頃ナラカ城は引越も完了して誰もいないでしょう。
 そちらの資料の中に、どのような操作をすればよいかのマニュアルも入っておりますわ」
 さらりとした顔で言うセツカに、アクリトは愕然とする。
 それもすぐに、目新しい研究材料を得た興奮へと取って変わるだろう。
 闇龍に対抗するにあたって、殲滅塔という兵器がなくなった今、ナラカ城は新たな希望と成り得るものだ。


 コンロンの辺境を、パラ実生の集団が進んでいた。
 朱 黎明(しゅ・れいめい)ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)とそのパートナー、さらには四天王である彼らに従う舎弟達だ。
「ドージェ様の修行される地は、まだなのですか?」
 黎明がいつになく高揚を押し隠した声で尋ねる。
「せくなぃ。ドージェ大将が修行してたのは、まだずっと奥地だぜ」
「そうですか。ドージェ様が近くなっている気がしていたのですが……」
 彼らは、ドージェに会いに行くのだ。以前、彼に会った事のあるナガンが、案内役だ。
「ご案内くださるとは、ピエロさんも親切な方ですね」
「そりゃ、何かあったらナガンが逃げる間の盾として役立ってもらうつもりだからな」
 二人の笑顔に、舎弟達はなぜかおびえ、ざわざわとする。
 と、クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)が大声を上げ始めた。
「じゃじゃじゃ じゃ〜ん! じゃじゃじゃ じゃ〜ん! ドージェさんじゃ〜ん」
「はい?」
「何だって?」
 ファストナハトが指差す方向から、ただならぬ気配が近づいてくる。
 地面が小刻みに震えだし、虫や小鳥が逃げ惑う。やがては嵐のように風が吹き始め、大型の獣や巨獣までが逃げ散っていく。
「ヒィーハァァアア! ドージェさんだァ!!」
 ナガンの叫び通り、大地を揺らして現れたのはドージェ・カイラスその人だった。
 ドージェが近づいた気がしたのは、黎明の気のせいではなかったのだ。
 ナガンがすかさずドージェに近寄る。
「ドージェさん! 修行はもう終わったっすか?!」
 ドージェは無言でうなずき、遠くシャンバラ方面の空を埋める闇龍を見た。
 ナガンは感心の声をあげる。
「さすが、ドージェさんだ! 闇龍を見越して修行してたんですかい」
 これにはドージェのパートナー、剣の花嫁マレーナ・サエフが答える。
「はい。パラ実と教導団が争った頃、ミスター・ラングレイがドージェ様に会って、ダークヴァルキリーがやがて闇龍を復活させるとお伝えしたのです。彼の放った闇を通して闇龍の存在を感じ取ったドージェ様は、闇龍打倒の為に修行されたのです」
 黎明は恭しくドージェの前に進み出ると、礼をした。
「始めまして。貴方様の信徒、朱 黎明と申します。
 ランラン(ラングレイ)から聞いた話では、地球で死亡した魂は数百年から数千年をかけて新たな生命としてパラミタに生まれるそうです。
 ドージェ様はご家族を亡くされていると伺いました。闇龍によってパラミタが滅びれば、愛していたご家族が生まれ変われなくなってしまいます。ご家族の為にも、闇龍打倒を目指されるのですね?」
 ドージェは闇龍を見据えたまま答える。
「強き者と戦う。それだけだ」
 沈黙。しかしドージェはまだ何か言おうとしている。黎明は黙って待った。
(ドージェ様が私の様に家族を想っているのなら、この言葉は非常に意味のある言葉のはず)
 ようやくドージェが言う。
「ニマは、いた」
 少し間を空け、さらに言った。
「弟は……」
 しかしドージェはそこで言葉を呑んだ。気持ちを振り払うように両の拳を固め、気合を込めた。
「覇ッ……!!」
 ドージェの発した気が、大地と天を揺らす。空に浮かぶ島が破壊され、地面に小石がバラバラと降り注ぐ。
「すげぇぜ! 今のドージェさんなら、十二星華全員を十二秒で倒せるぜッ!」
 ナガンは、よりパワーアップしたドージェの力を感じ、そう確信した。
「道案内しますぜ、大将! 闇龍退治が終わったら野球しましょうぜ」
 ナガンが嬉々として、今度はシャンバラへの道案内を始める。
 彼らと舎弟を加えたドージェ一行は、そらからどんどんドージェ信仰者を集めて膨れあがるだろう。

 歩を進める一行の中で、剣の花嫁ネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)は折を見てマレーナに話しかけた。
「マレーナ様はシャンバラを守る為に、ドージェ様に協力されているですか? 多くの剣の花嫁がシャンバラを守る為、殲滅塔発射にその身を捧げようとした、とも聞き及んでおります」
 マレーナはほほ笑んだ。
「いいえ、わたくしはドージェ様が御望みになるよう付き従うだけですわ。
 シャンバラがひどい事になるのは望みませんけれど、わたくしの願いはドージェ様と共に在る事です」
 それを聞いて、ネアの表情が幾分晴れた。
 彼女は、シャンバラを守るため、という感情が全く湧いてこなかった。ただ、契約者である朱黎明を守りたいとしか思えない。
 そんな自分を、もしかしたら人造生命体としてどこか壊れているのかもしれない、と思っていたからだ。


 シャンバラ教導団の剣の花嫁レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が遠い目をして、アトラスの傷跡を見つめる。
(……もうすぐシャンバラ宮殿が蘇るのですね。そこで女王陛下を復活……え?! この記憶は、いったい何?!)
 レジーナはみずからの記憶に混乱する。
 そして先日の、ラク族領主ヤンナ・キュリスタの言葉を思い出した。
(ヤンナさん、私はやはり神子なんですね。でも、どうすれば……)

 そして、この時。また一人、神子が目覚めていた。
「ふふふふ……わたくしこそが神子だったのですわ。なんと愚かなシャンバラ……わたくしの本心に気づかず、神子の一員に加えていたとは」
 うっそりと笑うのは吸血鬼ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)
 パートナーの鏖殺寺院メンバーメニエス・レイン(めにえす・れいん)も、これには驚く。
「まさか……シャンバラ女王を復活させる、などと言うのではないでしょうね?」
 ミストラルはふっと笑った。
「わたくしがお仕えするのは、メニエス様ただお一人!
 この神子としての力、メニエス様の為に存分にお使いいたしましょう」
「嬉しいわ、ミストラル」
 メニエスはくつくつと満足そうに笑った。
 彼女は、必然なのか偶然なのか分からないが、神子を手に入れたのだ。この立場は、利用するしかない。
「また楽しくなりそうね……ふふふ」


 そして、闇龍がゆっくりと動き始める。


担当マスターより

▼担当マスター

砂原かける

▼マスターコメント

●担当マスター

 今回は以下のマスターで、リアクション執筆を担当させていただきました。

【1】有沢楓花
【2】村上収束
【3】桜月うさぎ
【4】砂原かける

 なお【4】へのアクションについては、内容によっては描写に適した場所のマスターに執筆をお願いしている場合もございます。
 また【1】【2】【3】へのアクションでも、担当マスターの判断で判定の一部を砂原が行なっております。


●投票要素について

 以下のように、圧倒的多数で殲滅塔使用の反対が選択されました。
 この結果はリアクションに反映され、殲滅塔は安全に破壊されて使用できなくなりました。

参加人数 294名
 賛成  55名
 反対  196名
 無効  31名
 未投稿 12名


●もろもろ

 そろそろLCの中から、神子だと判明した方が出てきております。
 ただし神子だからと、シナリオで指定された場面以外で、能力値やスキルを越えるパワーを得られる訳ではありませんので、ご注意ください。
 神子であると確定したLCと、そのパートナーのMCには、後日、神子専用スキルを配布させていただく予定です。


 今回シナリオにご参加の方へのプレゼントアテイムは、耐光防護装甲です。
 アイテムは5月15日までに、お届けさせていただく予定です。

・耐光防護装甲
 殲滅塔の照射地域に侵入するために作られた特殊な鎧。
 光属性の攻撃に対して強い耐性を持っている。


 次回、『建国の絆第2部 第3回/全4回 』のシナリオガイドは5月15日(土)に公開の予定です。ご期待ください。