|
|
リアクション
砕音への質問
「私たち、妨害されないようにミスター・ラングレイを引きつけてくるね!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がそう言って、クイーン・ヴァンガードの仲間と共に魔法学園の部隊から離れていく。
しばらく進むと甲斐 英虎(かい・ひでとら)が後ろを、そぅっと振り返る。
「よかったー。怪しまれなかったみたいだね」
するとシルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)が美羽に爽やかな笑みを向ける。
「やはり美少女の言う事は、皆よく聞くな。蒼空学園のアイドルの言葉じゃ、誰も疑わないか」
女性を褒めるのは、シルヴィオにとって挨拶のようなものだ。
「でも砕音先生、どこにいるのかな?」
手がかりは無いので、ヴァンガード達は以前に彼と遭遇した隠し通路に向かった。
「あれー? 行き止まりー」
甲斐 英虎(かい・ひでとら)が首をかしげる。
彼らはナラカ城の隠し通路を進み、前回来た時よりもさらに進んだ。しかし通路は、部屋で終わりになっていた。
途方にくれかけた時、突然室内の彫像が話し始めた。
「……お前たち、誰を探してるんだ?」
一行は像が話した事よりも、その声に驚いた。
「さっ、砕音先生?! なんで、こんなおじさんの像になっちゃったの?!」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の言葉に、砕音の声が苦笑する。
「小鳥遊、これは像の形をした通信機だぞ。
悪いが、あまり戦いたくはないんでな。様子を見させてもらったんだが……俺と話に来ただけなのか?」」
するとアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)が像の前に進み出る。
「はい、先生の御話を伺えたらと……。戦いは望んでおりません」
「だったらロボットに、俺のいる所まで案内させるから着いてきてくれ。安全なルートを行くから、少し遠回りだけどな」
像は黙った。機晶姫でも現れるのかと皆が待っていると、甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)が英虎の服のすそを引っ張る。
「どうしたのー? あれ? お掃除ロボット?」
ユキノが指差す方、棚の下から、円形のお盆のようなロボットが一台、うぃんうぃんと出てくる。ちょうど顔のような模様があって、かわいらしい。
「美少女機晶姫の案内とは行かないか」
シルヴィオが残念そうに言って、彼らはそのロボットについて進んでいった。
やがてヴァンガード達は、砕音のいる部屋に辿り着いた。
緋桜ケイはクイーンヴァンガードに警戒の視線を送るが、彼らに砕音を攻撃するつもりは無かった。
砕音は困ったような笑みで、一行を迎えた。車椅子に座り、点滴や医療用計器をつけたままだ。
「よく来てくれた……って言うのも変だし無礼だよな。とにかく無事で良かった」
蒼空学園生徒にどう振舞ってよいか戸惑っているようだ。
妙にぎくしゃくした挨拶の中、ユキノが砕音に伝える。
「マンティコアさん……先生によろしくって言ってました」
「マンティコア?」
英虎が妹の言葉を説明する。
「蒼空寺さんが、先生に会わせようと思って蒼空学園につれてきたマンティコアがいるんだよ。
うーん。偽アズールの時も思ったけど、個人名が無いと不便だよねー。真名とかあっても、普通の生活じゃ使えないしー」
困り顔の英虎に、砕音が言う。
「本人が認めれば、愛称なら付けていいんじゃないか? 真名となると魔法的に相手を拘束もできる、やっかいなものだからな」
ユキノはこくこくとうなずいているが、魔法にそう詳しくない英虎にはよく分からない。砕音が解説を加える。
「真名を変えると本体に影響が出るし、本体の影響が真名を変化させてしまう事もあるんだぞ」
「うーん、よく分からないー。
魔法の授業はいいや。先生には他に聞きたいことがー。
……本当にセレスティアーナを助けたい気持ちがあるの? 演技とかではなく」
英虎が本題を思い出して、尋ねた。砕音はうなずく。
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、あの子を救える方法は?
名前をつけて保護して傷つけず愛情を注げば良いだけ?」
「それは俺にも分からない。でも人として、自分の名前を持ち、誰にも傷つけられず、愛情を受けるのは大切な事だと思う……」
そう答える砕音は、どこか悲しそうだ。
英虎はその理由が分からず、さらに聞いてみる。
「無くしているっぽい記憶が蘇ったらそれに押しつぶされたりしない?」
「いや……彼女は作られて、まだ数年と経っていない人造人間だ。
事態が進んだせいか、いつの間にか話せるようになってたんだが……シャンバラ女王は闇龍を封印し、それで亡くなった。
その後、闇龍の封印を守る巫女(神子にあらず)の一族が、その封印を五千年間守ってきた。
しかしシャンバラと地球の融合後、闇龍を復活させる為にと、鏖殺寺院はその一族を皆殺しにした。だが後になって、封印の巫女は闇龍を制御するのに必要だと分かったんだ。
それで鏖殺博士が、死んだ一族の血肉を集め、さらに地球人やシャンバラ人の魂とかけあわせて……契約時に地球人としてもシャンバラ人としても機能する封印の巫女を、人工的に作り出した。それが彼女だ。
そして本物のアズール・アデプターは、最終的に彼女の体を乗っ取って闇龍を制御するつもりだ。だから後に長の魂を受け入れやすくなるように、長の影武者として教育をされ、名前もアズールとしか呼ばれなかったんだ」
「あの子も大変な境遇だねー」
英虎は呆れたような、唖然としたような声を出す。
砕音がつぶやくように付け加える。
「魔法学校の計画が成功すれば……セレスティアーナにとって一番の脅威はなくなる。
後は、学校や首長家が彼女を襲ったりしなければいいんだけど……難しいかもしれない」
それにはシルヴィオが思い当たる。
「おデコちゃんか。
この前のナラカ城から帰った後、偽アズールが黒いスフィアらしき物を所持していたって報告したんだが、それは助けになるかな?」
砕音は環菜の人となりを考える。
「御神楽校長の性格だと、スフィアを人為的に明るくさせる方法とか探りそうだな……。
そうだ。皆には、これを見せておかないといけないんだった」
砕音はみずからの胸から、スフィアを取り出した。生徒達は息を飲む。
水晶球の中には暗い闇が満たされ、その中に一点だけ光が輝いていた。
「先生……これは?」
「ツァンダを司るスフィアだ。
俺にも、どうしてこうなってるのか分からないが、光り輝いて街を守れる状態とは思えない。色々試したんだが、どうすれば明るくなるのか、もう俺にも分からないんだ。
ツァンダの全住民と蒼空学園には、すぐにでも街を離れて避難して欲しい……難しい事だとは思うが……」
砕音の勧めで、皆はハンドヘルドコンピュータや携帯電話の動画機能でスフィアの撮影や観察をする。
砕音としては、研究用に持ち帰って欲しい程なのだが、スフィアは持ち主から距離が離れると消えてしまうのだ。
また砕音から、他のスフィアの説明がある。
彼が把握しているスフィア保有者、場所、明るさの状態は次の通りだ。
砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす) ツァンダ 闇に光?
セレスティアーナ 場所不明 透明から光に変化
ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ) 空京 光
林 紅月(りん・ほんゆぇ) ヴァイシャリー 闇
児玉 結(こだま・ゆう) キマク やや薄の闇
ヒダカ・ラクシャーサ 場所不明 闇
他に鏖殺博士が担当するスフィアがあるが、博士が誰にそれを埋め込み、どの街を司るかは分かっていない。
また鏖殺博士は、闇龍をエネルギー源とする武器の開発に熱心で、あまりスフィアには興味がないように見えるそうだ。
また、この他にシャンバラ全土を司るメイン・スフィアがあり、これはダークヴァルキリーが持っている。状態はやや薄の闇。
生徒達は砕音が話す内容を、忙しく記録していく。
授業をしているような錯覚すらあった。