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リアクション
基地侵入
今回の制圧作戦にあたり、蒼空学園が教導団の指揮下に入った。蒼空学園の部隊とクィーン・ヴァンガード。また教導団を監視する白百合団も、実際は庇護の元にある。
その彼らに、教導団からの昼食の手配の連絡が、【新星】の連絡役を通して告げられた。
蒼空学園の部隊に赴いたのは憲兵科のエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)とコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)。
クイーン・ヴァンガード部隊に赴いたのは補給科のオットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)とヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)。
第一師団からの指示を伝えると同時に、彼らの意見を教導団に渡す役目を務める。また彼らを護衛する役目もあった。
更に【新星】からの要請をひとつ、伝えるためでもある。
「砲台破壊や技術者への襲撃等、実力行使によって砲の発射を阻止しようとする生徒へ警戒を呼びかけ、取り締まりに当たっていただきたいのです」
「教導団の指揮下に入るのは、不本意でしょうが……仲違いの挙げ句共倒れになった、『寝所』での敗戦を繰り返さないためです。こちらに不備があれば、対応します。言ってください」
エミリアとコンラートは、蒼空学園の部隊で仮に指揮を執る教師を始め、生徒達にそう言って理解を求める。
オットーとヘンリッタは、クイーン・ヴァンガード隊長ヴィルヘルム・チャージルに、同様の説明を我慢強く繰り返した。
「校長の命を受けているのだ。従わざるを得まい」
話に聞いていた通りの横柄な態度に、ヘンリッタは内心うんざりする。ヴィルヘルムは前回の失敗もあり、余計にいらついている。ちらりと横目に見たオットーは人が良いせいか、意に介していないようだ。
「これは命令ではありません。こちらからのお願いでございます、チャージル殿」
「お願いか、ならば聞こう。私とて、この作戦は成功させたいのだからな」
プライドとの狭間でヴィルヘルムも揺れていた。指導力不足のレッテルを剥がすため、彼としても、教導団の指揮に逆らわずに戦果を上げなければならない。
また、昼食後、【新星】は蒼空学園、クイーン・ヴァンガード、及び白百合団に対し、教導団の作戦や山砲の運用方法等の注意事項を説明した。
まず教導団の戦力をキャンプ・ゴフェルの周囲に半円状に展開する。一番厚いのは正面入口で、こちらは教導団の他に各校連合の戦力を配置。
更に後ろがレジーヌや夢見の守る補給地点で、この周辺に技術科など支援部隊がおり、更に少し下がって司令部と救護所が置かれた。
作戦開始は翌日の夜明け。これは、対人ではなく対機械であり、契約者個人の視界確保が重要だと判断されたためである。
翌朝、教導団の先兵がキャンプ・ゴフェルの正門を訪れた。
偵察兵の報告通り、門番を務めるロボットが、抑揚に乏しい声で警告を発する。
古代語での警告をシャンバラ人のパートナーが同時通訳する。
「通行にはIDカードの提示が必要です……通行にはIDカードの提示が必要です……警告、許可がない者はここからすぐに立ち去ってください……」
ガシャン、とロボットは骨組がむき出しの腕で、アサルトライフルをこちらに向けた。
教導団のアサルトが、ロボットに向いた。
「……十数える前に、ここから立ち去ってください。10……」
「撃て!」
ロボットのカウントダウンが始まると同時に、銃声が鳴り響く。蜂の巣にされたロボットはごとりと地面に転がった。
「突入開始!」
門が破られる。
基地からサイレンが鳴り響く。
──キャンプ・ゴフェル制圧戦は、このように始まったのだった。
教導団を始めとした学校連合は城門を爆破し敷地内に突入した。
キャンプ・ゴフェルからは迫撃砲の弾やレーザーが飛んでくる。
教導団は、砲兵連隊が山砲や小型の迫撃砲を撃ち、それに応じる。
煙の向こうに見える建物からは、塗装もされていないロボットと量産型機晶姫の兵団が吐き出される。ロボットは銃を、機晶姫は剣を携えていた。
作られた時代に余裕がなかったのか、そのどれもが骨組みだけ、塗装もろくにされず、同じ顔をしているのが痛々しくも恐怖を覚えさせる。
相手の戦術は単純だが基本に則っていた。接近戦は量産型機晶姫が務め、後方からはロボットがアサルトで直射援護と制圧、迫撃砲は曲射での援護だ。
迫撃砲の特徴はこの曲射にある。直射は塹壕を掘られてしまえば当たらない。
しかし迫撃砲は命中精度こそ低いものの、塹壕の中にまで弾を当てることができるのだ。組み合わせることで二倍以上の効力を発揮する。それも、遮蔽物のほとんど無い基地だ。
現場の指揮を執る関羽・雲長(かんう・うんちょう)は鼓舞するべく、赤兎馬の上から号令をかけた。
「私に続け!」
砲兵の援護を受けながら、契約者達は関羽の後ろに横列をつくり、ライフルの銃口を揃えて進む。その分だけ砲兵も遅れて着いて、射程を伸ばしていった。
「いいな翼、入口は死守するぞ」
砲兵の横からは、機甲科の月島 悠(つきしま・ゆう)とパートナー麻上 翼(まがみ・つばさ)が、光条兵器のガトリング砲で弾幕を張って進軍を援護する。一発一発は軽いが、光条兵器故に弾の補給が不要なのは大きな強みだ。
進軍する生徒達の中から、蒼空学園生の白波 理沙(しらなみ・りさ)が、チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)と共に飛び出し、量産型機晶姫の元へ走っていく。
「最終的に勝つためだったら、どうなろうが関係ないわ。弱音なんて吐いてられない」
無表情の機晶姫と、光条兵器の刃を打ち合わせる。瞳からは何の感情も読み取れないが、動きは訓練された剣士のそれであり、フェイントにも引っかからない。
「こいつら、ただの機晶姫じゃない……!?」
軍団の後ろから大砲を撃つのもロボットや機晶姫だ。知性はあるが感情がない、まさに戦闘のためだけに作られた存在。いや、殲滅塔を守るためだけに作られた駒なのだろう。
数体の機晶姫から繰り出される刃をかいくぐりつつ、理沙は光条兵器を振るう。
「いいわよ、相手になってやるわ! いいわね、チェルシー」
「ええ。わたくしは……あなたを失うこと以外、怖くありませんから」
機晶姫の一太刀が理沙のポニーテールの根本に当たり、シュシュが千切れ飛ぶ。もう一太刀が、頬をかすめる。殺到する剣はみるみるうちに彼女を血まみれにしたが、チェルシーの手から放たれた白い光が、傷を優しく塞いでいった。
倒れるまで、いや、倒れてもいい覚悟で、二人は敵を引きつけていた。
だが、突出してはいくらも持たないだろう。
「さて、援護してやるか!」
湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が、彼女たちが相手取る機晶姫に対して、ナナメ横からショットガンの弾をばらまいた。
殲滅塔制圧・使用にやる気満々のパートナーに、高嶋 梓(たかしま・あずさ)はふうと息を吐く。剣の花嫁としては、戦時中に兵器の電池扱いされていただけでもショックだったのに。
「でも、ここを押さえなきゃ何も始まらないものね。頑張らなきゃ! 亮一、気をつけてね」
「分かってるって……うあぁぁ!」
「亮一!」
二人は、まだ戦闘経験が浅い。こちらを邪魔と見たのか、全身に弾を浴びながらも駆けてくる数体の機晶姫の直剣が、亮一の左腕を刺し貫いた。慌てて駆け寄る梓にも、剣が伸びる。
「きゃああっ」
……身体が一瞬すくむ梓の間に、カセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)の槍が差し込まれ、危ういところで剣を弾いた。
「あ、ありがとうございます」
「あなたの命だけじゃ済みませんわよ」
答えたイルミンスールの少女は、亮一の腕を魔法で癒していた。
「はい。あ、私が亮一さんの手当てを変わります」
亮一に心配を掛けなくて良かった、と思いつつ、笑顔で答える梓だったが、少女リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)はそっけなく、
「今死なれて、殲滅塔が起動できなかったらどうするのですか。わたくしが、あなたやパートナーの回復をします。あなたはご自分のことを考えてください」
リリィにとって、学校側の剣の花嫁や機晶姫は、殲滅塔の貴重なエネルギー源である。いなくなったらその意味で困るのだ。
「そ、それは……」
梓は教導団所属だ。他学校よりも、犠牲になれと命じられる可能性は高い。使用反対派のはずのイルミン生に指摘され、思わず口ごもる。
「……他の手段もまだあるはずです。量産型機晶姫の残骸から調達できるかもしれません」
「そうそう。一回の発射に数十から数百の命……ってことはよ、数千体いれば一人頭の負担は軽くなんじゃねぇの? よくわかんねーけど。リリィは悲観的過ぎね?」
「あなたが楽観的過ぎるのですわ。結局のところ撃たない可能性だってありますけれど、そんなこと言ってる場合じゃありませんのよ」
これは制圧後に分かったことだが、結局のところ、梓の“電池扱い”という考えは的を得ていた。つまり、機械には電池がセットするスペースが設けられているものだが、数千体セットできる設備がなかったのである。
もう一つの可能性、量産型機晶姫をエネルギー源にすることについては、この戦闘の最中、百合園女学院の鳥丘 ヨル(とりおか・よる)とカティ・レイ(かてぃ・れい)によって明らかにされた。
二人はロボットの頭と足をそれぞれ抱え、侵攻する生徒達の波を逆行している。
「化け物みたいな兵器を扱うと、こっちも化け物になりそうだ。あたしは人でありたいよ」
「ボクだって嫌だよ」
カティに、ヨルは振り返らずに答える。腕の中の、壊れたロボットの顔は無表情だ。
「戦争の駒になんてなりたくない……」
ヨルの言うように、もはやこれは戦争だった。テロとの戦い? 平和への道? 建国のため?
大なり小なりのトラブルがつきもののパラミタだが、そんなスローガンの元、校長や母国の意向で動員され、個人ではなく戦力のひとつとして戦わされる。日本人なら、学徒動員という言葉が頭に浮かぶだろう。もっとも、先に戦うべき大人が殆どいないという、嫌な違いがあったが……。
「だけど今できることをやらなくちゃ」
ヨルとカティは、ロボットを蒼空学園と教導団に提供して技術を解析してもらい、防衛システムのレベルを予測するつもりだった。
どちらか一方ではないのは、二校の間を取り持ちたかったからだ。
だが、とりあえず両校に渡したものの、探していた人物──魔槍グングニル・カーディと、銃型HCの各制作者、アクリト学長のうち、制圧戦に参加していたのは、教導団のカリーナ・イェルネだけだった。
カリーナは、ロボットを受け取るとすぐさま解析を始め、各校に注意事項を伝達した。
「──そんなことは分かっている。レーザー兵器を実用化するような技術力だぞ」
クイーン・ヴァンガードを率いるヴィルヘルム・チャージルは、カリーナからの報せに鼻を鳴らした。教導団の指揮下にあるのもさることながら、古代王国時代の兵器が自分に向いていることも面白くないのだろう。
敵陣に近づいて初めて分かったが、迫撃砲やレーザー兵器は自動で動いている。砲兵役を狙い打つようなことができない。
「全員陣形を崩すな!」
ヴィルヘルムは後方で自ら剣を振るっている。指揮だけをしている余裕がない。そして、馴れない戦場に……前に出すぎてしまっていた。もしかしたら功を焦りすぎたのかも知れない。たちまちクイーン・ヴァンガード部隊はロボットの群れに囲まれてしまう。
地面に伏せて双眼鏡を覗いていたハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)が、スナイパーライフルで敵を一体一体屠っていた霧島 玖朔(きりしま・くざく)に声をかける。
「今がチャンスですよ」
「分かった。しかし、ちっ、こう数が多くちゃ……」
玖朔がライフルを背に戻し、光条兵器のアサルトを構えて掃射しながら、ヴィルヘルムの元へ急ぎ走った。崩れる部隊の側面から銃弾を受け、ロボットが浮き足立つ。
「今だ、かかれ!」
ヴィルヘルムの号令で、崩れかけた部隊は陣形を整えると、ロボットを挟み撃つ。
玖朔は孤を描くように移動しながら、弾幕を張った。
ロボットの群れが破壊され地面に散らばると、弾む息を整えるヴィルヘルムに近づく。なんだ貴様は、余計なことをしおってと言われることも覚悟していたが、彼の反応は意外なものだった。
「不本意だが、今回は教導団に助けられてばかりだと認めざるを得ないな。君の名は?」
「霧島だ。教導団員だが、クイーン・ヴァンガードに入隊した。誠意のかわりになるといいが」
玖朔は教導団の制服の下に付けた、ヴァンガードのエンブレムを見せる。
「……礼を言おう」
隊長というくらいだから出自は確かなのだろう。その彼が、見た目に育ちがいいとは言えない玖朔に手を差し伸べたのだ。
玖朔は眼から冷徹さをいくらか消し、その手をぎゅっと握り返した。
──今更敵対もクソも無いだろ、やるだけのことをやるさ。
その頃には、教導団の突撃発起線──砲兵などの援護を受け、一斉に移動する前の場所──は既に敷地の半分を過ぎていた。
「わしの上にこんな建物が建っていたとは……」
琳 鳳明(りん・ほうめい)は、南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)の言葉に、くすりと笑った。
「何がおかしい。わしはごくごく普通の感想を述べただけじゃぞ。知らぬ間にこんな物騒なものができていたなぞ、気分が悪いわ」
「ごめんね。気持ちは分かるけど、何となく、知らない間にホクロや水虫ができてたみたいに聞こえたんだもん」
憮然とするヒラニィに慌てて謝るが、謝ったうちに入ったかどうか。
鳳明は言いながら、もう一人のパートナーを本校に置いてきたのは、やっぱり正解だったな、と思う。もう一人は剣の花嫁。もし連れてきていたら、悲壮な雰囲気が漂っていたかも知れない。自分も落ち着いてはいられなかっただろう。
ヒラニィは憮然とした表情のまま、鳳明に頭を寄せ、銃型HCで呼び出した地図と自分の描いた地図と付き合わせる。
「うむぅ、復活している施設は、兵舎に飛行場に弾薬庫といったところか。……わしの予測では防衛システムのダウンできる場所は……どこかのう」
「ひ、ヒラニィちゃん、急いでね? 戦場で目を離してるのは怖いよ」
「おお、多分こっちが司令部……だろう」
「根拠は?」
「砲身が沢山出ておるし、敷地の真ん中らへんにあるからな」
そういうものかなぁと疑問に思いながらも、鳳明はヒラニィを庇いつつ、煙の向こうに見える、無骨な金属の塊へと向かっていった。
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