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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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■ザナドゥ〜橋頭堡確保(6)

「合図だ! 行くぞ!!」
 ダリルからのテレパシーを受け、後方で撤退支援部隊として待機していた10人――橘 カオル(たちばな・かおる)マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)朝霧 垂(あさぎり・しづり)朝霧 栞(あさぎり・しおり)ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)城 紅月(じょう・こうげつ)レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)夜守 ユキベリアル・アンノウン――が、いっせいに突入した。
「ひるむな! 隊長たちの退路を確保するんだ!!」
 後方指揮官・朝霧 垂が鬼眼で強化されたカタクリズムで強引に魔族の戦列を崩しにかかる。見えない力の壁に押されバランスを崩した魔族たちは、密集陣形でいたことも災いして、背後の者を巻き込みながら将棋倒しになった。
 タブレットをガリガリ噛み砕きながら、垂は体勢の崩れた魔族の中へ飛び込み、手の届く距離にいる者すべてに則天去私を叩き込んでいく。
「オレも、垂に負けてられないな!」
 一歩遅れながらも彼女と反対側に突っ込んだ橘 カオルが、前方に集中して無防備な垂の背中を狙ってきた魔族を乱撃ソニックブレードで撃退した。そしてそのまま、2人で強引に道を切り開いていく。
 魔族の前線は2人に押され、まるで矢じりのように開いていった。
「敵が退くからって、あんまり突出したら駄目だからねっ、カオル!」
 いくら2人が強いからといっても、たった2人で大量の魔族を押しやるには無理がありすぎる。マリーア・プフィルズィヒが、2人を抜けてきた魔族を倒すべく、光条兵器の長弓を構えて立っていた。いつでも矢を放てるよう弦を引き絞っていたが、その手が緊張のあまりぶるぶる震えている。このまま射ると、カオルの背中を誤って射てしまいそうだった。
「こ、こういうときは、魔法の呪文……。
 帰ったらドーナツ……ドーナツ……ドーナツ……ドーナツ……!」
 山ほどのできたてドーナツがテーブルの上で自分を待っている姿を想像する。
「マリーア、それ死亡フラグだからっ」
 聞きつけたカオルがぷくくとふくみ笑いながら言った。
「えーっ? じゃあカオルはー?」
「オレ? オレはもちろん、生きてメイリンの所に帰るんだ、っていうモチベーションが――」
「カ、カオル! それ駄目っ! それも死亡フラグよっ!! ドーナツにしよっ! ドーナツ食べるのっ! そんであたしがメイリンに会うの! そうしましょっ」
 ……それに何の意味が……。
 だがこのかけあいでうまく緊張がほぐれたのか、マリーアの指の震えは止まっていた。震えていたことも忘れて、確実に魔族を射ていく。
「そーすっと俺の場合は何かな〜」
 マリーアと並んで、飛んでくる魔弾をブリザードで相殺していた朝霧 栞が、うーん……と考える。
「ばかっ。死亡フラグを真面目に考えてどーするっ」
 すかさず垂からの叱責が飛んで、栞は「ちぇーっ」とこぼした。なんだか、自分にないのがもったいない気がしたのだ。
「そんなにほしけりゃあとで一緒に考えてやるから、今はこっちに専念しろ!」
「ほんとかぁ!」
 ぱああ……と栞の表情が一気に明るくなる。転経杖をクルクル回す手にも、勢いが戻った。
「何かな、何かな〜? 俺の死亡フラーグっ 俺だけ〜の死亡〜フーラーグ〜♪」
 節をつけて歌いながら、栞は上機嫌で飛来する魔弾や飛行型魔族に向かってブリザードやファイアストームをぶつけていったのだった。


 栞は上空の上級魔族を担当、マリーアは下級魔族を担当。もともと今回のロノウェ軍は下級魔族で編成されており、魔弾や魔力の塊を放てる上級魔族は少数しか投入されていない。翼を持つ飛行型魔族はさらに少ないため、上空を担当する栞はまだ負担が少なかったが、マリーアは1人では荷が重かった。
「マリーアちゃん、ここはしばらくなら俺とレオンだけでももつから、少し休んでて」
 機を見て、城 紅月が彼女の肩を叩いた。そしてそのまま後ろへ優しく押し出す。
「すみません、紅月さん……」
「いいや。これからまだまだきみにもがんばってもらわなくちゃいけないからね」
 ふらつく彼女に軽く手を振って正面に向き直った紅月が見たのは、ちょっと複雑そうな表情をしたレオン・ラーセレナだった。
「なに?」
 向かってくる魔族を斬り捨てながら訊く。
「いや……」
 と、紅月にパワーブレスをかけ、以後なんでもないフリをして前線で戦うカオルや垂の回復に努めていたレオンだったが、やはりうまく押し殺しきれなかったのか、ぼそっとつぶやいた。
「私以外の人には、紅月、ずいぶん優しいんですよね……」
 それを耳にした瞬間。
 ぷーっと紅月は吹き出した。
「紅月……っ!」
「ごめん、ごめん。いきなり変なこと言うから。
 俺は、みんなに優しいよ。特にかわいい子にはね」
 ウィンクを飛ばし、ちょっと意地悪く最後に付け足した言葉に、レオンは最初赤くなり、それから何を心配したのか青くなった。
(ああ、かわいい)
 くすくす笑う間も、紅月は向かい来る魔族たちの剣や槍のことごとくをするりとかわし、すれ違いざま斬っていく。しかもその動きは彼の今の気分に影響されてか、剣舞のようになめらかで美しい。まさに柔の剣といったところか。
「さぁ、次に俺の刀の錆になりたい奴は誰かな……ふふっ」
 彼の妙技さに警戒して距離をとる魔族たちを見て、紅月は愉悦気味に笑った。
「来ないの? なら、俺の方から選ばせてもらおうか。もっとも――最後には全員、斬るけどね」
 全身を流動するパワーブレスの光で、薄闇にぼんやりと浮かび上がった紅月の美しさに、驚きの歌を歌っていたのも忘れてぼんやりと見入るレオン。
 最後の1人を足下に沈めた紅月は、血しぶきの飛び散った横顔でこう言った。
「ねぇ。良い声で啼いて、俺をもっと楽しませてよ」
 その視線が、魔族を通りすぎて自分に流れたと思ったのは気のせいか。レオンはますます顔に血がのぼるのを感じずにはいられなかった。


 やがて撤退支援部隊はレオンハルト、ナナの元へたどりつき、彼らを救出した。
 彼らが向かってきたのを見て、戦局不利と判断した六黒のパートナー帽子屋 尾瀬は、破壊工作によって目隠しの粉塵を撒き散らすことで六黒を無理なくこの場から退かせることに成功した。
 ナナとブシドーの方はといえば、鬼神力によらずとも卓越した技を持つ玲にすっかり翻弄されていたが――特にナナは、精神的に到底まともに戦える状態ではなかった――、機転を利かせたウォーレン・アルベスタがミリシャ・スパロウズから受け取ってきたサンドイッチ入りバスケットをぶん投げて退却の交渉に成功した。
「よし! あとはダリルたちだな。カオル、もうひとふんばりするぞ」
「了解っ」
 カオルと垂が切り開いた道を確保し続けるため、奮闘していたのはウォーレンと夜守だった。
 ともすれば左右から押し寄せ、塞がれそうになるところを弾幕を張って押し戻す。そうして確保し続けた道を通り、疲労困憊した4人がセフィロトの芽まで戻っていった。
 彼らが後ろを走り抜けるのをちらと見て、夜守はこそっと背後のベリアル・アンノウンに問いかけた。
 弾幕援護を張っているため、その音でほかの者に聞こえるはずはないとは思うのだが、もしもということもある。
「ベリアル」
「うん?」
「ベリアルは……どうしてザナドゥ側につかなかったんですか? 悪魔なのに」
 ずっと、そのことが不思議で、心にひっかかっていた。
 彼は人情に振り回されるような者ではない。その性は放埒、気まぐれ、食言と、悪魔特有の三拍子がそろっていて、むしろ典型的な悪魔と言っていいかもしれない。そんな彼が、パートナーとはいえ、夜守が人間だからとかいう理由で人間側につくとは到底考えられなかった。
 もちろん、行ってほしいわけではないのだが。
 夜守からの問いにベリアルは、おや? と片眉を吊り上げる。そして、そんな夜守の心の中の葛藤をあっさりと見抜いてか、薄く笑みを口元へと刷く。
「そうだねぇ……ひと言で言えば、興味がないからかな。ザナドゥが地上に出る手伝いをして、それで私に何の得があるんだい? 私は今だって地上と行き来しているよ。意味もないことで痛い思いをするのは、気のりがしないね」
「そう?」
 ほっと息を吐いた、そのあとで、夜守は自分がいつの間にか息を詰めていたことに気づいた。
 まるで、襲い来る痛みを予想して、身構えるように。
「でもねぇ、夜守」
 わけが分からない、と困惑している夜守に、くつくつ笑いながら、ベリアルは内緒話をするようにその耳元へ唇を寄せる。ほおに触れ、吐息の熱を感じるほどに近く。
 そして告げた。
「それは、これからもそうとは限らないんだよ。だって、向こうがどんないい条件を出してくるか、知れないだろう?」
「! ベリアルっ!!」
 胸に手をつき、責めるように押しやる夜守に、ベリアルはますます笑いを強める。それはもう、嗤いだった。
「もし……もし、僕の敵側に回るというのなら……覚えておけ。僕はおまえを許さない」
 ああ、こんなおどしがどれほどの力を持つというのか。口にした直後、生じた後悔に、苦いものが口中にたまる。だが真実だ。夜守の敵に回るということはすなわち【鋼鉄の獅子】の、ひいては教導団の敵となるということ。もうすでに仲間に犠牲者が出てしまっている。そしてナナ……。生気を残らず抜き取られてしまったようなその姿は、まるで幽霊さながらだった。
 仲間を傷つけようとするものは、パートナーでも許さない。
 そんな夜守にベリアルは応とも否とも返答をせず、ただくつくつと肩を震わせて嗤っていた。
 一方その反対側では。
 ジュノ・シェンノートが回復支援をする合間を縫って、嬉々としてワイヤークローで敵を捕まえていた。
「これだけいると、入れ食いですねっ」
 笑みを浮かべ、光術を放つ。顔面でそれを受け、のけぞって倒れる魔族を見て、またコロコロと笑う。
「こーんな薄闇の世界でいるから、魔族の皆さん、やっぱり光に弱いようで」
 明るくそう言いつつも、笑みは目までは届いていない。冷ややかで、酷薄な笑み。ワイヤークローを打ち込む手も、バニッシュに込められた力も、まったく容赦というものがない。
(こりゃいつも以上に荒れてるな……)
 ウォーレンは弾幕援護の影で、こそっと息をついた。
 さもありなん。戦友を失ったのだから。
 そしてそれは、ウォーレンも同じだった。
 単独任務につき、1人南カナンへ向かったルースとの最後のやりとりを思い出す。彼は、これから森に入るのだと言った。
『そうか。大切な人が待ってんだ、無茶すんなよ? もうじき結婚するんだろ?』
『ええ、まぁ。その……これが終わったら……』
 今も耳に残る、携帯を通じて聞いた、友の声。少し照れたその言葉をからかい、たむけにと驚きの歌を送ったのは、ほんの数時間前だ。そのルースが、いなくなってしまったなんて。
「――無茶すんなって……言ったのに……」
 みんな、だれだって帰りたい場所がある。そこへ、1人の例外なく、みんな帰れるべきなんだ。待ってくれている人がいるんなら、なおさらに。
(俺たちは、死ぬために戦ってるんじゃない。生きるために、明日笑うために、戦ってるんだ。知ってたはずじゃなかったのか? ルース!)
 魔族を寄せつけまいと弾幕を張りながら、ウォーレンは胸の中のルースを責めた。


 ついにルカルカたちと撤退支援部隊との道がつながった。
「よし! すみやかにセフィロトの芽まで撤退だ!」
 消耗しきった彼らを内側に入れ、来た道を戻ろうとする。先頭にあって道を切り開いていた垂たちは、そのまま今度はしんがりだ。
 ふさがっていく道の速度を気にしつつ、適度に魔族たちへのけん制をこめてカタクリズムを放つ。
 そんな彼女の前、魔族たちが左右に割れた。その先に立つは、巨大ハンマーを持った魔神ロノウェ。
 走り込んで距離を詰め、一気に自分たちを殲滅するつもりだ。いや、もしかすると彼女の狙いはその先、セフィロトの倒木にあるのかもしれない。
 存在を意識したとたん、さわさわと、セフィロトの枝葉のこすれる音がやけに大きく聞こえた。幹は太く、がっしりとして、最初に彼女たちがここへ現れたときの数倍になっている。頂上は天を突く勢いで伸びており、もはや先端がどこかすらも分からないほどに。
 守るべきものの存在すべてを己の背後に感じて、垂はこぶしをつくり、構えをとった。
 自分の技が、魔神を相手にどこまで通用するかは分からない。だがたとえほんの数秒であろうと時間を稼ぐことができれば、それはセフィロトによる橋頭堡の完成につながる。完成しさえすれば、きっとセフィロトの聖なる力が彼らを守ってくれるだろう。
 うなりをあげて吹き荒れるカタクリズムの風が、竜巻のように彼女を覆う。その傍らに、栞がはたはたと走り寄った。
「――おまえも下がれ、栞」
「にゃっはは〜。下がってるよ〜垂の後ろにね。垂が魔神と戦う間、魔族たちに邪魔させない役が必要でしょっ」
 転経杖で魔力の増加を図りつつ、禁じられた言葉、紅の魔眼、絶対闇黒領域と、次々スキルを発動させていく。たとえそれが強がりであろうとも、ニッと不敵に笑って見せる栞に頼もしい戦友の姿を見て、垂は胸が熱くなるのを感じずにいられなかった。
「よし。任せた」
「うん。任されてやるっ」
 2人は、同時に仕掛けた。
「はあああっ!!」
 鬼眼、鬼神力、歴戦の武術、歴戦の必殺術……垂はすべてのスキルを発動させた。走り込み、間合いに飛び込んだ瞬間則天去私を叩き込もうとする。
 しかしそんな彼女をあざ笑うかのように、ロノウェは片手で難なく彼女のこぶしを掴み止めた。
「この程度なの、人間」
「うわっ」
 手首を曲げて押し戻しただけの力は、垂を難なく後方へ飛ばし、地面を転がす。追撃してきた巨大ハンマーを、垂は転がって避けた。
 カタクリズムの風の中にありながら、まるでそよ風をほおに受けてでもいるように、ロノウェは微塵も揺らがない。
「どうしてこの程度の力しか持たない者に、アバドンはやられたのかしら」
 ――慢心? それによる自滅?
「……なら私は、全力で叩くわ」
 巨大ハンマーを持ち替えたその手から、雷撃の白い稲妻が巨大ハンマーへと走る。
「警告よ、人間。邪魔をしないで。あなたたちに勝ち目はないと、もう分かっているでしょ。これ以上は無駄だわ」
「――くそっ……!」
 垂は地に両手をついたまま、吼えた。
「どうして……! おまえらは、なぜ侵攻してきたんだ!? パラミタの地で活動したいのなら、交渉して、お互いを理解した上でともに歩む道を探ればいいじゃないか! わざわざ争いを起こす事に何の意味がある!?」
「――最初に私たちをこの暗き地底へ閉じ込めたのはあなたたちであることを、人間は都合よく忘れてしまったようね。
 でも安心して。私たちはあなたたちを陽光差さない地底へ追いやったりはしないわ。少なくとも、それだけこちらの方が慈悲深いと認めてもらえるかしら?」
「……く……っ」
 返す言葉を、垂は持たなかった。5000年前、何があったか彼女は知らない。パラミタにおいてそれを知るのは、封じたイナンナとアーデルハイトのみ。代弁者とはなれない。
「……だけどっ! だけど、争いに争いを返して、どうなるっていうんだ! そうすれば魔族は、今度は人間の恨みを買って、人間はいつか魔族を倒そうと戦争を仕掛けるだろう! 同じことの繰り返しじゃないか! 被害者であれば、何をしたっていいってことにはならないんだ! 不幸の連鎖は断ち切らなくては!」
 垂の言葉に、ロノウェの緑の瞳が暗く沈んだ。どう見ても、垂の示した未来予想が気に入らないといった表情だ。彼女の心に届いたかと、期待した一瞬――
 それが、ただの思い違いでしかなかったことを、彼女は知った。
「なら、人間は滅ぼした方がいいというのね、あなたは」
「ち、違う! そうじゃない!!」
 駄目だ、言葉が通じない。
 絶望にかられつつも、それでも、さらなる説得を試みようとする垂。
 そのときだった。

 背中越し、ひゅうっと何かが天に向って走るのを感じた。
 闇を貫く1本の矢。
 光を放ち、雲を突き抜け、はるか天を目指す。
 蒼弓ヴェイパートレイル――それは、待ち焦がれた合図だった。

「皆さま! よく持ちこたえてくださいました!!」
 宙にありて、身の丈ほどもある弓を持ったノア・セイブレムが高々と誇らしげに言葉を放つ。
「たった今、橋頭堡は完成いたしました! セフィロトの芽はセフィロトの樹となり、無事この地に深く根をはりおえたのです!!」

「ノア……! ――あっ、しまっ……」
「――そんなこと、させない」
 ロノウェは巨大ハンマーを両手に持ち、走り出した。
(完成したとはいえ、まだ生まれたてのセフィロト。今ならまだ私の力でも、倒すことはできるはず。全力であのような樹、このザナドゥから消し去ってみせる……!)

《ロノウェさん》

「パイモン様!」
 パイモンからの突然のテレパシーに驚いて、ロノウェは足を止めた。

《セフィロトは完成しました。一度軍を撤退させてください》

「ですが、今ならまだ――」

《分かりませんか? セフィロトは“完成”してしまったのです》

「――! まさか、あれも『コーラルネットワーク』の対象に!?」
《ええ》

 なんということ……といった表情で、ロノウェがそびえるセフィロトを見上げる。
 コーラルネットワーク。パラミタの世界樹が与する、世界樹を守るためのシステム。今ここでこの樹を攻撃すれば、それはパラミタ中全ての世界樹を敵に回すことに繋がりかねない。
 だからこそ、世界樹イルミンスールは滅せられずに生き残った。

《今度の戦いでは思いのほか損害が出ました。私の失策です。申し訳ありません。ここで、あなたまで無理をする必要はないでしょう》

 優しい物言いながらも、それは反論を許さない命令だった。
 選択の余地はない。
「――分かりました。ロノウェ軍は、これより撤退します」