空京

リアクション

その頃、火口　敦は

　さて、ここでとある人物について触れておかねばならない。

　その者の名は、火口　敦（ひぐち・あつし）君。
　パラ実生でロイヤルガードにも任命されている、ある筋では最強の契約者である。ちなみに彼を呼ぶ時は、『君』をつけないといけないらしい。

　かつては横山　ミツエ（よこやま・みつえ）のパートナー、曹操　孟徳（そうそう・もうとく）から『かこうとん』と呼ばれ、武将をしていた経験もある。

　またドラゴン退治に累計３万回以上同行した経験もあり、その時点で強者に相応しい実力を秘めていた。

　だが、最強と呼ばれるのは別の理由があった。

　火口君はパートナーの董卓を助けるため、スコップひとつで地面を掘って、ナラカに向かったのだ。
　その決断力と実力によって最強と呼ばれているのだ。
　しかも、途中寄ったザナドゥでは魔王の称号を貰ったという話まである。

　地上帰還後、彼女を得るためにアスコルド大帝の下についたこともあるが、合コンで知り合ったカレン・クレスティア（かれん・くれすてぃあ）と付き合う事となり、

『女は８０レベル以上』

　という恋愛界に衝撃を残す名言も残した。

　その火口君に、一部の契約者が注目していた。ザナドゥの地上侵攻に伴ってである。
　これに対し、魔王である火口君は果たして、どう出るのか。

　様々な思惑を抱えた者たちが、火口君の家を訪れたのだが……。


『良く来たッス！』

　来訪者――ラルク・クローディス（らるく・くろーでぃす）・秘伝　『闘神の書』（ひでん・とうじんのしょ）・ロザリンド・セリナ（ろざりんど・せりな）・メリッサ・マルシアーノ（めりっさ・まるしあーの）・高崎　悠司（たかさき・ゆうじ）・レティシア・トワイニング（れてぃしあ・とわいにんぐ）・弁天屋　菊（べんてんや・きく）・親魏倭王　卑弥呼（しんぎわおう・ひみこ）・聖・レッドヘリング（ひじり・れっどへりんぐ）・キャンティ・シャノワール（きゃんてぃ・しゃのわーる）・シルヴィオ・アンセルミ（しるう゛ぃお・あんせるみ）・アイシス・ゴーヴィンダ（あいしす・ごーう゛ぃんだ）・次百　姫星（つぐもも・きらら）・鬼道　真姫（きどう・まき）――を出迎えたのは、火口君……ではなく、火口君の声だった。
　何も無い空間から聞こえてくる声、これは火口君が魔王だからこそ出来る芸当なのだろうか？　そんな疑問が浮かぶ中、火口君の声は続く。

『来てくれて悪いッスけど、俺は『ザナドゥの大淫婦』に命を狙われてるッス。
　あの女はヤバいッス。だから、俺が抑えることにしたッス』

　どれくらいヤバいかというと、万が一シナリオに出ることになってしまったら、『蒼空のフロンティア』が全年齢対象でなくなってしまうくらいにヤバいらしい。
　火口君は『蒼空のフロンティア』を全年齢対象であり続けさせるために、身を張って『ザナドゥの大淫婦』の出現を阻止するというのだ。

『みんなには悪いことしてるって思ってるッス。特にカレンさんには、合わせる顔がないッス。
　……だけど、これは俺のケジメッス。俺のワガママを聞いて欲しいッス』

　みんなの回答を待たず、火口君はそれだけを言うと、もう声は聞こえなくなった――。