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リアクション
闇のなか、ポゥ…と丸い光の球が生まれた。
次々と生まれた光はゆらゆらと上へ昇っていき、周囲を照らし出す。光術で生み出されたいくつものあかり。
(最悪だ、運が悪いというかなんというか……)
はるか頭上、ピッタリと口を閉じてしまっている天井を見上げて、エミリア・ディアウス(えみりあ・でぃあうす)はうずくまったまま、膝の前でぎゅっと握り締めた手の力を強めた。
「エミィ、これからどうする?」
少し離れた所に立つ宇佐見 奏(うさみ・かなで)が、どこか途方に暮れたような声で訊いてきた。それとも、途方に暮れているのは自分の方か。だからそういうふうに聞こえるのか。
エミリアは正直、問われるまで彼の存在を忘れていた。パートナー契約をしてまだ日が浅い。自分とだれかを結びつけて考えることに、まだ慣れていない。
自分を気にしてくれる存在がいるということに。
少し申し訳ない気持ちで振り返ったエミリアの視界に、大勢の人の姿が入った。この事態にすっかり動揺した者、パートナーを探している者、落下のときに負ったけがをヒールで治療してもらっている者。そういったざわめきの向こうで、ヘクトルと夏來 香菜(なつき・かな)を中心とした、ちょっとした集団ができている。みんな訓練生で、それぞれが荷物や武器を持ち、ヘクトルから何か説明を受けているようだった。
「あの人たち……どうかしたのかな」
「え?」
奏も振り返って彼らを見る。直後。
「彼らはここの探索に出るらしい。さっき、そんなことを話して集合をかけているのが聞こえてきた」
そんな言葉が背後の闇からした。
パッとそちらに向き直って警戒する彼らの前、ズボンのポケットに手を突っ込んだ青い髪の青年が現れる。エミリアの疑問に答えたのは彼だろう。どこか眠そうな緑の目が印象的な青年だった。
「キミは?」
「あ? ああ、そうか。悪い。新入生の柳 翔(やなぎ・しょう)だ」
差し出された手を、奏はまだ少し警戒しつつ握る。
「俺は宇佐見 奏、こっちはパートナーのエミリア・ディアウス」
ぺこ、とエミリアが頭を下げた。
「お互い大変な目にあったが、まぁよろしく頼む」
「翔、くんは、1人なの?」
「ん? いや、俺は――」
「翔! こんな所にいたんですね!」
語尾にかぶさるように、だれかが彼の名を呼んだ。声のした方を向くと、長い髪をポニーテールにした少女がみるからにほっとした表情を浮かべて立っている。
「こいつが俺のパートナーの桜だ」
彼女が駆け寄るのを待って、翔は彼女を紹介した。
「よかった、無事で……。――あ、すみません。皇瀬 桜(おうせ・さくら)といいます」
まず翔がけがを負っていないことを確認して、桜は2人に頭を下げる。あいさつをすませた桜は、あらためて翔の方を向いた。
「見つけられてよかった。もしかしたらあなた、探索に加わって行ってしまったのではないかと思ってたんです」
「まさか」
「ええ。そうですわね」
もちろん桜もそう思った。今の自分たちはまだまだ未熟すぎる。翔がそんなことに気付かないはずがない、と。ただ、万一のことがあるから……。
「では向こうで開催される交流会に参加しませんか?」
「交流会?」
エミリアが不思議そうに訊き返した。
「ええ。ただぼんやりと救助を待っているのも何ですから、どうせならお互いを知り合う場にしよう、ということらしいですわ」
「あー、なるほど。そっか」
ぽんと手を打ち、納得する。
「ま、このまま無為に時間がすぎるのを待っても退屈なだけか」
「だね。せっかくだし、行こうか、エミィ」
「うん」
連れ立って歩き始めた奏を、エミリアはちらちらと盗み見た。おそらく奏は探索に行きたいと考えたに違いない。さっき探索に行く人たちを見たときの表情がそれを物語っていた。言葉にしなくても、それくらいは分かる。
(私のこと、気にしてくれたのかな……)
なさけないような、うれしいような。どこか複雑な、そんな思いでエミリアはそっと息を吐いた。
彼らは完全に浮足立っていた。
何の前触れもなく突如ぽっかりと口を開いた巨大な亀裂――そして彼らを飲み込んだ直後、閉じてしまった地表。これがただの自然現象であるはずがない。
そんな事態に遭遇して、不安に駆られない者がいるだろうか? しかも新入生である彼らは契約者となって日が浅く、経験もさほどない。
落下して大分経つというのにやみそうにないざわめきに、日下部 社(くさかべ・やしろ)は腰に手をあてて息をついた。
「ここはやっぱ、俺らがバシッと仕切らんとなぁ」
どんな危機的状況に陥ろうと、あわてず騒がず現状できることを考え、後輩に示す。それがベテラン組の腕の見せ所というもの。
そしてこの場合、それは何かというと。
暗い雰囲気なんかぶっ飛ばせ! ニルヴァーナ合コン開始や〜!
ちなみに合コン=交流会である。彼の名誉のために言っておくが、最初にこんなバカな勘違いをしたのも彼ではない。彼はただ、月面生まれで世情に疎そうなルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)の言葉を借りて、ついでに訂正もしなかっただけだ。
社は後ろを振り返り、壁際に沿ってずらりと並んだ簡易屋台を見渡し、準備に余念がない彼らを見て頷くと、すうっと息を吸い込んだ。
「ちゅうもーーく!」
社の、よく通る張りのある声が響いて、ざわめきが止まった。
「みんなしょげることないでー! 食いモンはたーんとある! 暇つぶしのゲームもバッチリや! このことは外のモンにだって伝わっとるし、ここには俺らだっておる! 怖いモンなんかちょっともあらへんわー!」
その証拠というように、彼は屋台を指し示した。折り畳み式の長テーブルの上には、早くもサンドイッチやケーキ、クッキーといった物が紙皿に小分けされて並んでいる。
「訓練、みんなようがんばっとったからな! 腹空いてるやろ!」
ニカッと笑う社の言葉に、そういえば、と何人かがおなかに手をあてる。おいしそうなにおいが漂ってきて鼻をひくつかせる彼らの前、効果的にルシアが声を上げた。
「うわあ! おいしそう!!」
テーブルに並んだ、ほこほこと白湯気をたてる揚げたてのフィッシュ&豆チップスを前にうきうきと手を合わせる。
「はい、どうぞ。できたては特においしいよ」
エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)がテーブルの向こう側から、今盛りつけたばかりの紙皿を差し出した。
チップスの1枚をとりあげて、パクッ。
「これ、サクサクしてておいし〜い」
「ありがとう」
手放しの称賛を受けて、エルシュは満面の笑みでルシアと笑顔をかわす。
「デザートにケーキなどいかがですか」
それまで奥でクモワカサギの皮をはいで下準備をしていたディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)が、片手にチョコレートケーキ、片手にレモンチーズケーキの乗った紙皿を持って現れ、テーブルに載せた。
こちらを見ている新入生たちに気付いて、にこっとほほ笑む。
「まだまだたくさんありますから、あなたたちもいかがです? 甘味は疲れをとってくれますよ」
彼の浮かべるやわらかな笑み、眼差し、そして穏やかな口調に吸い寄せられるように、新入生たちは簡易屋台へと近付いた。
「じゃあボクこれ! このかわいーやつ、もーらいっ!」
われ先に駆け寄った少女リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)が、一口サイズのジャムサンドイッチが乗った紙皿を両手ですくい上げた。しかし、そうした先から
「あー……でも、こっちもいーなぁ」
と、ほかの紙皿に乗った、チーズサンドイッチに目移りしている。
手に持った紙皿と見比べている彼女を見て、早乙女 彩奈(さおとめ・あやな)はくすくす笑った。
「いいよいいよ、両方持って行きな」
「え、でも」
「遠慮することないよ。材料はまだいっくらでもあるんだからさ。ねっ? 七ッ音」
唐突に名を呼ばれて、乙川 七ッ音(おとかわ・なつね)はとまどいつつも振り返って彼らを見る。
「え、ええ…」
一生懸命、手順を間違えないように集中して紅茶を入れていた七ッ音は、実は何を問われたかサッパリ理解していなかった。
(でもきっと……間違ってない、わよね…? 彩奈さん、あんなににこにこしてるし)
「ほらね! さあさあ持って行っちゃいな! あんたぐらいの歳の子はね、おなかいーっぱい食べるのも仕事のひとつさ!」
リキュカリアは、外見は14歳だし背丈も低かったが、実年齢は相当いった魔女だった。でもきっと、目の前のこのおおらかな女性だってそんなこと、百も承知だ。
通じ合ったようににこにこ笑い合うと、リキュカリアはチーズサンドイッチの紙皿も持ち上げた。
「じゃあ遠慮なくいただいちゃおっかな! ありがと! えーと……」
「彩奈だよ。早乙女 彩奈」
「彩奈さん!」
手を振るわけにいかないので、ばいばいと口で言って、リキュカリアは離れた場所で待つ線の細い青年の元へ駆けて行く。その背中に
「あ……」
と、切り出すタイミングをすっかり失してしまった七ッ音が紅茶の入ったカップとポットを手に立ち尽くした。
(き、気にしない……うん。また次だってあるし)
ちょっと気落ちしつつも、自らを励ましつつ、カップをほかの飲み物たちが並んだテーブルに下ろす。実際、落ち込んではいられなかった。紅茶を欲しがってポットを持つ彼女に向かってカップを突き出す新入生たちはたくさんいたのだから。
「あのぅ……もらって、いいですか…?」
そんな声が耳に入って、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)はスモークサーモンをひと口サイズに切り分けていた手を止めテーブルの方を振り返った。
三つ編みの少女がおずおずと、数種のカナッペが乗った紙皿を指差している。
「ああ。うん、どれでも好きなのを持って行ってくれていいよ」
実際ほかの子たちはそうしていて、すでにテーブルの上は歯抜け状態なのだが。
(律儀な子だなぁ)
作っている涼介の了承を得られたことに、少女は見るからにほっとしている。ふと思いついて、スモークサーモンを何切れか紙皿の脇に乗せた。
「あっ……あの…っ」
「おまけ。
あとでどれがおいしかったか教えてくれるとうれしいな。どれをまた食べたいと思ったか。リクエストしてくれれば、いくらでも作るからね」
「あ、ありがとう、ございます。ぼ、僕……ルナ・リナリー(るな・りなりー)っていいます――あっ」
涼介から差し出された紙皿を受け取ろうとあわてすぎて、ルナは持っていたミニバッグを落としてしまった。バッグはそのままコロコロとテーブルの下に転がり込む。足元にきたそれを素早く拾って土を払い、涼介は差し出した。
「はい」
「――あ…」
「まったく。緊張しすぎなんだよ。変なところでドジなんだからな、おまえは」
となりにいたパートナーらしき少年が言う。
「でもカイル……」
「ほら、いいから渡せ。俺が持ってやるよ。この分だと、せっかくの料理も落っことしてだいなしにしかねないからな」
ちょっと乱暴な言い方ではあったが、少年が少女を気遣っているのは涼介にも分かった。2人分の飲み物を片手に移して、あいた片手で紙皿を持つ。
「あ、俺カイル・エル(かいる・える)っていいます。それで、こっちの皿ももらってっていいですか?」
両手は塞がっている。少年が視線で指したのは、ジャムやハム、レタスなどをはさんだサンドイッチが全種類乗っているミックスの紙皿だった。
「涼介・フォレストだ。よろしくな。それから、かまわないよ。でも持てるかな?」
「大丈夫です。俺、こいつと違って器用なんで。――ルナ、ちょっとそれここに乗せて」
「あ、うん」
少年は2つの紙皿を片手の指ではさみ持つと、言葉どおり器用にバランスを取りながら離れて行った。
「面白いですわね、あのお2人」
焼きたてのマドレーヌをオーブンから引っ張り出し、ひっくり返して型抜きしつつエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)がくすりと笑う。
「ああ、見てください兄さま。表も裏も、すごくきれいに焼けましたわ」
味見とばかりに1つを半分に割って差し出した。見るからにしっとりほっこりとしておいしそうな黄金色のマドレーヌからは、オレンジピールのさわやかな香りがただよっている。
「うん。うまい」
「粗熱が取れましたらアーモンドクッキーと合わせてお包みして、皆さんにお配りしてきますわね」
涼介から合格点がもらえたことにエイボンの書は幸せそうな笑顔になると、用意済みだった次の型をオーブンに入れた。
ちょうどそのときだった。
「ころあいですね」
離れた所から様子を見守っていたシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が、手をパンパンと叩いて新入生たちの注意を引いた。
「皆さん、好きな食べ物と飲み物を選び終えましたら、それを持ってこちらへ集まってください。何をするにしても、お互いまだ名前も知らない方が多いかと思います。まずは自己紹介をしましょう」
ほほ笑む彼女の横で、雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪を持つ少女――ただしその表情は無に近く、シャーロットと対照的に何の感情も表していない――グリム童話 『白雪姫』(ぐりむどうわ・しらゆきひめ)が、おいでおいでと手招いていた。
「えっ?」
困ったように声を上げたのはフェイ・クリズフィード(ふぇい・くりずふぃーど)だった。
彼女が立っているのはハンバーグの屋台の前で、用意されていた分があっという間になくなった今、次にできあがるのを待っていたのだ。
「ど、どうしよ?」
「う〜ん。仕方ないよ〜。訓練でおなか空いてて、がっつり食べたい人多いもんねぇ。いいにおいしてるし〜、こういうのは人気あるよ〜」
まごついてしまっているフェイのとなりで、パートナーの永見 春日(ながみ・はるひ)が頭の後ろで手を組む。フェイとは対照的に、いかにものんびりとした口調で笑顔を崩さない。
「サンドイッチならまだ少し残ってるようだし〜。そっちにする〜?」
春日の提案に、そちらのテーブルを見る。でも……とあきらめきれない思いで、ジュージューいっているフライパンの方をちらちら見ていたら。
「メティス、例のやつを」
調理していたグラサンの青年レン・オズワルド(れん・おずわるど)が、奥の調理台で野菜とパスタをからめていた金髪の少女を呼び寄せた。
「はい」
「ほら、これを持っていけ」
ハンバーグは焼き上がるまでに少々時間がかかる。こんなこともあろうかと用意してあった番号札を、レンが差し出した。
「焼けたら席まで持って行ってやる」
「あ、ありがとうございます」
おっかなびっくり受け取ったとき。それまでずっと、強面でちょっと近寄りがたく思えていた青年の口元に優しげな笑みが浮かんだのを見て、フェイは驚きのあまり少し見とれてしまった。
「じゃあ自分のもよろしく〜。
さあ行こ、フェイ」
「うん……あの、お願いします」
春日に促されつつ、新入生ででき始めた輪の方へと向かう。
「ほかの皆さんもどうぞ」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が順番待ちをしていた者たちに向かって番号札を差し出した。
「……かなりの量だな」
残った番号札の数字を見て、ふむ、とレンは考え込む。材料や燃料に問題はないが、時間が相当かかりそうだ。ハンバーグの添え用にと作ったシャキシャキ野菜のパスタサラダを盛りつけているメティスに、済み次第手伝いを頼もうとそちらを向くと、神崎 荒神(かんざき・こうじん)がテーブルの下をくぐってこちら側に入ってくるのが見えた。
「やあ。忙しそうだから、手伝うよ」
「いいのか?」
クイ、と別の方を指す。そこでは荒神のパートナーの蒼魔 綾(そうま・あや)が、コトコト深鍋を用いて何かを煮込んでいた。
コポッコポッとあぶくが浮かんで割れるのを一心不乱に覗き込み、かき混ぜている姿は、周囲で同じく料理をしている者の不安……じゃなくて、興味を否が応でも掻き立てている。
横のまな板の上にずらっと並んでいるのは開封済みの保存食のパックだが、しかしにおいはまぎれもなく……いや、まさか……。
「においで予約はとれてるみたいだぞ」
「あー……まぁ、あれはあれで」
ごにょごにょと。
荒神は視線を飛ばしてごまかす。
「ふーん?」
「いやっ、ヘタに手を貸そうとすると邪魔だって言われかねないからさっ! それよりこっちを手伝うよ。手が足りないんだろ?」
そでまくりをして手を洗うとレンの横についた。追求されるのを拒むように、さっさとボールにミンチ等材料を入れて、手際よくこね始める。その姿にレンはくつくつ笑いながらフライパンのハンバーグをひっくり返した。
そうして料理をしている仲間たちの間を、料理をつまみつつ談笑したり、何か過不足ないか訊ながら歩いていた社は。
「あれ? きみら、どうしてここにおるん?」
調理台の前に新入生の姿を見つけて、そう声を上げた。
社の声はよく響く。耳にした者たちも手を止めて、そちらを向く。
彼が自分たちに向かって話しかけていることに気付いた2人は、材料を切っていた手元から顔を上げた。
「きみら新入生やろ? 向こう行かんでええのん?」
「ああ……いや、申し訳ない。私はアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)、こちらはパートナーのシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)」
「あ、どうも」
アルクラントの紹介に合わせて社に向かって頭を下げた女性に、社も応じて会釈を返す。
「何もせずただ座っているのは苦手でね。なんだか落ち着かないから、料理でもしようかと思って。こちらに混ぜてもらったんだ。悪かったかな?」
「そやったんか。いや、こっちとしちゃそんなん全然かまへんわ。ただ、ええのかと思うただけや」
「ああ……まぁ。これができあがったら行こうと思ってはいるんだがね」
苦笑しつつ、アルクラントは切り終えたタマネギをざらりとフライパンに落とした。
「ええにおいやな。ミートスパゲティか」
フライパンのなかで手早く作られていくミートソースを見ながら問う。
「ラザニアですわ」
答えたのはシルフィアだった。
「ほー。そりゃうまそうや」
「なにしろ私が作る物だから、見てくれはあまり良くないがね。味は保証しよう」
「あら。私が手伝っているんですから、味も保証できないかもしれませんよ?」
シルフィアが少し茶目っ気を出してふふっと笑う。彼女は麺棒を用いてパスタシートを作っている最中だった。
「いやー、こんなうまそーなにおいさせてるんや、うまいに決まっとる。ぜひ試食させてほしーわ」
「そうですか? ではできあがりましたらお持ちしますわ」
ふと、そこで思いついたようにシルフィアは「ああ」と声を上げた。
「そうですね……よかったら皆さんにまかないとして食べていただけませんか?」
「それはいいな、シルフィア」
アルクラントも同意する。
「そりゃありがたいわ――っと、悪い、あいさつがまだやったな。俺は日下部 社。846プロダクションの社長で、ここの料理チーム・和気藹々のリーダー務めさせてもろとる。よろしゅーな!」
社のあいさつに合わせて、全員が2人に向かって歓迎の笑みを浮かべる。
その温かな人の輪にほっとしながら、アルクラントは返した。
「よろしくお願いします」
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