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リアクション
遺跡にて・2
「さて、まずは……この遺跡の地理を把握しなければなりませんね」
と、源 皆夢(みなもと・かいむ)が言った。
崩落した遺跡の中の探索隊である。合コン、もとい交流会が開催されている居残り組のいる場所からしばし歩いた場所である。
「敵対生物がいる可能性もありますな。お気をつけるように」
と、長尾 景虎(ながお・かげとら)。
「そうね……実戦、だものね」
彼らの言葉にうんとうなずくのは、夏來 香菜(なつき・かな)である。
「不安かい?」
その思い詰めた様子に気づいた神山 葉(かみやま・よう)が、そっと声をかけた。
「い、いえ! これぐらい、なんでもないわ!」
と、薄い胸を張る香菜。
「前にとんでもない怪物に襲われたんだろ? しかも、その時のことをほとんど覚えてないって言うし……不安になって当然さ」
「……だから、平気だって……」
「俺も記憶がないんだ」
「えっ!?」
と、思わず高い声を上げた香菜に、皆夢が振り返る。
「……どうしました? 警戒しなくても、このあたりにはあまり敵はいないようです。軽快にいきましょう」
「な、なんでもないの」
と、ぶんぶん首を振る香菜。その様子に、葉がくっくっと笑う。
「葉、……楽しんでますね?」
葉のパートナー、神山 楓(かみやま・かえで)がじ、っと半眼を向ける。
「気のせいだよ。ほら、ちゃんと地図を入力してるんだ」
……と、葉は手の中の銃型HC(ハンドヘルドコンピューター)を示して見せた。
「……それ、なんですか?」
ぬっと顔を覗かせた鈴木 麦子(すずき・むぎこ)が、HCをのぞき込みながら聞いた。
「うわっ。携帯型のコンピュータだよ。ほら、自動的に地図データを作ってくれたりするんだ」
小柄でどこかじめじめした雰囲気の麦子が急に声をかけてくるとは思っていなかったらしい。思わず驚きながらも、答える葉。
「……そうですか、便利ですね……。急ぎましょう、ここは……同じような部屋が連続しているみたいですね」
そう、彼らが探索に出たこの一角は、まるで櫛(くし)のように、同じような部屋がいくつも並んでいる。どうやら、そのほとんどカラのようだ。
「この先は、行き止まりだし……はあ、無駄足踏んじゃったわね」
……と、大きなため息を交えて言うのは 鍛冶 頓知(かじ・とんち)。
その姿格好に誰もが何か言いたげに目を向けるが、あまりに堂々とした立ち居振る舞いに、結局何も言えなかった。
「……そうですね。最後の部屋を調べて戻りましょう」
と、皆夢。無表情だが、どことなく声が弾んでるように思えるのは、歴史好きが未探索の遺跡にあっては仕方ないところか。
突き当たりにある部屋は、形やサイズこそ他の部屋と同じような作りだったが、一つ、決定的な違いがあった。
「何よこれ」
と、頓知がのぞき込むようなパイプがあったのだ。その瞬間、
ぶしゅううううう!
と、そのパイプが真っ赤な液体を噴きだした。
「ぎゃあああああ! 何よこれ!」
「罠でしょうか? マップに書き込んでおきましょう」
「って、ちょっと、落ち着いてる場合じゃないわよ! 毒か何かかも……」
じめっとした反応の麦子とは対照的に、慌てる様子の香菜。
「たぶん、大丈夫だよ。……単なるサビだ」
反射的に超感覚……猫の耳をはやした葉が言う。
「さ、サビ?」
言われてみれば、金属が錆びたイヤなにおいが、頓知の服を汚した液体からは漂っている。
「パイプの中にたまっていたんでしょう。罠ではないみたいですね」
皆夢が呟く。
「お、お気に入りの服だったのに……」
「自分からのぞき込んだんじゃない。それぐらいですんで良かったぐらいよ」
「むしろ、なんでお気に入りの服で遺跡などに……」
がっくり来ている様子の頓知に、香菜と景虎がぽつり。
ともかく、このように、探索は和やかにはじまったのだった。
「……と、いう部屋だったんだけど」
と、香菜からの報告を受けて、トゥーカァ・ルースラント(とぅーかぁ・るーすらんと)は小さな手をぽんと打ち合わせた。
「それは、たぶん倉庫か、格納庫のような場所じゃん?」
「倉庫?」
「トゥーカァの分析によれば、この遺跡は何かを保管したりするのに向いた施設になってるじゃん」
「まあ、さすがにこれほどの長い時間に晒されて、ほとんどの施設が停止しているようだが」
きらりと目端を光らせるトゥーカァ。そのパートナーであるクドラク・ヴォルフ(くどらく・うぉるふ)が付け加えた。
「ってことは……」
と、身を乗り出すように大道寺 春雅(だいどうじ・はるまさ)がわくわくした声を上げた。
「お宝がある可能性も他界であります!」
びし! と斜め上のどこかを指さして、型番九七・改 ちは(かたばんきゅうななかい・ちは)が叫ぶ。
「お宝!」
その言葉に反応して、吾妻 京(あがつま・きょう)が飛び上がらんばかりに喜ぶ。
「戻ったのね。そっちの調子は?」
聞く香菜に、ヴラディス・ドラグ(う゛らでぃす・どらぐ)が指を立てる。
「ひとまず、水は発見しました。そのままでは飲めそうにありませんでしたが……」
「こんな時こそ我々装備開発実験隊の出番です。これを見よ!」
ばーん! と効果音を上げそうな勢いでベネティア・ヴィルトコーゲル(べねてぃあ・びるとこーげる)が手の中の装置を示す。
「何それ?」
同じ機工士でありながら、トゥーカァの反応は冷ややかだ。だがベネティアはそんな反応には一切構わない様子である。
「これこそ手動式電解水製造器! すなわち、最先端の機晶技術を駆使しておいしい水を確保する夢の商品!」
「それって、つまり浄水器じゃあ……」
「いや、この状況でこんなにありがたいものもないぞ」
思わずツッコみそうになる香菜に、春雅がフォローでなく言う。
「胃薬と頭痛薬は用意してありますから、試してみてください」
と、同じものをベネティアに持たされた伯 慶(はく・けい)。
「……えっ?」
その場にいるほぼ全員の声が重なった。
「ヴィルトコーゲルさん? もしかして……」
「もちろん、実地テストはこれが初めてです。この機にデータを収集して製品のクオリティアップに努めるつもりです」
胸を張って答えるベネティア。
「すばらしい姿勢であります! さあ、探検に出る前に水分補給をしっかりと行うべきであります!」
と、ちははかなり気楽な様子。
「……ギフト、探しに行くのはたぶん、長期戦になりそうじゃん?」
と、トゥーカァ。
「安心の三年保証も考えています」
「考えてるだけなの!?」
すっかりペースをつかんだベネティアに、香菜が叫んでしまう。
「春雅が飲むそうであります」
「言ってないよ!?」
「しかし、飲まなければ今後の作戦行動に影響が出そうであります」
「……た、確かにそうね」
ずいと春雅を前に押し出すちは。それに同調する香菜。
「ささ、ぐいっと一杯」
「……くう、こうなったら、どうにでもなれ」
ぜーはーと深呼吸をしてから、春雅は製造器によって作られた水を手に取った。
「おお、すごい勇気であるなあ」
ぱちぱちと手を叩くクドラク。後で覚えてろ、と春雅は胸の奥で呟いた。
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