空京

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創世の絆 第一回

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創世の絆 第一回

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イレイザーとの戦い・2

 イレイザーの歩は止まらない。平べったく、放射状に広がった遺跡の中へ、乱暴に突っ込んでいく。邪魔なものを一気に片付ける重機じみた進路だ。
「ひとつ考えたんだがな」
 遠巻きに、契約者たちを吹き散らす様を眺めていた瓜生 コウ(うりゅう・こう)が呟いた。
「あれを倒すのは無理だ」
「コウ? 何を……」
 コウの身にまとう魔鎧レイヴン・ラプンツェル(れいぶん・らぷんつぇる)が、あまりと言えばあまりの発言に声を上げた。
「それって、どういう意味?」
 何か思うところを察した蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が、ただ純粋な疑問と共に聞き返した。
「腕利きの契約者を何人も集めて、あいつを倒すことを目的に作戦を組めるなら、可能かも知れねえ。でも、今は無理だ」
「……なるほど」
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が、その意見に小さく唸った。
「それじゃ、作戦目標からやつを倒すことを外すところから始めるか」
 {SFM0006561#平等院鳳凰堂 レオ}が手の中に光条兵器を構えて返す。
「……それじゃあ、新しい作戦は?」
 と、出雲 カズマ(いずも・かずま)。少し考えた後、コウは目を細めた。
「新入生を救出するための部隊が突入するための時間を稼ぐ。やつの気をそらして、足止めをしよう」
「オーケー……行くぞ!」
 氷の翼を広げて天井すれすれまでレオが浮かび上がる。コウが巨大な銃を構えた。対巨獣用の大口径ライフルである。
「……効いてくれよ!」
 ドン! と腹の底に響くような音を立てて放たれた弾丸……もはや砲弾に近い……がイレイザーの表皮にぶち当たる。
「あれにとっては、強く押された程度のものですかしらね」
「むやみに絶望感を振りまくのは止めてくれ」
 レイヴンの言葉に、コウはうなだれかける首を振る。イレイザーの瞳が、射手を捉えた。
 その背の触手が鋭い牙を剥く。形質が変化したかと思った直後、極低温の吹雪が触手から吐き出された。
「……つうっ!」
「危ない!」
 朱里とアイン、二人がかりで張った防御結界とバリア、そしてレイヴンの防御力を持ってしても、冷気を完全に防ぎきることはできない。コウは身を躍らせて、崩れた壁の影に隠れた。
「イレイザーが吐くのは火炎弾じゃなかったのかよ!?」
「個体差と言う奴かもしれんな」
 天井近くを飛ぶレオの驚きに、多少は落ち着いてカズマが答える。
「くそ、こっち向きやがれ!」
 と、叫ぶレオの前に彼自身よりも質量のある触手が振るわれる。
「ぐあっ……!」
 なんとかその衝撃を受け止めるが、したたかに天井に背を打った。
「……第二弾だ!」
 どんっ、とコウの放った弾丸が触手を横から叩く。触手が横に押しやられる間に、打ち払って飛び出した。
「このっ……!」
 光条兵器の構えを変える。射刀術の構えだ。
「……やめて!」
 と、叫びがその動作を静止した。朱里だ。
「倒すことは目標じゃない。俺たちは十分、気を引いている!」
 と、アイン。確かにイレイザーの歩は止まり、触手を使ってではあるが、彼らの相手をするためにこちらを振り返っている。
「……使うときがあるとして、それはまだだ。時間を稼ぐんだろ?」
 と、カズマ。そう話す間にも、触手が蛇のように牙をこちらに向けてきている。
「……分かった。もうちょっと、遊んでやる!」 
 吐き出される吹雪を浴びぬように軌道を変えながら、時折切りつける。
 カかハエのようにまとわりつく作戦ではあるが、とにかく、イレイザーの歩は止まっていた。


「……はあっ!」
 叫びを上げて、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)の両腕が、迫る触手を払う。人間の何倍もの質量を持った触手を打ち払う筋力は、怪力というほかない。業を煮やしてか、触手が岩造に向けて口を開いた。
「……危ねえ!」
 ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)の杖が炎を放った。吐き出される吹雪にぶつかり、多少とは言えその威力を減じさせる。その間に、岩造は床を転がって吹雪から逃れた。
「なんとしても時間を……稼ぐぞ!」
 岩造が叫ぶ。現在、イレイザーの目につかないように新入生を捜索・救出する部隊が進行中だ。彼らの邪魔をイレイザーにさせないため、こうしてさらなる時間稼ぎのために戦っているのである。
「……来るか!」
 ついに、イレイザーの首が……頭が、こちらを向いたのだ。
「……隊長!」
 にらみつけたイレイザーの眼前に甲賀 三郎(こうが・さぶろう)が飛び出した。
「……おおおおっ!」
 唸るような叫びと共に、園からだから炎が噴き出す。威嚇をかねてイレイザーがひるむことを期待してのことだが、巨大な敵が攻撃の手を緩めることはなかった。
 複数の触手が一度に、三郎に向けて冷気を放つ……だがそれだけでも、効果はあった!
「うおおおおっ!」
「今じゃ!」
 冷気に巻かれて吹き飛ばされる三郎に構わず、本山 梅慶(もとやま・ばいけい)が槍を掲げて触手をこじ開けるように押し開く。
「ああ、行くぞ!」
 岩造がその間に滑り込むように突っ込んだ。両手の輝く刃がひらめき、重たい手応えと共に、イレイザーの肌に細かな焼け跡が刻まれた。
 獣じみた叫びを上げるイレイザーが身をくねらせる。熱い物を触ってしまって手を引っ込めるような動作だ。
「効いているのか……!?」
「怒らせたことの方が重要だ。これでまた時間が稼げるぞ!」
 体勢を立て直した三郎に、ドラニオが答える。隊は一転、後ろへ引いてイレイザーの意識を引きつけた。
「映像の記録、完了であります!」
 その後方。戦いをじっと見つめていたシュピンネ・フジワラ(しゅぴんね・ふじわら)が報告の口調で言った。
「それでは、この情報を持ち帰って報告しますぅ!」
 イルゼ・フジワラ(いるぜ・ふじわら)が待機させていた小型飛空挺に乗り込んで叫ぶ。連隊のメンバーが、指を立てて応じた。
「現状ではもって10分……救助隊の進入までには十分ですけど、イレイザーの相手をし続けるには応援が必要ですぅ」
 分析を続けながら、イルゼはシュピンネが乗り込むのを確かめて飛空挺を出発させる。
「とにかく、救助チームの進行は成功であります」
「作戦を次のステップに進めるよう、通達するんです!」
 背後では、まだイレイザーとの戦いが続いている。足止めの目的は達せられていると言えるだろう。
 だが果たして、いつまで保つだろうか?