空京

校長室

創世の絆 第一回

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創世の絆 第一回

リアクション


激戦・2

「懇親会の方がよかったなあ……」
 ぽつり、と漏らすのは、佐久間 迅(さくま・じん)
「我はなれ合いなどには興味はない」
 柊 弔歌(ひいらぎ・ちょうか)が答える。大きくため息を吐く迅とともに、周囲の探索に当たっているのだ。
「ちょ、ちょっとイズミさん、足下がおぼつかない感じなんだけど……」
「だぁいじょうぶじゃ、これぐらい、酔ってないも同じ」
「酔ってるんじゃないですか!」
 ……と、漫才を繰り広げているのが薦野 廻(こもの・めぐる)小野 イズミ(おの・いずみ)
「もうちょっと、緊張感を持てないか……?」
 と、唸る水那月 星(みなづき・せい)を、水那月 星使(みなづき・せいし)がなだめている。
「まあまあ。探索と言ったって、出口を探すだけですし……」
 と、彼らが進む先。がらりとがれきを崩して、何匹かの生物が歩いてきた。
 いや、それを歩いていると言ってもいいものか……何せ、その生物は頭を下に、尾を上にして、異様に発達した鼻で体を支えていたのだ。
「うわあ! 造形が気持ち悪い!」
 反射的に、迅が剣を抜いた。リスのようなネズミのような(ただし逆さまだ)生物が尾を膨らませ、甲高く鳴いた。
 パラミタでごく少数見られる鼻行類に似ているが、これほどの数が群生しているのが見られるのは、ニルヴァーナという場所だからだろうか?
「た、たぶんここの生物ですよ。あまり刺激しない方が……」
「これが生息してるとすれば、ニルヴァーナというのはずいぶん趣味の悪い場所だな……」
 星使の言葉にも、迅が引っ込む様子はない。
 やがて、その生物がバネの人形のように鼻をたわませ、飛びかかってきた!
「うわ、うわ!」
 意表を突く動きに加えて、前足と、長い尻尾がぶんぶんと飛びかかってくるのだ。これは戦いにくい。
「構うか! 突撃だヒャッハー!」
 叫びを上げて突っ込む弔歌。槍で突くが、強い弾性を持つ鼻がその勢いを殺している。
「うむ……まずは、ここは切り抜けねばな」
 ぎらり、とイズミの目の色が変わった。大ぶりの槍を抜くと、するどい突きを繰り返す。
「こうなったら、仕方ない!」
 開き直った廻が歌を口にする。リズムに合わせて、新入生らの力が増していく。
「イーヤッハー!」
「物の怪め、退散せい!」
 弔歌とイズミの槍が逃げ場をなくすように大きな鼻の生物を追い詰める。
「ったく、仕方ねえな! 合わせろ!」
「おお!」
 星と迅のそれぞれの刃が、ハサミめいて生物たちを狙う。筋繊維の発達した鼻ではなく、胴を狙っての攻撃だ。
 悲鳴に近い鳴き声を上げる生物らが、星使の矢に追われるようにして、ばらばらに逃げ出していった。
「ふうっ……危ないところでしたね」
 額の汗をぬぐう星使。
「どんな進化をしたらあんな風になる必要があるんでしょうか……」
 いかにも不思議そうに首をかしげる廻。
 と、その時。ずーん、ずーん、と大きな足音が通路に響いてきた。
「……まさか」
 と、誰もが呟いた。
 そのまさかだった。先ほどの生物よりもかなり巨大なものが、六本の鼻で床や壁を踏みしめ、近づいてきていた。その鼻一本ずつでも、どうやら人間と同じくらいの重さがありそうだ。
「ちょ、ええ!?」
 びゅん! と重たげな軌道を描いて象のように鼻が迫る。どか、と新入生たちがまとめて突き飛ばされた。
「……これはもしかして、肉食でしょうか」
 ぽつりと、星使。そう言われてみれば、逃げ場がない方に追い詰められている気がする。六本の鼻が床や壁に広がって、格子のように逃げ場をふさいでいるのだ。
「……おりゃああっ!」
 と、気合いの声が響いた。続いて、どん! と重たい衝撃。
 ギエエエエ、というような叫びを上げて、大型の生物が鼻をのたうち回らせる。
「無事か!?」
 生物の腹を思い切り殴りつけたヤジロ アイリ(やじろ・あいり)である。
「な、なんとか……」
 と、廻は答えるが、殴りつけられた衝撃で足下がふらついている。
「これをなんとかしなければならないようですね」
 見たこともない生物に対して困ったようにセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が言う。
「おい、早くなんとかしろ。私は戦いなんてごめんだぞ」
 アイリらと共に救助にやってきたユルク・ベルンシュタイン(ゆるく・べるんしゅたいん)が告げる。
「ったく……それじゃ、さっさとやるとしますか。挟み撃ちだ、こいつの構造上、前後から同時にやれば対処しにくいはずだ」
 と、アイロス・ツェロナー(あいろす・つぇろなー)。なるほど確かに、体を支えるのに六本の鼻の半分以上を使っているのだから、同時に攻撃を仕掛ければ目がありそうだ。
「……よし、行くぞ!」
 迅と星、二人が突っ込む。横薙ぎに鼻が振り回され、二人の剣がそれを受け止めた。
「まだまだ!」
 イズミと弔歌の槍がさらに迫る。生物の二本目の鼻が、ガードのように振り回された。
「よし、行くぜっ!」
 もう体を守る鼻はない。勢いよく突っ込んだアイリの拳が、ドスっ、と重たい音を立てて生物の腹に突き刺さった。
「手間かけさせやがって……!」
 ぎり、とアイロスが力を込め、緩んだ鼻を持ち上げる。体勢を崩して、生物がひっくり返った。
「ほら、こっちに来い! ケガは治してやるから、ちょっとくらい我慢しろ!」
 と、ユルク。新入生たちは顔を見合わせた後、ひっくり返った生物の上を踏み越えて、その場から逃げ出したのだった。


「そこをどけっ! 俺はギフトを手に入れるんだ!」
 ……と、叫んでいるのはアルフレッド・ファネス(あるふれっど・ふぁねす)。目前にいるのは、首をかしげているように不安定な軟体オオカミだ。
「きゅー!」
 一緒になって威嚇の(ような)声を上げているのはファラーシャ・ウェールズ(ふぁらーしゃ・うぇーるず)。二人の威嚇にも、オオカミたちはひるんだ様子がない。
 吠え声を上げてオオカミが飛びかかる!
「ああっ、危ない! 助けますわ! ええ、助けますとも!」
 ……と、退紅 海松(あらぞめ・みる)が抜き打ちに拳銃を放つ。狙いは精密とは言えないが、大きな音がオオカミをひるませた。
「……気をつけて。後ろに」
 ……と、二人に囁きながら飛び出したフェブルウス・アウグストゥス(ふぇぶるうす・あうぐすとぅす)の刃がひらめく。
「え? ……と、とにかく今は戦うぞ!」
「きゅー!」
 アルフレッドの弓とファラーシャの吐く火がオオカミたちに悲鳴を上げさせる。もう別の場所で痛い目を見てきたところなのだろう。これ以上いじめられるのは勘弁、とばかりに獣たちが逃げ出していく。
「ふうっ……」
「ああっ、死地を共にくぐり抜けるなんて! これは運命!? それとも神様が私にくださったご褒美!?」
 がばっ!
 突然、海松がアルフレッドに抱きついた。
「ぎゃあっ!?」
「ああ、なんてかわいいのかしら! こんなところで不安ですわよね、もうお姉さんが一緒だから大丈夫ですわ」
「……だから言ったのに」
 あきれてため息を吐くフェブルウス。ぞぞぞぞと総毛立たせるアルフレッドが、海松を引き離そうとしている。
「おいやめろ! 子供あつかいするな! 俺は15歳なんだぞー!」
 残念ながらとてもそうは見えない主張を叫ぶアルフレッド。だが海松に迷いはない。
「構いませんわっ!」
「こっちが構うって言ってるんだよ!」
 押したおさんばかりの海松を全力で押し返すアルフレッド。遺跡の片隅で不思議な押し相撲が展開されている。
「……無事ですか? もう安心……って……」
 他の上級生と同じく、新入生を助けに来たアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が彼らに声をかけるが、押し合いへし合いの最中でまるで耳に入っている様子がない。
「おいおまえら、せっかく助けに来てやったんだぎゃら、それらしくするぎゃ!」
 親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)が叫ぶ。その瞬間、はっと海松の動きが止まった。
「わんぱく系……アリですわっ!」
 ……と、片手にアルフレッドを抱いたまま、そちらにも飛びつこうとする。
「な、なんだぎゃ、この女!?」
 狙われる側になると、まずは身をかわすのが人情。その場でぐるぐると回るような追いかけっこがはじまった。
「なるほど……元気そうで何よりですね」
「そんなこと言ってないで止めてくれよ!」
 逃れようとしながらアルフレッドが叫ぶ。アルテッツァはにっこりと笑った。
「避難経路の確保がはじまっています。こちらへ」
「いやん、見れば見るほどプリティですわ!」
「止めろぎゃー!」
 ……というわけで、救助活動も順調に進んでいる。