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リアクション
地下遺跡のギフト・2
タイムリミットは、マビノギオンの予想よりもさらに短かった。
「俺は、早く出たいんだけど……」
「それより、お宝探しでしょ!」
だというのに、リリー・ホネット(りりー・ほねっと)に引っ張ってこられて、夏目 彰人(なつめ・あきひと)はがっくりした様子で歩き回っていた。
輝昭たちが発見した下層部にも軟体オオカミや鼻行生物が生息していたようだが、あらかたを郁乃らが追い払っている。
「思うんだけど……」
「適当に探しても、見つからないんじゃない?」
探索隊を組んでいる木下 ねここ(きのした・ねここ)と木下 アリス(きのした・ありす)が首をかしげた。
「では、やり方を教えてやろう」
ふ、と、暗がりから囁く声がした。いつからそこにいたのか、彼らより数歩後ろに立ったサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が彼らに告げたのだ。
「うわっ……」
「静かに。ギフトとやらは生物のように振る舞うらしいですから、騒ぐと逃げられるかも知れません」
ヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が、低く押し殺したように言う。こくこくと頷く彰人。
「遺跡ということは、昔は使われていた、ということだ。この遺跡の機能はほぼ停止しているようだが、わずかに生きている場所がある」
「そういえば……この階層に来てから、土が多くなりました。時々、植物が生えてます」
「栽培に使われていたのかもしれないな」
サルヴァトーレに言われて、はたと気づいたように彰人とリリーが頷く。
「枯れた土に生えるわずかな食料を糧にこの生態系は守られてるってわけ? 危ういバランスだね」
ねここが肩をすくめる。
「ここの生物のことはいい。重要なのは、ギフトのことだ。ここにあるとして、そういった生物からは距離を取っているはずだ」
……という、サルヴァトーレの足取りは、確かに植物や土が少ない方向へ向いている。
「あっ!」
と、声を上げたねここが叫びを上げた。走り出す前方に、小さなものが動いている。
「もしかして……!」
目を輝かせたリリーが、ねここと同様、動くものを追いかけ回す……ほどなく、二人に飛びつかれて、逃げ回っていたものが観念したように動きを止めた。
「ほう……」
と、サルヴァトーレが声を漏らす。そこにいたのは……あったのは、ペンギンのようなシルエットをしたものだ。機晶技術の輝きを宿しており、どうやら……
「ギフト、か?」
こんなにあっさり見つかっていいのか、とばかりに瞬きする彰人。
「俺たちがここにたどり着くまでに何人もがこの遺跡じゅうを探し回ったのです、簡単に見つかった訳じゃないですよ」
ぽん、とその肩を叩くヴィト。
「って、もう時間がないですよ! 早く戻りましょう!」
目当てのギフトを胸に抱きかかえて、叫ぶリリー(そのギフトは、捕まえられた途端におとなしくなった)。
「よし。それさえ手に入れてしまえば、あとは少しでも早く脱出するだけだな」
ようやく帰れる、とばかりに息を吐く彰人。
だが、そう簡単にはいかないのだった。
「……それをいただくぜ」
と、下層と上層を繋ぐ縦穴のまえで待ち伏せた夜皓・秋本(よしろ・あきもと)が、戻って来たばかりのリリーが抱いたギフトを、強引に奪おうとしたのだ。その傍らには穂高 昌枝(ほたか・まさえ)が控えて、ギフトを入れるための袋を準備している。
「まあ。そういうのは、あまりスマートなやり方とは言えませんね?」
……と、彼の動向に異様なものを感じて張っていたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、その手を差し止めた。一見、添えているだけのように見えるが、力を込めればすぐに極められる、という気配がにじんでいる。
「……冗談だよ、警戒しているかどうか、確かめてやろうと思って」
「そう、そうだもん」
と、夜皓と昌枝が言い、そうっと手を引いた。
「そろそろ刻限です。早く、脱出してくださいね?」
フレンディスも、もちろん救助のためにここまで来たのだ。彼らの身の安全も守らなければならない。
強奪が無理だと悟った夜皓は、探索隊とともに脱出路を走っていった。
「……と、いうことだ、分かったか?」
その背中を見送ってから、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が呟いた。
「分かっていますよ。あなたがあまりにも周りを警戒していらっしゃるから、出損ねていただけです」
という返事が、物陰から返ってきた。八百万 病(やおよろず・やまい)だ。
「わたくしたちの……病の邪魔をなさるおつもりでしたら……」
ロシェ・ダークロウ(ろしぇ・だーくろう)が目を細める。その手に、赤い炎が揺らめいた。
「……ロシェ。やめておきましょう。ここは、一緒に脱出した方がよさそうです」
と、病が囁く。
「んンっ。病がそう仰るなら……」
大きなため息を漏らして、ロシェが手を引いた。
「それでは。避難場所まで向かうとしましょうか?」
にっこりと笑って、フレンディスがそう言った。