空京

校長室

創世の絆 第一回

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創世の絆 第一回

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第1章 ニルヴァーナに学校を作ろう 〜1日目〜 

「学校を建てる場所は決まっているのか?」
訊いたセルマ・アリス(せるま・ありす)も、少しは戸惑ったり迷ったりするのだろうと、そう思っていたのだが―――
「ええ、もう決まってるわ」
 ラクシュミこと空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)は瞬時に応えて指を差した。
 そこはニルヴァーナへの回廊の出口から直線距離にして1kmも離れていない一帯。校舎を建てること、また襲撃を受ける可能性などを考えれば悪くない場所に思える。
 こうもはっきりと場所が決まっているのならば、作業はすぐにでも開始できる。数名の契約者の他に、香取 翔子(かとり・しょうこ)の部下である30名の教導団員たちが待機していた。号令一つで「整地作業」を開始する事だろう。
「分かった、始めよう。良いだろ?」
「はい。お願いします」
 ラクシュミは笑顔で皆に号令をかけた。
 翔子の指示で教導団員たちが一斉に動き出す。セルマも『ゴールデンアクス』を手に整地作業に取りかかったが、パートナーのミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)だけは、
「はい、ラクシュミちゃん」
「え? チョコ?」
「うん、あげる」
 『パラソルチョコ』を2個、彼女の手に乗せて握らせた。
「休憩する時にでも食べて」
「ありがとう」
「無理しちゃ駄目だからね! ラクシュミちゃんを手伝ってくれる人はいっぱい居るんだから」
「うん。ありがとう」
 笑顔を見せて、確認してから。ミリィセルマの元へと駆けていった。
ラクシュミおねえちゃんの為なら、えーんやこーらっ♪」
 歌いながらに岩を殴り壊しているのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)。まるで町を壊す大怪獣のように軽快に、豪快に岩を粉砕している。
「ニルヴァーナ校ー、ラクシュミおねえちゃんが校長せんせー、これからみんなでつくるですー♪」
 身につけているのは『レゾナント・アームズ』、着装者の声と精神状態に共鳴して力を発揮する武具だ。彼女が歌を歌い続けているのはそのためである。ただ単に歌うのが好き、というのもあるのだが。
「はいはーい♪ どーん! ですー♪」
 何とも軽快痛快に岩を砕いてゆくヴァーナーだったが、キョロキョロと歩み寄ってくるラクシュミの姿を見つけた途端に、
「あっ!! ラクシュミおねえちゃーん♪」
 と目を輝かせて駆けだした。
「あっ、ちょっと!!」
 ヴァーナーラクシュミに飛びつく直前に、パートナーのセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)が手を取って止めた。
「ダメですよ、いま抱きついては。『レゾナント・アームズ』を着ているんですから」
「えぇー、でもでもー」
 対イコン性能を誇る鎧を装着したまま抱きついたのでは、ラクシュミの体は粉々になってしまう。
「私がしてあげます」
セツカちゃん?」
 背後から、やさしく腰に腕を回して。セツカヴァーナーに抱きついた。
「ぎゅっ」
「えへへ……えへへへへへ〜」
 普段は子供のようにひっつくのが好きなヴァーナーだが、この時ばかりはセツカの腕の中で、しばらくと無防備な笑みを浮かべていた。
「ん〜いいね、いいね〜」
 レンズを覗きながらにアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)は呟いた。ヴァーナーの安らぎの表情も、教導団員っちを指揮する翔子の凛々しい顔も、被写体として素晴らしい。『カメラ』を持つ手にも自然と力が入ってゆく。
 そんなアーミアとは対照的に、
「んーーーーー、楽しそうだなぁ」
 パートナーのミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は面倒だと言わんばかりに嘆息を吐いた。アーミアのすぐ背後についてはいるが、どうにも気が乗らなかった。
「まぁ、とりあえず撮っておけば……どうにでもなるか!」
 撮った写真は「学校紹介のパンフレット」等に使えれば、と考えているらしい。つまり求められているのはジャーナリズムに則った写真であって、必ずしも感動を呼ぶ写真である必要はないわけだ。ありのままの様子を写真に収めればいい、そう、だからこうやって何気なく『カメラ』を向けて気まぐれにシャッターを切ればそれで―――

 ドォオオオオン!!

「なっ何っ?!!」
 カシャリ。叫ぶが先か、シャッターが先か、はたまた同時か。突如起きた爆音とその瞬間をミネッティの『カメラ』がとらえた。もちろん、ただの偶然だ。
 爆発はコンクリート モモ(こんくりーと・もも)が放った『機晶爆弾』だった。
「あはははは〜、やっぱり発破は良いわ〜、ロマンが爆発♪ みたいな?」
「爆発したのはただの爆弾だにゃ、意外性も面白味もないネ」
 モモのパートナーで「白猫」ゆる族のハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)が冷たく言ったが、
「なになに〜? 何で一気にテンション下がってんの〜? さっきまでノリノリだったのに〜、シ〜ラ〜ケ〜る〜、キャハハハハ」
 相変わらずにモモはテンション高く『コンクリートブレーカ(二重螺旋ドリル)』で巨岩に穴を開けまくっている。人型に変形させた『可変型機晶バイク』と二人並んで破砕する様は、まるでステージ上で狂い弾くギタリストのよう…………見方によっては…………そう見えなくも………………いや、言い過ぎた、そんな大層なものじゃない。ギルティは少し反省した。
 実は少し前までギルティのテンションは高かった。月に来てから上がりっぱなしの垂れ流し状態だったのだが、今はすっかり「LOW」だ。
 急激に落ちたのには理由がある。それはモモの『機晶爆弾』が数名の教導団員を巻き込んだから、それを目の当たりにしたからであった。
 幸いにも契約者の中に被害者は居ない。岩を発破する為とはいえ同志たちを巻き込んでしまったという現実を見れば、決して「幸い」なことなど無いのだが。強いて言うならば死者が出なかった事だろうか。
「みなさん……落ち着いて」
「外傷を負った者は名乗り出ろ! 私たちが受け入れる!」
 簡易診療所を運営しているクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が名乗りを上げた。
 重傷者はすぐに運びだし、軽傷者はその場で治療してゆく。教導団の衛生科所属というだけでなく、様々な場所で救護活動を行ってきた経験が的確な判断と処置を支えていた。
 完全に不慮で突発的な場面だというのに、二人は決して慌てる素振りを見せない。むしろ遠目に見ていたウェルテクス・ウィンドリィ(うぇるてくす・うぃんどりぃ)の方が「大変な事になってるよ」と動揺していた。
「大丈夫、直接巻き込まれた人は居なかったでしょ? みんな飛び散った岩が当たっただけなんだから」
 パートナーを落ち着けようと朝野 未沙(あさの・みさ)は諭すような口調で言うと、
「それよりもさ、見てよ。いい感じに平らになってる」
「ん……? あ、確かに」
「でしょう? プレハブを建てるのにピッタリ」
 未沙はタイミング良く駆け寄ってきたラクシュミを捕まえると、まずは「爆発による死者は居ないこと」そして「負傷者はクエスティーナらが治療にあたっていること」などを説明した。その後に「プレハブを建てて良いか」と加えて彼女に問いた。
「プレハブ……ですか」
「そう、プレハブ。ニルヴァーナの捜索をするにしても、校舎を建てるにしても、本校舎が完成するまでは拠点となる施設は必要になるでしょ? 協力してくれる人も増えてるみたいだし」
「そうだね、確かに必要かも。プレハブ作り、お願いしても良い?」
「もちろん! アサノファクトリー」にお任せアレ!」
 プレハブの資材と重機が届くまでは本格的な仕事はできない。何が必要になるかをラクシュミに伝えてから、未沙は現場の下見と建設見積もりを早速に開始した。
「そういえば」
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ラクシュミに問う。
「資材や重機を手配するのもそうですが、校舎を建てるのに必要な資金はどこから出ているのです? 当然出資者はいるのですよね?」
「もちろん。パラミタで協力している国が「みんなで出す」って言ってくれてるの」
「みんなで……? 「共同出資」という事ですか?」
「そう、共同出資」
 未開の地に新たに学校を作るとなれば、各国各学校の思惑も絡んでくると思っていたのだが。今のところ一律、同じだけ出資して互いに牽制しあっている、と言った所なのだろうか。
「ねーねー、じゃあさ、生徒はどーするのー?」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が手をあげて訊いた。
「どーやって募集するの? やっぱりパラミタから希望者を募るって形なのかな?」
「そうだね、たくさんの人に来て貰いたいから…………試験は無し、にするかな」
「入試?!! 地球の学校みたいだねー」
「あ、ううん。だから、入試は無し。私が受かれないかもしれないし……」
たいむちゃんは校長先生なんだから「テストする側」でしょう?」
「あ、そうか、そうだよね」
 恥ずかしげにラクシュミが笑んで、顔を見合わせてミネシアも笑った。「でも、出来れば試験は無しの方向で」とミネシアが呟いた所で二人は「アハハハハ」と声に出して笑いあった。
 この直後だっただろうか、
「学校を作るとあらば、必要なのはやはり秩序。「法律・政策研究科」を創設するのはどうだろうか。もちろん「都市計画科」や「探索計画科」といったものも必要にはなるだろうが」
 とアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が提案すると、
「探索を目的とするなら「ハンターオフィス」を設立するべきだ。危険生物の討伐と情報収集を行う機関は必要だろう」
 と十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が追論した。
「機関として独立させるという案は興味深い。しかし、それなら尚更「法」や「秩序」さらには第三者による監査機関も必要になるだろうな」
「いや、まあ別に完全に独立させなくても良いんだ。専門的にというか、専念して活動する組織であればそれでいい。授業というスタイルでは、とても対応できないだろう」
ハンターオフィスは未開の地の探索を目的とした機関なの」
 十文字に同意する雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)がショートカット、直接ラクシュミに直訴した。
「討伐や探索には総合的な力が必要よ。思考力、応用力、協調性、社会性……それらを学部学科にとらわれることなく成長させる機会を示すことができる、それが「ハンターオフィス」なの」
「あ……あの、その」
「学校を作るなら「小学校」も必要じゃねぇか?」
 飛鳥 菊(あすか・きく)も提案する。
「学部とかって言い方にすると「初等部」って感じか? ……いや、なんか違うか」
 意図する所は「小学校を併設する」という事なのだろうが、学部や学科の話が出ている中に飛び込んだが為の自滅か、言い回しで混乱してしまっていた。
「とにかく! 子どもの底力もひらめきも侮れないっつーことだ。危険もあるかもしれないが、最近のガキは強ぇからな、何とかなるだろ」
「それよりもまずは学校と都市の整備が先であろう。治安の乱れは心をも乱すからな」
ハンターオフィスは当然、学校も都市も守るぜ。その為の組織だからな。一刻も早く設立するべきだ、ラクシュミもそう思うだろ?」
「あ、あのね……」
「いや、まずは法の整備が必要だ、「法律・政策研究科」こそ早急に設立する必要がある」
「子どもの居ない土地に未来は無ぇよ。まじめに「初等部」を作ることを考えてくれよ、なぁ」
 口々に詰め寄られた校長先生様はと言えば、
「……ええっと……ちょっと、待ってね」
 完全に回線過多、頭には入っているのだろうが、その処理はかなり大変そうだ。
「ちょっと待てよ、てめぇら」
 見かねた獅子導 龍牙(ししどう・りゅうが)が割って入る。
「落ち着けって! こんないきなり来られたらラクシュミだって判断できるわけ無ぇだろ」
 ゼロから学校が作られるとあって、施設や設備、また学科学部については多くの契約者たちが案を秘め、またこの地に持ち寄っていることだろう。それらをまとめる事はもちろん、聞くだけでも大変な作業だ。バラバラに来られたのでは、とても処理なんて出来ない。
「だからよ、学科とかの提案は「会議」みてぇので聞いた方が良くねぇか?」
「会議、ですか」
「いっぺんにやった方が良いだろ。数が多いなら何回かに分けたって良い、日を分けたって構わない」
「なるほど。良いですね、「会議」。ぜひそうしましょう!」
 龍牙の提案が通る形で、学科学部と建築施設の案を発表する場が設けられる事となった。