空京

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創世の絆 第一回

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第2章 ニルヴァーナに学校を作ろう 〜2日目〜 

 校舎建設の二日目。この日は朝から慌ただしかった。パラミタからの補給物資がニルヴァーナに届いたのである。
「それはこっちに、とりあえず置いて下さい。はい、確認しますので。はい」
 回廊の出口付近には次々と、それこそ山のように積まれてゆく。食料はもちろん、建設資材や工具類、また武具や衣料品など、届いた品は実に多種多様だ。それらを分類し、また配分するだけで大変なのだが、まずは納品確認という厄介な作業を行わなければならない。
 山になった資材を前に、
「…………これを全部、チェックするの?」
 と麻上 翼(まがみ・つばさ)は唖然とした。しかし、パートナーの月島 悠(つきしま・ゆう)は何でもないという風に、
「そうだ」
 と言って応えた。「物資の管理」をすると決めた時から、これほどの量になるであろう事は想定していた、それを見越してのシュミレーションもしているのだ。こんな段階で取り乱すなど有り得ないし、有ってはならない。
月島さん」
 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)のパートナー、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)が駆け寄りて来る。
「重機が到着するわ。交通整理、開始するわよ」
「えぇ、お願いします」
月島殿」
 続けてオットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)が声をかける。彼は月島と同じく資材や工具の管理を行っている。
「こちらの建築資材と器具は確認を終えました。現場に運んでもよろしいですよね」
「あぁ、構わない。後でリストを合わせるとしよう」
「かしこまりました。ヘンリッタ、お願いします」
「了解ですわ」
 軽トラックに乗り込むと、ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)は慣れた手つきで発進させた。荷台に積んだ資材は校舎建設予定地へと運ばれてゆく。
「……なんか、大人気なのね」
 次々に声をかけられる月島の様が、にはどうにも不思議に見えた。
「別に人気という訳じゃない。香取大尉が建設の現場に向かわれてるから、私に報告しているだけだ。私が指示を出している訳じゃない、ただの現場報告だよ」
「ふぅん。部下が増えたのかと思ったのに」
「そんなわけないだろ」
 香取 翔子(かとり・しょうこ)を含め、彼女の補佐役に白 玉兎(はく・ぎょくと)、現場の安全確認と対策にヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)、また作業員たちの健康管理にシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)などが当たっている。30名の教導団員たちに指示を出し、進捗の管理を行っているはずだが、今回大量の物資が届いた事で現場での作業も大いに捗ることだろう。
 まもなく重機が到着した。
 回廊の出口付近で一度速度を落とした重機たちも、飛鳥の指示を受けて再び速度を上げてゆく。彼らが向かうは校舎建設予定地である。
 一台のトレーラーが月島の前で止まった。運転席から顔を出した葉月 可憐(はづき・かれん)が「お疲れさまです」と挨拶をする。
「これこれー、これが重機のリストだよー」
 月島が応えるより前に、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が身を乗り出してリストを差し出した。
「ちょっとアリス……危ないですよ」
「えへへー、可憐あったかーい」
 抱きつくような形、だったのが今は完全に抱きついていた。間違いなく確信犯である。
「わ、私たちはこのまま現場に向かいます。重機の整備も行いたいですし」
 優しい笑顔を見せながら、しっかりアリスを引き剥がしていた。重機の整備にはアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)の2人も任につくと表明している。
 彼らに比べれば重機や車両に関する知識は乏しいものの、『イナンナの加護』や得意の歌でサポートが出来ればと考えていた。気休め程度の効果だとしても「校舎の完成に役立てるのなら」と可憐は精一杯フォローしてゆこうと心に決めていたのだ。
 重機を運転し、校舎建設予定地に入れば、そこには多くの教導団員たちが「整地」作業を行っていた。香取の部下に加えて、林田 樹(はやしだ・いつき)曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)らの部下も加わっているため、人数はそれなりに多い。重機も加わったため、作業は大いに捗ることだろう。
 まずは一体を更地に。隆起した岩などを粉砕し、いつでも工事が可能な状況にする事が求められている。時に休憩を挟んでの「整地」作業は、朝から晩まで続けられたのだった。




「これは……」
 手に取った「それ」を見つめてヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)は呟いた。
機晶石ですね」
 パートナーであるエリス・メリベート(えりす・めりべーと)が先に答えた。ケラーが地中から取り出した「それ」は正に「機晶石」だった。
「ニルヴァーナでも機晶石が採れていたのね」
「あぁ。しかも…………大量にな」
 校舎建設予定地から西に5kmの地点。発電施設の建設が可能かどうか、その是非を確かめるべく調査に出ていた2人だったが、その最中で思わぬ発見をしたようだ。
 他の地点よりも色が濃い、とでも言おうか。青みがかっているとも言える土を掘り返してみると、なんと「機晶石」が埋まっていたのである。
 ニルヴァーナでも機晶石が採れるとなれば―――
機晶石を使った発電の方が効率が良いかもな」
 実際にはこの周辺だけの現象かもしれない。しかしそれは今後の調査で明らかになるだろう。
 風力や地熱も決して不可能ではないだろうが、まずは「機晶石を動力源としてタービンを回して電力を作り出す」方法をメインにした方が、安定した大きな電力を供給することが出来ることだろう。
 2人の発見は、学校をはじめとする施設の建設速度を大幅に加速させるばかりか、ニルヴァーナ各地の探索にも大きく弾みをつける事になるかもしれない。