空京

校長室

創世の絆 第一回

リアクション公開中!

創世の絆 第一回

リアクション

「これで全て、ですね」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)ラクシュミに一つの資料を手渡した。同じ物をパートナーのフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)、そしてこれまで「会議」の司会を務めた獅子導 龍牙(ししどう・りゅうが)マリウス・リヴァレイ(まりうす・りばぁれい)月音 詩歌(つきね・しいか)にも手渡した。
 「会議」は無事終了、契約者たちが散ってゆく中、彼らだけが校長の元に残った。「会議」の内容をまとめ、確認しておく作業が残っているからだ。
 手渡された資料には、3日に及ぶ「会議」の中で提案された「学科」と「施設」の名称と概要が列挙されている。
「ありがとう、フリッカ。ここからは私がやるわ」
「はい、お願いします」
 笑顔で交代。フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が場を取り仕切る。
「これだけの案を全て了承することは現実的に考えて不可能でしょう? 最終判断はラクシュミさんがするにしても、その前に幾つか絞ろうと思うの」
 まずは提案された「学科」について。
「魔法に関する学科が複数提案されているわ。それから生物や環境に関するもの、ニルヴァーナの文化や歴史に関するものも趣旨が重なるものがあるわね。学部と学科に分けて考えた方が良いんじゃないかしら」
「そうね……」
 決定権はラクシュミにある。新校の校長先生様は、ん、と少し悩んでから、
「分かりました。 「魔法学科」と「魔術学科」は「魔法学部」に。「生物学科」「水産科」「農業科」「食料生産科」「環境科」は「環境生物学部」。「熾天使研究科」「考古学科」「マントラ学科」「干し首学科」「法律・政策研究科」は「文化研究学部」。「建築学科」と「機晶技術科」は「都市計画学部」。「冒険学科」「開拓学科」は一緒にして「情報学科」と合わせて「探索学部」。「飛空艇操船科」と「飛空艇造船科」は車輌学部」。「演劇科」と「音楽科」は「芸術学部」にしましょう」
「……ずいぶんとまとめたわね」
「大枠は数が少ない方が色々と便利だと思うの」
「確かに。それに、わかりやすくて良いと思うわ。それじゃあ次に提案された施設についてだけれど」
「すでにオッケーした物もあったよね。確か「温泉」と「農業地」だったかな?」
「そうね。まぁ、校舎の建設と平行して行えるものだから問題ないとは思うけど。校舎内に設置する「保健室」「理科室」「校長室」と「花壇」、それから「大きな講堂」と「食堂」は設計に入れて貰うとして、」
「そうだね、食堂は必要だよね」
「……あ、うん。他には「入星管理局」と「各種事務管理局」「天文台」「隔離研究施設」ってのもあるけど」
「それは保留にしておこうよ。「都市計画学部」ってのを作るかもしれないんだし、もし正式に決定したら学部の授業の中で扱うかもしれないでしょ?」
 この段階で決められること、それから決めたくても決められないこと。工事の状況や設計段階によって状況は変わってくる、故に保留という事も十分にありうるのだ。
 確かなことは「提案をしなければ採用もされない」ということ。新しい学校づくりに関する意見と提案は今後も募集してゆくとラクシュミ校長は考えている。
 ニルヴァーナに作る新しい学校は、みんなの力で作ってゆく学校なのだから。




 校舎建設予定地の東の一辺。
 農業地となりそうな土地を探していた志位 大地(しい・だいち)刀村 一(とうむら・かず)は、予定地の四方を回った後に、この場所に戻ってきた。隆起した岩が乱立し、同じように土地も荒れきっているが、他の土地に比べて土が柔らかいのが決め手だった。
「さぁ、早速始めるとしましょうか。準備は宜しいですか?」
 大地シーラ・カンス(しーら・かんす)に確認をとる。彼女はすでにパワーショベルに乗り込んでいる。トラクターでは掘り起こせなかったサイズの石や岩を取り除くのが仕事だ。
 ちなみにトラクターを操るはと言うと、
「いづれここに通う幼女とちみっこのためにー! やるぞ農地開拓!!」
 と今日も素敵に純粋だった。
「さぁって、安全運転第一にて、いざ! レッツ、トラクター!!」
「すみません! 待って下さい!!」
「うぉっと!! 何だ何だ?!!」
 両手を広げて五月葉 終夏(さつきば・おりが)が飛び出してきた。彼女も校舎建設予定地の近くに畑を作るべく候補地を探していたようで。この場所を農地にすること、そしてトラクターやショベルで耕してゆく事には賛成らしいのだが―――
「その前に調べさせてもらえないかな。夜果さん」
「おうよ」
 雨宿 夜果(あまやど・やはて)が『トレジャーセンス』で注意深く地表を探ってゆく。未開の地ゆえに、念のために調べたいのだそうだ。
「そういう事なら是非にやってくれぃ! その後からトラクターしていくからよ!」
「あぁ。よろしく頼むぜ」
「任せておけ」
 夜果は地表を調べながらに、目立った岩塊や瓦礫を撤去して歩んでいた。宣言通り、その後ろをトラクターがついてゆく。シーラのパワーショベルはその更に後方からだ。
「あなたも、頼みますよ」
 大地の声で勢いよく飛び出した『アンダーグラウンドドラゴン』は、あっと言う間に地中へと潜っていった。邪魔な岩や堅い岩などを掘り出す際の補助や深耕作業の補助をしてもらう予定だ。
「思ったよりもずっと早くに形になるかもしれませんね」
 終夏の声に、大地は実感を込めて「えぇ、そうですね」と応えた。
 リン・リーリン(りん・りーりん)が『妖精のチアリング』や『ねこぱんち』の準備をしているのが見える。多少に疲れが出たとしても、彼女の踊りと「にくきゅう」がすぐに癒してくれることだろう。作業効率は落ちない、ならば終夏の言うように予想以上に農地開拓は進むかもしれない。
 校舎建設予定地の端、東の一辺には、校舎よりも圧倒的に早くが形づくようである。




「というわけなのネ」
 ディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)が『デジカメ』片手に説明をして、最後に、
「で、どうするネ。大尉にも入ってもらうのかナ?」
 と問うと、
「もちろんよ!!」
 とヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が即答した。
「大尉、聞こえてましたか? 記念にみんなで集合写真を撮るそうですよ。大尉も一緒に入られますよね?」
 実に優しく訊ねたが、反応はない。それもそのはず、メルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)大尉は先の探索の際に水晶化した姿で発見されたまま、今も生きてはいるものの全身は水晶と化したままなのだ。いくら訊ねても呼びかけても、大尉が応えるはずは無い。それでも―――
「移動しますよ。腰に腕を回します」
 ヒルダメルヴィアに意識があるものとして接している。動かせないのは体だけ、瞳に映る光景は見えているし、心だって動いている。そう信じて彼女に接し、また世話をしているのだという。もちろん、警護も兼ねている。
「何か分かったでありますか?」
 パートナーの大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)に問う。シャウラはPC画面に目を向けたまま「いいや」と応えた。
「類似点が多いことは確かだ。だが、治療方法は分からない。症状が同じでない以上、同じ方法で解除できるとは思えない」
 パートナーであるユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)の助言で、過去に起きた水晶化事件のデータを取り寄せてみた。「水晶化の森事件」それから「パッフェルの水晶化事件」の資料は確かに教導団のサーバーに残っていた。しかし過去の水晶化の症例と大尉のものとは類似点こそ見つかれど、完全には一致しなかったのだ。
「過去の水晶化は解除方法があるのでありましょう? だったらその方法を試してみるべきであります!」
「いや、過去の水晶化、特にパッフェルの場合は力の源もその解除方法も起源は同じ、同質の物であるが故に解除できたに過ぎない。同じ手が通用するとは思えない」
 大尉の水晶化はこの地で起きたもの。それが人的なものであれ、大地や自然、また異生物が関係しているにしても、解除方法はこの地で見つけるより他にはないようだ。
「探索をする中で見つけるしか無いという事でありますか」
「そうだな。ラクシュミが何か思い出してくれれば楽なんだが、失われた記憶にヒントがあるとは限らんしな」
 カプセルの中の大尉は今も無機質な顔でニルヴァーナの空を見つめている。一刻も早く元に戻してあげたい、しかしその方法が一切に分からない。丈二シャウラもパートナーたちも、焦る気持ちをどうにか抑えながらに、大尉の警護と世話を続けるのだった。
「はいハーイ! みんな集まるネー!! 手を止めて集まるネー!! 記念写真を撮りまーすヨー!!」
 新校の歴史の一幕、大事な1ページとして、また本格的な建設が始まる前の大事な記録として。
 校舎の建設を行う者、物資の輸送を行う者、設計に提案に会議を行う者。学校づくりに携わる全ての者たちが、ここ校舎建設予定地のど真ん中に集まった。
「は〜い! それでは行きますよ〜!!」
 守護天使であるトゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)が上空からファインダーを覗き込む。
「はい、チーズっ♪」
 それはまだ始まったばかり。学校づくりはここから始まってゆくのである。