空京

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創世の絆 第一回

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創世の絆 第一回

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ニルヴァーナの地を探索する:page02


 水晶森―――クリスタルフォレストとも呼称されるこの場所は、木々だけではなく草花なども全てが水晶でできている幻想的な場所だ。時折、何かが割れるような音と、風の音がする以外はしんと静まり返っている。
「冒険、冒険〜。ぴきゅぴきゅう〜♪」
 その静けさを吹き飛ばすように、天禰 薫(あまね・かおる)の不思議な歌を歌う。
「楽しいのか?」
 少し呆れながら熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)が尋ねる。この森に足を踏み入れる少し前、リファニーが険しい顔をしながら強敵の事を口にしていたのだが、彼女には全然気にならないようだ。必要以上に緊張しても仕方ないのだが、少し能天気な様子に呆れと、どこか安心感を覚えた。
「うんっ、楽しいよ! 知らない世界を知っていくのって、楽しいねぇ」
 にこにこと微笑み、薫は言う。
「知らない事を知って、パラミタの崩壊とか、防ぐ術があるといいね」
「天禰……?」
「孝高や、又兵衛や、ピカや、孝明さん……友達たち……みんなと知り合えた世界を、我は失いたくない」
 キリッと表情を切り替えて、薫は言い、きゅ、と。孝高の手を握る。
「ねえねえ孝高」
「ん?」
「この世界にはまだまだ沢山、面白い生き物とかいたりするかな」
「ああ……見つけた奴もちらほらいるらしいぞ」
「ねえねえっ、ぴきゅうって鳴く生き物とかいるかな!」
 孝高の知る限り、ぴきゅうなんて鳴く生き物は、薫と、ピカぐらいしか確認できていない。ニルヴァーナに居ないとは断言できないが、居るとも思えなかった。いないだろう、とそう言いたい気持ちをぐっと堪えて、
「たぶん、居ないんじゃないですか、そんな奇怪な生き物」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は孝高の考えよそに、はっきりしっかり断言した。
「……居ないの?」
「さぁ? ああでも、居ないとは断言できませんねえ」
「だ、だよねぇ!」
「でも、そんな目立つ鳴き声をしてたら、他の生き物の餌にされてそうですねぇ」
「えぇ!?」
 何やってるんだろう、と緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は傍から見ながらエッツェルの行動を見ていた。可愛いものを見ると口説こうとする彼だが、そういう雰囲気ではない。暇なのだろうか。
「いきなりどうしたの?」
「いえいえ、ちょっと緊張でも解してあげようかと思いまして」
「緊張してるの?」
「私は別に、でもほら、あの人とか」
 エッツェルが指し示した数歩先には、カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)の後姿が見えた。ただ、緊張とは少し違う気がしないでもない。
「ああいうのも必要なんじゃない? 強敵とかいうのが居るんでしょ?」
「あんまりああされても息が詰まるじゃないですか。というわけで、緊張を解してきてあげてください」
「あたしが? なんで?」
「ほら、手本を見せてあげたしょう?」
 やっぱりエッツェルは暇だっただけかもしれない。ほらほら、早く早くとはやされ、渋々とカノンに声をかけてみた。
「なに?」
「えーと……こんにちわ?」
「こんにちわ……? どうしたの?」
「え、えっと。緊張してないかなって思って」
「ん? んー、そうじゃないんだけど。ああ、聞いてよ。レギオンったらさ、全然やる気が感じられないの」
「やる気が無いとは失敬だな。さっきから何かないかと探してる。何も見つかってないけどさ」
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)はそう反論した。
「そうじゃなくて、今回戦う気がまるで無いじゃん。強敵が出るって言われたのに」
「逃げろって言われただろ。それに、今回は嫌な予感がするんだよ。この森に入ってからずっと」
「なにそれ、殺気?」
「どうだか。けど、こっちに向いてるって感じもしないけどな。なんていうかさ、この森全体がちょっと変な感じだ。どう変なのかってのはわからないけどな。だからこうして、何か見つからないかって探してるんだが、ものの見事に水晶ばっかりだな」
「ふーん。変な感じね……恐ろしい何かがでてこないよう祈っとこう」
「何か言ったか?」
「ううん、何も。あ、ごめんね、せっかく話しかけてくれたのに」
 いいのいいのと答えて、輝夜はエッツェルの元にまで戻った。
「おやおや、何かありましたか? 随分と緊張しているようですが」
「別に、何でもないもん」
 何かあったらちゃんと逃げよう。そう、輝夜は心の中で誓うのだった。



「うわぁ、すっごい! ほんと全部水晶だよ!」
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は水晶の木に駆け寄っていく。手が回らないほど太い幹の木全てが水晶になっている。本物の木のように一本一本の木は幹の模様から葉のつき方が全て違う。
「ほんと、目が痛いぐらいですわ」
 それらの水晶は思い思いに光を反射している。トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)は目に手をかざしながら当たりを見回した。
「綺麗だなぁ、ほら、トリアこれなんて本物の木みたい」
「はいはい。そんなに慌てると転んじゃうわよ」
 はしゃぐユーリを微笑ましく思いながら、ユーリの指し示す水晶の木を見た。
 そこには、マッスルポーズを決めた上半身裸の男の姿が映し出されていた。
「うむっ! 今日も調子がいい!」
 金剛寺 重蔵(こんごうじ・じゅうぞう)は映し出された自分の体に、満面の笑みを浮かべた。
「よし、このまま下半身の筋肉も確かめるとするかのう」
「おい、馬鹿! 見ろ、あそこの二人完全にぽかーんとしてんのに、追い討ちかけんな!」
 ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)はとっさに重蔵を取り押さえた。
「なんじゃ、あそこの二人とは?」
「上手い事水晶の光が反射して、あそこに重蔵の姿が映ってんだ」
「なんと、辺りが水晶だらけというのも難儀なもんじゃのう。しかし、体の調子を確かめるのは大事じゃぞ」
「探検隊の備品に姿見が無かったのは仕方ないだろ。どこでどう反射して、重蔵の裸が映し出されてるかわからないんだから、上半身までだ。我慢してくれ」
「むぅ、そこまで言うのなら仕方ない。しかし、この筋肉美を見れた者は幸せじゃのう」
「……まあ、そう思ってくれたらいいんだけどな」
「では、土産を探しに行くか」
「土産ってなんだ」
「これだけ水晶があるのじゃ、一つ二つ持っていっても構わないじゃろ。今日これなかったあやつらの土産も無いとな。無論、土産話も手に入れなければのう」
「土産話か、そうだな。とびきりのを見つけて帰らないと怒られちまうな」
「夥しい光じゃったか? よおし、行くぞ」

「手がかりは?」
「うーん、高度をあげると雲に飲まれちゃうし、低いとキラキラしてて目が痛くて探しものには向かないかも」
 少し空を飛んでみたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)に素直に結果を伝えた。空から見ただけでは、水晶の木々が延々と続くばかりで収穫は無かった。夥しい光とやらは、次々と水晶の上を飛んでまわって、その発信源を特定するのは難しい。
「ところでさ、なんでそこにあった水晶の木が粉々になってるの?」
「それは……」
「ちょっと、目に悪いものが飛び込んできたから」
 説明し辛そうにするジュレールの変わって、不機嫌そうにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が答えた。
「目に悪いもの? 光が集まってきたとか」
 空から見た時に、カレンはいくつかの場所で光が集中している場所を見つけた。飛び散った光が、再び集まる場所があるようだ。
「そういうのとは違うわね」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は含みがあるように言う。突然水晶の木に裸の男の姿が映し出されて、驚いたセレンフィリティが攻撃を仕掛けた。というのを傍から見ていたのである。珍しく驚いた様子の彼女の姿は、ちょっぴり新鮮だった。
「この森のどこかに、あるのかな、ギフト」
「ニルヴァーナ人が残した技術の結晶……か。無事見つかればいいのだが」
「見つかるわよ。その為にこうして探してるんだもの」
「そうね。もしかしたらギフトを隠しているかもしれないし、ちゃんと注意しながら進みましょう」

「おお、母様! これは凄いぞ」
 夜薙 綾香(やなぎ・あやか)夜薙 焔(やなぎ・ほむら)に見せられたのは、水晶の葉っぱの上に乗っている水晶でできた蛙のような生き物だ。シルエットは蛙そのものだが、頭の中央部分に第三の目があり、また指の数も左右それぞれで違っている。
「これは、面白いものを見つけたな」
 綾香は素直に関心する。それは小さく、親指ぐらいの大きさしかないものだった。
「もしこれを誰かが掘ったり削ったりしてつくったのなら、相当器用だったのであろうな」
「そして、尋常ではない根気の持ち主でもあると」
 見渡す限り全て水晶で作られた森を、誰かが作ったのならその工事にはどれぐらい時間がかかるものだろうか。考えたくもない程の時間がかかるだろう。
「管理する人が居ないたって、これも相当酷いだしねぇ」
 ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が足元の水晶の破片を手に取ってみる。水晶の木々にも目を引かれるが、足元には粉々になった水晶の欠片で溢れている。
「もしもこれが誰かの造形物であるのなら、通路ぐらいあってもよいものじゃからのう」
 歩きにくいったらないと悪態をつきながら、伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)が言う。
 時折、破片の尖った部分がうえを向いている事がある。ちくっと刺さると痛い。
「ニルヴァーナ人の観光地、というのは可能性が低いであろうな」
「……蛙って確か、鶏肉みたいな食感なんだっけか」
 ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)がかがみこんで、小さな蛙の水晶を見る。これだけ見ると、水晶というよりはガラス細工のようだ。
「けど、ヤバイ毒持ってる蛙も結構いるんだろ。大丈夫なのか」
 と、セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が言う。
「毒見は俺があるから、大丈夫そうじゃなかったら皆には薦めないよ」
「だから、ヤバイ毒だったら……まぁ、いいさ。しかし、湖から離れるといっきに静かになったな」
 森の中なら、風が吹いたりしたら木々の葉や枝が擦れあう音が聞こえるものだが、ここでは時折何かが砕ける音が聞こえる。たぶん、水晶が地面に落ちて割れているのだろう。そういう場面を、ここで何度か見かけた。
「植物も動物も今のところは見当たらないな、母様」
「そうだな」
「けどここには、イレイザーなんて危険な生物もいるんでしょう。隠れたり潜んだりするのが、上手な生き物じゃないと生きていけないだけかもしれないからねぇ」
「ほんの少し触ったぐらいじゃ、物事を見極めることなどできんものじゃ。どうれ、もう少し色々見てまわって、それから考えてみるのがいいじゃろうて」
「考えるのもいいけど、俺としてはさっさと何か生き物を捕まえたいな。食料の補充もあるけど、未知の食材を見つけるのも楽しいだろ」
「それが、猛毒でないのを祈るばかりだな。できれば、ちょっとぐらいは手ごわい方が面白い」