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リアクション
地下遺跡のギフト・1
「これは……」
ごくり、と金 輝昭(きん・てるあき)ののどが大きく鳴った。
目の前にあるのは、ひときわ輝く大きなボタンである。彼の顔より少し低い、絶妙の位置にあるのだ。
「おい、金。何を考えて……」
「男なら押すに決まってるだろう?」
風魔 陣(かざま・じん)が制止しようとするのにも構わず、輝昭はそのボタンを強く、強く押し込んだ。
「どうしました?」
「おう、何か面白いものでも見付けたのか?」
……と、近づいてきた白雪 椿(しらゆき・つばき)とネオスフィア・ガーネット(ねおすふぃあ・がーねっと)に、はて、と輝昭が首をかしげた。
「いや、何か怒らないかと思ったん……だけど……」
と、言い切る前に、ごごご、と低い地響きのようなものが響いてきた。
「お、おい、これはもしかして……」
「よし。覚悟を決めよう!」
不安がる陣に、ちっとも役に立たない言葉を投げかけるネオスフィア。数秒も経たず、がこん! とその足下が開いた。
「やっぱりいいいいい……」
誰の者とも知れぬ叫びが、落とし穴へと吸い込まれていった。
「あいててて……」
「ここはどこだ?」
「なんじゃ、何が起きた?」
「おお、俺たちは暗黒に包まれている!」
「面倒が増えなきゃいいけど……」
「というか、増えてないか?」
「待ってください、今灯りを……」
かっ、と椿がランタンの光をともした。
「むっ……!」
と、いきなり光に照らされてまぶしげに目を細めたのは白椿 凛々子(しろつばき・りりこ)である。隣のシャルギル・アッシュロット(しゃるぎる・あっしゅろっと)と共に、別の場所から落下してきたらしい。
「……ここ、どこだ?」
「ええっと……」
椿が光量を上げる……それでも、端までは光が届かないほどに広い場所らしい。
「さあて、宝探しするか?」
「救助を待った方がよいのではないか?」
さすがに不安になってきたようで、シャルギルも凛々子も、共に多少声がうわずっている。
「……お、こりゃあ……」
輝昭が声を漏らした。広大な空間に、大きな何かが置かれているようだ、と分かったからだ。
「何だ、これ?」
一見して、それは大きな円盤の形をしているらしい。表面はサビやすすに覆われている。一部が崩れているらしく、全体が斜めに傾いていた。
「おそらく、飛空挺でしょう」
……と、声がかかった。彼らが落下してきた縦穴から降りてきたジア・アンゲネーム(じあ・あんげねーむ)だ。
「飛空挺? これが? でも、パラミタのものとは全然、形が違いますよ」
首をかしげた椿が疑問符を浮かべている。
「詳しいことは、もっと専門性の高い機工士や技術官僚を集めて分析しないと分かりませんけど……ふ、ふふふ。これは、私が第一発見者の一人ということになりますよね?」
「落ち着いてください。今は、彼らを助けるために来たんでしょう」
縦穴を慎重に、小型飛空挺で降りてきたダンケ・シェーン(だんけ・しぇーん)が、高く笑い声を上げようとするジアを押さえる。
「しかし、ここは調べる価値がありそうですな。その時間があるかどうか……」
二人についてきたジュバル・クォールズ(じゅばる・くぉーるず)が、周囲を見回していった。
「時間? どうした?」
と、聞き返す陣。
「とんでもない化け物がこの遺跡に来ているのだ。そやつが遺跡を崩してしまう前に、中にいる人間を全員脱出させなければならんのだ」
……と、自らも新入生でありながら、咲に情報を得たことで優位に立っているクライル・プレンティス(くらいる・ぷれんてぃす)が告げる。
「うーん……ギフトの価値は高いし、学術的な価値もありそうですが……」
ジアが腕を組んで唸る。調査か、救出か、どちらを優先すべきだろうか?
「ようし! それじゃあ、誰かヘクトル隊長の所に行って、イレイザーが突っ込んでくるまでどれぐらい時間を稼げそうか聞いてきて! その間だけ、ここを探索する許可をもらおう!」
びしっ! と、指を立てて、こちらは凛々子らが落ちてきた穴から救出に来た芦原 郁乃(あはら・いくの)が言った。
「一時間もないでしょうが、価値の高いものが見つかるかも知れません」
蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が郁乃の言葉に足して頷く。
「おう、良いことを言うじゃないか。小さい彼女の作戦でいこう」
採用、をなぜか決める輝昭。
「って、これでも先輩だよ! 見てなさい、もしモンスターが出てきたら、ばーんとすごいところを見せてあげるんだから!」
「……新入生だけじゃなく、在学生にも騙されやすそうなやつはいるみたいだな」
ぽつりと、ジュバルが呟いた。
そして、最後の探索のカウントダウンがはじまったのである。