|
|
リアクション
イレイザーとの戦い・4
「イレイザー! こっちを見なさい!」
ぱっとイレイザーの頭上に舞い上がった者が叫んだ。
金属質の翼に時代がかった服装。鋭く、それなのにどこかはかなげな姿……リファニー・ウィンポリア。
……ではなく、彼女に変装したローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)である。
「熾天使だ!」
と、叫んだのはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)。変装によってイレイザーの気を引く作戦である。
狙いどおり……といえるのかどうかは分からないが、イレイザーの目は怒りに満ちて顔の周りを飛び回る女に向けられる。
「まだまだ……見なさい!」
ローザマリア扮するリファニーが高速で飛び回る。その残像が浮かび上がり、さらに2体の残像を作り上げたのだ。
「……はあっ!」
その分身が、それぞれに触手に躍りかかった。無手のはずが、すさまじい切れ味で外皮を切り裂いていく。
痛みに咆吼をあげるイレイザーの触手が、それぞれにローザマリアに向けられた。
「気が散ってるみたいだな。隙だらけだ!」
と……別の方面から飛来したロケット弾が、イレイザーの横面へ打ち付けられた。衝撃で吐き出される冷気の照準が鈍る。その隙に、ローザマリアがぱっと身を翻してかわす。
「どうも、リファニーの姿に特別、関心があるって訳じゃなさそうだな」
「でも、注意を引きつけることはできてます」
ペガサスに乗った源 鉄心(みなもと・てっしん)に、同じ高さにまで飛び上がったティー・ティー(てぃー・てぃー)が答える。
「それじゃあ、時間稼ぎよ。脱出が済むまで、あんたに付き合ってやるわよ!」
3人の護衛を従えて、ローザマリアがさらに加速する。変装を解かないのは、意地という奴かも知れない。
分身に気を取られている隙にグロリアーナとティーが接近し、触手にダメージを加える寸法である。気をそらせば、鉄心からの援護射撃だ。
遺跡の一角。20メートルものイレイザーが暴れ回れるだけのスペースで、契約者たちはこの怪物を釘付けにしていた。
「なーっはっはっは! 新入生の安全は俺が確保する! お前ら、俺様に全力で感謝しろ!」
叫びながら、メルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)が勢いよく突っ込んでいく。大蛇のようにうねる触手が、べし、と迫るメルキアデスを払いのけた。
「のわあ!」
「あらあ。やっぱり闇雲につっこむだけじゃだめねえ」
その姿を眺めて、フレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)が呟いた。どうやら本人、一緒に突っ込むつもりはないらしい。
「もう、世話のかかる方ですわ!」
叫びながら、マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)が、メルキアデスを打った触手に向けて威嚇射撃を放つ。
「と、いっても、作戦があるのですか?」
その後ろに控えた近衛 美園(このえ・みその)が問いかける。ううん、と上を見上げるマルティナ。変装したままのローザマリアが触手を相手に立ち回っていた。
「……よし、まずは一本ずつ相手するのよ!」
「よおし、任せろ!」
ダメージから復活したメルキアデスが、その触手に向けて突っ込んでいく。丈夫だ。
「俺様強い! 強い強い強い強い超つよーい!」
自己暗示により力を増した突撃だ。どが! と巨大な質量を持つ触手に衝撃を与える。
「その作戦、乗った! 行くぞ、カナタ!」
別の触手の相手をしていた緋桜 ケイ(ひおう・けい)が身を翻した。攻撃を集中させる作戦である。
「そこのもの、下がっておれ!」
「強い強い強い……はっ!?」
メルキアデスが脅威を感じて身を引いた直後、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が放った電撃が触手を撃った。冷気を吐き出す開口部である。
「よおし……くらえ!」
表皮よりはいくらかもろいその場所へ向け、ケイが連打を浴びせる。踊るように両手を振るい、斬る、斬る、斬る。
「そうか! おいフレイア、ちょっとは働いてくれ!」
「もう、仕方ないわね。将来の私の逆ハーレムに加わる人を守ってるんだと思ってあげるわよ」
メルキアデスと並んで、フレイアが突撃を加える。突き上げられた触手が、痛みにくねって契約者たちをはじき飛ばそうとする。
「させないよー!」
カッ! と稲妻がひらめいた。メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)の放った魔術に続いて、彼女の持つギフト……ウルフアヴァターラがうなりを上げて触手に体当たり。興奮気味に、何度も飛びかかる。
「……これなら!」
マルティナの援護射撃もますます苛烈さを増していく。触手は、縮こまるように逃れようとする。
「もらいました!」
高く叫ぶのは、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)。その身にまとったギフトの鎧が震え、剣もまたイレイザーに引き寄せられるように、彼女を突き動かしているのだ。
「なんだかよく分かりませんが、この子たちはあなたを倒したがってるみたいです!」
装備したギフトの熱気が使い手にまで伝わってくるようだった。乗騎から飛び降りざまに放つ剣撃が、触手の表皮に抉り込まれる!
ドンッ!
音を立てて、剣が触手を断ち切り、床へ打ち付けられた。
「……やった!?」
驚きの声をあげるマルティナ。切り落とされた触手はびくびくとのたうち回るが、やがて力を失うようにだらりと垂れ下がった。
「皆さん、大丈夫ですか? にしても……すごい、今のが、ギフトの力?」
治療にまわる美園。その呼吸も、緊張と歓喜で弾んでいる。
「どうも、他の剣で斬りつけたときよりも感覚が軽いというか……ギフトはイレイザーに『効く』みたいですね」
と、ロザリンド。イレイザーの触手を切り払ったとは言え、身にまとうギフトの興奮は収まった様子がない。どうやら、この怪獣を敵視しているようにも思える。
「プラス、使い手の技量もあるだろうけどな……けど、これだけやってようやく一本か」
「一本ずつなら戦えるということじゃ」
周囲で他の触手を引きつけている契約者たちを見やり、ぼやくケイにカナタが渇を入れるように言う。
「……ようし、この調子でどんどん攻めるぜ!」
腕を振り上げて叫ぶメルキアデス。マルティナっや美園にとっては、隊長と言うことになっているのだった。
「他の人たちの働きにも、期待したいですわね……」
というのが、マルティナの本音だった。体力と気力の限界が、見え始めていたのだった。