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リアクション
イレイザーとの戦い・1
遺跡入り口付近……
地球の建築物よりかなり大きな作りの遺跡は、イコンに乗って活動することすらできそうな広さだ。
そして、新入生の捜索に当たろうとしていた者たちの前に現れたのは、想像を絶するモノだった。
「ちょ、ちょ、ちょっと……!」
強引に遺跡の中に入り込もうとしているモノ……イレイザーの姿に、蜂須賀 イヴェット(はちすか・いう゛ぇっと)は戦慄していた。
「これは……予想以上だね……」
マラク・アズラク(まらく・あずらく)も、一瞬、思考が止まりそうになっていることを自覚していた。
体高は10メートル、体長は20メートル近いだろう。パラミタにもいるドラゴンに近い姿をしているが、奇妙な触手が背中から何本も生え、それが遺跡の壁や柱をなぎ倒して、無理矢理入りこむスペースを作っているのだ。
「大きいって言うから象ぐらいだと思ってましたのに、これじゃ怪獣ですわ!」
びし、とイレイザーを挑発するように指を突きつけたままのポーズで硬直する白鳥 麗(しらとり・れい)。サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)の表情が険しさを増している。
「お嬢様、これは……」
「……イヴ、まずいんじゃないかな」
「いいえ、やってやりますわ!」
「もちろん、やるわよ!」
臆病風に吹かれても、ますます燃え上がるタチのふたりだった。
イレイザーの目が、自分を待ち構えるように武器を構える契約者たちを捉えた。本能か、敵対者が分かるのだろう。
「眠りなさい!」
イヴェットの瞳がまっすぐにイレイザーに向けられる。同じ人間相手ならむろん発動する催眠術だが……
「……っ、ダメ、大きすぎ!」
巨大な相手に、こちらもどう超能力を用いるかの予測ができない。
「仕方ない、イヴ!」
マラクが両手を掲げて、魔術を放つ。雷がイレイザーの表皮に触れるが、そのまま散らされる。イヴェットの弾丸も同様である。
「これならいかがですかしら!?」
その間に一気に距離を詰めた麗が大きく地を蹴って飛び上がる。投げ技決め技は通用しないと見てのドロップキックだ。だが……
ごっ。
巨大な岩山にでもぶつかったかのような感触。反動に体がしびれているうちに、イレイザーの触手の一本が麗を打ち払った。
「お嬢様!」
空中できりもみする麗に飛びつくアグラヴェイン。二人の体が、どん! と壁に打ち付けられた。
「……やっぱ、無茶だったかも……」
イヴェットが唸る。
イレイザーが怒りを感じたらしい。その口が大きく開かれ、人間の可聴域を超えた叫びが衝撃波となって放たれた。
周囲の床や壁ごと、契約者たちは吹き飛ばされた。
イレイザーは巨大な風車の回転を思わせる、ゆっくりだが力強い動きで遺跡の中へと進んでいく。
その歩みを止めることは、果てしない難事にすら思えた。
「あまり余裕が無いのでな……初手から全力で往くぞ!」
「桐悟さんに……力を!」
朝霞 奏(あさか・かなで)の援護を受けた杠 桐悟(ゆずりは・とうご)が光条兵器を掲げ、突っ込んでいく。
「後輩を助けるためだ……ほっとく訳にもいかないし、仕方ない!」
「これもう争いごとの次元超えちゃってる気がするけど……行かなきゃ後悔するような気がするし!」
桐悟に従うように、空乃 千里(からの・せんり)アメジスト・アリシア(あめじすと・ありしあ)のコンビが、それぞれの武器を構えて飛び出した。
だが……
怒り声にも似たイレイザーの唸りと共に、触手がうねる。触手と言っても、丸太よりも大きなそれが契約者たちを打ち付け、なぎ払う。
「ぐあっ……!」
振り下ろした剣も、イレイザーの触手にすらはじかれるのだ。その上、触手の先は鋭い牙が生えそろっている。一度食いつかれれば、重傷、いや致命傷を覚悟すべきだろう。
「くぅっ……!」
千里やアメジストも……そして桐悟も、実力不足を感じられずにはいられなかった。
「そんな……動きを止めてください!」
思わず叫びながら、双葉 みもり(ふたば・みもり)の援護射撃が飛ぶ。足下を狙って放たれた弾丸は命中こそするモノの、分厚い表皮に阻まれてまともなダメージを与えられない。
「……危ないっ!」
そのみもりに向けても、触手が突っ込んでくる。皇城 刃大郎(おうじょう・じんたろう)が飛び出して勢いを受けるが、ウェイトの差が圧倒的すぎる。壁際まで突き飛ばされ、二人ともががれきを巻き込みながら倒れた。
「……このっ!」
グラース・レグリューム(ぐらーす・れぐりゅーむ)が、その触手に向けて全体重をかけた斬撃を見舞うが、切りつけた腕の方がしびれそうな硬さだ。
「嘘、そんな……!」
「うわっ!」
叫びかけたスノー・エスペランサ(すのー・えすぺらんさ)もろとも、触手によってなぎ払われた。
「くそっ、リハビリの相手としちゃ、大物過ぎたか……」
「あまりしゃべらないでください、お二人も!」
傷を負った桐悟たちに駆け寄って、奏が治療にあたっている。
この状況で唯一救いと言えるのは、イレイザーが敵にとどめを刺すことを優先していないと言うことだろう。一度倒れた契約者には興味を示さず、遺跡の奥へ向かって進んでいる。
「……ここまでとは……」
うなる千里。彼も、全身の痛みでまともに動けない状態だ。
「こんな……私、少しでも足止めしようと思ったのに……全然……」
みもりの瞳に、大きな涙があふれている。苦痛ににじむ意識の中に、やるせなさだけが突き刺さったようだった。
「運が良かった……それとも、あの怪物が命まで奪うつもりがないのか……どちらにせよ、もう一度挑むことは危険だ。たぶん……次に挑みかかったら、待っているのは、死だ」
叱るでもなく、とがめるでもなく、刃大郎が告げる。みもりはただ、うなずきを返していた。
イレイザーの歩みは、まだ止まらない。
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