空京

校長室

創世の絆 第一回

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創世の絆 第一回

リアクション


ニルヴァーナの地を探索する:page10


「そうか……わかった、下がってくれ」
 長曽禰の疲れた声で、報告をしてくれた部下を退出させた。
 受け取った報告書に目を落とす。負傷者の一覧を出してもらったのだが、A4の紙で三枚もある。書かれているのは簡単な報告なのに、一体何人の負傷者が出てるのか。どうしてもすぐに目を通す気にはなれなかった。幸いにも、やるべき事は山のようにある。
「すまない、待たせた。提出したい資料があるんだったな」
「はい。インテグラルとの戦闘の映像です」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はインテグラルとの戦闘中、デジタルビデオカメラを用いて映像の撮影を行っていた。自分の身のためにできる限り距離を取っており、またある程度で見切りをつけて撤退したため、最初から最後まで全ての映像が取れているわけではないが、貴重な資料に違いない。
「少し映像を確認してもいいか?」
 優希はちらりと麗華・リンクス(れいか・りんくす)と目を合わせた。あまりいい表情ではないのは、映像の出来が悪いのではなく、映っているものの問題のようだ。
「……私達はただ見ている事しかできませんでした」
「そのおかげで、無事に戻ってくる事ができたんだ。誇れることには思えないだろうが、賢明な判断だろう。それに、映像がちゃんと残っているのならば、今後の対策に大きな意味を持つ。見るのが辛いのなら、俺一人で確認しよう」
「お嬢」
「……見ます」
「そうかわかった」
 映像を確認する。映像は酷い手ぶれもなく、よくとれていた。
「……酷いな」
 本当によく撮れていた。次々とインテグラルの前に倒れていく、コントラクターの姿がしっかりと映されている。そのほとんどが、攻撃を仕掛けることもできずに一方的に倒されている。
 全部を見たわけではないが、途中で映像を停止した。
「ふむ、この映像を詳しく検証すれば、何かわかることがあるかもしれないな」
「しかし、あれを相手にする方法があるとは思えませんね」
 暗がりの奥から、アルベリッヒが他人事のように言う。
「少佐?」
「ここに独房なんてものはないからな、手元に置いて俺が監視しているんだ」
 麗華が目を凝らしてみると、特徴的な黒いパワードスーツではなく、普通の服に着替えているのが見えた。両手は縛られており、彼が座っている椅子にくくりつけられているようだ。
「しかし、助かりましたね。あの空飛ぶ箒が割り込んでこないと、こんなところでため息をつく仕事もできませんでした」
「少し静かにしていてくれないか?」
「空飛ぶ箒とはなんでしょうか?」
「ギフト、だ。戦闘中に割り込んできて、俺とリファニーとそいつを拾ってくれた。リファニーのところに居る、大きな猫のようなものを見たか? それだ」
「ギフトが手に入っていたのか、しかし秘密にすることではないであろう」
「秘密にしているわけではないな。戻ってきたばかりの混乱で、通達できていないのだけだろう。よければ、他の者にも手に入っている事を伝えてやってくれ」
「そういう事なら、お任せください」
「悪いな、少ししたら正式に今回の成果として発表されるはずだ」
「ところで、リファニーさんはどちらに?」
「ああ、今は疲れて眠っているところだ。簡単な検査はしたが、ただの疲労という話だ。あの巨大なオーラは相当消耗が激しいらしい、あまり頼るわけにはいかないんだろうな」
 データをコピーさせてもらう約束をとり、二人はリファニーの様子を見てくると部屋を出ていった。
「……少し外の空気でも吸ってくればいいんじゃないですか?」
「その間に逃げるつもりか?」
「逃げるつもりなら、パワードスーツを素直に提出なんてしませんよ。どうせ、まともに休みとらないでいるのでしょう。昔から、休息を疎かにしていましたからね」
「昔から、か。よくそんな事を知ってるな」
「さて、どうしてでしょうね。ふふ―――どちらへ?」
「少し外の空気を吸ってくる。大人しくしていろ」

 外に出た長曽禰は、大きくため息をついた。
「さすがに、一人は厳しいか。大尉には早く戻ってもらわないとな」