空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション

 居合わせた契約者は、状況を掴めないながらも人々を護るために奮闘していた。
 放たれた魔獣の数は数十匹。
 人々を傷付けながら、餌を求めて魔獣たちは街の中へと走っていく。
「皆どうしちゃったんだよ!?」
 買い物に訪れていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、パートナーのミア・マハ(みあ・まは)と共に、騒ぎを聞き付け、野外ステージの方へと駆けてきた。
 宮殿に向かっている市民を止めなければならない。
 犠牲を出さずに守りたい。それは理想論だろうか。
(だけど、それでもボク達は諦めたくない)
 レキは風向きを確認すると、『しびれ粉』を撒いた。
 市民達の動きを鈍らせて、遅らせるために。
「原因は音か? 音で失った心なら、音が取り戻すのだろう」
 駆け付けた白砂 司(しらすな・つかさ)は、誰かがそれをなすまで、時間を稼ぐ術を考えていく。
「俺の出来ることをするまでだ」
 槍の柄を棒として使い、宮殿に向かおうとする市民を押し返し始める。
「司君、頑張ってください」
 獣人のサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は、司を躱して進もうとする市民の体を掴むと、力づくで引き摺って、近くの建物の中に押し込める。
「武器を持った方は……仕方ないですよね」
 契約者に銃を向けた市民には、急いで飛びついて大ジャンプして。
「あっちで、寝ててくださいっ」
 遠くに投げ飛ばした。
「行っちゃダメなんだよ!」
 レキも司と共に、守りを固めて止めていく。
「ゴーレム、お願い!」
 レキはゴーレムに命じて、人々の攻撃を受けてもらう。
「来るぞ、魔法攻撃じゃ!」
 ミアが声を上げた直後、市民の誰かが放った雷が、レキと司を傷つけた
「くうっ、耐えるのじゃ」
 ミアの小さな体も、市民達に殴られ、蹴られ、傷ついていく。
 帽子が飛び、眼鏡が壊れても、ミアはその場から離れない。
 リジェネレーション、歴戦の防御術でミアは耐え、命のうねりで市民を止めようとする契約者達を癒す。
 人々の動きは、まるで川の流れのようだった。

「人が、波のよう……こわい、です」
 ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)に手を引かれて、アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は走っていた。
 パートナーの神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)がいる宮殿には行ける状態ではない。
「市民を巻き込むことは出来ません。追ってくる敵の配下とは、剣を交えることになるでしょう」
 ティセラは人気のない方へと、走らざるを得なかった。
 野外ステージでの演奏を指揮していたと思われる者に、2人は狙われていた。
 捕えて、自分達を傀儡にすることが目的だろうと、ティセラは考えていた。
 アレナは、状況の理解が出来ておらず、強い不安を感じながら、ただティセラに従うのみだった。

「ティセラ、どこ!?」
 宮殿にいたセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)は、事態を知ると、ティセラの元に駆け付けようとした。
 しかし、向かう先には市民と魔獣が溢れており、近いはずの野外ステージがはるか遠くに感じられた。
 カメラが回っているからではない。ロイヤルガードとして、セイニィは襲われている市民を放っておくことなど出来ない。
「マホロバ所属、武神牙竜……参る!」
 そんな彼女の元に、良く知った声が降ってきた。
 声の主、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が投げた薔薇の花束が、空を舞う。
 牙竜はアクセルギアを起動し、凄まじい速度でセイニィに近づく魔獣を打ち飛ばす。
「何カッコつけてんのよ!」
 セイニィは礼の代わりにそう言い、牙竜が開けてくれた空間を走り抜ける。
「ここは任せて、ティセラの元へ急げ! 親友を救ってこい!」
 牙竜は高速戦闘を一瞬停止して、セイニィの髪にバラを挿した。
「無事に終わったらデートしようぜ。そのバラが約束の証だ!」
「落とさず戦うことなんて、無理だけどねっ。一般人を傷つけるんじゃないわよ!」
 言ってセイニィは牙竜とパンと手を打ち合うと別れた。
 彼女はステージの方へと。
 牙竜はその場に留まり、魔獣の対処に当たる。
「……さて、超人の意地を見せてやる」
 市民には勿論手を出さず、無差別に襲い掛かる魔獣を狙い、高速で倒す。
「バラの花の本数にも意味がありましたね 中国のバレンタインの風習では確か……」
 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)は、高台から牙竜をサポートしていた。
 舞っていたバラが地上に落ちてくる。総数999本。
「意味は『天にとどくほどの愛』」
 多くの人々が様々な愛のために行動している姿は、まさに天に届く愛と呼ぶべき行為といえるだろう。
 そう考えながら、リュウライザーはエイミングで魔獣の顔を撃ち抜いた。

○     ○     ○


 宮殿前。
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はロイヤルガードの正装を纏い、正面に出た。
 槍を天に向けて掲げてから、地面に深く突き刺す。
「私達の武器は女王や代王だけでなくこの国を守るための物。 操られているとはいえ、民に向ける鉾はありません!」
 ロザリンドの凛とした声が響き渡る。
「防衛の皆さん、混乱の元にも多くの人が解決に向かっていますから、少しの間ですが頑張りましょう!」
 盾を構えて、地に刺した槍よりも前に出て、ロザリンドは防御の姿勢をとる。
「うわぁ……ホントにすごい状態だ」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、後方に待機し、SPルージュや回復魔法でロイヤルガード達をサポートすることに。
 ロザリンドに多くの市民達が体当たりをしていく。
 石を投げつけたり、棒で彼女を叩く者もいた。
「まだこれくらいじゃ、回復必要ないよね。ロザリー頑張れ」
 傷ついていくパートナーを見ながら、テレサはテレパシーで仲間と連絡をとり、状況を確認していく。
「皆、聞いて! アイシャ様は皆を守ってくれてるの。シャンバラを守ってくれてるの! 邪悪な意思に負けないで! シャンバラの民として、一緒に戦って!!」
 代王の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の言葉が響いてくる。
 彼女は、危険を顧みず、バルコニーで市民達に訴えていた。
 理子の声は、市民達に届かない。それでも……。
「アイシャは君達の全てを愛して守ってくれてるじゃないか。止めてくれ。アイシャを傷つけないでくれ!」
 リア・レオニス(りあ・れおにす)も、ロイヤルガード達と共に、宮殿前で壁となりながら、押し寄せる市民達に訴えていた。
(この様子はきっと、アイシャにも伝わってる。アイシャは悲しみ、同時に市民達を助けたいと思っているだろう)
 だけれど、彼女は今、世界のために動くことが出来ない状況だ。
 アイシャの気持ちを考え、リアは殴られているからでも、自身が傷つけられているからでもなく、顔を歪めていた。
「そんな建前はいい。本音で言えよ」
 ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)は、後方でロイヤルガードとリアを慈悲と僥倖のフラワシで、支えながらリアにそう言った。
「……っ、ああ、建前だ。アイシャが心配なんだよ。悪いか!」
 吐き出すように言い、リアは市民の攻撃に耐えていく。
(愛するアイシャ……。彼女の悲しみは俺の悲しみだ。勇気付けてあげたい)
 応答などいらない。
 殴られ、斬られ、打たれながら。
 悲しみ、苦しんでいるであろうアイシャに、リアはテレパシーで「自分達が市民を守るから大丈夫」と、語りかけるのだった。