空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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第3章 阻む者

 その世界の空は赤く。
 大地は荒れていた。
 ナラカは生身の人間が入り込める場所ではない。
 異質で、暗いその空間は、生者にとって極めて不快な空間だった。
「感じる、ママの力を感じるよ!」
 パフュームは懐かしい力が流れてくる方へと、協力者と共に急いでいた。
 地面は舗装されておらず、肺に入る空気は身体に不快感を及ぼす。
 それでも、速度を落とすことなく、彼女達はわき目もふらず力の方へと向かっていく。
「バルタザール達はこちらの行動を予測しているでしょう。罠があるのか障害があるのかはわかりませんが、注意せねばなりませんね」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、パートナーのセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)と共に、パフュームよりも前を歩き、危険に備えていた。
「パフューム、あまり無茶をするなよ。私達がついているからな」
「うん。ありがと。お願いね」
 ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)の言葉に答えたパフュームは不安げな目をしていた。
「その高名な魔女は、死んでおらぬのに、この地にいるのか?」
 高名な魔女に会えると聞き、ついてきたリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が、パフュームに問いかける。
「ママは死んでないよ。どうしてか分からないんだけど、ここにいるの……。あたし達だけじゃ、どうすることも出来なかったけれど、今は皆がいるからっ」
「あなたは本当にお母さんを救いたいんですね?」
 共に歩きながら、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が尋ねた。
「勿論だよ! 絶対絶対、助けるんだからっ」
 強い意思を感じる言葉だった。
「うん、それじゃ私は絶対絶対、パフュームちゃんをお母さんに会わせるんだから」
 友達だから、彼女が母親に会えるよう、力の限り助けようとクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は思う。
「ありがとう。ええっと、ママが帰ってきたら、皆にいっぱいお礼するからね」
「お礼とか考えなくていいんだよ! みんな好きでついてきたんだからね。……でも、ひとつお願いしたことがあるかな」
 そう言ったのは、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーのノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だ。
「なあに?」
「うん、あのね……。わたしたちのパラミタを支えてくれてるアトラスっておじさんがすごく疲れてるみたい。だから、『神劇の旋律』を聞かせてあげて、少しでも元気にしたいなーって。お母さんが戻ってから、いつか……で良いから、お願いできるかな?」
「そうなんだ。『神劇の旋律』を聞かせて少しでも元気になるなら、あたしも協力するよ」
 パフュームがそう答えると、ノーンの顔に笑みが広がった。
「ナラカには前にも来たことがあるので、この異様な感覚には多少慣れています」
「何かあったら、すぐに教えるからね。パフュームはお母さんの力が流れてくる方向だけを、気にしていれば大丈夫」
 山葉 加夜(やまは・かや)と、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は、パフュームのすぐ後ろを歩き、前方や周囲に気を払っていた。
 ナラカに来たことがあるお蔭で、雰囲気や感覚に惑わされることはなかった。
 パフュームの周りには友人や女性が多く、少し後方には男性や、知り合ったばかりの契約者が続いている。
 それぞれ、警戒をしたり、パートナーと話をしながら、ついてきていた。
(この件を解決しなければ、空京の騒動も完全に収まらないのではないだろうか)
 任務の途中でカフェに立ち寄り、話を聞いた叶 白竜(よう・ぱいろん)は、そんな考えの元、協力することにした。
「大丈夫だからね、お母さんはオレ達が絶対助けるから」
 むすっとしている白竜とは対照的に、世 羅儀(せい・らぎ)はご機嫌な様子で、パフュームに話しかけている。
「再会を喜ぶことより先に、彼女達の母親――グリューネルには、やらなければならないことがあるんだろうな」
「首都にお連れしないと……手遅れになるまえに」
 クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)と、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)の手には、空飛ぶ箒ファルケがある。
 グリューネルを一刻も早く、空京に連れていくことが自分達の使命だと考えていた。
「死んだお父さんと、ナラカにいるお母さんの為……かぁ……。アタシもレギオンも両親の事なんて憶えてないから、何か羨ましいなぁ……」
 カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)は、パフュームを見ながら、羨ましそうに呟き。
(……またカノンに連れられて厄介な事に関わる事になった……。何も起きないでくれってのが、無理は話しだよな)
 その隣で、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は大きくため息をつく。
「凄い格好ね、ちゃんと動けるのかしら〜?」
 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は、全身パワードスーツで固めている月詠 司(つくよみ・つかさ)をからかいながら歩いている。
「いやだってさ……瘴気触れたら、後遺症とか残るかもしれないじゃないですか」
 司は瘴気に弱いのだ。
「歩き疲れたら、運んでもらえるしいいんだけど♪」
 シオンは雰囲気に臆することもなく、陽気だった。
「パラミタも地方によって風土が違うように、ナラカにもいくつもの顔がありますが……今回の最大の脅威は追っ手と考えます」
 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は、ナラカに住まう者ではなく、地上から訪れる者に警戒を払っていた。
 突然、空から追手が降ってくる可能性をも否定できない。
「ナラカは何度来ても好きになれないわ」
 その隣で、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)は、パフュームを見ながら、呟くように言う。
「地球で死んだ地球人はナラカを通ってパラミタに到る、ではパラミタで死んだ地球人――あの子の父親もここにいるのかしら?」
「……」
 傍にいた、レン・オズワルド(れん・おずわるど)メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)がヒルダの言葉を聞き、顔を合せた。
「もし父親がナラカの亡霊として現れたら、パフュームは平気でいられるのかしら?」
「……難しいかもね」
 ヒルダの呟きに答えたのは、黒崎 天音(くろさき・あまね)だった。
 彼はパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に、何やら銃型HC弐式に入っているデータを確認しながら、同行していた。
 ヒルダは軽く頷いて、パフューム達を心配そうに見る。
「ヒルダならとても耐えられない……」