空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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「防ぎきるぞ」
 駆け付けた大岡 永谷(おおおか・とと)が、前線に出る。
 永谷が使った護国の聖域により、仲間達の魔法防御力が高まる。
「壁役と言うのは、忍びらしくない気もするけど、目に見える壁が今回は必要みたいだし、頑張るね」
 そう言いながら、パワードスーツを纏った熊猫 福(くまねこ・はっぴー)は、永谷の後ろに立った。
 永谷がスキルを使う時に、彼の護衛をするために。
「トトが功績をあげて給料アップすればあたいの食費も上がるし、楽しみだなあ」
 楽しければそれでいいと思っている福は、こんな時でも楽しいことを、美味しい食事のことを考えていた。それがことを成す為の力となる。
(任務上、こちらから攻撃を行うことはない。勿論、民衆を傷つけることになるから、やりたくないし……)
 永谷は市民の攻撃を受けながら、今回の任務に対して感謝もしていた。
 民衆を殺してでも守れという命令が出なかったことに。
(守るべき人々を傷つけてまで勝利するというのは、避けたいからな)
 永谷はシャンバラの軍人だ。
 殴られても、蹴られても、目の前の人々は、護るべき人達なのだ。
「つぅ……。多分、操られてるだけだろうねぇ……厳しいけど、ここは耐え抜かなきゃ」
 永谷のすぐそばで、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)も盾となり、耐えていた。
(マスコミは、空にいるだけか)
 カメラに映らない。そう確信が持てた時に。
 瑠樹は鬼眼を用いて、前方の市民を脅した。
 だがほとんどの市民は反応を示さない。
(精神が完全に囚われてるってことか)
「りゅーきファイトです!」
 マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は瑠樹のすぐ後ろに立ち、サポートしていた。
 精神力を補うために、驚きの歌を使い、長期戦に備えている。
「もう少し大丈夫。きつくなったら頼むぞ……っ」
 2人は役割を交代しながら、頑丈な壁でありつづけるつもりだった。
「どけー」
 市民の強い一撃が、瑠樹の肩に打ち下ろされる。
(やべぇ、鎖骨折れたかも……。けど、並んでる皆も、同じような状態か)
「りゅーき、今の一撃すごかったです!」
 マティエが気付き、癒してくれる。だが、すぐに完全に治ることはなかった。
 苦しい戦いだが、今はまだ退くわけにはいかない。
 宮殿を守るために。目の前の人々を守るために。
「皆さん、目を覚まして……」
 レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)が声を上げた。
 彼女は、より武器攻撃が激しい箇所に下り立ち、防衛に加わっていた。
 強い精神力で身を守り、オートガード、オートバリアの能力で共に防衛に携わる仲間達を守っていく。
 彼女も無論、盾で防ぐだけで、攻撃は一切しない。
「ここがどこだか、何をさせられそうなのか、考えてみて。皆さんの本当の意思は違います。こんなこと、したくないはずです!」
 精一杯の大声で、市民達に訴える。
「レジーヌ、あっちからの攻撃の方が強い!」
 エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が身体検査の能力で、武器を持つ市民を見つけ出す。
 エリーズが注意を促した相手の剣を、レジーヌが受け止める。
 しかし、反対側から狙ってきた男のナイフが、レジーヌの脇腹に迫る。
「ダメだよ。傷つけたら、あなた自身の心も傷つくからっ」
 エリーズが踏み込んで受太刀の技能で、ナイフを受けて、流した。
「この先にはぜーったい行かせないんだからねっ。ちゃんと起きてよ!」
 そしてエリーズは大声を上げて、市民に呼びかける。
 彼女達の声は、市民の耳に入ってはいるはずだけれど、心には届かない。
「目を覚ますんだ! 貴方達の想いや意志は、そんな邪悪なモノに負けてしまう程弱くはない筈だ」
 神崎 優(かんざき・ゆう)もまた、人々に必死に呼びかけていた。
 壁として立つ者達の中に入って、近くの者や、パートナーの神崎 零(かんざき・れい)と手を取り合い、叫ぶ。
「貴方達の女王を想う気持ち、このシャンバラを想う気持ちや絆は誰にも負けない程強いモノだ!!」
「お願い。アイシャ女王はみんなを想い続けながら、今でもこのシャンバラを守ろうと必死に祈り続けているの」
 零も殴られ、斬られ、傷ついていく仲間達を魔法で癒しながら、虚ろな目の人々に訴えていく。
「だから邪悪な意志に打ち勝って、みんなの想いを、女王との絆の強さを私達に見せて下さい!」
 市民達の本当の意思は、完全に眠ってしまっているのか。
 反応を示す者はいない。 
 だけれど、呼びかける者達の声も、姿も。マスコミにより、世界中の人々に届いていた。

「さすがだな。テレビで聞かせてもらった言葉、俺も忠実に実行しよう」
 青葉 旭(あおば・あきら)は、山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)と共に、イコンで駆け付けていた。
 だが、市民が密集しているこの場にイコンを持ち込んではいない。
 まだ破られていない門の後ろに、横たえてきた。
 門を破っても、市民達が突入できないように。
「この身が切断されようが、朽ちても――すべての攻撃を受け止め、耐えて、後ろに通しはしない」
 言葉通り、旭は市民の前に立ち、攻撃をただ受け止める。
 振り払うことも、押し返すこともしない。
 宮殿を守る――いや、正しくは自分達が護るのは、シャンバラ王国という国体と臣民だ!
 ロイヤルガード同様に、彼はそれを理解していた。
「みんな女王のところに行こうとしているみたいだけれど、女王を模したものとかを奪い取ろうとはしてこないのね」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)は、アイシャのフィギアで市民の気を引こうとしてみた。
 市民達はアイシャや女王という言葉に反応を示し、にゃん子の手の中のものを見ることはするが、奪おうとはしてこない。
「女王本人……女王の力の元に行こうとしてるのかな?」
 にゃん子はそう考えながら、時折女王の名を出して市民の気を逸らすことで、僅かな時間を稼ぎ、仲間達をサポートする。
「女王陛下の騎士、ヴェロニカ・バルトリだ。代わらせてもらう」
 ヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)が、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と共に現れる。
「前に出る。祥子、後ろは任せるぞ!」
 オートバリアで仲間を支援しながら加わり、クイーンズシールドを構える。
「ヴェロニカ、気持ちはわかるけど無理は……」
 テレビには、人々に追われている友人のティセラの様子も映っており、祥子は不安に駆られていた。
「いえ、今は無理のしどきね。ヴェロニカも、皆も……市民達を止めるわよ!」
 だが、この有様を見ては、私情に駆られているわけにはいかない。
 祥子は対電フィールドで皆を守り、傷ついた仲間達を命のうねりで癒す。
「くっ……。私は女王陛下の騎士だ。いままでも、そしてこれからも」
 守るべき存在である市民達の攻撃を、女王への忠誠心という強い意志でヴェロニカは受け止めていく。
 中に入られては、女王の身が危険だ。
 ヴェロニカは、女王陛下と、国と民を守ることが、自分の使命と考えている。
 彼女は迷わず、どんな攻撃でもその身で受け止める。
「ロイヤルガードや、女王の騎士じゃないけれど、わたしも壁になる! 女王も、代王も、市民のみんなも、守りたい気持ちは同じだし、想いの強さは負けないよ」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)も、傷ついた警備兵に代わり、前に出た。
「不快な音楽だったね……そのせいで、皆の心、眠っちゃったのかな。だれか、本物の音楽聞かせてくれないかな……つぅっ」
 人々の攻撃を受けながら、郁乃は流れていた曲のことを思い出す。
「正しく演奏できるものを、集めていると報告を受けている。それまで、頼む」
 神楽崎優子の声が、飛んできた。
「はいっ、壁になるよ!」
 後の憂いにならないように、遺恨にならないように一切手を出さず。
 スキルの使用も防御系のみとし、郁乃は守りを固めてひたすら耐えていく。
「つ……うっ」
 思わず後方で、蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は心痛な声を上げてしまう。
 主である郁乃が一方的に攻撃を受ける姿を見続けるのは……やはり辛かった。
 悔しくて悲しくて、そのきっかけを作った者に怒りを覚えていく。
(こうした思いを抱かなければならないことも覚悟のうちなのですね……)
 大きく息とつくと、マビノギオンは、歴戦の防御術の技能で郁乃を支えだす。
(やれやれ……幾星霜、時を重ねてきても、まだまだ学ぶことがあるものですね)
 傷つく主を見て、すぐに回復したくなるも、耐えて、精神力を温存する。
(もう少し、もう少し耐えてください。あたしも耐えます……)
「タイミングをよーく見計らわないとね」
 隣で、サポートに徹しているミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)も、同じような思いでその場にいた。
 ミリィのパートナーのセルマ・アリス(せるま・ありす)も、前に出て、その身で市民の進行を防いでいる。
「武器攻撃以外は防がないなんて無茶にも程があるよ」
 漏らした言葉通り、セルマは市民からの武器以外の攻撃は全てガードすることなく、受けていた。
 セルマの疲れが露わになり、肩で息をし始める、そのタイミングでミリィは歴戦の回復術を用いて治療していく。
「どちらも無事に済むように、壁の役割を果たしてみせる!」
 そんな強い意思を持ち、セルマは市民の前に立っていた。
 サブマリンシールドで、武器と魔法の攻撃だけは防ぎ、素手の攻撃は肉体で受けた。
 盾で受けたのなら、市民の拳が酷く傷ついてしまうだろうから。
「皆、普段はとてもいいひとなんだ……商店街の店主も、子供を連れたお母さんも。ボランティアで公園を掃除してくれる人達も。それから、宮殿の中にいる人も、女王も……」
 人々のことを思いながら、気力を振るい立たせて、攻撃を受け続ける。