空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション

 正門近く。
 パートナーの雨宮 七日(あめみや・なのか)と共に駆け付けた日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、状況を見て唖然とした。
 思わず愚痴が口から出てしまうが、そんな暇はないと、宮殿の方に目を向ける。
「交代で壁となって市民を止めているみたいです。空にも、飛行兵が配備されています」
「なら、これ以上人数を増やさないことを考えるか」
 守護天使の七日から状況を聞いた皐月は、浮遊する三櫃の棺――氷蒼白蓮を用いて、氷を生み出す。
 正面の門も壁も崩されてはいるが、登ろうとする人々、飛び越えようとする人々がいる。
「だが、氷の壁を登ることは不可能だ」
 広く大きく展開したため、盾になるほどの強度はないが、それでも一般人を阻む壁にはなった。
「空の市民達は任せてください!」
「通さないよー」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)と、ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が、キャラクターマスクで顔を隠し、壁の上からレビテートで浮遊する。
「女王、女王のとこへ……」
 突っ込んでくる市民の前に飛び出して、秋穂は両手を広げて受け止める。
「落ち着いて下さい……落ち着いて……!」
「通さないー……落ち着いて話し合いできるようになるまで、絶対通せないー!」
「女王、女王、女王」
 浮いており、踏ん張れないため秋穂とユメミは押されてしまう。
「ちと冷たいけど、壁にしてくれ」
 皐月が氷の壁を作りだし、押される秋穂を止めた。
「女王のところに、行かせろ……女王、女王」
「うっ」
 市民は秋穂とユメミに拳を叩き込んでくる。
(宮殿前にいる皆さんも懸命に耐えてます。僕だって……)
 秋穂は手を出すことなく、攻撃を受け続け、耐え続ける。
「助けにきてー」
 ユメミはフラワシを呼んで、抑えきれない市民の行く手を阻んでもらう。
「攻撃はだめなのー。みんな、誰かに変にされてるだけなのー」
 殴られても蹴られても、ユメミは必死に耐える。
「我慢するの、絶対攻撃しちゃだめなのー……!」
 ヒールで自分や秋穂を癒したり、驚きの歌で精神力の回復を図りながらひたすら耐えていく。
「別の方向からも、有翼種の方が入ってきましたね。出来るだけここで阻みませんと」
 そう言った七日だが、自らは動かなかった。
 連れてきたアンデッドのレイスと小型屍龍を、飛んできた一般人に密かに差し向けていく。
 自分達の姿は、マスコミに撮られている可能性があるが……。
「傍目には上空にいるモンスターが一般人を襲っているようにしか見えないでしょうし……最後に、私たちがアンデッドを排除すれば、イメージ的にもプラスに動くでしょう」
 そう思いながら、そちら方面には気づいてない振りをして、宮殿の状況を見守ろう――としたその時。
「つ……通過、されました」
 人ではない、強い力を持った異形の存在が、アンデッドを滅して宮殿の上空に侵入を果たした。

「これは一体どういうことなのじゃ〜!」
「もう何が何だかわかんないよー」
 空京に買い物に訪れていた神凪 深月(かんなぎ・みづき)深夜・イロウメンド(みや・いろうめんど)は、流され流され、宮殿の側まで来ていた。
「ここで、何か催し物でもあるんじゃろうか」
「それにしても、凄い人混みだよ、殺人的だよ……」
 そんな彼女達の目に、ひとつのモヒカンが映った。
「がはは、女王のおっぱいは俺様が守る」
 モヒカンの主である、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)狂気的な目で、そう言い、女性のロイヤルガード――一番近くにいた、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)の胸に突撃した。
「う……くっ。痛みだけじゃない、屈辱を感じるわ」
 マンモグラフ変わりの触診!
 リンパの流れを良くするしなやかなマッサージ!
 暴漢から守る手ぶらガード!
 ゲブーはスキルを駆使して、一切手を出すことのできないテティスの胸を堪能……いやおっぱいを守ろうとした。
「テ、テティスになんてことを……!」
 思わず飛び出してきた皇 彼方(はなぶさ・かなた)のことは。
「男のおっぱいはいらん!」
 容赦なく、ドラゴンアーツ、雷霆の拳、七曜拳など、スキルを駆使してぶっ飛ばす。
「兄貴、どうしたんだろ? まあ、いつもと行動はあんまり変わらないけど」
 共に行動をしながらも、パートナーのバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)は違和感を感じていた。
「それにしても、こいつらもなんか変だぜ」
 バーバーモヒカンは、一部の市民達の様子がさらにおかしくなっていることに気付く。
 無差別に、襲ってくるのだ……。
「兄貴の邪魔すんなよ!」
 とりあえず、バーバーモヒカンは襲ってくる市民をフラワシ【毛神『理髪師バリバリカーン』】でモヒカン刈りにしていく。
「がはは……ん? そこにも素敵なおっぱいが。女王に献上し、一緒に守ってやるぜーっ」
 次にゲブーが目を付けたのは、深月と深夜だった。
「な、なんじゃ、このモヒカン騒動は!?」
「わからないけど、とにかく……」
 コイツは倒した方がいいッ!
 深月と深夜は同時に武器と魔法を叩き込み、ゲブーを打倒した。
「あ、兄貴! しっかりしておくれよっ!?」
 倒されて、更に市民達に踏みまくられたゲブーをバーバーモヒカンが回収し、良く分からないまま退散していく。
 ――市民達の中にはモヒカン……いや、死人が紛れ込んでいた。
 死人によって肉体に傷をつけられた者は、死人と化してしまう。
 そして死人になった者は、周囲の生物を襲いだす。
 宮殿を守る者達は、更に苦戦を強いられることになった。
「皆様皆様お静かに。騒がず暴れずお静かに。後はさよならまた明日」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)は、弓引くものに命じて、市民の行動を封じ、拘束していく。
 一度にこの方法で拘束できる人物は1人。対処は追いつかず、死人の数は増えていく。
 「これ以上アイシャ様をいじめるのはダメです。……どうしてもというなら私が相手になります!」
 ヴァルキリーのティー・ティー(てぃー・てぃー)が叫んだ。
 アイシャが女王という役目のために、どれだけのものを犠牲にしているか。
 人々のために、命を捧げていることを、知っているから。
 体はまだ傷ついていなくても、ティーの心は深く傷ついていた。
「元凶は、アレか……」
 ペガサスに騎乗し、空で対処に当たっていた源 鉄心(みなもと・てっしん)が襲い来るモノに気付く。
 ソレは、演奏により引き寄せられたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だった。
 元々は地球人だが、彼の今の姿は、様々な外見をもつパラミタ人の中でも異形。
 侵食のネクロポリスの力により、彼は押し寄せる市民を死人にした。
「………!」
 エッツェルは奇声を上げながら、宮殿に――理子の方へと飛ぶ。
 空の対処に当たっている契約者、空賊団は有翼種の死人の対処で手一杯だった。契約者以外の協力者も攻撃を受けることで、死人と化し、敵に代わっていく。
「アレは俺達で対処する。……やれるな?」
 鉄心はパートナーのティー。それから、駆け付けたばかりの契約者にも目を向ける。
「なるほど、更に騒がしくなったと思えば、主か」
 シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、地上からエッツェルを見上げた。
「久しいな、友よ。また随分と道を外れた事を……いや、理性を棄てた者に言葉など不要じゃな」
 違えた道を戻すのもまた、友の役目と、シュリュズベリィ著は、武器を空に向かて繰り出し、インテリジェンストラントを放った。
「ここから離れてもらうぞ!」
 ダメージを受けて体勢を崩したエッツェルに、鉄心が真空波を放つ。
 攻撃を受けながらエッツェルは、周囲に暗黒魔法を放つ。
 被害は、地上の人々にも及んでしまう。
「やめてください! 帰ってください!」
 ティーが歴戦の飛翔術で、攻撃を避けながらエッツェルに迫り、無光の剣で追い立て、悪霊退散を放つ。
 宮殿を守る厚い壁も、傷つきはしてもエッツェル一人の攻撃で、崩れることはなかった。
 不利と感じたのか、エッツェルは逃走に転ずる。
「エッツェル!」
 バイクで駆け付けた緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が大声を上げた。
 彼女の声に反応することなく、その異形の生物は飛んでいく。

「それにしても、こんなに的があると撃ち殺したく……」
「リゼッタ!」
 七刀 切(しちとう・きり)は、市民の動きをしびれ粉で抑えながら、リゼッタ・エーレンベルグ(りぜった・えーれんべるぐ)を睨んだ。
 彼は街中の見晴らしのいい場所で、予想外の事態に備えていた。
「……えぇ分かってますよ。市民は撃ちません。けど、化け物なら撃っていいですよね?」
 リゼッタはライフルのスコープで空を見ていた。
 狙いを定めているのは、遠方――宮殿方面の上空にいる、あきらかに市民ではない存在。
「人でもないですし、魔獣でもないようですし、排除するとしましょうか」
 言って、シャープシューター、エイミングで狙いを定めて、機晶スナイパーライフルで陽動射撃。その存在――エッツェルの注意がこちらに向いたところで、もう一撃、グレイシャルハザードと共に発射し急所を撃ち抜いた。
「……雲海に沈んだみたいですね」
 その異形の生物の姿は、もう空にはなかった。