空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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第5章 街中の攻防

 野外ステージでの演奏を聞いた者達が、ぞろぞろと宮殿に向かっていく。
 門や壁が破壊されて、通ることは出来なくなっても、その進行は止まらない。
「目標は【集団を瓦解させる】ことだよ。集団力を殺ぎ、制圧可能出来るような状態にれば、事態の収拾に繋がるはず!」
 シャンバラ教導団【黒豹大隊】の黒乃 音子(くろの・ねこ)大尉は、【黒豹大隊】【龍雷・岩造親衛隊】【装備開発実験隊】の一部が加わる部隊を指揮していた。
「市民はこちらに入ってこられないでしょう」
「万が一の時には、乗り物で脱出の可能だ」
 ベネティア・ヴィルトコーゲル(べねてぃあ・びるとこーげる)は、伯 慶(はく・けい)の助言の下防衛陣地の構築に当たり、ベスティア・ヴィルトコーゲル(べすてぃあ・びるとこーげる)と共に、土嚢や、瓦礫、乗り捨てられた乗り物を用いて、効率かつ機能的なバリケードを作りあげた。
「さあ、ショータイムだ!」
 ベスティアが、バリケードの外に目を向ける。
「さあ、怒りの感情で、力を発揮するでござる」
 その陣に座し、戦況を確認しながらミンストレルのフランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)は、歌で仲間をサポートをする。
「いっちょ、揉んでやろうか〜」
 アウグスト・ロストプーチン(あうぐすと・ろすとぷーちん)は、体つきの良い男性の市民に狙いをつけている。
「黒乃大尉とご一緒できて光栄であります!」
 ソフィー・ベールクト(そふぃー・べーるくと)は、レバーアクションライフルに、ゴム弾をこめて音子の側で指示に従っていた。
「アシッドミストじゃ動きを封じれないか。それなら、鎌でくびり殺して――」
「こらっ、冗談じゃすまされないよ!」
 黒乃 虎子(くろの・とらこ)の後頭部を、ベチンと音子が叩く。
「テキトーでいいじゃん〜」
 と、虎子は笑っているが。
 市民が集まっているこの辺りの状況も、中継で全国に流れているのだ。
「そこのお肉まちなさーい!!」
 黒羊郷 ベルセヴェランテ(こくようきょうの・べるせべらんて)は何故か市民を追い回している。
「作戦成功のために、がんばります。あ、えーっと、その前に血を、献血してみませんか??」
 小松 帯刀(こまつ・たてわき)は、市民に吸精幻夜を使ってみる。
 美味しい血だったが、市民の心を奪う事はできなかった。
「なんだかまとまらないな……混合部隊を率いるのってとても大変」
 音子はため息をつくも、指揮官として号令を発しながら、皆を見守る。
「行かせるわけにはいかんのじゃ」
 レオパルド・クマ(れおぱるど・くま)は、鉄甲をつけた拳で市民を流れを止めて足止め試みる。
 彼に殴られた市民達は昏倒していく。
 精神攻撃は効かないが、肉体のダメージによる気絶はするようだった。
「毒霧も効きそうだね。ちゃんと後で、適切な処置を行えば蘇生できるでしょうし」
「そうじゃな」
「この毒で出来るかな……噴射型の武器があれば〜」
 玄 米(げん・べえ)に付き添われた白 舞(はく・まい)は、武器に塗る毒を用いて、霧状にできないかと考える。
「そうでござるな。怪我はやむを得ぬが、犠牲は出したくないでござる」
 その間に、ジル・ド・レイ(じる・どれい)の援護の下、甲 賀四郎(かぶと・かしろう)が市民の中に入り、毒を塗った武器で、市民達を軽く傷付けて毒に侵していく。
「我の前に立つ愚かさを知れ!!」 
 甲賀 三郎(こうが・さぶろう)は、飛行中のバジリスクから市民集団の中心に飛び込み、足場に火術を放ち、ファイヤーストームの爆風で、市民達を吹き飛ばす。
「この先に行かせるわけにはいかんのだ!」
 本山 梅慶(もとやま・ばいけい)は、槍を振るい、早駆けで掻き乱していく。
「薬丸示現流をうけてみなさーい!!」
 天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)が武器を振るい、黒豹大隊は力で市民達を止める。
「暴徒の駆逐、鎮圧がメインでしょうが……いささか将来に禍根を残さねばいいのですが」
 戦車型の機晶姫ルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)を連れたジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)は前線で、眉間に皺を寄せる。
 軍からは市民攻撃の命令は勿論出ていない。
 抑える為にはやむを得ないこともあるが、死傷者が出れば、少なからず反発は出るだろう。
 力づくでとめなかった方がより多くの死傷者が出ていたとしても。
「……戦争してりゃこんなのは日常茶飯事だぜ」
「我らは何としても市民の足を止めねばならんのだ!!」
 サミュエル・ウィザーズ(さみゅえる・うぃざーず)と、ディーン・ロングストリート(でぃーん・ろんぐすとりーと)は、側背から駆逐する作戦を取った。
 ――そうして、黒乃音子が率いる部隊は、少数で数百人の市民を抑え、宮殿近くで足止めした。

「……」
 道路に横たえた市民を見て、董 蓮華(ただす・れんげ)は唇を噛んだ。
 傷ついた市民達を、彼女は後方の少し離れた位置に、連れてきていた。
 手当てをしている時間はなく、動けなくなった市民達1人1人を彼女はここに連れてきて、横たえていた。
 操られている者たちは、怪我人を踏みつけて、更に傷つけて、傷つけ合ってでも、進むだろうから。
「でも、宮殿では、死人化した市民が……既に、互いを傷つけ合ってる」
 一人の死者も出したくない。
 慕う人物の理想のために、操られている市民を助けたい。
「体が、足りないわ」
「単に暴徒を鎮圧するなら容易い事。装甲車連ねて撃てばいい。だが、そうじゃない道を、お前は選んだ。だから、諦めないんだろ?」
 パートナーのスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の問いに、蓮華は首を縦に振り、市民達の保護を急いでいく。

 大通りにも、シャンバラ教導団と、天御柱学院の集団がトラックで到着を果たす。
 車道にも心神喪失に陥った人々が溢れており、進むのは容易ではなかった。
 パワードスーツ隊で人々の波を止めて割り込んで、どうにか数台のトラックで進路を防いた。
「さあ、ディフィンス開始といくかのぉ」
 トラックを止めて、佐倉 薫(さくら・かおる)はサイドウインドウに目を向ける。
 市民達がぞろぞろと近づいてきていた。
「大人だけじゃない。市民の中には子供もいるし、体格の小さな種族もいる」
 笠置 生駒(かさぎ・いこま)は防衛計画の知識で、状況を把握し防衛の強化に努める。
「トラックとトラックの間は勿論、車両の下も気をつけろ」
 生駒は皆に注意を促し、直接対処に出る者達を送りだす。
「この重量なら、何十人の市民に押されてもびくともしないはずです」
 輸送トラック運転担当の白河 淋(しらかわ・りん)は、トラックの中に瓦礫を詰め込み、重量を増やしていた。
「一般人の中にも、魔法を使う人がいます。ご注意を」
 ただ、万が一の爆発を防ぐために、火器類は全て外してある。
「こちらも、念のためお持ちください」
 同じく運転担当の魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は、パワードスーツを纏った者以外に、マスクを配っておく。
「宮殿に向かった人々が、死人と化してしまってるらしいわ。つまり、先に進まれたら、ロイヤルガードやワタシ達が守ろうとしても、自分達で傷つけあってしまう」
 もう1人、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)もトラックの内部に留まっており、宮殿や教導団と連絡を取り、状況を仲間達に伝えていた。
「だから、ここで抑えるわよ」
「ああ、こっちも準備は出来ている」
 コルセアにそう答え、三船 敬一(みふね・けいいち)は、パワードスーツカタフラクトに搭乗し、盾を持ち市民達の前へと出た。
(市民を傷つけ無いで守るか――無茶を言って来るであります)
 吐息をついた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だが、表情は真剣そのものだった。
「これより作戦を開始する」
 吹雪は自身が雇った傭兵団と敬一が雇ったパワードスーツ隊を含んだ傭兵に、配置につくよう命じた。
「我ら市民と仲間を守る盾となりここを死守する!!」
 吹雪がその一言を言った直後。市民達がトラックの隙間を通り抜けて先に進もうとしてくる。
「ここは通せんのじゃ」
 パワードスーツを纏ったジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は、両手を広げて市民の進行を阻止する。
「ここで、押しとどめる……!」
 敬一はトラックとトラックの間を通り抜けようとする市民を体と盾で防ぐ。
 敬一の雇った傭兵も、敬一の指示により武器は持たず、大盾だけ装備して、市民達の行く手を阻む。
「ディーフェーンス〜ディーフェーンス〜」
 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)はこんな時にも、元気な声を上げていた。
 守ろうとしている人々に、殴られる痛みに耐えながら。
「さて、いきますよ。武器は使いませんが、少しだけ苦しい思いをさせてしまうかもしれません」
 子敬は運転席から、扇風機を使って風を送る。
 胡椒やトウガラシをくすべた煙を乗せて。
 吸い込んだ者たちがクシャミをしたり、目を擦りだす。
「彼らは操られてるだけなんだ……」
 歯を食いしばって、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は市民を抑える。
 操られている彼らを守りたい。
 本当は盾の後ろにいるべき人々だ。
 阻まなければいけないことに辛さを感じながらも、決して通しはしない。
 子敬が飛ばしている煙に巻かれた市民達は、クシャミを繰り返し、進むことができなくなっている。
「速やかに、制圧!」
 トマスはそう声を上げて、市民達を押して後方へと下がらせていった。
 彼らは空を飛ぶ者以外、誰も通しはしなかった。


 リトルシルフィード鳴神 裁(なるかみ・さい)は、仲間に市民達のことは任せて、パートナーのメフォスト・フィレス(めふぉすと・ふぃれす)と共に、道路脇で待機していた。
「こっちに来たらダメ!」
「来たか、ここじゃ撃てんからな」
 2人は、こちらに向かってきた魔獣の前に飛び出す。
 地を蹴り跳んだ魔獣の前に出た裁は、魔獣の爪で頬を切り裂かれた。
「裁……!」
「大丈夫。あっちの方に誘導するよ」
 裁は魔獣から逃げるように、しかし、振り向いて声をあげ、魔獣の注意を引きつつ、人気のない方へと走り出す。
「銃だと流れ弾の危険があるからな」
 メフォストは仏斗羽素で飛び、ワイヤクローで移動し、注意を引いていく。
「そろそろ、いいかなっ」
 そして、人がいない場所まで連れてくると、裁は神出鬼行で魔獣の頭上へとワープ。
「誰も傷つけさせなんだからぁ!!」
 神木の杖で殴りつけて、倒すのだった。