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リアクション
「アレナお姉様、一緒に参ります」
「追われてるんだろ? 手を貸すよ」
藤崎 凛(ふじさき・りん)と、シェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)が、空飛ぶ箒、小型飛空艇に乗って近づいてきた。
「避難場所は、すぐに敵にも分かってしまうでしょうから……」
マスコミの上空からの撮影により、アレナ達の居場所は世界中に放送されてしまっている。
「どれだけお力になれるかはわかりませんけれど……私だって契約者ですから。一般の方をお通ししないことくらいは出来るはずです」
「ありがとうございます。怪我しそうになったら、逃げてくださいね」
心配そうに言うアレナに、凛は微笑んでみせて頷いた。
空を飛んでいる一般人もいるが、一般人で彼女達についてこれる者はおらず、ほどなくしてティセラとアレナ達は呼雪が見つけた避難場所へと到着を果たす。
「ティセラ、アレナ!」
強化光翼、小型飛空艇で近づいてきた契約者がいた。
「良かった、無事だったか」
「なるほど、この子が噂の……。ふむ、結いっ子としての素質を持っているようだな」
下りてきたのは匿名 某(とくな・なにがし)とパートナーのフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)だった。
「テレビで2人のこと見て、驚いて飛んできたんだ。旋律の方は、シェリエ達がなんとかしてくれるはずだ」
某はシェリエと共に、空京を訪れていた。
シェリエは今、神劇の旋律を奏でられる人物を集めている。
知っている範囲で皆に説明をすると、某はウルフアヴァターラ・ソードを持ち、アレナを庇うように立った。
「この先にはどんな奴も、通しはしない。安心しろ」
「というわけで、守ってやるが、その代りこれが終わったら髪を結わせろ」
「はい……ありがとうございます」
某とフェイの言葉にアレナは礼を言い、こう続ける。
「でも、怪我をしそうになったら、逃げてください。それは某さん達がしなくていい、怪我ですから」
「それは約束できないな。君が傷ついたら、黙ってない奴がいるんでな」
そう某は軽く笑みを見せた。
「……でも、私も……」
「アレナさん、早く中へ」
屋上にある階段室からユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が走ってきた。
ユニコルノは残ろうとするアレナの手を引いて、彼女とティセラを中へと入れる。
下の階に続く階段は、防犯シャッターでふさがれており、ここには窓もない。
一般人がここにたどり着けることはないはずだ。
「もう大丈夫です。あとのことは、ヴァーナーおねえちゃんたちに任せるですよ」
アレナを座らせて、ヴァーナーが彼女の頭を撫でた。
「はい……」
アレナはとても不安そうだった。
ヴァーナーはアレナをぎゅっと抱きしめて、よしよしというように撫でてあげる。
「アレナさん、今のうちのこれに入るといいネ。見つかっても、アレナさんとは誰も気づかないワヨ」
キャンディスが、豪華なろくりんくんの着ぐるみをアレナに渡した。
こくりと頷くと、アレナは着ぐるみを着はじめる。
慣れていない彼女にはかなり大変なようだった。
「居場所は知られてしまっているのですから、わたくしも参りますわ。その間に、アレナを避難させてください」
ティセラは、繋いでいた手を離すと、星剣に手を伸ばしながら屋上へと戻っていく。
「わ、私も……私も、こっちに沢山呼べたら、宮殿に行く人が少なくなるかもしれないから……」
外に出て、囮になれたらとアレナは思い始めた。
「アレナさんが狙われてなければ、それもいい案だったかもしれないけどネ〜」
キャンディスがアレナに着ぐるみを着せながら言った。
アレナも契約者だ。優子の下で訓練を行ってきたため、能力も決して低くはない。
だけれど、市民以外のバルタザールの配下、もしくは本人が襲ってきたのなら、アレナに限らず、単身で立ち回るのは無理である。
せめて援護射撃をと思っても、市民を傷つけずに自分を狙う者だけを攻撃できる武器――光条兵器を、彼女は取り出すことができない。
「……」
アレナは自分の体に触れて、やっぱり光条兵器が取り出せないことを確認して。
星弓を掴めなかった手を握りしめていく。
「アレナ、例え光条兵器が出せなくても、お前が剣の花嫁で十二星華だという事実は変わらない」
呼雪がアレナの握られた手を見ながら言う。
「それでもお前は、自分がそれ以外の何者なのか、きっと見出せる。いつか……」
「……」
不安と、悲しみの沢山籠った目で、アレナは呼雪を見上げた。
「前線に出なくても、アレナさんにも出来る事があります」
着ぐるみで覆われたアレナの手を、ユニコルノが握る。
「 戦いで傷付いた皆様を癒して差し上げて下さい。そして……市民の方々が早く解放されるように祈りましょう。一緒に」
ユニコルノがそう言うと、呼雪が状況を確認しながら屋上に続くドアを開けた。
その外にいる人々に、アレナは回復魔法を放った。
バルタザールの下で、演奏を行っていた者のうち、飛行手段が在るものが追ってきていた。
「通しません。お帰り下さい」
凛は両手を広げて、通せんぼする。
「通せ、通せ……バルタザール様のところに、連れて帰る」
「クルセイダーに渡す」
曲を聞いて心神喪失に陥った市民達よりは、意識がはっきりしているように見えた。
だけれど、彼らも少し変だった。
「通しません。通しませんっ!」
凛はそう言い続け、殴られても突き飛ばされても、前に立ちふさがって通さない。
「リン……どうしてそこまで」
傷ついた凛を、ヒールで回復しながらシェリルが問いかけた。
「アレナお姉様には、これ以上誰かに利用されて悲しい思いをして欲しくないのです。剣の花嫁だって、役割や決められた定めとは関係ない。ご自分の心が、気持ちがある筈ですもの……」
その答えに、剣の花嫁であるシェリルは少しの間沈黙した。
そして凛と一緒に、演奏者達の前に立ちふさがりながら思う……。
(リン……。私はまだ、自分の気持ちが自分のものなのか、自信が持てない。剣の花嫁として作られた思考が、君を利用してるだけなのかも知れない)
打たれて湧き上がる感情が、傷つく凛を案ずるこの気持ちが。
シェリルには本当の自分の気持ちなのかどうか、分からなかった。
「この演奏していた人達は、明らかに操られた一般人だよな」
ウルフアヴァターラ・ソードで攻撃を受けながら、某は対処に悩む。
「まあ、女の子はともかく野郎の一人や二人、正当防衛で射殺しても文句なさそうなものだが」
フェイには、凛達が男性に暴行を受けているように見えて、気分が良くなかった。
「市民は撃つな。宮殿の方の負担も考えると、相手の力が尽きるまで、ここで押さえておくのがいいだろう」
「仕方ない」
フェイは大きなため息をつくと、奈落の鉄鎖で、演奏者の飛行能力を削いだ。
『バルタザールの配下、来る』
上空を飛んでいる月夜から、刀真の携帯電話に連絡が届く。
「そちらは任せます」
凛と某達にそう言うと、刀真は殺気看破で感じ取った方向へと走る。
「わたしも行きますわ」
「ティセラは下がっていてください」
「いえ、行きます」
押し問答をしている2人の元に、空から声が降ってくる。
「ティセラねーさん、よかった、間に合ったか!」
「お2人ともご無事ですか?」
魔法少女姿の、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)と、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)だった。
「来てくださったのですね。アレナも無事ですわ。もう別の場所に逃げたはずです」
まだ建物の中にるのだが、ティセラはマスコミを意識してそう言った。
「そうか、よかった……で!」
シリウスは振り向いて、飛んでくる武装した者達に目を向けた。
バルタザールにより近い位置で、演奏を行っていた者達だ。女性が多い。
「誰だが知らねぇが、人のダチに手ぇ出すなら容赦しねぇぜ!」
「お姉さま……背後の守りは任せてください」
リーブラはティセラの言葉の真実を悟り、ティセラの後方、建物内部へと続くドアを守れる位置に立った。
「ええ、それでは反撃開始ですわ。シリウスさん、こちらに引き寄せてください」
「了解! 思い切り戦える場を、作ってやるぜ!」
シリウスはファイアストームを放った。
敵に当てるわけではなく、背後を燃やし逃げ場を奪うために。
「仕方ありませんね、ティセラはそちら側を半分頼みます」
「ええ」
刀真が自分側の敵に光条兵器『黒の剣』による、神代三剣を叩き込む。
ティセラは、星剣ビックディッパーで、敵の翼だけを斬り落した。
「……あなた方の指揮者である、あの方――バルタザールは何を狙っていますの?」
刀真と共に、負傷した敵を拘束しながらティセラは尋ねる。
「……我ら、クルセイダーは……」
苦しげに何かを言おうとした女の頭が、飛んできた弾丸に貫かれた。
続いて、遠方からマシンガンが発射され、屋上に弾丸が降り注ぐ。
「下がってください。弾丸が地上に落ちたら危険です……そうですわよね」
リーブラはそう言った後、ヒールでティセラを癒す。
「ええ。無関係の市民に、当たってしまうかもしれません」
頷くと、ティセラは屋上の中央まで下がる。
「あたし、盾になるよ」
葵がサブマリンシールドを持って、皆の前に出る。
「遠距離攻撃が効かないとわかれば、近づいてくるはず」
プロボークによる挑発行動をとり、葵は自分に目を向けさせる。
「わたくしも、囮になりますわ」
ティセラに似たリーブラが前に出て、ブレイドガードで敵の弾を受け止める。
「頼みますわ」
ティセラは葵とリーブラの後ろで星剣を構えてチャンスを待つ。
近づいてきた敵――クルセイダーに、月夜の神威の矢が突き刺さり、ティセラの星剣ビックディッパーと、刀真の黒の剣、フェイの弾丸が一斉に放たれる。