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リアクション
「しぶといな」
追ってきた3匹の魔獣を、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)はスナイプ、とどめの一撃の技能で、1匹ずつ確実に仕留める。
軽く肌を割き、血の臭いで引き寄せて狭い場所におびき寄せたのだ。
「沢山の人が対処に当たってるようですけれど……まだまだ街の中にいっぱいいますね」
フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が、ファイアストーム、サンダーブラストで、ダメージを与え、更に傷口にアシッドミストによる酸の攻撃を加えて、魔獣の体力を消耗させていた。
「怪獣もこれだけ数が多いと、稀少価値がないですね」
次の魔獣の元に走りながら、フィリシアはぽつりとつぶやいた。
「ロイヤルガードが市民を守る盾ならば、自分達は市民を守る矛になります!」
ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、そう宣言をし、市民で溢れる街路を千里走りの術、疾風迅雷の技能で動き回っていた。
外にいるのは、主に心神喪失に陥っている市民達。
彼らにも、魔獣は容赦なく牙を向けてくる。
「市民に手出しが出来ない上、魔物から市民を守らないといけねえとはやっかいな話だぜ」
そんなことを言いながら、強盗 ヘル(ごうとう・へる)も後方の高台から、ザカコをサポートしていた。
「操られていても、守るべき市民に変わりはありません!」
ザカコはヘルから届く情報を頼りに、魔獣の元へ走り、市民を傷つける前に、カタールを叩き込んで魔獣を斬り倒す。
「こちらからも、来ます!」
声を上げたのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)。
翡翠は銃を撃って、魔獣を傷付けていく。
「……っ、次から次へと湧いてくるようだが、大元立たんと無理か? これ」
翡翠の口から、そんな言葉が漏れる。
「誰も傷つけさせません」
山南 桂(やまなみ・けい)が、氷術を放ち、魔獣の体を凍らせた。
「止めです!」
ザカコが動きの鈍った魔獣の元に跳び、斬り倒す。
「回復は任せていいですか?」
「はい」
ザカコの問いに、翡翠が返事をした。
「次のポイントは……」
ザカコはHCで魔獣場所を確認する。ヘルからの連絡で表示されたポイントは数十か所。
「キリがありませんが、やるしかありません!」
一番近い場所へ、ザカコは全速力で走っていく。
「あ、治療しますね」
翡翠は、蹲って泣いている少女の元に駆けた。
少女は足を怪我していた。
魔獣に襲われたものではなく、転んでできた傷だ。
「早く建物の中に避難してくださいね」
ヒールで癒してあげて、翡翠は少女を建物に誘導する。
「翡翠もそろそろ治療しませんと」
桂が翡翠に近づいて、彼女の体をヒールで癒した。
「桂こそ」
翡翠も、桂のことを癒す。
何匹もの魔獣を追い、戦ううちに2人とも無数の傷を負っていた。
「早くここから逃げろ! 建物の中に避難するんだ」
市民達にそう声をかけて、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)は魔獣の元へと急ぐ。
「また、出ましたか……。我ながら、効率が悪いですね……」
共に対処に当たっている璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)は、驚きの歌でまず自分の精神力を回復する。
これまでの戦いで、既に何度も精神力がきれてしまっていた。
「良かった、心を失っている者はいないか」
その場にいた市民達は全て近くの建物に避難した。
誰もいないことを確認すると、透玻はサンダーブラストを放つ。
1回では、仕留められなかった。
魔獣が透玻を襲い、爪で体を引き裂かれる。
振りほどき、透玻はバーストダッシュで軽く距離を置いて、凍てつく炎を放った。
「準備できました。行きます!」
魔法の攻撃に苦しむ魔獣の元に、璃央が走り込んで、チェインスマイトを決める。
ようやく、魔獣は動かなくなった。
「まだ、うろついているかもしれない。出来るだけ建物から出ないように!」
「少しの辛抱です。どうぞお気をつけて」
2人は人々にそう声をかけると、休む間を惜しんで次の魔獣を探しに急ぐ。
「あそこ! 建物に入ろうとしているの、魔物だよ!」
ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が指差した先に、何かに体当たりをしている動物の姿があった。
「中には多分、人がいますね。急ぎましょう!」
シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は、エイミングの技能で魔獣と思われる生き物に狙いを定めて、掠めるように撃つ。
まだ確実に魔獣とは言い切れないが、あの場から離さねばならない。
「こっちこっち! っと、やっぱり魔獣だね」
ミネシアがアクセルギアを発動し、先に生き物に近づいて確認した。
射撃を受けた魔獣は後方へと跳び、此方に体を向けてきた。警戒をしているようだ。
付近で警戒に当たっていた従者から、周りに人の姿はないと報告が入る。
「逃がしません。ここで仕留めます!」
シフはスナイプの技能で、逃げに転じようとする魔獣の頭を狙い、両手の怯懦のカーマインの引き金を引いた。
弾は、魔獣の頭部に命中する。
「よし、完了。次は……悲鳴の聞こえてくる方にいけばいいかな。人が優先だからね。その次が物的被害」
ミネシアは空を飛んで、周囲の様子を探り。
彼女が発見した魔獣の元に、シフは従者と共に走っていく。
「こっちよ!」
高崎 朋美(たかさき・ともみ)は、市民の腕を引っ張って、自分に注意を向けさせようとするが、市民達は払いのけようとするだけで、朋美に反応を示しはしない。
「女王、女王」
「女王のところへ、女王のところへ」
彼らが求めているのは、女王だけのようだった。
「みんな、正気に戻って!」
そう叫んでみても、反応を示さない。
「だよね!」
朋美は肩をすくめる。
市民達は前に立って止めようとしなければ、攻撃をしかけてくることもなかった。
「『何か』には操られてはいるみたいですけど、自己防衛の本能までは生半可なことでは奪われへんはず」
高崎 トメ(たかさき・とめ)が、アーミーショットガンを市民達の方へ向けて、撃った。
当てはしない。ただ、そのまま進めば、当たると思われる位置に。
「死んだらなんにもなりませんで? 当たらんよおに、気ぃつけとくなはれ。」
市民達は、その場所を避けて、宮殿に向かおうとする。
「あなたも、こっちは危ないんだってばっ」
朋美はそのまま進もうとした市民を引っ張って、皆の進む方向へと向かわせる。
「そうそう、こっちよ、こっち……」
そうして、市民達の進路を逸らして、宮殿の門から離していくのだった。
「宮殿に向かうには、この路地を通るといいいだろう!」
四方津坂 彪女(よもつざか・あやめ)は、心神喪失に陥った市民を路地に誘い込んでいた。
市民達を抑えることが目的ではない――。
魔獣がこちらに向かっているからだ。
「来たか!」
走り込んできた魔獣に、賢狼をけしかける。
魔獣が狼と争っている間に、より多くの市民を路地に押し込む。
(今だ!)
人々が離れ、狼も距離をとったその瞬間。
カモフラージュの技能で身をひそめていた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)のレバーアクションライフルが火を噴いた。
スナイプの技能で狙いを定めており、弾は魔獣の頭に直撃した。
だが、即死とはいかなかった。
魔獣は暴れだし、建物に自らぶつかっていく。
(もう一発……)
乱世は慎重に狙いを定めて、次の一撃で魔獣を仕留めた。
「こりゃ大変な依頼じゃのう……」
自分の目で、空京の様子を見た鵜飼 衛(うかい・まもる)は、思わずそう呟いた。
「まあ、傭兵は黙って依頼をこなすだけじゃ」
市民を傷つけず、宮殿にも行かせないように。
そんな依頼を受けて、衛は空京に来ていた。
「この辺りがよさそうじゃの」
契約者達の奮闘により、大通りに心神喪失に陥った市民の姿はあまりなかった。
しかし、突破してきた者、新たに操られた者がいたのなら、宮殿にまっすぐ迎えるこの道を通る可能性が高い。
「はい、そうですわね」
衛、そしてパートナーのルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)は、ルーン魔術符を大量に大通りに設置した。
それから、ブリザードを全力で発動させ、衛は大通りに大きな氷壁を作りだした。
「一般人には突破できまい」
氷壁完成後は、衛とルドウィクは壁に登って、魔獣を探すと、狙い撃ちをしていく。
「ルーン魔術の恐ろしさとくと味わうといいわ!」
2人の魔法と銃の連打を受け、魔獣は動かなくなる。だが、遠距離からの攻撃では、息の根を止めたかどうかはっきりとはわからない。
「止めは、俺に任せて」
衛達の攻撃を受けた魔獣に、翼で空を飛び永井 託(ながい・たく)が向かっていく。
「うおおおおおおっ、スーパーブレード! こいつで思いっきりなぎ払ってやる!」
その間に、託のパートナーの那由他 行人(なゆた・ゆきと)は、別の魔獣と戦っていた。
「うわっ、一撃じゃ倒しきれなかった……ごめん、託にぃ!」
傷ついた魔獣が逃げていく。
「大丈夫!」
託はゴッドスピードで素早さを上げて、光条兵器「流星・光」で、傷ついた魔獣を1匹ずつ、急所を貫き確実に仕留める。
「行人は行人の全力を出せばいいよ、どうしようもないものは僕がどうにかするからねぇ」
魔獣を倒した後、託はそう行人に笑いかける。
「わかった!」
自分はまだまだだと思いながらも、行人はやれる限りのことをすると、心に決めていく。
「俺は! みんなを守るんだ!」
その言葉にこくりと託は頷く。
「君たちなんかに、僕の大切な人たちを傷つけさせるわけには行かないよ」
そして2人は次の魔獣の前に立ち塞がる。