空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション公開中!

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション


○     ○     ○


 空京の野外ステージには、バルタザールに操られた者達や、その場で拘束された一般市民が残っており、設備はあるが演奏を行うのは困難だった。
「さ、皆、舞台に乗りな!」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)が軽快に言う。
 シェリエから話を聞いた彼女は、移動劇場を、開放し奏者として集まった者達を荷台部分のステージへと招いた。
「足元に気を付けてな。荷物の上げ下げは任せてくれ」
 ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)は、奏者の荷物運びを手伝って、順番に奏者を並べていく。
 楽器を持つ者、シェリエが用意した楽器を使う者が、舞台へと上がって位置についていく。
五月葉 終夏(さつきば・おりが) ヴァイオリン
マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす) ヴィオラ
ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ) ヴァイオリン
ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす) ヴィオラ
ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと) ヴァイオリン
アレクス・イクス(あれくす・いくす) ティンパニ
ヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると) チェロ
遊馬 シズ(あすま・しず) チェロ
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ) フルート
アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ) ハーモニウム
フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると) ピアノ
ティエン・シア(てぃえん・しあ) 縦笛
テスラ・マグメル(てすら・まぐめる) キタラ
赤城 花音(あかぎ・かのん) アコーディオン
セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ) ヴィオラ
斑目 カンナ(まだらめ・かんな) アコースティックギター
獅子導 龍牙(ししどう・りゅうが) バイオリン
アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす) 龍頭琴
乙川 七ッ音(おとかわ・なつね) クラリネット
ラブ・リトル(らぶ・りとる) 龍頭琴
木賊 イリア(とくさ・いりあ) コントラバス
ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは) ホルン
フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん) パイプオルガン

 続いて、歌で演奏をしたいと申し出た者達が、舞台の前に立った。
渡辺 鋼(わたなべ・こう)
遠野 歌菜(とおの・かな)
蓮見 朱里(はすみ・しゅり)
アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)
クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)
城 紅月(じょう・こうげつ)
ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)
五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)
ベル・フルューリング(べる・ふりゅーりんぐ)
プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)

「演奏が始まったら、市民達が襲ってくる可能性もあるわ。警備に協力してくれる方、いるかしら?」
 ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は、警備を担当し、周囲に警戒を払っていた。
「観賞する方も、十分注意してね。奏者は正常でも、旋律が呪われているのなら……」
「そう、演奏することで、更なる禍を呼んでしまうかもしれない」
 シェリエが少し不安げな表情になる。
「大丈夫、ほら、皆さんもう音を奏でてるから」
 ニキータの言う通り、奏者達は人々の心を鎮めようと、仲間達を落ち着かせよう、良い曲を響かせようと、幸せの歌や、魔法の込められた歌を歌い始めていた。
 シェリエはこくりと頷いて、集まった皆を信じる。
 奏者に立候補した者達のパートナーは、それぞれのパートナーを見守りつつ、会場の警備や、撮影に努めていく。
セイ・ラウダ(せい・らうだ)
月崎 羽純(つきざき・はすみ)
アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)
関谷 未憂(せきや・みゆう)
サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)
レオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)
アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)
上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)
瀬乃 和深(せの・かずみ)
榊 朝斗(さかき・あさと)
ブランカ・エレミール(ぶらんか・えれみーる)
瓜生 コウ(うりゅう・こう)
広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)
ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)
清泉 北都(いずみ・ほくと)
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)
東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)
シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)
大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)
高柳 陣(たかやなぎ・じん)
マナ・マクリルナーン(まな・まくりるなーん)
リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)
アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)
荀 イク(じゅん・いく)
多比良 幽那(たひら・ゆうな)
早乙女 彩奈(さおとめ・あやな)
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)
ファニー・メンデルスゾーン(ふぁにー・めんでるすぞーん)
堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)
オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)

「ありがとう、こんなに沢山の人に集まってもらえるなんて……」
 シェリエは理沙から受け取ったストラトス・フルスコアを、持っていたフルスコアの一部と合せて楽譜を完成させた。
「皆、お願い、一緒に正しく奏でて!」
 そしてストラトス・ハーブで奏で始める。
 それに合わせるように、集った人々が演奏を始めた――。

 奏者、歌手達が、思いを音に変えていく。

 音楽は聞いている人を幸せにするもの。
 人の心に寄り添う、人の心が寄り添うもの。
 少しでもこの地と、人々の心に平穏が訪れることを願いながら。
 明るい気持ちを届けるために、明るい気持ちを込めて。
 人々を明るくしたいから、明るく奏でよう。
 愛しい娘に捧げたい。
 人々に、笑顔を届けたい、もたらしたい。
 許しあう心、愛し愛される心を思いだせる旋律を。
 パートナー達を守りたい気持ちを込めて。
 楽しめる、幸せにするのが音楽だから。

 様々な思いで紡がれた曲は――。
 バラバラだった。
 ひとつひとつの演奏はとても美しいのに。
 誰かの心に響く音なのに!
(この曲を正しく奏でるには、どうしたらいいの? 心を一つにするには、どうしたらいいの)
 シェリエは心の中で、姉妹のことを、母の事を、そして……父の事を想う。

「シェリエ」
 悩むシェリエの背に、懐かしい声が響いた。
 演奏を止めて振り向いた先に、母の――グリューネル・ディオニウスの姿があった。
「シェリエ姉、ママだよ、本物のママだよ」
 それから、妹のパフュームも。そして、彼女と一緒にナラカに行った者もその場にいた。
 シャンバラに戻って直ぐ、皆を連れて、グリューネルはここまでテレポートで飛んできたのだ。
「楽器と楽譜の呪いを解きます。あなたは指揮を。皆さんの心を一つにするのです、お父さんの代わりに」
 グリューネルは、シェリエからフルスコアを受け取り、祈りをささげていく。
「頑張ろ! ママと一緒にっ」
 ハーブはパフュームが受け取った。
「うん……」
 シェリエは涙を浮かべて、頷いた後。
 再び舞台へと目を向ける。
「皆、最高の演奏をして、空京の人々に喜んでもらいましょう!」
 言って、シェリエは両手を上げて、指揮を始めた。
 空京に響く音楽が、グリューネルの祈りと、シェリエの指揮のもと、1つにまとまっていく。

 人々が、旋律の方に、身体を向ける。
 視線を、耳を、心を向けてくる。
 うつろだった人々の目に光が戻っていき。
 顔に生気が戻っていく。

「あ、知ってる。さっきまでは、分からなかったけれど……この曲、聞いたことがある……懐かしい音」
 ニキータを手伝っていたタマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)が呟いた。
「アムリアナ様の為に演奏された曲」
 ニキータは五千年前の地球に封印されていたため、シャンバラで暮らしていた頃の記憶が残っている。
(人々は特別な式典で演奏されるその旋律に、感嘆の溜息と、音楽による女王の喜びに、ますます豊かになる大地の力へ感謝のことばを捧げた)
「アイシャ女王にも力を与えられるかも……」

「彼を」
 と、グリューネルがブルーズに目を向けた。
 ブルーズは頷いて、封印の魔石を砕く。
 現れた血に染まった強面の男の耳に、心にも、旋律が響き渡る。
 彼の目が見開かれ、何かを叫びだし、それから次第に、ゆっくり、落ち着いていく。
「あ、あれ? パ、パパ……パパの姿に、戻った。本当だったんだ」
 強面の男は、別人のようの姿になっていた。
 その姿、外見は、三姉妹の父、ファウストに間違いなかった。
「ごめんな、さい……」
 パフュームより先に、グリューネルがファウストに抱き着いた。
「……すまない」
 ファウストの口からも、苦しげな声が出た。

「綺麗な、曲――」
「心が、洗われるよう……」
 人々の口からも、言葉が漏れていく。

 穏やかな表情が溢れる。
 嘆息の音が響く。
 音が心を洗い、癒し、包み込み――。

 人々の心は、響き渡る旋律により解放された。