空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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第6章 神劇の旋律、響くとき

 ナラカで母を探すパフュームは、母の力の感じる場所へと辿りついていた。
「ママ、ここにいるの? ママ!」
 瘴気が渦巻く中に、闇色の蔓草見えた。
 大木を覆っているように見える蔦の中から、母の力を感じる。
「んっ、デスプルーフリングしてても、苦しい場所だね」
 言いながらもノーンはパフュームと共に、迷うことなく瘴気の渦の中へと入っていく。
「中にお母さんがいるのなら、傷つけないようにしないとね」
 武器は使わずに、蔦をかき分けて、ちぎって、進んでいく。
「長時間瘴気に触れすぎないよう、注意してください」
「気を付けてね」
 下方から、パワードスーツを纏った、白竜と羅儀も、声をかけながら蔦を引っ張って、ちぎり落としていく。
「ママ、ママ」
「……パフュ……」
 パフュームの呼びかけに、かすかに答える声があった。
「ママッ!」
「パフュームちゃん、上の方みたい」
 ノーンは氷雪比翼の氷の翼を広げると、パフュームを抱えて飛んだ。
「ママ、ここだね」
 手を伸ばして、パフュームは蔦をかき分けて――朽ちた洞の中に、閉じ込められている母を見つけた。
「パフューム」
 彼女を見た母は、微笑んでくれた。
 だけれど、酷く憔悴しているようだった。
 グリューネルは高位の魔法使いではあるが、死んではいない状態で、ナラカに閉じ込められていたため、生命力を吸い取られていたのだ。
「救出は俺が」
 クローラが空飛ぶ箒ファルケで近づくと、洞の中に降り立った。
 そして。
「貴女を迎えに来ました」
 と、手を差し出す。
「よろしくお願いします」
「はい、必ず貴女を無事、お送りします」
 クローラは弱っている彼女を抱きしめるように抱えると、箒の乗せて、瘴気の渦の外へと出ていく。
「ママっ」
 地上に下りた途端、パフュームはグリューネルに抱き着いた。
「心配かけてごめんなさい、パフューム。来てくれてありがとう」
 グリューネルはパフュームを撫でた後、協力者達に真剣な目を向けた。
「空京の事件につきましては、把握しています。私を……シャンバラに連れて行ってください。夫、ファウストの楽器の元へ行きます」
 ナラカは生者にとって過酷な場所であり、グリューネルは今も生きる為にかなりの力を使っている。
 パラミタに戻る事が出来れば、本来の力を発揮することが出来ると彼女は皆に説明した。
「わかりました。空京では今、大変なことになっていますが……何があっても、お護りします」
 加夜がグリューネルに手を伸ばして、立たせる。
「あの……旦那さんは、こちらにはいないのですか? 亡くなられている、とのことですので、一緒に戻ることは難しそうですが……」
 加夜の問いに、グリューネルは少し迷い。
「彼は……ファウストは、死んではいません。すぐ近くに、います」
 とだけ、答えた。
「えっ?」
 パフュームは目を見開いて驚く。
「とにかく今は、楽器の元に行かなければ」
 グリューネルは酷く苦しそうだった。
「ママ、これ使って。あたしは皆が一緒だから大丈夫」
 パフュームが、グリューネルの指にデスプルーフリングを嵌めた。
「ありがとう」
 優しい目で、グリューネルは礼を言う。
「では、一刻も早く、空京へ」
 クローラは、空飛ぶ箒ファルケの背に乗るように、グリューネルに言う。
「お願いします」
「飛ばすから、しっかり掴まっててください」
 言って、自分の腰に手を回させると、クローラは空飛ぶ箒を発進させた。
「最短距離で行くよ。敵に会うかもしれないけれど、護りきるから」
 セリオスも、自分の空飛ぶ箒ファルケに乗りながら、パフューム達に言う。
「ママをお願いね。あたし達も、地上からママを護るから!」
「ボク達も行くよ!」
「お母さんのことは任せてください」
 ノアが空飛ぶ箒スパロウに乗り、その背に加夜が乗り込んだ。
「うん。ママ、あとで沢山話しようね、ママ」
 小さくなっていくグリューネルを、手を振りながらパフュームは見送った。

 ナラカの赤い空に、バルタザールの配下の有翼種が待ち構えていた。
「近づけさせはしない!」
 セリオスはフラワシを呼び、周囲に炎を放ち、更に我は射す光の閃刃を放って、接近を防ぐ。
「無茶はやめてください」
 そして、援護をしようとするグリューネルを止める。
「貴女は死んじゃだめだ。ずっと待ってたんでしょ。やるべき事をするためにも」
 頷いて、グリューネルはクローラの背に身をゆだねて、目を閉じる。
「パフュームの代わりに、ボク達が絶対護るからね!」
 ノアはすぐ側を飛びながら、加夜と共に、魔法で敵を牽制したり、グリューネルを癒したりと、援護していく。
 親がいないノアは、自分の母親を護っているような気持ちが湧いてきて、なんだかすごく嬉しかった。
 協力者たちが大半の敵を地上に引き付けている為、空の敵はそう多くはなく、早い段階で振り切る事が出来た。

「素敵なお母さんだね。オレ達も早く戻ろう」
 羅儀は晴れやかな顔をしていた。
「……」
 対照的に白竜は無言だった。
 母親に会ったら出来れば軽くお願いしたいことがあったのだが。
 無駄だと分かってしまったから。
『娘さん達にもう少し布が多い服を着るように話してください』
 そう言いたかたのだけれど……。
「とても3人の子供を産んだ身体には見えないよな〜」
 羅儀はグリューネルが消えた方をみながら、にこにこ笑顔だ。
 そう彼女の外見はトレーネと似ており、三姉妹と同じような、露出度の高い服を着ていた。
「似合ってはいるんですけれどね」
 一人、白竜はため息をついた。
「皆と合流して、全員で戻るよ」
 デスプルーフリングを母に渡した為、パフュームは苦しげだった。
「戻る前に、これを渡しておきます」
 メティスがパフュームにディヴァルディーニを差し出した。
「ファウスト・ストラトスが、空京の市民のように心を奪われた状態で、敵の手に落ちているのなら。この場に、敵は彼を送り込んでくるだろう。適任だからな」
 レンがパフュームに言う。
「それは、つまり……」
「おそらくは、演奏を指揮し、配下を指揮していたあの強面の男がそうなのではなか?」
 レンの言葉にパフュームは首を左右に振った。
「ち、違うよ。パパは優しくて穏やかな顔をしてるの。あんな怖そうな人じゃない」
「でも、グリューネルさんは近くにいると仰っていました。彼であっても、そうではなくても、ファウスト・ストラウスの心を揺さぶる曲を披露できるのはパフュームさんだけ」
 下手でもいい。
 父親との思い出でも、子供の頃に教わった練習曲でもいい。
 それを聴かせてあげて。
 そして助けてあげて、と。
 メティスはディヴァルディーニをパフュームに持たせた。
「パフュームちゃん、行こう!」
 ノーンや仲間達に支えられながら、パフュームは敵を引き付けてくれている仲間達の元に戻る――。

 仲間達の奮闘により、敵の大半は倒されていた。
 だが、数で劣るため、契約者達もかなり消耗し、負傷していた。
「パパ……本当にいるの?」
 パフュームは、メティスに言われたように、子供のころに父に教わった曲をディヴァルディーニで奏でた。
「ぐ……うっ」
 音に反応を示したのは、血に染まった強面の男だった。
「やはりそうか……しかし」
 レンが鋭い目を向ける。
 彼女の演奏で、強面の男に変化が表れることはなかった。
「ぐあああっ!」
 逆に、音に抗うかのように、細身の剣を狂ったように振るい始める。
「これ以上は危険だ。保護させてもらうよ」
 天音がそう言い、ブルーズに目を向ける。
 頷くと、ブルーズは封印の魔石で強面の男を封印した。
「外見は本人のものではなさそうだけれど、ナラカ人に乗っ取られてるというわけでもなさそうだ」
 天音は封印の魔石を見ながら、ひとり分析をしていく。
(フルスコアが五千年前の物だった事を考えると、ファウストの音楽活動と妻との出会いに何か関係が……)
「パパ、なの? 本当に!?」
 息を切らしながら、パフュームが駆けてくる。
(続きは、シャンバラに戻ってからのようだね)
 天音は穏やかな目で彼女を迎える。
「地上に戻ったら、すぐに石を壊して治療しよう」
「うん。ママのところに、トレーネ姉のところに連れて行かないと!」
 パフュームは封印の魔石を信じられないというように見つめている。
「殲滅の必要はありません。退きましょう」
 目的は果たしたと判断し、白竜が言う。
 まだ動ける敵も、先に向かったグリューネルに追いつくことは出来ないだろう。
 パフュームと仲間達は、互いを回復しあうと、ゲートに向かって走りだす。