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リアクション
「街の皆は、女王がいると思われる場所に向かっているのよね。女王の幻影とか、宮殿の蜃気楼とか作れたら……」
フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は、魔法でそういったことが出来ないか試してみたが、思うように作りだすことは出来なかった。
「皆さん言葉は理解できるようですから、言葉でどうにか誘導できませんでしょうか」」
ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)は、集めた情報を見ながらそう言った。
「そうね。やってみましょう」
少しでも宮殿にいる皆の負担を減らす為に。
フレデリカは外壁を乗り越えて宮殿に向かおうとする人々に呼びかける――。
「女王は既にテレポートで宮殿から脱出したんだって。飛空艇で追いましょう! 広場に用意してあるから」
そんな彼女の呼びかけに、何人かの市民が反応を示す。
フレデリカとルイーザはこくりと頷き合って、あらゆる言葉で市民達を宮殿から離していく。
「回復魔法が使える者は、治療を頼む。精神力が低下しているものは、室内で休んで回復を図ってくれ」
天城 一輝(あまぎ・いっき)は、宮殿から近いスポーツセンターにいた。
ここには、心神喪失に陥った市民も、魔獣も入り込んでいない。
ここを安全地帯として確保し、活動の拠点としてHCを持つ仲間に伝えている。
「助かりました……」
「本当に突然のことで、驚きましたわ」
戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が駆け込んできた。
街で買い物をしていた彼らは、突然の事態にまだ戸惑っていた。
他にも正気の市民や契約者が駆け込んで、テレビやインターネットで情報を集めていく。
「押し返すこともできぬというのが、やはり難しいな」
ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が呻きながら外の様子を見る。
プッロは籠城戦の経験もあり、突破されそうな場合の防衛のコツなども心得ていた。
が、押し返すこともできない。
後退もほぼ不可能。
といった状況に頭を悩ませていた。
「だが、この騒動は時間を稼げば、解決に至る。それまでこの安全地帯を活用し、宮殿を守るのみだな」
「そうだな。対処に動いている方々を信じて待つ、持たせるしかないということだ」
皆を信じ、一輝とプッロは負傷した仲間達の救出に動き、安全地帯の確保に努め続ける。
「凄い人数だな……」
マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は宮殿に向かう人々の多さに驚いた。
「流石に市民を『焼却』する訳には行かないか……全く阿片より性質が悪い歌だ……」
パートナーの林 則徐(りん・そくじょ)も、どうしたものかと考えるが。
「だが、すべきことに変わりはない」
マイトはそう言うと「わかった」と頷き、則徐はマイトと共に乗っていた飛空艇の高度を下げる。
そして則徐は火術を放つ。勿論、市民に当てはせず、牽制のために。
更に、しびれ粉を巻いて、市民の動きを鈍らせた。
「援護、頼んだぞ」
言って、マイトは飛空艇から飛び降りると、市民に飛びついて、抑え込みや逮捕術の技能を駆使して、市民を投げ、締め、抑え込み、手錠をかけていく。
「くっ……手錠がいくらあっても足りない」
「しびれ粉も足りない、となると」
則徐も飛空艇を下りると、モンキーアヴァターラ・レガースと疾風迅雷の技能で壁を高速で走り、登ろうとした市民を落としていく。
「空は任せて」
マイト達が市民を押さえている場所の上空に、スウェル・アルト(すうぇる・あると)とアンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)が現れた。
スウェルはアンドロマリウスに目を向けて言う。
「どちらも、傷つくのは、駄目」
「はい、アンちゃん達も市民を止めるお手伝いをしましょう」
アンドロマリウスはそう微笑む。
スウェルはブルーブレードドラゴンに乗って、アンドロマリウスは虹を架ける箒に乗り、宮殿の敷地を囲む壁の上空で、市民達と対峙する。
近づいてくる市民にアンドロマリウスはミラージュを使って、幻影を見せて。
避けようと一か所に集中しだす市民に、スウェルがしびれ粉をかけた。
「よし、確保させてもらう」
しびれて壁の外に落ちていく市民を、マイト達が確保する。
拘束後に、マイトは1本電話をかけた。
「こちら、マイト・レストレイドだ。壁を乗り越えて宮殿に入ろうとしている市民を抑えている。手錠や縄、できれば輸送車も回してもらえたら助かる」
手短に在籍している空京大学に連絡を入れると、仲間と共に市民達の確保を続けていく。
「このあたりでいいだろう」
「やるんですね……」
上社 唯識(かみやしろ・ゆしき)と戒 緋布斗(かい・ひふと)は、少しでも女王のために何かが出来れば……そう考えて、宮殿の近くまでやってきていた。
市民を傷つけることのない行動をしなければならない。
2人で壁になっても、あっという間に倒されるだけだろう。
そう考えた彼らが協力の手段として選んだのは……。
「あ、来ました!」
虚ろな目の市民達が、こちらへと近づいてくる。
2人は急いで服を脱ぎ、スパッツ姿になった。
そして、市民達の前に躍り出て同時に鬼神力を発動!
突然目の前に現れた鬼に、市民達は一瞬だけ固まった。
後方を歩いていた市民達が、前の人物とぶつかって転倒する。
「大した足止めにはならないが、やらないよりはましだろう」
そう呟く唯識に対して。
「できるだけやりたくないですよね。薔薇的な意味で」
緋布斗はぼそりと呟いた。
「あっ、魔獣が電撃を放ちました!」
興奮した声で、アナウンサーが言う。
その放送局のカメラは、道路にいる魔獣と、魔獣の攻撃の被害に遭った人々を映し出している。
「さよならね」
カメラの死角にいた少女――アニス・パラス(あにす・ぱらす)が、神威の矢を放ち、魔獣を倒した。
「魔獣が勇気ある契約者に倒されたようです。救護班が市民達の救出に向かいました。……あ、大丈夫のようです、皆無事です! こちらからの中継、終わります」
アナウンサーが状況を語り、中継を終わらせた。
「サンキュ。じゃ、次行くか」
アナウンサーの後ろにいた佐野 和輝(さの・かずき)が、軽く笑みを浮かべる。
実は先ほどの魔獣は、和輝とアニスが街で捕えた魔獣だ。
弱らせて、街中に配置し、和輝が放電実験を使って、あたかも魔獣が放電したかのように見せかけて、心神喪失状態の市民を弱らせた。
その全てを、根回しで引きこんだ放送局にこうして撮らせているというわけだ。
そうして彼は、表には出ず、宮殿に向かう人の数を減らしていた。
「おさない! かけない! 夢見すぎない! 魔法少女グッズは売り切れた! 代王の自宅を警備する!」
アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は、宮殿に押しかけている市民達を敷地外に誘導しようとしていた。
しかし市民は無反応で、アルクラントのことを完全無視して、宮殿に向かっていく。
「アル君……何言ってるのかわからないんだけど」
パートナーのシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)も白い目でアルクラントを見ていた。
「だから誘導をするんだ。誘導といえば、話に聞く、同人誌即売会スタッフを見習うべきだろ」
「どうしてそうなるの。しかもどこがそうなの」
「……え、違う? いや、私実際の行った事ないし……」
アルクラントのその言葉に、シルフィアはふうと息をつく。
「とりあえずやりたいことは分かったわ……そうね、目標の場所を勘違いさせるとか出来たらいいんだけどなー」
「そうだな。ならば!」
アルクラントは再び市民の前に向かう。
「女王の寝室はあちらだ。そろそろお昼寝タイムだからな、おさない! かけない! さあ行こう!」
そんな掛け声には反応を示す市民もいた。
「おお、効果あった!? それじゃ、ワタシも……」
シルフィアも、アルクラントと共に、女王が別の建物にいるかのように大声で市民に話していき、反応を示した市民を駐留軍駐屯地の方に誘導するのだった。
「TVやラジオ、パソコンは一旦消してくださーい。あの曲を聞いたら、多少影響が出るかもしれないですからー」
ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は、病院、学校、孤児院を優先して回り、そう呼びかけていた。
「っと、こんなところにも魔獣が……」
孤児院の庭に魔獣が飛び込んできた。
ティアは孤児院を背に、空を見上げる。
「ソゥクゥ! イナヅマキック!」
声と共に、仮面ツァンダーアクションスーツを纏った人物が降ってきて、魔獣を蹴り飛ばした。
すぐに起き上がり、飛び掛かってくる魔獣に、仮面ツァンダーは身体を回転させ、闘気が籠もった足でキックを決める。
「青心蒼空拳! ソークーツァンダー閃光穿孔キックッ!」
派手に吹っ飛んで魔獣は動かなくなる。
「おー。すげー……」
「仮面ツァンダー!」
窓から子供達が顔をのぞかせて、手を振ってくる。
「良い子の皆、窓は締めておくんだぞ! トウッ!」
仮面ツァンダー……風森 巽(かぜもり・たつみ)は、再び空へと消えていく。
「……さて、次の施設に行かなくちゃ」
小さな笑みを漏らし、ティアも次の施設に向かっていく。