校長室
リアクション
○ ○ ○ 正気に戻った人々は、建物の中に避難していき、魔獣の掃討作業が始まった。 その頃には、契約者に大半倒された後ではあったが、負傷した魔獣が人目につかない場所に潜んでいる能性もある。 市民の対処に当たっていた契約者も加わり、慎重に念入りに空京中の探索を行い、魔獣を討伐していく。 ただ、死人と化してしまった者達はそれだけでは元に戻らない。 また、バルタザールの配下のうち、武装していた者達――クルセイダーという部隊のメンバーは、バルタザールの死と同時に姿を消していた。 グリューネルとファウストは、アレナの護衛についていたロイヤルガード達と合流すると、宮殿を訪れた。 宮殿の前は、未だに戦場だった。 死人と化した人々が、人々を傷つけ合っている。 壁となっている者達の体力、精神力ももう、とうに限界を超えており、意識を失っている者も、死人となってしまったものも、いた。 「グリューネル・ディオニウスです。シャンバラ古王国時代、宮廷楽師として、アムリアナ女王にお仕えしていました」 グリューネルは理子と対面すると、そう自己紹介をして古王国の紋章を見せた。 「信用するわ。神劇の旋律についても、説明を受けたから」 ティセラとアレナも、理子の元に戻ってきていた。 「こっちに来て。今は女王に会わせることは出来ないけれど……」 理子は宮殿の奥に、2人と、それから2人が連れている契約者達を導いた。 グリューネルと、ファウストは、神劇の旋律を奏でた者の中から何人かに声をかけて、協力を求めていた。 「この先で、女王は世界のために祈りを捧げているの」 理子のその言葉に頷いて、グリューネルがファウストに顔を向けた。 ファウストも首を縦に振ると、指揮棒を手に、協力者達と向かい合う。 「この楽譜に記された旋律は、女王に捧げるために作られた旋律。女王のお力となる旋律です」 グリューネルがそう言い、ファウストが指揮棒を上げる。 「神聖な讃歌を女王に捧げましょう。 音楽は、心のかけら。心の中から生まれたものよ。 晴れの日も、雨の日も、どんな時でも人の心に寄り添うわ」 フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)は、パートナーのオデットが見守る中、預かったストラトス・ハープを弾き始めた。 (喜びや幸せなら倍にして、悲しさや寂しさから立ち直る力だってくれる。 私は、音楽の力を信じてる) 「さあ―――“心を込めて”、奏でましょう」 「この旋律を、自らの手で女王に捧げる機会がくるなんて、ね」 平和の願いと、かつて騎士として女王に仕えた忠誠の想いを込めて、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)は預かったストラトス・フルートを奏でた。 パートナーのコウは目を閉じて心で旋律を聴く。 (タシガンはウゲンによって作られた。 俺も作られた種族の末裔になるんだよな……。 それでも、このパラミタに生まれた者として、女王は特別な存在だ。 俺の持てる全てを、曲に乗せて届けたい) ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)は、曲を読み取り、女王への想いをこめて、指揮と、他の奏者の演奏と合せ、ヴァイオリンを奏でる。 (アイシャ女王様にも元気になってほしい。曲に込められた想いが、皆にも響くように――) パートナーの北都は、傍でそう願っていた。 (世界を守りたい。 皆に幸せになってほしい。 それは契約者としてこのパラミタに来た時からずっと思っていた事) エメはアレクス・イクス(あれくす・いくす)に優しい目を向けた。 アレクスは力強く頷くと、預かったストラトス・ティンパニを叩く。 ぷにぷに肉球の猫パンチでリズミカルに。 (女王様元気になってほしいにゃう 女王様の元気は、シャンバラの元気にゃう みんなの元気にゃう みんなと一緒に 幸せな気持ちを 元気を 護りたい思いを 世界中に届けるにゃう! 讃歌よ届け! にゃう!) 「音楽ってのは、演奏技術も大事だがそれ以上に誰のために演奏するのかって気持ちが大切なんだよな。女王サンのために作られた曲なら、女王サンの事を想って演奏しないとな」 遊馬 シズ(あすま・しず)は、ストラトス・チェロを預かり、女王の事を想い、ファウストの指揮に従って旋律を奏でる。 (遊馬くん、自称『音楽の悪魔』っていうだけあって、演奏上手いけど……悪魔って『女王様のため』に演奏してくれるものなのかな……) 近くで、パートナーの秋日子は軽く首をかしげている。 でも、彼は悪魔らしくないかいから。彼らしい行動、なのだろう。 パートナーの未憂が見守る中、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)は、歌を歌った。 プリムは、目を閉じて曲に集中する。 その旋律に込められているのは、女王を、シャンバラを、想う気持ち――。 浮かぶ景色を感じていきながら、どのように描かれたのか、考えながら。 心を、添わせていく。 女王に、空京、シャンバラ、パラミタに住まう人に、大陸を支える巨人に……届くように。 (うたはさいしょは、はただの、おと。つながってメロディに。ことばをのせていみがかたちづくられる――) 「あなたのうえに、やさしいうたと、やさしいことばを、あなたのむねに、ひとつぶのあかりを」 (女王様と一緒に、世界を守りたい。皆に幸せになってほしい) そんな想いを胸に、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)はピアノを借りて、弾き始めた。 (歌劇で名をなしたかったが叶わなかったフランツ君の心境や如何に?) 彼の想いを知っている、パートナーの泰輔は、穏やかな目で、そして奏でられる旋律に感動しながら、演奏をするフランツを見守っていた。 レオンは演奏が始まる前に、城 紅月(じょう・こうげつ)にキスをした。 そして、気休めではあるけれど、清浄化を使って市民達の回復を祈りながら見守る。 紅月は、レオンに笑みを見せた後、アイシャのいる部屋を見つめた。 (俺はね、音楽って「愛」だと思うんだ。 心を包みたいと思って歌う歌は、たくさんの人を包む【心の手】になる。 この心の掌に、皆を包みたいと思って、いつも歌ってる。 俺にとって、女王様……アイシャちゃんは、お星様。 逢った事ないから、届かないところで輝いてる星なんだ。 でも、今日ぐらいは俺が包んであげたいと思っちゃダメかな? 貴女に伝えたいことはたくさんあるんだよ) 想いを乗せて、紅月は歌を歌っていく。 「旋律は、さまざまな音の重ね合せと調和で成り立ちます。妙なる調和! その歓喜の輪に、私も加わって女王陛下をお守りすることができるならば、これに勝る誉れはありません」 技芸の限り、ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)は、預かったストラトス・ホルンを奏でる。 音楽の力の信奉者として、女王と一緒に世界を守りたいとヴォルフラムは思っている。 (平和と平穏を望む心が、天に届きますように) 彼を見守りながら、パートナーの一寿は心を重ねる。 「無力な私にできることといったら、本当に限られていますからね。 少しでも助力できる選択肢の中に、『音楽』が入っている事は、ほんとうにありがたいことです」 女王様と一緒に、世界を守りたいと思っているから。 皆に幸せになってほしいと思っているから。 音楽の、歌の持つ力を信じているから。 他の人、しかし仲間と調和して紡ぎ出すハーモニーには力が宿るものだ、と思っているから。 「この祈りが、届きますように!」 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は、歌を歌う。 (綺麗な音……。私も次は、ハーモニーに加わりたいわね) アリアンナは、活き活きと歌うパートナーのロレンツォを眺めながら思った。 ファウストの振る指揮棒に合せて、奏でられる高貴な旋律は、祈りをささげるアイシャの元に、パラミタを守る力に沁み込んでいく。 膨れ上がった、国家神の力が、周囲の人々を包み込む。 死人は処置を施す前に、生者へと戻り。 ロイヤルガードと壁となった契約者の体に、力がみなぎっていく。 「ありがとうございます。シャンバラの力が――パラミタを癒してくださいますように」 力と共に、アイシャの声が皆の脳裏に響き渡る。 |
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