空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション

(駐車場の方にお願いします。今のところ落ち着いていますが、突然魔獣が現れる可能性もあります。院内までの搬送もお願いできますか?)
 ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)は、テレパシーで救護活動に当たっている契約者と連絡を取っていた。
 彼女自身は、空京病院の警備に当たっている。
 怪我人は続出しているが、操られている人々や魔獣が徘徊していることもあり、病院に運び込まれた怪我人の人数はそう多くはない。救急車両の出動が困難なのだ。
 病院の正面玄関に、車が到着を果たす。
「車内で状況は聞いた。私の専門は整形外科だ。患者の元に案内してくれ」
「サンキュー、助かるぜ。これから怪我人がどんどん運ばれてくるからな」
 到着した車の中から出てきた医師達をニコライ・グリンカ(にこらい・ぐりんか)が護衛して院内へ案内する。
 ニコライ達は、空京だけではなく、シャンバラ各地の医師や看護士に呼びかけ、空京に招いていた。
「あの……逸れてしまって。エミン・イェシルメンいませんか? もしくはこの、人形たち……に、似た機晶姫。を、しりませんか?」
 きょろきょろあたりを見回しながら現れたのは、金襴 かりん(きらん・かりん)
 耳の聞こえない機晶姫だ。
「いやわかんねぇな。とにかく外にいたら危険だから、中に入ってろよ」
 ニコライがかりんを労り、病院の中に案内した。
 中には、カメラを持ったマスコミがいる。
「名前が分かってる奴は名簿に載ってるはずだから、確認してみな」
 まがった性格の彼だが、カメラの前ではお人好しを演じていた。
「あ、かりん! よかった。兄弟探しはちょっと中断。この初めて地上に出た人魚のように純粋で美しいお嬢さん達の治療を、手伝ってくれないかな?」
 かりんのパートナーエミン・イェシルメン(えみん・いぇしるめん)は、怪我人に付き添って病院を訪れていた。
 そのまま、ナーシングの能力で、軽傷者の治療に当たっていたのだ。
 こくん、と頷いてかりんはエミンの元に行き、至れり尽くせりの技能で、彼女をサポートしだした。

「あたたた……」
「ソール……無茶をするからです」
 ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)と、本郷 翔(ほんごう・かける)が病院の入口をくぐった。
「どうされましたか?」
 警備についていたサウザリアスがまず、声をかけた。
「拳銃を撃ってくる街の人と遭遇してしまいまして、彼が撃たれてしまったんです」
「体ん中に弾が残っちゃったみたいでさ。優しく治療してくれない? 膝枕とかしてさ」
「ソール……」
 こんな時にでもナンパに走りかねないパートナーに対して、翔は深く息をつく。
「魔法で応急処置はできますから、後回しで構いません。部屋が空いていたらお借りしたいのですが」
「それはベッドを借りたいってことだよね、待ち時間は、痛みが吹き飛ぶくらい楽しで過ごそうな、翔……あたたっ」
 翔がぐいっとソールの体を引っ張って歩き出す。ソールは激痛に顔をしかめた。
「まったく、こんな時に……」
 そう言いながらも翔のソールを見る目は優しかった。
 彼は、翔を庇って負傷したのだから。
「話は通しておきましたので、5階の病室へお願いします」
 サウザリアスは2人にそう話して、エレベーターの場所を教えた後、入口の警備に戻るのだった。
 今のところ、病院を狙って来る者はいない。
 注意すべきは、魔獣のみのようだった。

○     ○     ○



 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は小型飛空艇で上空から状況を見ていた。
「そこの交差点にお願いします」
 駐留軍にお願いをした後、深く息をつく。
 彼女がした提案は、交差点を大型車両でふさぎ、炎上させて通れなくすること、だった。
 また、放水車、消防車を動員して市民に対しての放水を行い進行を出来なくすること、なども。
『将棋倒しになったりしないよう、水圧には注意してるから安心して』
 パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)からそんな連絡が入る。
 彼女は消防隊員に協力して、放水を行っている。
 また、氷術で濡れた地面を凍結することで、市民の進行をも阻んでいた。
 ゆかりの目に、転んでいる市民達の様子が入る。
「怪我人が出てしまうだろうけれど……やむを得ない。市民は出さないように手を打っていかなきゃ」
 人々の様子に胸を痛めながら、ゆかりは状況を見て回り、通信で知らせていく。

「お水、いかがですか? 喉が渇いたでしょう?」
 ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)は、施設の中に集められている市民にペッドボトルを差し出した。
 だけれど市民達は、受け取ったものをそのままペルディータに投げつける。
「女王、女王、女王」
「通せ、通せ、通せ」
 そう騒ぐが、彼らの足は縛られておりその場から動くことは出来ない。
「入るぞ」
 声が響き、ドアが開く。
 七尾 蒼也(ななお・そうや)が、女の子を連れて入ってきた。
「この子、魔獣に襲われていたんだ。傷は治したけれど、心は戻らなくて」
 蒼也は悲しそうな顔をする。
「女王さま、女王さま、女王さま……ふふ、ふふふ……」
 虚ろなめでいう少女は、とても可哀相だった。
 避難の呼びかけも、優しい語りかけも今は人々に届かない。
「それじゃ、この子頼むな。多少宮殿が壊れても、市民は守らなきゃな。警察は市民を守ってくれないからな……」
 そう呟きながら、蒼也は街へと戻っていく。
 魔獣だけではない。警備に当たっている者が必要以上に市民を傷つけることがないよう、見回っていく。

「多少怪我させた方が結果的に大人しくなる。効果的だよ」
 対照的にメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、宮殿を守ることが最優先と考えていた。
「一般市民は多少減ってもまた増えるが、女王はそういう訳にはいかないのでね」
 そう言うと、共に対処に当たっていたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が眉を顰める。
 エースはメシエのその考えには賛同できない。
 だが、一般市民を傷つけたくはないが、女王や代王に何かがあれば、無政府状態になりかねないし、シャンバラの衰退は勿論のこと、パラミタの崩壊も早めてしまう。
 ロイヤルガードや軍隊が市民を攻撃するのは、政府への反感を招きかねないが、一市民の自分達なら『一般人の喧嘩です』で大事にならず済ませそうだとも考えて。
「アレらは野生動物と同じで効率など考えず突っ込んできているから、こちらに来ると生命が危険だと感情的に判らせた方が抑制できる」
 そんなメシエの言葉に反論が出来なかったこともあり、エースは乗り気ではないながらも、魔法攻撃でメシエに協力をしていた。
「ほら、私達を避けようとしている。危険と感じてね。ま、避けさせないけど」
 メシエはブリザード、ファイアストーム、サンダーブラストを連続で放っていき、市民を死に至らしめない程度に攻撃していく。
 起き上がれなくなった市民は勿論、危険を感じた者も2人を避けて、別の方向から宮殿に向かおうとしだす。

 宮殿に向かう小道にて。
「愚かなことはおやめなさい!」
 技能で防御を固めてから、ネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)は市民達の前に立った。
「……っ」
 彼女は手を出さず、市民達を阻み通さない。
 市民達が突破しようと集まったその時。
「これ以上はやめておけ! もし突破できても何もいいことはないからな」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が、毒虫の群れ、野性の蹂躙で毒虫と魔獣を呼び寄せ、市民達にぶつけた。
 市民達はダメージを受けて、毒に侵され、崩れ呻いていく。
「宮殿に入ったら射殺……はあの女の妄言だろうけれど、武力で押し返えされるのは確かだろうだから。それに比べれば、カワイイもんだろ」
 言いながら、ヤジロは市民達の中で攻撃魔法を使える者から、ワイヤークローで捕らえて皆から引き離していく。
「こんな卑怯な手を使う者の思惑通りには絶対いかせませんよ!」
 ネイジャスもヤジロと同じように、ワイヤークローで攻撃能力の高い市民を、これ以上傷つけることなく捕らえて引き離す。
 少しでも、宮殿にいる皆の負担を減らすために。女王とシャンバラのために。