空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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 シェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)が楽器を持って駆け付けた時、バルタザールは好みの女性を弄びながら、戦況を見守っていた。
「バルタザール! フルスコアは何処!?」
 シェリエはバルタザールと少し距離をとり、叫んだ。
「うふふ、待っていましたわ、シェリエ。楽器、引き取らせていただきますわね」
 バルタザールに命じられ、操られた人々がシェリエの方へ向かってくる。
 一歩、足を後ろに引いたシェリエの前に、チョコ・クリス(ちょこ・くりす)を肩に乗せた、白波 理沙(しらなみ・りさ)が出た。
「呼びかけに応えて沢山の方々が、ステージの方に集まってるわ。シェリエは演奏を成功させることだけを考えて」
「ありがとう」
 シェリエが一旦その場から離れようとした瞬間。
「逃がさない」
 向かってくる人々の中から一人、セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が飛び出した。
 バーストダッシュで理沙を跳び越え、シェリエの元に下りて、雅刀で斬りつける。
「あ……っ」
 避けようとしたが、楽器を庇った為、シェリエは胸に傷を負う。
「あなたには遠慮をする必要、なさそうですね。はあっ!」
 理沙が振り向いて、則天去私でセフィーを退ける。
「楽器、楽器、楽器」
「わたしものも、ほしい、がっき……」
 操られた人々も、シェリエの方に向かってくる。
「大丈夫よ、演奏、お願いね」
 理沙は人々の攻撃を背で受けながら、シェリエを行かせる。
「うん、またあとでね」
 シェリエはこの場を理沙に任せると、野外ステージの方へと駆けて行った。
「理沙しゃん、がんばってくだしゃいね」
 チョコがヒールで理沙を癒す。
「大丈夫。落ちないように、ちゃんと掴まっててね」
 そう言うと、理沙は反転して、襲ってくる人々を振り払う。
「あの子には恨みがあるの。邪魔よ、どきなさい!」
「良い身体をしてるしな。色々興味もある」
 セフィーが起き上がり、パートナーのオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)と共に、理沙を突破しようとする。
「なおさら、通せないわ!」
 理沙はシェリエを追おうとするセフィーとオルフィナにレジェンドストライクで対抗し、傷を負いながらも後ろには通さなかった。

「皆様のせいで、ティセラさん達を見失ってしまいましたわ。その分も楽しませてくださいませね」
 くすくす、バルタザールは笑う。
 付近には、セフィー、オルフィナ、理沙の他に、竜造と戦う、セイニィ、パッフェルの姿がある。
 誰から、惹き込もうか。
 怪しげな眼で物色するバルタザールの前に、上空から男性が舞い降りる。
「あんたが首謀者だな」
 バルタザールに剣を向けたのは、魔鎧のリーゼロッテ・リュストゥング(りーぜろって・りゅすとぅんぐ)を纏った桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だった。
 神降ろしで絶大な力を得て、煉はバルタザールに斬り込む。
「面倒そうな男ですわね」
 バルタザールの声のトーンが下がる。
「力ずくでも止めさせてもらうぞ」
 煉はバルタザールを取り囲む人々を素早い動きで躱し、繰り出される攻撃はブレイドガードの技能で弾く。
 そしてバルタザールへ接近した。
「いやですわ。あなたはいりませんわ。近づかないでくださいます?」
 バルタザールは、煉を神の審判で攻撃。
 煉は左手の神獣鏡で、一部を弾き返す。
 ダメージを受けながらも、速度は緩めず、寧ろ流星のアンクレットで加速して、一気に間合いに入り込む。
「女性だけ生き残らせる魔法が、あるといいのですけれど」
 バルタザールは徹雄の無差別攻撃で石化した市民を抱きしめながら、片手を上げて魔法を放とうとする。
 その瞬間。
 ドン、という音と共に、バルタザールの体が大きく揺れた。
 遠方に隠れ、息をひそめてひたすらチャンスを待っていたマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)の狙撃だった。
 側では近衛 美園(このえ・みその)が、情報収集や感知で、マルティナをサポートしており、マルティナは技能を駆使しての、1度限りの狙撃だけに集中していた。
 彼女の放った弾は、バルタザールの側頭部にヒットし、バルタザールに致命傷ともいえる傷を与えていた。
 バルタザールが回復に切り替えようとしたその間に。
「これで終わりだ!」
 煉が、様々な技能を合せた奥義、真・雲耀之太刀を放った。
 ただ、彼女が抱えている一般人を斬ることは煉には出来ない。
 放った技は、バルタザールの腕を弾き飛ばしていた。
「ああ……うっ」
 バルタザールの腕から、石化した市民が解放される。
 煉は市民を確保する。
(パッフェル、今!)
 光学迷彩を用い、ひそかに接近していたが、Pキャンセラーでバルタザールの能力を封じた。
 バルタザールが放とうとした、強力な回復魔法、もしくは攻撃魔法は不発に終わる。
 そこに、パッフェルの星銃パワーランチャーによる一撃が飛んでくる。
 バルタザールの体が、弾かれるように吹っ飛んだ。
 その先に。
「あなたが生きていたら、また同じことが繰り返されます」
 潜んでいた志方 綾乃(しかた・あやの)が、能力で最大限に上げた機動力で、バルタザールに接近。
 そのまま通り抜けた。
 すれ違いざまに、バルタザールの体を一刀両断して。
「念を入れさせてもらうぜ」
 更に、ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)が、バルタザールが崩れ落ちる前に、ライド・オブ・ヴァルキリーで突撃。バルタザールの斬り裂かれた体が、周囲に飛び散った。
「……ティセラと殺し合うために、殺っておいた方がいい奴らがいるようだな」
 バルタザールが倒されると、竜造は興味を失ったかのように徹雄と共に去っていった。
「やれやれ、興が冷めたぜ」
 オルフィナもつまらなそうに言い、重傷のセフィーを連れて去っていった。
「ティセラやアレナを捕らえて、何をするつもりだったのか。パートナーロストのダメージで、ロイヤルガード隊長にダメージを与えようとしていたのか? 鏖殺寺院のようなやり口だ」
 呟きながら、ラグナがズタズタになったバルタザールを見下ろす。
「……」
 綾乃は何も言わずに、地に膝をつき、バルタザールの死を確認する。
 彼女はアレナ達をバルタザールが追っている時から見ていた。
 彼女達を囮に、チャンスを伺っていたのだ。
 自分の行動に関して、言い訳をするつもりもなかったし、罰が下されるのなら、甘んじて受けるつもりだった。

 市民を庇いながら竜造と戦ったせいで、セイニィは酷い傷を負っていた。
「怪我をした人を治してあげて。死者を出さないで……っ」
 ロイヤルガードとして犠牲を出したくないという思いと、狙われていたティセラが、わが身を守るために、市民を見捨てたのではないかという、悪い噂が立つことも恐れて。
「怪我の酷い人から治せばいいのねー」
 オリヴィアや回復魔法を使える者達が、人々の治療を急ぐ。
 最後でいいと言い、治療を受けないセイニィには、パッフェルと円が寄り添っていた。
「普通の女性ね……」
 理沙がバルタザールの仮面を外して、素顔を見た。
「シェリエのところに、届けないと」
 それから、ストラトス・フルスコアを探しだし、シェリエに届ける為にステージへと向かった。