空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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第7章 明日

 シャンバラ宮殿会議室。
 代王の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)を始めとする要人が集まったその場で、ファウスト・ストラトスが、グリューネル・ディオニウスと共に、事件の経緯と真相を語り始めた。

 グリューネルは、シャンバラ古王国時代から生き続ける魔女だ。
 元々は、シャンバラ女王に音楽を提供していた、宮廷楽師であった。
 およそ5000年前、シャンバラ古王国が滅んだ際に、呪いによって魔女となり、以降は地球で生き続けていた。
 彼女はシャンバラ女王に捧げていた楽器と楽譜を所持しており、これを使って演奏が出来る者を探していた。
 現代に入って、ファウストという若者を見出し、最初は才能を理由に近づいたのだが、付き合ううちに本気で惚れて、彼と結ばれた。
 ファウスト・ストラトスはそれまで鳴かず飛ばずであったが、グリューネルの期待通り、禁断の旋律を弾き、指揮することに成功をした。
 だがそれは、同時に楽譜の眠っていた闇の呪いを呼び覚ましてしまう結果を招いてしまう。
 グリューネルは闇の呪いを抑えようと試みるも、逆に呪いに囚われてしまい、ナラカへと落とされてしまった。
 ファウストが作曲や演奏を行うたびに、彼の精神は闇に犯されてゆき、やがて3人の娘を闇への生贄に捧げるまでになってしまう。
 いち早く夫の変貌に気付いたグリューネルは、闇の呪縛に囚われていたが、娘がいけにえに捧げられてしまうことを知り、ナラカから力を振り絞って救出しようとする。
 しかし、時既に遅く、トレーネとパフュームの魂は闇に食われてしまっており、グリューネルは自分の魂を分け与えることで死亡を辛うじて防いだ。
 その結果、トレーネとパフュームは魔女となって生き長らえることに成功する。
 また、グリューネルは本来の力があればナラカから自力で脱出できたのだが、トレーネとパフュームに魂を分け与えてしまったためそれが出来ず、ナラカに囚われたままであった。

「それから、私はあの女――バルタザールに捕えられていました」
 バルタザールは、ファウストが変貌するより前に、パトロンとして接触してきていた。
 闇の呪いに染まっていく彼に、娘達を生贄に捧げるように助言したのも、彼女であった。
「彼女は、『神劇の旋律』を、崇めている存在に奉納しようとしていました」
 神劇の旋律は、シャンバラ女王に献上する旋律だった。
 楽譜と楽器、そして指揮者が揃うことで禁断の旋律を生み出す。
 本来の効果はシャンバラ女王へ捧げるためのもので、神聖な旋律だった。
「しかし、シャンバラ古王国時代が滅んだ際、闇の呪いが掛けられていたようで、シャンバラ女王を闇に染める旋律へと変わってしまっていたようなのです」
 グリューネルが苦しげに言った。
 彼女は知らずに、ファウストに渡してしまったのだ。

「操っていた市民ではなく、バルタザールが直接率いていた部隊は――クルセイダーといいます」
 クルセイダーは、暗躍して要人暗殺や情報操作などの汚れ仕事を行う、暗殺者のような存在だという。
 そこで、ファウストの説明が一旦止まる。
 理子は大きく息をついて、自分を落ち着かせ、尋ねる。
「それで、バルタザールが崇めている存在とは? その目的、は……?」
 その問いに、ファウストは恐れか、それとも怒りか。
 拳を震わせながら答えていく。
「グランツ教――。そう、バルタザールは、グランツ教の実働部隊、クルセイダーの指揮を執るマグスの1人でした。彼女達が崇めている存在は、超国家神。それがどんな存在なのかまでは、私にはわかりませんでした」

「分かるのは……シャンバラの女王が狙われていたということ。もしかしたら、遠い昔、から……」
 理子も要人達も沈黙する。

 シャンバラで、いやパラミタ全土、あるいは世界中で、何かが蠢いている。