校長室
リアクション
○ ○ ○ 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、イコンのE.L.A.E.N.A.I.に乗り、巡航形態でイルミンスールから空京に駆け付けた。 「魔物は獣形態のみのようですね。操られた市民や敵部隊の隊員は有翼種もいるようですが……イコンのレーダーでは、人間は正確に捉えられませんから、攻撃での援護はできませんね」 街に放たれた魔獣をモニターに写しだすことは出来るが、イコンの武器で狙うことは難しく、空京へのイコンでの攻撃許可も今回は下りなかった。 「報道を行ってる人も空に多いですわ。間違ってぶつからないようにしませんと」 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は報道者の多さに眉を寄せる。 「そうですね。危険なので控えるよう、連絡を入れましょう」 近遠は映像や情報をまとめると、空京で対処に当たっている仲間達へ送信し、放送局には危険なので無茶な撮影は控えるようにと連絡を入れた。 「その先の住宅街にも、魔獣が入り込んでいます」 ファスキナートルに乗って、富永 佐那(とみなが・さな)とパートナーのエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)は、上空から地上の様子を探って、無線機を用いて近遠達と情報を交換したり、対処に当たっている者達に連絡を入れている。 「放送局の方! これ以上宮殿に近づいての撮影は大変危険です。お下がりください!」 「地域の方には無理に避難所に向かおうとせず、窓のない部屋に隠れていただくよう、お伝えください」 状況は芳しくなく佐那とエレナは、多方面に緊急連絡を入れていく。 通話相手が側にいるわけではないのに、つい声に力が入ってしまう。 「宮殿に向ってる市民も多いですけど、契約者も沢山動いてまして、現在は大半抑えられてるみたいです」 渋井 誠治(しぶい・せいじ)は、携帯電話で宮殿の防衛に当たっている彼方に状況を知らせていた。 誠治は、彼方にクイーン・ヴァンガード特別隊員の頃から、世話になっており、何か力になれたらと思っていた。 「それにしても、そちらは死人化ですか……。わかりました。こちらも出来る限りのことをやってみます」 「見て」 誠治が電話を切ると、ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が空を指差した。 「街の様子を撮影している人が増えている。マスコミだけじゃなく、一般人や契約者もいるみたい」 「死人の攻撃を受ければ、こっちも死人になっちまうわけだし、反撃せざるをえないよな……。なんとか、放送をやめさせないと」 誠治はテレビ局や放送局に電話をしたり、直接向かって、放送を中止するように呼びかけていた。 また明らかに操られている報道者は怪我はさせないよう、サイコキネシスでカメラを奪ったり、レンズをふさいだりして、行動を妨害していく。 「この曲、広めていい曲じゃないだろ」 十七夜 リオ(かなき・りお)もまた、パートナーのフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)と共に、テレビやラジオの放送局を回っていた。 人々を狂わせた曲は、何度も繰り返しテレビで流れている。 直接聞いた者以外に影響があったという話はまだ出ていないが、同じ曲を聞いても、抵抗力のある者とない者がいるように、電波に乗った音や映像でも、影響を受ける者はいるだろう。 「報道規制をしてくれと言っているんじゃない。その曲が皆を狂わせている。だから曲は止めてくれ」 野外ステージからそう離れていない放送局では、明らかに普通の精神状態ではないものが、映像を流し続けているようだった。 「家の中に避難している方は、情報を得るためにテレビやラジオを見ているはずです。今はまだ正気の方も、曲に侵されてしまうかもしれません!」 リオ、フェルクレートは警備員の制止を振り切って放送局に入っていく。 すぐに対処してくれば局からはそのまま去るが、放送を続ける局や、明らかにスタッフが曲の影響を受けている場合は、機械を操作して強制的に止めていくのだった。 「皆様、お待たせいたしました。毎度おなじみ変熊仮面でございます」 変熊 仮面(へんくま・かめん)が、真っ赤なイコン高機動型シパーヒーに乗り、宮殿の屋上に到着を果たした。 しかし、市民は全く反応を示さない。 「なるほど……この俺様をガン無視とは確かに操られているな……。マスコミも忠告を無視して、宮殿に寄ってくるくせに、俺様を撮ろうともしない。うーん」 佐那らからの情報をもとに、変熊は対処を考えていく。 サブパイロットのにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)が、イコンを下りてマイクを持って仁王立ち。 「洗脳されるのは心の甘え!」 イコンの外部スピーカーを用いての大声だ。 それでも誰も反応を示さない。 「頭をひやすといいにゃ。よし、冷凍ビームを……」 「一般人にイコンの武器を用いたら、即死ですって!」 すぐに、屋上を守る警備兵から突込みが入る。 「後でレンジでチンすりゃいいじゃん。ちぇッ」 そんなことを呟きながら、にゃんくまはイコンに戻っていく。 「にゃらばノイズグレネードの爆音で気絶させ……」 「それだ!」 変熊がイコンの中でぽんと手を打った。 「精神に影響を及ぼす魔法は効かないようだが、流れていた曲が影響して市民達はおかしくなったようだからな。音で対抗して市民の注目を取り戻すぞ!」 「あ、そう……音には音で対抗……。でも師匠、音楽の能力ないじゃん」 「くっ……ええい、回線を行政無線につなげ! 俺様のオリジナルソングを流す!」 そうして変熊の即興が流れ始める。彼に賛同して……もしかしたら、彼を止めるためにかもしれないが、楽器や歌を奏でられる者が集まっていき、空京に音楽が響き渡った。 「あっ……」 飛びついてきた魔獣の攻撃を避けることは出来ずシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は肩に凄まじい衝撃を受けた。 「シャーロットッ!」 呂布 奉先(りょふ・ほうせん)が、方天画戟で、シャーロットを襲った魔獣の背を貫いた。 「すみません、少し油断をしました」 「違うだろ、わかってる」 避けたら後方にいる市民が襲われただろう。 だから、シャーロットはわざと魔獣の攻撃を受けた。 「まだ、います」 怪我を治す時間も惜しみ、シャーロットは軽身功の技能で、素早く動き、八艘飛びのような立ち回りで、魔獣を倒していく。 (お2人は、避難できましたでしょうか……) ティセラとアレナが走っていった方に目を向ける。 セイニィが守りたいものを守ってみせる。 セイニィへの思いを胸に、怪我を顧みず、シャーロットは戦い続ける。 「宮殿は酷い状況のようね……」 スクリーチャー・オウルを操る天貴 彩羽(あまむち・あやは)は、ファスキナートルの佐那から送られてきた映像と情報に深いため息をつく。 「操られているだけの市民じゃ、私には手は出せないわね。頑張ってもらうしか……」 代わりに、誰かが犠牲になりそうな状況だが、イコンに乗った彩羽がそちら方面で出来ることはなさそうだ。 「駅に人が殺到してるでござる。列車に乗れたものは良いのだが、魔獣が攻めてきたら大変なことになるでござるよ」 スクリーチャー・オウルの側を飛んでいるスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)からは、随時彩羽に連絡が入る。 イコンのカメラよりも、正確にスベシアは人々の動きを把握すること出来ていた。 「野外ステージではもう演奏は行われていないでござる。黒幕と思われる人物は交戦中」 それらの情報を、彩羽は佐那達、情報収集に動いている者に話していく。 「まだどうなるかは分からないから、正気な人は遠くに避難してもらって。輸送に動いてくれている人もいるそうよ」 連絡を追えると、次なる場所の状況を調べる為に、スクリーチャー・オウルはスベシアと共に飛んでいく。 カフェ、ディオニウスでくつろいでいた無限 大吾(むげん・だいご)がシェリエ達と共に駆け付けた時もまだ、宮殿の防衛は続いていた。 「代わるぞ、あんな奴の好きにさせるものか!」 大吾は、傷ついた契約者と交代して、パートナーのセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)と共に壁となる。 「ええ、あのふざけた仮面の女……許せませんね。絶対に、奴の思い通りにさせてはなりません!」 セイルは金剛嘴烏・殺戮乃宴を抜剣し、ブレイドガードで市民達の攻撃を弾く。 「人々を正気に戻す為に動いてくれてる娘がいる。それまでの間、耐えるんだ!」 大吾が声を上げる。 向かってくるのは、市民達――。死人と化してしまった者が多い。 抑えるだけでは、守りきれない。 人々が人々を襲っていく目をそむけたくなる光景の中で、大吾は技能で防御力を上げて、レジェンダリーシールドを前に攻撃を防いでいく。 「宮殿も、そしてこの人達も、絶対に護ってみせる…俺が、俺達が、最終防衛ラインだ!!」 吐息をついた後、セイルも同じ言葉を発する。 「絶対に護ってみせる……私が、私達が、最終防衛ラインだ!!」 その言葉通り、2人は誰も後ろへは通さなかった。 「通せ、通せ……」 「邪魔だ、邪魔だ」 大吾の元に集まる人々の様子が、突如街頭テレビに映し出された。 大吾とセイルの姿は人々に埋もれて映ってはいない。 その人々の異様な姿に、正気の人々が息を飲む。 「事態、ちゃんと分かってくれよ」 テレビを見ながらつぶやいたのは玖純 飛都(くすみ・ひさと)だ。 彼はマスコミが持つテレビを、守護についている者ではなく、市民達へと向けさせた。 市民達を攻撃してでも止めなければいけないこともある。 下手をすれば、自分達の方が抗議を受けてしまう可能性もある。 だから、この状況を正しく、世界に伝えておく必要があると感じて。 (上手く伝わるかどうかはわかりませんが、何もしないようりはマシですよね) 実行は、パートナーの矢代 月視(やしろ・つくみ)が行っていた。 迷彩塗装を用いてカメラマンに近づいて、映し出す方向を強制的に変えて、女王の元に向かう市民達の真の姿を、世界へ伝えた。 |
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