空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション

「くっ、この先には女王器が……。それを失えば、女王のお力が半減してしまう」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、王宮とは別の建築物の前にいた。
「通すわけにはいきません」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は、木材を組んでバリケードを作るが、市民達の体当たり攻撃により、崩されてしまう。
「これ以上、進ませるわけにはっ」
 クレアは即席の盾で、建物を守ろうとする。
「壊せ、壊せ」
「女王の力、ほしい……」
「女王、女王、女王」
 うつろな目の市民達が、瓦礫や石を投げ、壊しにかかってくる。
(少しは、逸らすことができたか)
 クレアはバリケードを用意しながら、宮殿の方にちらりと目を向ける。
 市民の目をこちらに向けさせ、市民が密集しすぎることによる被害を減らすことが目的だった。
 耐える事、時間を稼ぐこと。
 それがこの場にいるロイヤルガード達の使命だった。

○     ○     ○


 報道を見たり、救援要請を受けて、宮殿に駆け付けた契約者達も動き始めていた。
「しかしまた、随分なお客様の数で……」
 宮殿に向かう人々を見て、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は深くため息をついた。
 友人である神楽崎優子や、ロイヤルガードのメンバーだけで、持て成せる人数ではない。
「ご主人様、晩餐の準備が整いました」
 マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)は亜璃珠の指示の下、別邸から借りたテーブルや料理運搬用具を集めて、バリケードを築いていた。
 増えていく人々を少しでも抑えるために。
「ロイヤルガードちゃんとの初めての晩餐会、楽しみだな!」
 アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は、縄でバリケードをぎゅっと縛りながらにやりと笑みを浮かべた。
「ここで可能な限り、侵入を食い止めよう」
 バリケードを築く場所として、ここを提案したのは国軍に所属するエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)だ。
 エールヴァントとアルフは、非常時ということもあり近場の建物を機晶爆弾で破壊して、急いで材料を用意していた。
「それじゃ、始めましょうか。熱く激しい、夏の晩餐を!」
 亜璃珠は仲間達を激励し、熱狂させ、奮い立たせる。
「警備の方、こちらにおさがりください」
 マリカは押されている警備兵をバリケードの後ろへと誘い、メイドインヘブンで癒していく。
 癒された警備兵達はバリケードの後ろへと回って、押さえながら市民達の進行を防ぐ。
「怪我はなるべくさせたくないけどっ」
 エールヴァントはゴム弾のショットガンで、市民達を牽制、誘導する。
「!!」
「うはっ」
 ゴム弾を避けようとした市民が、アルフが掘った落とし穴に落ちた。
 落ちた人々に躓いて転ぶ者も。
 その者達もまた、人々が進むための障害となった。

「今日の試合は中々面白い変則マッチだな。プロレスラーとしてはやっぱフツーの人達に手出す訳にもいかねぇ。……なら!」
 駆け付けた結城 奈津(ゆうき・なつ)は、シャンバラ宮殿の敷地になだれ込む市民を前に、拳を握りしめる。
「この体で全員受け止めてやるぜっ!」
 ロイヤルガード達は、宮殿前で壁となり、ひたすら攻撃に耐えているという。
 彼らは市民に手を出すことは出来ない。
 それは奈津とて同じではあるが……。
「TV中継までしてくれて観客も大勢いる」
 空を見上げれば、マスコミの飛空艇が見える。
「ファンを背負ったプロレスラーは強ぇぜ……! 行こうぜ師匠!」
「ああ」
 魔鎧のミスター バロン(みすたー・ばろん)は、奈津に近づいたかと思うと、気合い注入のビンタを一発放った。
「今まで前座が多かったが今日の試合はメーンイベントだ。貴様が今まで血反吐を吐いて得てきたモノ全てを出せ! 俺も貴様も出し惜しみは一切無しだ! 骨を断たせて肉を切る……これがプロレスラーの闘い方」
 そして、弟子である奈津に纏われる。
 バロンの魔鎧としての姿はリングコスチューム。
「覚悟を決めろ。そして相手の全てを受けきれ! そして勝て! バーニングドラゴンという名をパラミタに刻み付けろ……いいな!」
「うぉお!」
 師匠の言葉に、雄叫びのような返事をして。
「プロレスラー『バーニングドラゴン』結城奈津見参だ!」
 奈津はプロレスラーとして、門の中へ。門を通過したばかりの市民達の前に走り込む。
 鬼神力と超人的肉体、超人的精神を駆使して全力でこの試合に挑む。
 腰を低く落し、両手を広げて押し寄せる人々をその身で受け止めて、押し返す!
「うぉおおお!」
 そして、門の外まで押し出した。
 市民達はドミノ倒しのように転び、すぐには動けない状態となる。
 ドーン
 直後に、門と周囲の壁がリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)により破壊される。
「静粛が必要だな……」
 暴徒を強制排除した方が楽だと思いながらも、今日を「シャンバラ宮殿の大虐殺」「血の曜日」にするわけにもいかないと思いとどまり、リブロは破壊にとどめていた。
 市民に手を出しているわけではないが、彼女の強引な破壊行為――門と壁を崩していき、通れないようにし、宮殿に続く道路や橋も破壊して通行不能にするといった行為で、傷つく市民もいた。
 彼女は人が通行中でも迷うことなく、破壊し続ける。
「革命勃発……かとも思ったけど、違うみたいね」
 パートナーのエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)も、航空戦闘飛行脚【Bf109G】で駆け付けて、リブロと共に、正門や道路の破壊を行っていく。
「それ以上進むと、怪我するぞ」
 魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)を纏った蔵部 食人(くらべ・はみと)は、シャンバラ宮殿の敷地内に入ろうとする市民を、ショック銃で撃った。
「彼らを頼む」
 しびれて動きが鈍った市民を、連れてきたアマポリスと特戦隊に任せて、自分は止まろうとしない次の市民を狙う。
「落ちろ、落ちろ」
「邪魔するな、女王、女王」
 市民達は、食人に石や瓦礫を投げつけてくる。
「ダーリンしっかり!」
 シャインヴェイダーのリジェネレーションの能力で、食人の体はゆっくり癒されていく。
 ショック銃とはいえ、目などに当てたら失明させてしまう。
「行かせるわけにはいかないんだ」
 狙いを定めて、食人は市民をしびれさせる。
「こっちは撃たなくていい。回収する」
 同じく魔鎧を纏った男――ミハエル・アンツォン(みはえる・あんつぉん)を纏った橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、市民の集団に接近する。
 恭司は闘気を具現化させた太い縄で、市民達をまとめて縛り上げる。
「安心しろ、送り先は宮殿だ。ただし、正気に戻ってからな」
 そう言うと、恭司は市民達の腕をロープで拘束して……段ボールに入れて梱包した。
「ほ、本気だったのですね」
 ミハエルが思わず声を上げる。
「本気だと言っただろ。請求書は……ロイヤルガードの隊長宛てに送りつけておくか」
 それとも代引きがいいだろうかと、恭司は呟きながら、てきぱき市民を梱包するのだった。
「どいて。どかないとどかすことになるよ」
 エーリカが、市民の中に急降下してきた。付近の破壊は一通り済んだようだ。
 エーリカは、魔法を放って市民達を吹き飛ばす。勿論、手加減はしている。
 先に進ませるわけにはいかない。
 ロイヤルガードではない者達による、強引なやり方ではあったが、宮殿敷地にたどり着く市民は確実に減っていた。