空京

校長室

【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

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【神劇の旋律】聖邪の協奏曲

リアクション

 宮殿に、国軍の紋章が入った小型飛空艇アルバトロスが近づいてきた。
「教導団少尉、相沢洋だ。緊急事態に付き、支援する!」
「待ってたわ、お願い!」
 バルコニーで演説を続けていた理子が、手を振ってきた。
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)は、降下地点を確認すると、アルバトロスからダイブして、ロイヤルガード達の元へと下りた。
「降下ポイント確認よし! じーちゃん、頼むぜー」
 アルバトロスを操っていた相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)は、洋が無事下りたことを確認すると、宮殿の屋上へとアルバトロスを下ろす。
「教導団の相沢洋孝だよ。じーちゃんからの伝言、アルバトロスはここに置いておくので女王陛下の支援や脱出に使ってね。じゃあ……前線にいくよー」
 もしもの時に使ってくれと屋上にいる警備兵達に言うと、洋孝も銃を抱えて宮殿の前へと下りていく。
「苦戦しているわね……空賊の有志と支援に来ました。状況と支援の許可をもらえますか?」
 ワイルドペガサスに乗ったリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、呼び集めた仲間と共に現れる。
「空京に流れた音楽で、呪われちゃったみたいなの。皆、女王を目指しているけれど、皆の本当の意思じゃない。だから、絶対傷つけないで。皆を守ってくれるのなら、お願い、力を貸して!」
 理子の言葉に、リネンは不敵な目を見せる。
「こういう無茶は、私達の専売特許よ……私達も無茶させてもらうわね」
「権力は正直嫌いだけど……こういう無茶やる奴は嫌いじゃないわ」
 飛竜に乗ったヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がクスリと笑みを見せた。
 そして。
「作戦目的……ロイヤルガードと共に暴徒から宮殿を防衛。ただし市民への攻撃は禁止。ただ盾となり保護せよ!  要するに…あたしらも無茶をやる!」
 雇った『「シャーウッドの森」空賊団』にそう指示を出した。
「後ろには通さないわ」
「ロイヤルガードの方は、一旦下がって治療を!」
 リネンとヘイリー、空賊団のメンバーが宮殿を覆うように、広がっていく。
 有翼種の突撃も、地上からの攻撃も、ロイヤルガード達同様に、その身を盾に阻んでいく。
「皆、目を覚まして! 誰にも傷ついてほしくないの。皆だって、誰かを傷つけたくないでしょ! だから気をしっかり持って! 手を止めて、足を止めてっ!」
 大声を上げる理子の前には、漆黒の翼を広げた酒杜 陽一(さかもり・よういち)の姿があった。
 目配せをしただけで、互いの考えはわかる。
(理子さんは自ら矢面に立ち人々に想いを届けようとしている。彼女の為にも……!)
 陽一はクライハ・ヴォックの叫びで、自分と仲間を強化すると、翼を巨大な壁のように限界まで大きく広げる。
「怪我をされてるな」
 理子を見てフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)が言う。フリーレは強化光翼で、陽一の後方を飛んでいた。
 理子の体は、市民の攻撃により、傷ついていた。
「私はなんともないわ。皆の心の傷が心配。正気に戻った後、心も身体も痛いだろうから」
 理子がそう悲しげな顔で言う。
「そうか。では、今は皆のサポートに尽力しよう」
 フリーレは周囲の者達が深手負うまで待って、リカバリで理子も含め、全体を癒すことにする。
「押し返しちゃいけない、ねえ……なかなかハードなリクエストだ」
 守護天使のエルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)は、苦笑しながら空の隊に加わる。
「後方支援の皆、回復頼むよ」
 回復に当たっている者を、驚きの歌で精神力を回復させてから、市民の方を向く。
「小石とはいえ、弾き返すのも危険だよね」
 飛んでくる石や、物をエルザルドはサイコキネシスで受けて、誰もいない方向へと落とす。
「……かなり厳しい状況だね。雲雀、頼むよ」
「頑張りますですよ!」
 パートナーの土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は、壁の後方に下りていた。
 市民に押されてしまっており、壁になってる者達と宮殿までの距離はあと数メートルになってしまっていた。
「精神力が尽きたら、交代するであります。共に耐える戦いをするでありますよ!」
 雲雀は、歴戦の防御術の知識で防御力を上げて、命のうねりで皆を癒す。
 2人の参戦により、尽きかけていたロイヤルガード達の体力と、精神力が戻っていく。
「今はとにかく時間を稼ぐ。戦列を乱すな! 楯を前へ!」
 下り立った洋が支持を出していく。
「とにかく攻撃を受けろ! 傷ついたメンバーは後送し、治療を! 時間を稼げば勝利だ!」
 突破されそうな警備兵を下がらせ、後衛メンバーに盾を持たせて、前線に向わせる。
「大楯構え! 防御!」
 警備兵達が、一斉に盾を構えた。
「くそ! 旧世代のパワードスーツが! こっちの世界でも3年の型落ち品ばかりだぜ!」
 毒づきながらも、パワードスーツを纏った洋孝も、盾として皆の前に出ていた。
「せめて次世代の先行試作型よこせ、バカヤローが!」
 痛みを紛らわせるかのように、洋孝は叫ぶ。
 持ってはいるが、銃は使わない。ただ、耐えるのみだった。
「私が受けます」
 空賊団の前に、機晶姫のカトルヴァンユイット ヴァントロア(かとるばんゆいっと・ばんとろあ)が飛び出してきた。
 市民の武器による攻撃は、一般人である空賊団では防ぎきれない。
 だけれど、自分ならば……と、ヴァントロアはその身に受けた。
「大丈夫?」
 軽装のヴァントロアを案じて、ヘンリーが声をかけ、フリーレが回復をしようとする。
「……大丈夫です」
 ヴァントロアは首を横に振った。
「私は機械です。壊れはしますが死にはしませんから安心してください。さあ、また来ますよ」
 ヴァントロアは防衛線の前に出て、飛んでくる市民と、遠距離攻撃を受け止めていく。
「体が壊れることに違いはないよ。だから、攻撃されないようにすることも考えないとね」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が、光る箒にのって駆け付けた。
「上空にも防御壁を作るわよ」
 ヴァルキリーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)も一緒だった。
「一緒に頑張ろう、踏ん張ろうね!」
 佳奈子は仲間達に声をかけて、頷き合うと後方へ下がり、エレノアが前に出る。
「こうすれば、飛ぶのは無理なはずっ」
 佳奈子が有翼種の市民市民の目を、光術でくらませる。
 は目抑えて、その場にとどまる。
「ここ一帯には近づかないでね」
 エレノアは味方にも注意を呼びかけた後で、風術を使って風の壁を作りだす。
 市民の攻撃は、風に流されて、遠くへと飛ばされる。
 放ち続けている限り、市民や投げつけられたものが、風の壁を通過することは不可能だ。
「今のうちに、回復を!」
 リネンが言う。
「はい」
 答えたのは、鈴鹿だった。長く耐えてきた彼女は深い傷を負っている。
 鈴鹿は負傷している空賊団のメンバーと、ヴァントロア、そして自分をリカバリで癒す。
「ヴァントロア……頑張ってるな、って呑気に見てる場合じゃねえか」
 アンリ・ベルナール(あんり・べるなーる)は、洋の指揮に従い盾を持って前に出る。
 その盾は、彼が傭兵だったころ、どこかの政府に雇われて、暴徒を鎮圧した時に、報酬としてもらったものだ。
「こいつが何の役に立つんだかって思ってたが、こんな役に立つとはなあ」
 自分のような使い捨てが少しいるだけでも違うぞと、ロイヤルガードに声をかけて交代する。
「手を出すなよ」
 後方から、洋が言う。
「わかってるよ手ぇ出しちゃいけねえし押して倒したりしてもいけねえ。ただここに盾構えて突っ立ってるだけの仕事なんだろ」
 盾を構えて、アンリは踏ん張った。
 市民達が次々に彼を押し、棒を振りおろし、拳を打ち付けてくる。
「あー楽だわー」
 アンリのその言葉に感情は籠っていない。
(さんざ金貰って殺し合いしてきた身だけど、なんでもねえふつーの街ふつーの市民がこんなになってるのはやっぱ、キツいもんなあ……)
 虚ろな目で向かってくる市民達には、殴られても、傷つけられても、怒りの感情は湧かなかった。