空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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大世界樹攻防戦



「大世界樹との契約ですか。今回は随分と大それた事をしようとしてますね」
「今回の援軍は大蟲か……随分と気色悪い生き物がいたものだな」
 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)の二人は並んでゆっくりと歩いていた。誰ともすれ違わないし、他の人の気配もほとんど感じない。
 普通であれば、作戦開始前なんて状態は誰もがあわただしく準備に走り回ったりするものだ。動く人間が増えれば増えるほど、戦闘員以外の人間も増えるのだから。
 だが、残っている面子はほぼ全員が戦闘要員であり、同時に裏方の仕事も行っている。なんだかんだ、結構いついてしまった彼らは、最初の頃から今に至るまでの変化を肌で理解している。
「それにしても、毎回毎回戦力が足りませんな。少しは有利な形で戦いたいものです」
 彼ら、ブラッディ・ディヴァインの行動方針は、犠牲を最小限に抑えながら目標を達成していく事である。その目標のほとんどは、過去の遺産、主に武装の回収だ。
 セラフィム・ギフト然り、サンダラ・ヴィマーナ然り、古代に作られた人智を超えた兵器を収集している。戦果を見れば、作戦目標を達成しているものの、犠牲をゼロでなんて都合のいい事はなく、何かを手にするたびに、それなりの犠牲を支払っている。
「それよりも僕としては、使われるだけ使われたあとに、全部没収されるなんて事が心配ですよ」
 これらの古代の遺産は、自分達で見つけたわけではなく、協力者からの情報提供あってのものだ。その情報提供者と交渉しているのはルバートただ一人であり、その真意はわからない。
 こうも状況が悪くなると、シャンバラの契約者とかち合うように動かされているのではないか、という邪推もしたくなる。
「心配かな」
 二人の背後で扉の開く微かな音とともに、声が聞こえてくる。
 振り返ると、見慣れたパワードスーツが一人そこに佇んでいた。声から、それがルバートであるとわかる。
「安心しろ、少なくともあちらと我々が敵対関係になる事は無い」
「根拠が無ければ、さすがに信用できかねる話だと思うのだがな」
 広目天王が真っ直ぐルバートを見る。フルフェイスヘルメット越しに表情を伺う事はできない。
「利用価値があるうちは、捨てられる事は無い。そういうものだろう?」
「そのまま、使い潰されるかもしれんがな」
「全くもってその通りだな。だが、こちらとて牙も爪も抜かれたわけではない」
 ルバートは片腕に装着された金色の腕輪を見せる。
 セラフィム・ギフトだ。インテグラルが苦手とするギフトと呼ばれる古代の遺産の一つである。これを奪われたり、破壊されずに自分達が運用できている事が、彼らの自分達に対する信頼を示している。という事なのだろう。
「それです」
 二人の会話を横で聞いていた玄秀が、口を開いた。
「そのギフト、随分と無理な契約をしているみたいですね。今回の大世界樹との契約という話もそうですが、随分と無理をして力を得ように感じます」
 セラフィム・ギフトを得てから、ルバートは明らかにおかしくなっていた。体調が悪くなる、というのもあるが、それ以上の何かが彼の中で変っているのは間違いなかった。
「一度聞いて見たかったのですが、化け物になりかけてまで追い求めるものはなんです?」
 ルバートは少し黙り、絞りだすようにして答えを口にする。
「誰もが、身の丈にあった力で満足できるとは限らない……そういう話はどこにでもある」
「力を欲しいと思う気持ちは理解できなくもありません。しかし、疑問に思っているのは、その力を持って何をしたいのか、相変わらず見えてこない事ですよ」
 ぴりぴりとした空気を、肌で感じながら玄秀は少し待った。だが、返答は得られないであろうと判断し、警戒心を少し緩める。
「ただの傭兵が出すぎた事を聞きましたね。今はまだ秘密にすべき事柄というのもあるのでしょう。特に、僕達のような傭兵には、忠誠心の有無を判断するのは難しい。自爆のような形で秘密を守って死ぬぐらいなら、と考える可能性は十分あります」
 玄秀は正面に向き直り、歩き出す。
 広目天王に行くよと声をかけ、数歩進んでから、思い出したように立ち止まる。
「傭兵は傭兵として、役目は果たしますよ。その点に関しては、少しぐらいは信用しておいてください。それでは、作戦の準備がありますので」
 返事は待たずに、玄秀はその場を離れた。