空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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大世界樹 内部2

「やっと静かになったか」
 強盗 ヘル(ごうとう・へる)は肩の力を抜いて、背中を内壁に預けた。
 少し離れた場所に大蟲の亡骸が三つ倒れている。その場所と反対側の通路は塞がれ、通る事はできない。仲間が進んだのはその先で、ラクシュミ達と合流するには迂回していくしかないだろう。
 突然できた壁で分断されてしまったのは、ヘルと蓮見 朱里(はすみ・しゅり)アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)の四人だ。
 通路をふさがれるて間もなく、内部を徘徊していた大蟲と遭遇し、戦闘になったのである。下手に魔法や高威力の技を使うわけにもいかず、かなりの苦戦を強いられた。
「途中途中で、仲間が分断されていたのは彼らの相手をさせるためなのだろうな」
「そうみたね。全員の道を塞がないのは、本隊の数も減らそうとしてるのかしら」
「大世界樹からしたら、大蟲も俺たちも、どっちが死んでも変わりないという事かもしれませんね」
「自然に害を成す、という意味では同じ扱いか……ファーストクイーンの話によれば、随分と恨まれてるらしいし仕方ないのかもしれないが、やるせないな」
 アインは神経を研ぎ澄ませながら、自分達以外の気配を探る。だが、大世界樹の中では研ぎ澄まされた感覚がいくらか鈍ってしまう。大蟲のようなはっきりとした殺意を持っている相手ですら、かなり近づかないとわからない。
 その事を仲間に告げ、四人は慎重に内部を進んでいく。
 少し進むと、壁の一部が破壊された場所にたどり着いた。その先の風は、内部独特の湿ったものではなく、外の緑の香りが微かに残っている。
「外に近い通路を無理やり繋げてきたようですね」
 奥へと進む自分達に大蟲がおいつく理由は、この身勝手な破壊行動によるものだ。だが、それだけ自分達が直進ではなく大回りをしながら移動していた事にもなる。
「こいつらのように、通路を壊しながら進めば中心なんてあっという間なんだろうな。勿論、そんな事をするつもりはないぞ」
 このまま戻っても、しばらく分かれ道は無かった。仲間と合流するためにも、この穴をくぐって進むことになった。あとは、この穴が仲間達のもとへ繋がっている事を祈るだけだ。
「ちょっと待って」
 穴をくぐってすぐ、朱里は今くぐった穴の前で屈んだ。
 何をするつもりなのか尋ねる前に、彼女の命のうねりが傷口を包み込む。失われてしまった部分はそのままだったが、深く刻まれた亀裂が少しずつ治療される。
(自分達は貴方と話をしに来たんです。拒絶する前に、どうか話だけでも聞いて頂けませんか)
 ザカコはその様子を見守りながら、もう何度目かになるかわからない問いかけを心の中で行った。
(確かに人間の中には大地を汚したり、強引に契約を求める者もいます。ですが、純粋な気持ちでニルヴァーナの荒廃した大地を蘇らそうとしている人もいるんです)
 心の声に、大世界樹は僅かに反応を示す。それは、好意でも無ければ敵意でもない。もっと曖昧で、感覚的なものだ。それを言葉に置き換えれば、幾千もの目がこちらを見つめているような、ぞっとしない感覚である。
 語りかけるたびに、大世界樹はほんの僅かに契約者の心に触れる。明確な言葉はないものの、気のせいと思うにははっきりとした感触があった。
(どうか今一度だけ、人間達を信じて下さい。お願いします)
 ザカコの言葉に、大世界樹はすっとその気配を遠ざけた。
「待たせてごめんね。少し、抵抗されてるみたいで、思ったより効果がでなくて」
 不安そうに朱里は大世界樹の傷口をみる。僅かに回復はしているが、穴は開いたままで痛々しい。大世界樹の意思なのか、単にこの大樹が持つ魔法への抵抗力なのか、魔法を使った朱里自身にも判別はつかない。
「先に進もう。外に近いなら、まだ大蟲が入ってくるかもしれない。慎重にな」
 ヘルの言葉に頷いて、再び移動を開始する。
 進みながら、ヘルはザカコの肩をぽんと叩いた。
「話を聞いてくれるまで、何回も繰り返すしかないな」
「そうですね。拒絶されているわけではないようですから、信じてくれるまで何度でも」