空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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大世界樹 外周戦2


 二つに根が別れたその境目に、ぽっかりと穴が開いていた。
 大世界樹の中へ繋がる穴だ。覗き込むと、ほとんど明かりは無いものの道は奥へと続いているのが見える。
「肌寒」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は自分の二の腕をさすりながら、駆け足で外に出た。
「歓迎されておらんてのは、ほんまみたいやな」
 日の光が届かない大世界樹の内側は、外よりは気温が低いのは確かだたが、彼が感じた肌寒さはそういったものではなく、大世界樹の意思のようなものを感じ取ったもので、例えるなら悪寒に近い。
 はっきりと言葉にできるようなものではないが、確かにこの大世界樹は意思を持って、それを特別な方法を使わずに伝えてくるというのが肌で実感できた。
 ただこの感覚は、人間が意味を汲み取るには大雑把過ぎるようにも感じる。自分の感情の機微を言葉にするのも大変なのに、それが他人のものとなれば、ちゃんと理解するのは至難の業だろう。
 最も、だからこそファーストクイーンがこれからこの奥の奥、一番奥の自分の体の元へと向かうのだ。この、途方もない存在と対話するために。
「私達の案内はここまでですね」
「そやな、大事な飛空艇を万引きされてもかなわんし、うちらはここに残らせてもらうわ」
 レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)の言葉に頷きながら、泰輔は一同を見回した。ヘクトルを筆頭に、内部に突入する面々の戦いはこれからが本番となる。
 あの薄ら寒い拒絶の中を進むのだ、これまでみんなで大蟲どもを力任せに蹴散らしてきたのとは、違った大変さがある。
 道中、二人は小型飛空艇を使って、ここまでの進行の船頭を買ってでていた。大蟲の苦手な空中からの攻撃で道を開けることに貢献してこれたが、この先はさすがに飛空艇で入り込むことはできない。
 帰り道がどうなるかもわからないが、まだ活躍の余地があるため、飛空艇は万全にしておくためにもここに残る必要がある。
「ほな、待ってるさかい、ちゃちゃっと頼むで」
 大層な別れの挨拶をするでもなく、二人は突入部隊と別れた。その後、目立つ場所に置きっぱなしの飛空艇を物陰に隠しはじめた。迎撃用に使わないのは、中で行われる交渉の邪魔をしないためである。自分の周りをハエや蚊がぶんぶん飛び回られれば、普通に考えて鬱陶しいものだ。自分達をそんな風に思いたくは無いが、大世界樹とのサイズの非を考えると、それぐらいかもっともっと小さい生き物が該当しそうではある。
 そうこうして飛空艇を隠し終えた頃には、入り口の周囲には簡易の壁ができていた。急ぎの行軍に持ってこれる最低限の道具と資材で、クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)が指示を出しながら作ったものだ。
「よし、これだけあれば、そうそう容易く突破はできないな」
 彼らの部隊もまた、突入部隊が疲弊しないよう、道中の敵を蹴散らし突破するのを買ってでていた。それだけに損耗も小さくは無かったが、ここに来て入り口の防衛の為に居残るのだという。
 ここまでの疲弊はどこへやら、きびきびと陣形を作り、戦いと戦いの合い間であるというのに弛緩した空気は感じられない。
「この防衛陣を突破されれば、仲間の任務の達成に支障が出るだけではなく、大世界樹にも被害が及ぶ可能性がある。ここは、絶対に通してはいけない場所だ。ここまでたどり着けたみんななら、必ずやり遂げると俺は信じている」
 クローラが部下の士気をあげるために、声を張り上げて彼らを鼓舞していた。一通り語り終えると、そこへセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が駆け寄ってくる。
「外で戦ってる連中からの報告だと、こういう入り口はあちこちにあるらしい」
「やはりそうか……厄介だな」
 たった一つの出入り口を固める事ができれば、突入部隊の援護としてはこれ以上は無かったはずだ。だが、予想通り穴はいくつもあるらしい。巨大な大世界樹のごく一部に取り付いているに過ぎない自分達が、全ての穴を発見し、封鎖するには人手も人員も足りないのは明らかだった。
「どうする、部隊を分散させるか?」
「……いや、内部からの連絡を待とう。外から繋がる穴が、突入部隊の居る場所に必ずしも繋がっているとは限らない。人工物ではないのだから、内部の構造は俺達が考えてるより複雑なはずだ」
「了解。じゃあ、発見された場所だけ確認して、内部の味方の連絡と合わせて塞ぐべき穴を選ぶわけだね」
「そうなるな。無論、余裕があるのであれば、発見された穴は順次封鎖していく」
 一見難題にも見えるが、外は無防備ではなく、契約者達が大蟲やブラッディ・ディヴァインを倒すために行動している。彼らの働きがよければ、大世界樹に取り付ける敵の数も少なくなる。
 状況を常に監視していれば、どう動くべきかの最適解は自ずと見えてくる。
「……おっと、さっそくおでましか」
 敵の気配を感じ取ったセリオスが、世界樹の森へと振り返る。すぐに敵の接近を味方に伝達し、迎撃の準備を整える。
「真っ直ぐ進んできたからな、追いかける方も迷う事なくというわけか」
 泰輔らも防衛布陣に参加し、万全の状態で待ち構える。
 間もなく敵の部隊が姿を現した。全部で十二体ほどで、大蟲だけで構成されていた。道中で負傷しながらも追ってきた大蟲も混じった最初の敵性集団は、魔法と銃器の連携で近づかせることなく容易く撃破する事に成功した。
「よし、この調子で敵の接近を防ぐぞ」