空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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出撃

 インテグラルビショップのいる位置は遠く、観察した限りで動きはない。まずはザコどもを減らし、ある程度道を作ったところでビショップに挑むのがよいだろう。ビショップが以前、熾天使を一撃で破壊するのをメルヴィアは目の当たりにしている。熾天使の力、覚醒イコンいずれも使用時間制限がひどく短い。小谷 愛美(こたに・まなみ)マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)が、その内に目覚めた力をビショップに使うと話していた。対ビショップ部隊とイレイザー、スポーン討伐部隊とに分け、メルヴィアが後者を率いてイレイザー、スポーンの数を減らすのに専念するのが適材適所ということになろう。イコンでまずはある程度イレイザーやスポーンを掃討するなりし、奴らが密集した場には覚醒イコン、熾天使の力を使うのが戦略的によさそうである。雑魚討伐中にビショップ側に動きがあれば、対ビショップ部隊を囲むようにして護衛しつつ行くしかないだろう。
 メルヴィアは作戦について、戦闘メンバーにざっと説明した。あとはおのおの、ベストを尽くすのみである。

 大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は、ヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)を連れ、愛美とマリエルの元へ向かっていた。彼女らは来るべきインテグラルビショップ戦に備え、待機しているのだ。軍人という職業が危険と隣り合わせであることは丈治は十分理解していた。だが熾天使の力の強大さ、その力が未知の力であるがゆえ、一兵卒が扱うには過ぎた物ではないのか、武器の効果や結果を分からずに使うのは危険ではないかという懸念を持ったのである。力を制御できなければメルヴィアや他の同行者の身を危険に晒す事可能性すらある。無論大切なパートナーにもその危険が必及ぶ可能性も。
「愛美殿、マリエル殿、少し伺いたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ん? なになに? どうしたの」
愛美が気軽に返答を返す。
「実はその……熾天使の力についてなのですが……。
 使い方などがわからないので、制御し切れなければ危険かと思いまして」
マリエルが微笑む。
「ああ……何もね……危険はないよ。なんだかすごく懐かしい感じがして……。
 初めて扱う力なのにね、誰に教えられたわけでもないのに、どう使って良いかが分かるの。
 ただ、使った後ヴァルキリーも守護天使も動けなくなるほどの疲労感に襲われる。
 でも、ゆっくり休めば回復するから大丈夫」
「そう……ですか」
愛美もマリエルの肩に両手を置き、にこっと笑った。
「そうそう。ちゃーんとそのときになれば、わかるよ。マナミンにもちゃんとわかったし、大丈夫」
「わかりました、ありがとうございました!!」
二人は部屋を後にした。ヒルダがぽつりと言う。
「翼あるインテグラルが、別れる前の種族を取り込んだとしたら、ヒルダ達には分が悪い気がする。
 ヴァルキリーと守護天使の互いに欠けている処を補い合い、1つに力を合わせたら……。
 そしたら、本当の意味での『熾天使の力』を発揮できないかしら?」
「分からんな……なんとも」
「ヴァルキリーと守護天使の想いが通じ合って無いと難しそうよね」
「なんにせよ、切り札だな」
「うん」

 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は何名かの契約者たちと協力し、艦隊の一斉砲撃による広範囲のイレイザー、スポーンの駆逐を計画していた。機晶技術を用い。艦隊の砲撃を広範囲にかつ予定通りの場所に行う為のデータリンクの構築も完了した。その旨を僚機である航空戦艦伊勢葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)、護衛のジェファルコン刃金に機乗する柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)、偵察機ブラックバード佐野 和輝(さの・かずき)らに連絡を取った。旗艦となるHMS・テメレーアの指揮はローザマリアのパートナーホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)が執っている。
 ブラックバードは、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)の機乗するアルシェリアに護衛され、北ニルヴァーナの鉛色の空に届かんばかりの高高度を飛行していた。戦場の全体図を把握すると共に、同時射撃を行なう僚機の照準点、ならびに砲撃角度のような各種データの送受信や、着弾地点の予想範囲をリアルタイムで送信し、味方を砲撃に巻き込まないためメルヴィアに伝えねばならない。
「しかし……すげー数だな……」
感情に流されず冷静にいられるようあらかじめセルフモニタリングを施している和輝の口から、ぼそりと感想が漏れる。だが、アニス・パラス(あにす・ぱらす)は暢気なものだ。
「いつもどおりの事をするだけだよ〜♪
 和輝が操縦と通信を担当して、アニスが収集した情報の処理統括っと。
 にひひ〜っ、機体と同調しているアニスには難しい処理も簡単に出来るのだ〜♪」
「大事なデータだ。頼んだぞ」
「うん、もちろんだよ。
 ルーシェリアお姉ちゃん達が守ってくれてるけど、ちゃーんと殺気看破で警戒もしてるんだよ」
アニスの思念が帰ってくる。
「あのあたり、イレイザーが集中しているな。……行くぞ」
和輝が言って、イレイザーの群れの上空を大きく旋回すると、護衛のアルシェリアがその後について優雅な弧を描く。アニスは和輝が当たりをつけた場所の座標をネルソンに伝えた。ルーシェリアが下方のイレイザーの群れを見て呟く。、
「ロングレンジライフルで狙撃加勢するのもありですが……。
 この数では単発だと効果は期待できないですからねぇ……」
アルトリアが頷く。この高度まではさすがにイレイザーたちも上がってはこないと思うものの、用心のため上方も含めた全方位の索敵を行なう。
「ブラックバードが奇襲を受けたりしないよう、十分に気をつけましょう。ルーシェリア殿」
「もちろんですっ! 和輝さんを落とさせるわけにはいきませんからねぇ!」
「和輝殿の機体は偵察専用機、攻撃力はありませんし、アルシェリアがなんとしても守らなくては」
アルトリアは策敵に全神経を集中した。
 和輝からの通信を受け取ったネルソンがメルヴィアにコードFSG発動を伝える。ついで和輝の機体が弾道上に僚機がいないかの確認を取る。
「こちらブラックバード。コードFSG適用完了」
「了解」
ローザマリアがホークアイ、行動予測を使い最大限の効果を見込めるよう、慎重に照準を定める。
「システムリンク完了。各艦、統制射撃準備よし」
僚機に通信を行なう。
「こちらテメレーア。グラビティキャノン発射準備完了」
ネルソンの声。
伊勢のオペレーター、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が計器を最終チェックし、装備の確認を行なう。
「伊勢の全攻撃システムリンク完了、統制射撃準備完了!!」
続いて吹雪の凛とした声が響く。
「旗艦テメレーアに通信、こちら伊勢、統制射撃準備完了。いつでも撃てます!!」
近くにいたスポーンが、艦隊のほうへ移動してくるのが見える。テメレーアの傍で哨戒に当たっていたジェファルコンのオペレータ、柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)から恭也警告が入る。
「恭也、複数の敵機が接近中だ。気をつけろよ」
恭也が彼らに照準を定めた。
「少し派手に動くぞ姉貴、サポートは頼んだ」
「任せろ!」
高い機動性を生かしてスポーンに相対する。ビームサーベルをひらめかせつつ舞うようにスポーンの間を移動すると、ジェファルコンの軌道上に黒い霧が舞い散った。
「清掃完了」
唯依がネルソンらに簡潔に告げる。
「全艦に告ぐ。これよりイレイザー、スポーンの群れに一斉砲撃を行う。各員がその義務を尽すことを期待する」
ローザマリアの声が鞭のように響くと、伊勢とテメレーアの砲塔から眩いビームのカーテンが紡ぎだされ、和輝らの見守る中、イレイザーとスポーンの群れを包み込んだ。そこにヒルダと丈二の熾天使の力が加わる。降り注ぐ光の矢に貫かれ、あるいは砲撃に粉砕され、イレイザーもスポーンも、目も眩む光輝の中に輪郭が溶けこみ、蒸発する。
「目標撃破!」
ネルソンの声が通信機から僚機に流れ込んだ。