空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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■クジラ船長

世界樹の森付近まで、契約者達を運んできてくれるクジラ船長に、
エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)は、食って掛かっていた。

「まだ十分回復もしていないのに、そんな体で無茶よ!」
サイジャリーの緑の瞳には、悲しみが見て取れた。
「どうして、そこまで人間なんかの為に頑張れるのよ……」
クジラ船長は答えない。
サイジャリーは、苛立ち、周囲を指し示した。
「見なさいよ!
貴方がこんなに自分を犠牲にしても、誰も貴方を思いやったりしないじゃないの!
それでも行くっていうの?」

しかし、クジラ船長の、言葉ではない意志が、伝わってくる。
皆を助けたいという気持ちは同じだと。
契約者は、仲間であると。

「バカね……」
目頭が熱くなったのをごまかすように、サイジャリーは悪態をついて見せた。
「わかったわ。じゃ、貴方の体に負担がかからないように
できるだけ静かに、でもなるべく早く森に着ける様に私がサポートするわ」

「エルが操縦士みたいな役割なら、ボクはオペレーターかな」
パートナーのペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)が、進み出る。
レーダーを観察して、敵の接近などを監視する役目を。
ペシェは請け負った。
「人間は自分勝手な生き物だってエルは言うけど、
そんな人間でも助けたい気持ちもちゃんとエルが持ってるのボク知ってるよ」
クジラ船長に、ペシェはささやいた。
白モモンガのゆる族のペシェは、
お腹が空いて倒れていたところを、サイジャリーに救われた過去がある。
だから、パートナーの優しさは人一倍理解しているつもりだった。

「クジラ船長……?」
サイジャリーは、ふと、クジラ船長の様子に違和感を覚える。
不調であるとか、そういったことではない。
ただ、そこにはもう、ファーストクイーンの姉の意思はもうないということ。
「エル、クジラ船長はもう……」
ペシェの言葉に、サイジャリーは首を振り、言った。
「ええ。でも……クジラ船長はクジラ船長よ」

その思いは、
スウェル・アルト(すうぇる・あると)と、
アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)も同じであった。

「あの蟲の狙いは世界樹で、クジラはまだ大丈夫そうだけど、
以前の事もあるし、クジラの事が、少し心配。
クジラはまだ、戦う事が、出来ないし。
……クジラも、大事な、仲間。
私はクジラ、大好き。大きくて、とても立派」
スウェルは、無表情に淡々と、しかし、強い意志で、そう言った。
「私達は、大蟲からクジラ船長が襲われないように、
しっかりお守りしますよ。
世界樹の森の入り口ですから、そうたくさんは来ないとは思いますが……。
クジラは私達と苦楽を共にしてきた仲間です。
いじめるのは許せませんねっ」
アンドロマリウスも、力強くうなずく。

「海神の刀。
海の神様の刀。
これで、クジラ、守る。
大丈夫。絶対、怪我、させない」
海神の刀を握りしめて、スウェルはクジラ船長に言った。

「アンちゃんもファルシオンで、ザックザク戦っちゃいますよっ!
大丈夫、私達がお守りしますから!」
アンドロマリウスも、胸を叩いて請け負った。

クジラ船長からは、感謝の意思が伝わってきたような気がした。
その暖かい想いを胸に、
スウェルとアンドロマリウスは、大蟲の警戒に努めるのであった。