空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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インテグラルビショップ 2

 メルヴィアがこれまでの総合的な情報を元に、攻撃方法について提案してきた。陽動作戦で気をそらし、装甲をはがした後、先ほど傷ついた胸部を集中攻撃しよう、というものだった。再生力が備わっているということは、頭部か胸部を一回の攻撃で完全に破壊しなければおそらくは倒せない。熾天使の力を最大限に使うとしても、一体あたりがどの程度のダメージを与えうるかはわからない以上、集中攻撃で一点を狙う必要があるだろう。
「戦える時間はおよそ30秒……と、なると敵の虚を突いて一撃、即離脱ということになるわね」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)が頷いた。フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)がにいっと笑った。
「リネン。フリューネも同じ力を持つはず。お前との初の熾天使の力発動はもらう。
 虚を突いての陽動は得意とするところだろ?」
「わかったわ、フェイミィ。……大切な人を助けるため、行きましょう……!」
『ナハトグランツ』を格納した『騎獣格納の護符』を手に、リネンはビショップに向き直った。
「インテグラルビショップ撃退のためのきっかけをつくるということ……奇襲だな」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がリネンに笑いかける。ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が言う。
「先に防御スキルを使っておけば、攻撃後の無防備さをカバーできるかと思います。……危険な相手ですから」
「そうだな。スポーンやイレイザーも相当少なくなったとはいえ、まだ残っているしな」
クレアが頷く。
「いくらかでも、支援を」
フェイミィが言って、ゴッドスピードとイナンナの加護を作動させた。ハンスが歴戦の防御術、オートガード、オートバリアで4人を包み込む。
「まだイレイザーとの戦いのは続くのね。
 もっとゲルバッキーを締め上げたらイレイザーをどうにかする情報が出てきそうだけれど……。
 とりあえず今回は熾天使の力を使い終わった後のサポートをする事にするわ」
天貴 彩羽(あまむち・あやは)スクリーチャー・オウルから声をかけてきた。パートナーであるスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)も頷く。
「またイレイザーとの決戦でござるな……。
 今回のそれがし達は人命救助が目的でござるね。
 しっかり観測分析して一人だって危ない目にあわせないようにするでござるよ」
「ありがとうございます」
ハンスが微笑む。
ついで一斉に熾天使の力を作動させる。
「さてと……来たれ、熾天使の力!」
「こ、これが熾天使の力……!?」
リネンとフェイミィはビショップのそば出現した光の大天使の中にいた。隣には同様にクレアとハンスの大天使がいる。2体の大天使は翼を広げた。
「何でもいいから全力でぶち当てるぞ。とにかく時間のある限り全力攻撃だ!」
「いきましょう!」
フェイミィが荒っぽく光の矢をビショップの背後から撃ちまくる。クレアとハンスもすぐ同じように光の雨を降らせた。
 背後からの攻撃に虚を突かれたビショップの正面に不意に3体目の熾天使が現れた。東條 カガチ(とうじょう・かがち)ルーシー・ドロップス(るーしー・どろっぷす)の大天使だ。
「なんかもぞもぞするって言うからトイレかと思ったら違うって……。
 手貸してっつうから貸したらとんでもねえもん出しやがった……何か俺浮いてるし。……そらお前封印されもするわ」
「なんかよ……懐かしいような……よくわかんねえけど……力があふれてくるんだよな……」
「まあでもこれがありゃあ、あのイレなんとかとかインなんとかとかなんとかできるんだろ?
 ……んで、これどうやって戦えばいいんだよ?」
実にゆるいやり取りである。瀬島 壮太(せじま・そうた)ミミ・マリー(みみ・まりー)がそれを見上げている。
「やだ……ルーシーさんかっこいい……。壮太! 僕もあれ出したい! あれやってみたい!」
ミミが叫んだ。
「あれって出したいと思って簡単に出せるもんなの?」
壮太が言った。ミミがいきなり手を差し出し、壮太の手をつかむ。カガチの熾天使のすぐ横に、光の大天使がもう一体現れる。
「……ってうそだろ?! こいつほんとに同じようなの出しやがったよ!
 しかもなんか宙に浮かんでるんですけど!! ちょっとやだ何これ怖い!!」
壮太が叫ぶ。
「でも……なんだか力がすごくたくさん外に流れ出す感じがするから
 少しの間しか維持できないみたい……」
「ミミおま!! そういう大事なことは早く言えよ!!」
「だって今わかったんだもん……」
佐々良 縁(ささら・よすが)鈴倉 紫(すずくら・ゆかり)がいきなり出現した大天使を愕然と見上げている。
「うわぁ……なんつーかまあ……なにあれ? ゆかりん?」
縁がハトが豆鉄砲を食ったかのような表情で紫に言う。
「……なんだか、愉快なことになってないか? いや、行為自体はシャレにならんのはわかるんだが」
紫もあまりの事態にあっけに取られている様子だ。
「なんか、そういえばこれ使えるの30秒限定で、そのあと消えちゃうんじゃなかったっけか?」
「うん、でもってヴァルキリーと守護天使は力使い果たして動けなくなるとか、聞いたような……」
二人は顔を見合わせた。
「ってことは。30秒後がやばいんでない?」
「そういうことだと思う」
「回収しないと!」
二人は異口同音に叫んで、熾天使めがけて小型飛空挺で急ぐ。
カガチの熾天使が向き直った。
「んじゃ、そこのつられて大天使出しちゃった瀬島達もご一緒にどうぞー!
 まず構える。んで振りかぶって! この時に掛け声があるとよりなんか必殺技っぽくなるけど……」
カガチの声ががんがんと響く。
「こーいうのは皆でやるのが楽しいんだよ! 掛け声?んー。例のあれでいこぜー!」
ルーシーは楽しそうだ。
「ミミよぉ、ちゃんと元に戻れんのお前? まあ出したもんは仕方ないからルーシーと一緒にやることやれよ。
 オレもついててやるからよ」
壮太が言った。
「えっとこうかな、腕を振りかぶって……。僕は腕グルグルって回しちゃうよ?
 それでこう……」
2体の大天使は、クレアとリネンの背後からの攻撃に気を取られているビショップに正対した。そして叫ぶ。
「ロケットパーーーーンチ!!」
素晴らしいタイミングで大天使のロケットパンチがビショップの胸部に炸裂する。先ほどの戦いで傷ついた胸の装甲が大きく破損し、ゾンビのような肉体が露出する。先ほど傷ついた箇所がミミズ腫れのように醜く盛り上がっていた。
4体の大天使がふっと消える。リネンがナハトグランツを呼び出し、フェイミィをすくい上げて戦線を離脱する。
「何かこれ色んな意味ですっきりするけど……すっごい消耗するのな……。ねっむー……」
ルーシーとカガチ、壮太とミミが落下し、スクリーチャー・オウルで控えていた彩羽とスベシアがクレア、ハンスをそっとキャッチする。ついでカガチら4人をすくい上げ、大急ぎでその場から退避し、縁らに彼らを託す。
 インテグラルビショップは、消えた敵を探してあたりを見回している。ビショップの装甲には無数のかき傷がつき、翼もあちこちついた傷に醜い肉芽が盛り上がって、よりいっそうおぞましい外見となっている。
「胸の装甲がはがれたね。……気味悪いけど……一斉攻撃、かな」
愛美が言う。
「ごく短時間しか使えない力ですから、タイミングを見極めて使うのがベストですね」
御凪 真人(みなぎ・まこと)が言った。
「この不安定な力でも目いっぱい役に立てなきゃだものね」
セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が真人を見上げる。真人はオーバークロックを使って思考速度を上げていたが、ひとつの結論を導き出した。
「空中に逃げられると厄介ですし、背側から翼を狙えば、正面からの攻撃がしやすいという効果もありそうです。
 翼を攻撃しますから、マリエルさんたちは装甲がはげた胸の部分を一斉攻撃してみてください」
六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が名乗り出る。
「私も『六本木通信社』として戦闘に参加しつつ記録と取材もしていましたが……。
 ……ヴァルキリーや守護天使、熾天使を取り込んだ様なあの翼は受け入れ難いですからね。ご一緒します」
ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が懸念の表情を浮かべ、優希を見つめる。
「わたくしの抑えていた感情を解放しますわ。
 この感情で優希様を怯えさた事もありましたが……それでも、わたくしを信じて下さいますか?」
「以前、ミラさんが怒った時は驚きましたが『許せない事だから怒っていた』のは分かっています。
 ですから私は大丈夫ですし、ミラさんを信んじています。
 だから『許せない事を正したい』と思われたのなら、遠慮無くやっちゃって下さいっ。
 私は全力で信じて支えますっ!」
「……ありがとうございます! ……優希様。
 ……覚悟、しとけよ。」
「せっかく、愛美、マリエルと拳法奥義を習得したんだから、総攻撃にに協力するよ」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が言った。横に静かにコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が佇んでいる。
「最高の一撃で、隙を作るよ」
「ありがとう。みんなで協力していきましょう」
マリエルがコハクの言葉に微笑む。
「そうそう! ここでひとがんばりだよっ!」
美羽がにこっと笑った。