空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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勝利
 

 7体の大天使は後退しつつ消えうせた。ビショップはきしるような声を上げつつ、あたかも癇癪を起こした幼児がおもちゃを破壊しまくるがごとく、周囲のもの―――イレイザーの生き残り、スポーンなどを手当たり次第に食いちぎり、叩きつけていた。もはや敵も味方もないようだった。半ば倒れたまま、ビショップはもがれていない、残った側の翼を激しく羽ばたく。そのたびに、周囲のスポーンが巻き込まれ、粉砕される。巨大な腕がそばに放棄されてい中破したイコンを掴み、苦し紛れのように食いつく。堅固な大型のイコンがまるで紙のおもちゃででもあるかのように、あっけなくその牙によって噛み潰され、ばらばらに分解する。放り投げられた残骸が、イレイザーに衝突すると、その凄まじい力と勢いに、イレイザーの体もまた半ば千切れ飛ぶ。たまたまビショップの傍にいたイレイザーもまた、さきのイコン同様に無差別に掴まれ、頭部と胸部を一咬みにに食いちぎられて痙攣しながら絶命した。咆哮するインテグラルビショップの牙には、イレイザーの肉片と金属片とが絡み付いている。

 その間もちろん契約者たちは呆然と見ていたわけではない。ビショップの周辺でザコを相手にしていた契約者たちは、巻き込まれぬよう急いで撤退を開始していた。斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)の搭乗するフレスヴェルグは暴れ狂うビショップから十分に距離を置きつつ、契約者やビショップの攻撃から逃れたスポーンたちに、撤退中の契約者たちや無力化した熾天使攻撃チームのメンバーに被害が及ばぬよう、けん制攻撃を加えていた。
「総攻撃の後の事考えて待機してて正解だったぜ……。
 倒したはいいが気付いたらさらなる危機が……って、セオリーだよな。
 ま、ある意味俺らはいつも通りだな。支援機だからな」
昌毅がつぶやく。マイアが頷く。
「ボクもこういうサポートは必要だと思います
 突入組が無事に帰ってくるまでが作戦ですから、最後まで気を抜かないようにいきませんと。
 ニルヴァーナに来てからのインテグラル達との戦いはしょっちゅう誰かが犠牲になっていますからね……。
 今度こそ全員揃って帰れるようにしましょう」
「ああ、味方は誰一人怪我させたりしねぇよ!!」
昌毅の機体がつむぐ弾幕の合間を縫うようにして、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)ペアのエスパーダが、熾天使の力を使い、戦闘不能となったメンバーたちをクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が仮設営した戦線から遥か後方の野戦病院へと忙しく搬送していた。
「大切なのは、この戦いに命をかけた勇者たちの命を一つでも多く救う事。
 生きのびなければ、意味がないヨ!
 命をかけた仕事の成果を、自分の目で確かめてほしいのことネ」
ロレンツォが言う。
「犠牲は少ないに越した事はないわよね。
 身体をはって、インテグラル、イレイザーに対峙した人達には頭が下がるわ。
 だから、その命を無駄には散らせない」
アリアンナがセンサーをフル稼働して、取り残されたメンバーがいないかチェックしている。
「仲間との連携、これ大切。
 戦闘で役割を果たした後の撤退についても、同じネ」
ロレンツォが頷く。敵を倒した後の安堵の一瞬が危ない。そのことは戦闘においていつも気に留めておくべきだ。戦果を挙げた後、生きて帰ること。これが欠けてはいけない。
「行動不能のパートナーを抱えていてはよりいっそう危険ね。あ……ね、あそこに一組いるわ」
「了解ネ」
野戦病院にはずらりと簡易ベッドが並び、熾天使の力を使って行動不能になったメンバーや、怪我人をゆっくり休ませられるようになっていた。クエスティーナがロレンツォの機体から降ろされた契約者たちををストレッチャーに乗せて移動する。
「もう大丈夫ですよ。ゆっくり休んでくださいね。
 どこか痛いとか、ありませんか? もしなにかあれば遠慮なく言って下さいね」
柔らかな笑みを浮かべ、優しい手つきで簡易ベッドに患者を移す。物柔らかでおっとりとしたクエスティーナの存在自体が、癒しの効果を併せ持っているようだ。
「どこか痛むとかはないか? ん? 背中が痒い?? それはただの甘えだ!」
サイアスが運び込まれた患者たちの間を忙しく診察し、意識の早期回復を促し、受けたダメージを少しでも和らげるべくヒールをかけて歩いている。教導団の医師として、敵を倒す事を戦いの代わりに味方の生命を守る事を戦いとしている者としての誇りが、そこには滲んでいた。

 覚醒を見たいというトゥーカァ・ルースラント(とぅーかぁ・るーすらんと)に伴ってこの戦地に訪れたクドラク・ヴォルフ(くどらく・うぉるふ)は、インテグラルビショップの無差別殺戮と破壊の恐ろしい光景を目の当たりにして、呆然としていた。
クラドクは首を振った。
「危ない事は強い連中にまかせておけばよいと言ったのに……。
 トゥーカァが覚醒を見たいというのできてみたのであるが……いやはや凄まじい……」
クラドクはかつてトゥーカァに封印を解いてもらっって以来、一緒にいたいと思ってくれたトゥーカァについて回っている。だが、異端者として封印されていた心の傷は深く、人は己を拒絶するものと思っているのでトゥーカァ以外の他者には一切関ろうとしない。
「あのイコン……あれはもうスクラップだよなぁ……。
 ……!!?」
言いさしてなにげなく上空を見上げたトゥーカァの顔にショックの色が現れた。クラドクもいぶかしく思い、同様にに空を見上げた。いつのまにか暴れ狂う瀕死のインテグラルビショップの遥か上空に、5体のインテグラルビショップと同様の者たちが浮かんでいたのだ。彼らは戦況を見守っているようだった。
「まだ……あんなに……いるじゃん……」
かすれた声がトゥーカァの口から漏れた。
「恐ろしい……ことよな」
呻くように言うクラドク。メルヴィアもまた、彼らに気づいた。彼女もまた衝撃を隠せなかった。
「なん……だと!?」
 不意に上空のインテグラルビショップたちが動いた。翼を広げ、5体で輪を描くように相対し、そして地上で暴れるビショップを一斉に指差したように見えた。
 正視できないほどの強い光の柱が、空中の5体のビショップたちから紡ぎ出され、地上で暴れるインテグラルビショップを包み込んだ。大地が激しく震え、目の前に落雷が起きたかと思うような凄まじい音が響き渡る。
 光が消えたとき、瀕死のビショップがいた場所は溶けた岩石でいっぱいの大きなクレーターが残されているだけだった。わずか数分のことであったが、その場にいたものにとっては恐ろしく長い時間に感じられた。
 インテグラルビショップの群れの一体が片手を挙げるような動作をすると、仲間を率いて北のほうへと飛び去った。生き残ったイレイザー、スポーンもまた、その後を追って遥か北方へと姿を消した。

 かくして探索に向かうメンバーを探索地点に向かわせるための迎撃は成功した。だが、更なる北の地に、世界樹の森に、一体何が待ち構えているのか……。メルヴィアの眉間には懸念の皺が刻まれたままだった。