空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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露払い 3

 一人二人でより、一気にまとめて打ち落としたほうがいいと思う。そんなプランが誰から出たのか、もはや分からなくらい、全員が同じ思いを抱いていた。飛鳥 菊(あすか・きく)エミリオ・ザナッティ(えみりお・ざなってぃ)を見た。
(ったく……エミリオのやつ……自分のヘアピン渡して来たけど禁猟区なら普通に言え)
エミリオの瞳にかすかな不安を宿っているのに菊は気づいた。
「……怖ぇのか?」
「ほんまは、少し怖い。僕ん中のこの爆発しそうな感じを解放すんのが……。迷うとる場合やないのにな」
菊は舌打ちして、エミリオの冷たい両手を力強く握り締める。
「マフィアの……真っ当じゃない人間の俺に手を差し伸べて、握ってくれたのは、いつだってお前だった。
 ……俺は、お前の手を離さない」
「……ずっと僕がしてた事を、いつの間にか……僕がされてもうた」
エミリオの手に体温が戻る。きっと顔を上げ、微笑を浮かべるエミリオ。
「うん、大丈夫。僕は、もう迷わへん。行こか」
「おうよ」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)は自分の体を抱くようにしていた。
「熾天使の力……いきなり実戦で使うのはちょっとドキドキですが……そうも言ってられないですね」
シエル・セアーズ(しえる・せあーず)がにこっと微笑みかける。
「これ。交換して使いましょう」
禁猟区。それをお守りの形にして輝に手渡すシエル。輝も微笑んで同じようにシエルに手渡す。暖かい気持ちがお互いの間を行き交う。シエルが輝に向かって言った。
「こういう大きい敵との戦いはちょっと怖いな。でも、しっかりやらないとだね♪
 熾天使の力……どれだけ戦えるかわからないけど、輝と一緒に頑張ってみるね!」
「うん、がんばろう!」
輝の真摯な瞳が、まっすぐにシエルを見つめた。
「みんなを守る。そのための力だもの。大丈夫」
 永井 託(ながい・たく)は肩をすくめた。
「やれやれ、なかなか危ないことを考えるねぇ……。まあやるとなったらどうにかして見せるけど。
 最初にみんなが囮になってイレイザーを引き付けて、集まったところで熾天使の力を使って一気に倒す、と」
そこで傍にいる霧丘 陽(きりおか・よう)を見やってにっこりと微笑みかける。
「集まる場所は陽さんのところかぁ」
陽は手順を頭の中で復唱していた。
(早く飛べない僕は集める中心点になるべくアルバトロスで皆が集まるのを待つ……)
託がにこやかに声をかける。
「あ、陽さん、逃げたらまた前みたいに投げ飛ばすからね?」
さりげない口調だが、目は本気である。
「本音を言うと逃げたいけど!! 我慢する!
 一斉に集まってもらって、一気に大天使召喚で撃破!
 熾天使の力、僕にうまく使えるかわからないけど力を合わせれば大丈夫だよね」
「全力を尽くすのみ、だねぇ」
那由他 行人(なゆた・ゆきと)は体の奥から湧き上がってくるようなパワーを感じていた。
(この力で、みんなを護りたい……)
その思いを感じ取って、託は言った。
「行人がやる気なんだから、僕はおまけでいいんだよ。
 ただ、おまけはおまけなりにやるべきことをきっちりやらないとねぇ」
「うん」
フィリス・ボネット(ふぃりす・ぼねっと)が行人の肩を叩く。
「行人、絶対、絶対無事でいろよっ!! ……怪我したら許さないからな!」
「うん、わかった。フィリスも気を付けて。……禁漁区はフィリスに使うよ」
「ありがとなっ!」
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)は静かにシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)に語りかけていた。
「古王国の力……私にはそういったものはよく分からないけれど……。
 この大量の敵、非常に危険な状況で、それを打開する力があるというのならそれに賭けてみるしかないだろう」
シルフィアが頷いた。
「うん。すごい力を感じる。
 フィリスちゃんや、行人君、エミリオさん、シエルちゃんも同じようなものを感じてるみたい。
 ……ほかの守護天使やヴァルキリーの人たちも」
「一人二人の力じゃなく、何人も集まればイレイザーたちをまとめて吹き飛ばすこともできるだろう」
「ちょっと不安もあるけれど、仲間の皆もいるし。
 何よりも、アル君が力を貸してくれるなら、きっとこの不思議な力も使いこなせる気がする」
二人は手を取り合った。

 エミリオが目立つ赤い翼をはためかせ、菊とともにイレイザーの上空を飛ぶ。シリンダーボムの爆破音を盛大に響かせ、氷術の凍りつぶてを降らせて、イレイザーたちの注意を惹く。輝はシエルを同乗させ、抜かりなく殺気看破を使いつつ機械翼『スワロウ・テイル』で、からかうようにイレイザーたちの周囲を飛び回る。相当な数のイレイザー、スポーンたちがハーメルンの笛の音に引き寄せられたというネズミたちのように、待機する陽の飛空挺を目指して集まってくる。フィリスがあらかじめ決めてあった、合図のティタニアルブレイドの光線を放つ。アルクラントが優しくシルフィアの手を取った。
「さあ、飛ぼう、シルフィア。私の想いが君の助けになるのならそんなに素敵なことはない。
 後のことは気にせず、全力でいこう。
 ……たまには私にも君の事を護らせてくれよ」
シルフィアは頷き、想う。
「力を。皆を護るための、戦うための力を!」
エミリオは力を解放した。
「さあ、合図や。クールに行こか」
行人の体から光が放たれる。
「みんなを護るんだ……だって俺は、ヒーローだから!」
フィリスは一心不乱に祈る。
「お願いだよオレにも守る力、分けてくれよ熾天使……!
 いままでどんな大切なものでも守れなかったんだ、もう失いたくないんだよ!」
全員の思いが一つとなる。5人の光の大天使が戦場に現れた。集くスポーンとイレイザーの群れを取り囲み、巨大な6枚の翼が輪を描く。広がった翼から無数の光の矢が豪雨のごとくイレイザーたちに襲い掛かり、眩い光の繭にあたりが包まれた。
光がうせた後、そこには大きな穴が開いているだけで、イレイザーたちの残骸すら残っていなかった。

 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は、イレイザーやスポーンと戦うイコンの支援を行なっていた。
「かなりの激戦ですねえ? 皆さん、無理していないと良いのですが」
翡翠の言葉にレイスは頷いた。
「だが、その甲斐あって、だいぶ数が減ってきたな。
 「次から次へと、うざいな、きりが無いなと思っていたが……」
傍で同じように支援に当たっていた透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)も、周囲を見回した。
「そうだな。明らかに数が減っている。ビショップの方に動きがないのも不気味であるが」
インテグラルビショップは最初の位置から動いていない。様子を見ているのか、明らかに数を減らしているイレイザーやスポーンの様子にも関心がないのか、まるで戦場にたたずむ彫像のようだ。透玻は振り返って璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)を見やった。
「璃央……大丈夫か? すまんな……今回はかなり無茶をさせている」
「透玻様……ありがとうございます、私は大丈夫です」
璃央はそう言ったが、ビショップを見るたび、体中がざわめくのを感じていた。
「ここで、畳み掛けて一気に、ザコさんを殲滅しましょうかねえ」
言葉の内容とは裏腹に、おっとりと翡翠が言う。
「了解。寝かしつけてやるぜ。怪物ども」
レイスの背に漆黒の翼が広がる。
「そうじゃな。私たちも行こう。行くぞ璃央! あいつらを叩きのめす!」
「はい、透玻様! 力を目覚めさせて下さったリファニーさんの為にも、この力……使わせていただきます」
「私も力を貸すからな、遠慮などいらん。全力を出してやれ!」
「はいっ!」
璃央の背にはレイスと対照的な金色の光翼が広がった。熾天使の力を解き放つと、2体の巨大な熾天使が現れ、周囲のイレイザー、スポーンに光の矢を時間の許す限り広範囲に降り注がせる。小柄なスポーンは逃れたものもあったが、イレイザーはその巨大さが災いし、あるものは串刺しに、あるものは深手を負い、戦闘不能に陥るものが多数出た。その出現と同様に、大天使の姿は唐突に消えうせた。
 疲労困憊したレイスを翡翠が抱える。
「お疲れ様でした。少し休まないと……」
「ああ……ひでぇもんだぜ……まぁ少しは、役に立てたか……」
レイスが切れ切れに言う。その傍で透玻がぐったりした璃央を抱える。
「……透玻様……すみま……せん。動けなく……置いていって……ください」
「頑張った貴様を置いていくなんて無粋な事、するものか……!」
透玻がしっかりと璃央を抱きしめる。そこに生き残ったスポーンが2体、牙をむき、襲い掛かってきた。
「伏せてっ!」
元気のいい叫びとともに、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の大型飛空艇オクスペタルム号が超低空飛行で接近してきた。4人がその場に伏せると同時に、ガトリングガンがスポーンを捉え、あっという間もなく2体がはじけて霧散する。
「気をつけて! 無理しちゃダメだよ!」
翡翠が顔を上げると、ノーンが青空色の髪を風になびかせ、笑顔ですぐ傍に大型艇を着艦させたところだった。
「乗ってください。安全なところに行きましょう!」
「すまぬな」
「あ、ありがとうございます」
翡翠と透玻はおのおのの困憊したパートナーを抱えるようにして、艇に乗船した。すぐに艇は発進し、間に立ちふさがるスポーンを粉砕しつつ戦線の後方へと撤退を開始する。もとより人員輸送を目的としているため、本格的な戦闘仕様ではないものの、敵の攻撃を心配した陽太夫妻が散発的なスポーンの攻撃程度は何とかなる程度の武装を、あらかじめ手を回して搭載していたのである。
「すぐに休めるところへご案内しますですよ。
 暖かいものを飲んでください。食料もたくさん積んでいますから、軽いお食事もできますよ」
可愛らしい無邪気な少女といった見かけだが、細やかな気遣いとしっかりとした対応は、大人のそれだった。