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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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露払い 2


 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)織田 信長(おだ・のぶなが)はイレイザーと戦うため、信長の愛機である第六天魔王に搭乗していた。同じ思いのグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の搭乗するウルヌンガルアカシャ・アカシュとともに参戦している。
「できるだけイレイザーの数を減らして皆が戦いやすくしないとな」
忍が言った。待ち受けるビショップのもとにほかのメンバーが無駄な戦闘を避けてたどり着けるよう、露払いができれば。彼はそんな気持ちで参戦したのであった。第六天魔王の漆黒の機体の胸部には、紅いクリスタルが瞳のように輝き、どこか荒々しい生き物のような気配をまとうイコンだ。
「奴らを1匹残らず葬ってやろうぞ」
ともに機乗する信長も意気軒昂である。
スポーンをバスターライフルで粉砕しつつ、狙うはイレイザーだ。クラッシュバイトを使用しイレイザーを撃破し、その体組織サンプルをなるべく多数取ろうというのである。
「イレイザーについてまだわからない事も多い。
 出来るだけデータを取ってイレイザーの弱点を見つけたいからな」
に向かって言った。
「コントロールをフルマニュアルからセミオートへ」
複座に座るシィシャの手が撫でるように宙を舞う。何もなかった空間に、術式が浮かび上がってくる。魔術によるイコンのシステム制御である。
「動作指針は五輪書を選択。事前記憶を参照……どうぞ」
宙に浮かぶ『完全制御』の文字が『半自動』に書き変わる。書物をこよなく愛するグラルダの意向で宮本武蔵が遺したと言われる兵法書『五輪書』。その攻防一体の型が、ウルヌンガルの基本動作に合わせて適用されている。
「アタシのとっておき、魅せてあげるわ!」
セミオートにすることで操縦の自由度は大幅に下がるが、戦うだけならさほど問題はない。
「さぁ、アタシに力を貸せ! 剣聖!」
グラルダの乗る真紅のウルヌンガルの肩からから巨大な剣が現れる。右手には『カナンの聖剣』、左手には『マジックソード』。流れるような動作でイレイザーめがけて剣を振るう。
「何処のどいつが、誰に向かって吠えているのか。しっかり躾けてあげる」
グラルダが口の端を釣り上げ、冷たい笑みを浮かべた。対空砲火に傷つき、地上に落下していたイレイザーがグラルダ機の剣戟に反応し、長い首を伸ばして剣に食い付こうとする。イレイザーの怪我の程度は相当なもののようだが、戦意はまったく衰えていない。
「手負いの獣、か。いいタイミングだ」
忍はそう言って、クラッシュバイトでその樽のようなのど笛に食らいつかせる。その様はまるで、獲物を狩る肉食獣のようだった。
「ガァアアアアアア」
苦しげな断末魔の声とともに、死に物狂いのイレイザーの触手がガリガリとイコンの表面に食いついてくる。無表情に忍はそのさまをモニターする。やがて持ち主の生命が絶えると、触手は力なくイコンの表面から滑り落ちた。黒き魔王と紅い死神は次なる獲物を求めて、のどを食い破られたイレイザーの死体をそのままに、疾駆してゆく。

「ここで勝利を収めなければ、みんなが世界樹の森へ辿り着けない……絶対に負けられない戦いよ。
 ニルヴァーナ初のイコン戦。天御柱学院の本領発揮! 作戦に貢献出来るように頑張らないと!」
館下 鈴蘭(たてした・すずらん)が決意のにじむ口調で言った。霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)も緊張の面持ちで頷く。
「うん、絶対にみんなを、世界樹の森まで届けるんだ……!」
鈴蘭のブルースロート、ニケは最前線でスポーンと戦っていた。そこに一体のイレイザーが割り込んでくる。イコンに匹敵する巨体が、眼前に立ちはだかる。がっと口を開き、毒炎を激しく吹き付けつつ、背中の触手が幾本もニケめがけて叩き込まれる。沙霧はエネルギーシールドを展開し、被ダメージを少しでも軽減するべく集中していた。それでもかなりの衝撃が機体に走る。
「う……。かなりきついかも……」
触手は交互に機体を叩く。鈴蘭は機を後退させ、体制を整える。
「イレイザーやインテグラルにジャミングって効くのかしら? 
 煩いなーくらいは感じて気を散らしてくれると良いんだけど……」
物は試しと取れる手段を片端から試してゆく。
再び振り上げられた触手に向かい、アサルトライフルで応戦する。何本かの触手が千切れ飛び、イレイザーが凄まじい咆哮をあげる。機体がびりびりと振動するほどの音量だ。前にもまして凄まじい勢いで触手が叩きつけられてくる。鋭い爪がイコンの表面を引っかき、ギイギイと嫌な音を立てて装甲を激しく傷つける。さらに炎を吹きつけながら、長い首がイコンのコクピットのほうに近づいてくる。
「覚醒っ!!!」
鈴蘭の叫びとともに、イコン全体が淡い光輝に包まれる。爪が、触手が弾かれる。
「チャンスだ! ビームキャノンをやつの口に!」
沙霧が叫ぶ。
覚醒のパワーのこもったビームキャノンが、イレイザーの炎を吹く口をまっすぐに捉え、後頭部を突き抜ける。炎は唐突に途切れ、生命維持と全身を統御する中枢を灼き切られたイレイザーは、痙攣しながら大地に倒れた。

 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)のジェファルコン、アイオーンはインテグラル、スポーンの集く空中に舞い上がった。サポートのミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)は、シフが集中して戦えるよう、火器の管制ももちろんだが、特に周囲の状況把握に集中していた。
(シフが操縦に集中できるように、ワタシはワタシのベストを尽くす!)
僚機ヒポグリフに搭乗した桐生 理知(きりゅう・りち)はお守りを握り締め、守りたい風景を脳裏に思い浮かべ、この景色を守り抜くと心に誓う。
「作戦目標を達成することは勿論ですが、誰欠けることなく帰るためにも全力でいきましょう」
シフの声が通信パネルから聞こえてくる。
「そうだね! 絶対に勝利して、みんなで帰る!」
理知が力強く応えた。
「覚醒の時間は短いです、そのためにも最大限の効果を出したいですね。
 牽制・霍乱を交えつつ、周囲のインテグラル、スポーンの注意を出来るだけこちらに引き付けましょう」
「そうだね。覚醒は一度しか使えないし、なるべくたくさん倒したいもの」
「ではまず、通常武器で苛立たせることにします」
ミネシアが軽い調子で言って、撫でるようにイレイザーたちの上空を舞うシフにあわせ、バスターライフルで弾をばら撒く。そちらに気をとられる敵に、理知のパートナー北月 智緒(きげつ・ちお)の操縦する機体が、反対方向から攻撃を行なう。翻弄され、苛立ち、イレイザーとスポーンは2機のイコンの思惑に満ちた舞いに乗せられ、次第に一箇所に固まってゆく。頃合は良い。一気殲滅には絶好のチャンスである。
(理知ってば、覚醒は危険なのに……でも、これだけのイレイザー相手に……仕方ないね)
智緒は深く息を吸い込んだ。
「覚醒!」
同じタイミングで、シフの機体も淡い光に包まれる。
「この感覚、久しぶりですね。限られた時間で、最大の効果を。
 この戦いを越えて、より良き未来をつかむためにも、全力を尽くしましょう」
シフの淡々とした声が、コクピットに響く。
2機のイコンが一気に攻勢に出た。抜き放たれたビームサーベルが宙を舞い、ビームキャノンを撃ち込みつつイレイザーたちの周囲をイコンが風のように疾る。スポーンがあっけなく霧散し、イレイザーの触手が、腕が、翼が、その駆け抜けた後に大地めがけて落下し、金属をすり合わせるような絶叫がこだまする。
「じきタイム・アップです」
ミネシアの声に、2機のイコンは速やかに戦線を離脱した。あとには霧散するスポーンの黒い霧が残るだけだった。