空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

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インテグラルビショップ 3

 翼への攻撃直後、隙を突いて一斉攻撃をかけねばならない。愛美、マリエルらとともに正面攻撃をかけるメンバーの間に緊張が走る。おのおの安全な距離を置いて、ビショップの正面側への移動を開始した。
「リファニーさん、無事かしら……。とにかく彼女を救うためにも、熾天使の力を今こそ使わなくてはね」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がぽつりと言った。セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が応じる。
「申し訳ありません、まだ完全に目覚めていないので、わたくし自分でも理性を保てるかわかりません……。
 ですが、できる限りのことはさせていただきます」
「そうね。がんばりましょう」
結崎 綾耶(ゆうざき・あや)は自分の体を抱えるようにして、匿名 某(とくな・なにがし)に言った。
「私の中から湧き上がってくる力は、正直すごく怖いです
 それでも、この力で守れるものがあるなら……。
 ビショップと実際に対峙したら、すごく怖いと思います。逃げ出したいって思うかもしれません。
 それでも、絶対に逃げません! 例え戦いが終わった後にこの力がなくなろうと構いません!」
「綾耶なら大丈夫だ。俺も傍で支えるからさ!
 ビショップはリファニーの大熾天使を一撃で倒すほどだから相当強いんだろう。
 正直そんな奴相手は怖いが、己が力に怯えながらも逃げなかった綾耶のためにも、ここで退くわけにはいかない!」
某が力強く言って、綾耶の肩を抱く。
「一緒に、行こうぜ」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)ハティ・ライト(はてぃ・らいと)の肩を叩いた。
「よし、守護天使の力を見せてやろうぜ! きっと家で留守番してる間に何か修行でもしてたんだな!
 さすがはオレのパートナーだぜ!」
「……私にこんな力があったとは、実に興味深い。
 これまでは他人を対象としていましたが、まさか自分を観察対象にする日が来るとは。
 折角なのでこの力を試してみる事にしましょう
 しかし短い時間しか使えないようですし、自分では制御出来るかさえわからないので……」
誠治はにかっと笑った。
「なるようになるさ。大丈夫!」
「……その気楽さが良いのか悪いのか」
ハティは肩をすくめ、茶色の瞳をくるりと回した。
 金髪を荒野からの風に乱しながら、シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)アイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)に向き直った。その青い双眸が、その色を映したかのようなアイシスの瞳を覗き込む。
「作戦を上手く運べるように貢献しよう。やつは強大な力を持つ敵だ。
 人1人の力なんてたかが知れてる。だが皆で協力すれば、きっと行ける!」
「ええ、私の力は守りの為に……皆さんの活路を拓く事が出来るなら、本望だわ」
「力を使ったら動けなくなってしまうけれど……その時は守ってね、シルヴィオ」
「言われるまでもないさ」
秋月 桃花(あきづき・とうか)は苦悶していた。
(マリエル様、愛美様をお守りすべく、体の内に沸き立つこの力……制御なんてつくのかしら……。
 怖い……なぜ!? 自分の力じゃないのですか?)
体が熱いような、冷たいような感覚が桃花を襲う。そのとき、背後からそっと誰かが体を抱いた。芦原 郁乃(あはら・いくの)だ。
「桃花が大変なことになるなんて……。その苦しみを分かち合おう? 何があっても一緒だよ!」
「郁乃様……危険かもしれないのです!! 自分の力なのに、制御できるのか……怖い……」
「桃花! その力を私にも背負わせて。
 楽しさも苦しさも、嬉しさも悲しさも二人一緒に分かち合うって決めたじゃない!」
「郁乃様……」
「敵は強力だから、みんなを守らなきゃ。あいつを倒さなきゃ!」
「わかりました……」
桃花の顔に、もう迷いの色はなかった。
 熾天使の力を使った後、動けなくなったとしたらリフィ・アルクラド(りふぃ・あるくらど)の持つ癒しの力を早々に失うことになる。また、パートナーを守りながらの戦いは足手まといになると考え、ヒデオ・レニキス(ひでお・れにきす)は怪我をしたメンバーの治療や、攻撃サポートにまわっていた。だが今、インテグラルビショップを討つべく、彼らもまた愛美らと連携攻撃をすべくビショップを見つめていた。
「皆を守る戦いをする、それが俺たちのやり方だ」
「ヒデオと一緒なら、使いこなせると思うから……だから、ヒデオに従うよ」
リフィが言って、小さな両手を祈るように組んだ。

 翼を攻撃すべく、3組の光の大天使たちがインテグラルビショップの背後に現れた。真人、セルファの熾天使が巨大な光の剣を作り出す。
「この力、上手く使わなければセルファの頑張りが無駄になりますからね
 不安定な力ですが、セルファを信じますよ」
セルファは真人の手をしっかりと握り締めた。
「大丈夫よ。2人なら何だってできるわ。 だから、この力を導いて。
 相手は強大、でもここは引く訳には行かないわよ!」
飛空挺でギリギリまで接近していた優希とミラベルは、力を解放し、突っ込んだ。
「天使の手刀で翼をいただきますっ!」
戦闘モードのミラベルの目が凄まじい炎を宿す。優希はそんなミラベルの手をしっかりと握る。
「インテグラルビショップめ、……見てたらムカつくその翼、むしり取ってやるっ!! 覚悟しろや!!」
美羽はコハクの手をしっかりと掴む。
「拳法の奥義よーーーーっ! 食らいなさぁいっ!」
「行くぞーっ! その翼、もらったぁっ!!!」
美羽の熾天使が翼を手刀で一撃し、真人の熾天使が付け根を切りつける。優希の熾天使がその翼に両腕をかけ、力いっぱい引きむしる。
「ギャアアアアアアアアアアアアア」
絶叫とともに右側の翼3枚が根元から切り落とされ、引きむしられる。傷口から漆黒の瘴気が噴出す。肉芽が噴出すが、さすがの再生力も、失った翼を生み出すまでの力はないようだ。むしられた翼は水溜りの氷を持ち上げたかのように溶け崩れた。
「行くよっ!」
愛美が叫ぶ。詩穂が力を呼び出す直前、攻撃時にヴァンダリズムに専念できるように熾天使の力を対象にサクロサンクト、オートガード&バリアを作動させる。熾天使の力を解放し、セルフィーナが叫ぶ。
「対象、インテグラルビショップ。ヴァンダリズム!」
「正義の鉄槌!!」
詩穂の声が合わさった。
 某と綾耶が熾天使の力を解放する。綾耶が古王国の祈りを注ぎ、某は巨大なフェニックスアヴァターラ・ブレイドを振りかざし、二人は叫ぶ。
「これで、終われぇぇ!」
「私の中にある力の全てを開放してでもあなたを倒します!
誠治がハティに言う。
「よし、ハティ!! オレたちの絆の力を見せてやろうぜ!」
ハティはあらかじめパワーブレスをかけ、熾天使の力を開放した。
「これでインテグラルに少しはダメージを与えられるでしょうか……」
「うおおおおお! ひとがんばり行くぞぉおおおおおおおおっ!!!」
ぼそっとつぶやくハティと対照的な誠治である。
シルヴィオとアイシスの力が合わさる。輝く熾天使の中に浮かぶ二人。
「戦いが終わったらみんな無事で、また会えるって、信じてるからな!」
「熾天使は元々、戦いを好む種族ではないはず。どうか、ビショップさん、止まって!!」
二人は祈る。皆のために。そしてインテグラルビショップのために。
 郁乃と桃花も、ともにしっかりと手を取り合い、その力を解き放つ。
「わたし達は二人で一つ! ともに力を!」
ヒデオがそっとリフィの手をとった。
「うまく倒せるといいな」
「私の光と癒しの力……皆さんにどうか力を!」
片翼をもぎ取られ、苦悶するインテグラルビショップ。翼を失わせるにいたった光の大天使3体は姿を消した。代わりに現れた7体の光の大天使が一斉に翼をを広げ、光の槍を一斉にインテグラルビショップの露出した胸部めがけて投げつける。7本の光の槍は1本の巨大な光の槍となって、ビショップの分厚い胸板を貫き、片翼を失った背中に貫通した。
「キシャアアアアアアアアァァァァァ……」
悲鳴とも呻きともつかない、かすれたような絶叫が響き渡る。両手を苦悶するように頭部にかけ、兜を毟り取る。現れたのはイレイザーが可愛らしく見えるほどのおぞましい頭部だった。腐肉のごとき色合いの、焼け爛れたような生き物の頭が、鋭い牙の林立する口を大きく開け、絶叫する。