空京

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創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション



インテグラルビショップ 1

「インテグラルビショップか」
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は、ほぼ露払いの済んだ荒野を見やった。彫像のように動かないインテグラルビショップは、彼の搭乗するバロウズのサイズと互角の大きさだ。
「このサイズなら飛行形態からの格闘戦に持ち込めるだろう。
 上空から近づき変形後、落下エネルギーも利用して蹴りをかまそうと思う」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が心配そうに甚五郎を見やる。
「大きさは互角かもしれないけど、覚醒も使えないし……サポートはきっちりしますけどね」
「倒せれば倒したいが、レールガンのゼロ距離攻撃から格闘戦に持ち込んで、動きを抑え込むのが目的だ」
傍で見ていた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の{ICN0004496#ソーサルナイト?}から通信が入った。
「ここを突破できないと友を大世界樹のある森へ送る事が出来ない。
 私もカナンの聖剣を用いて接近戦をします。協力していきましょう」
クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が涼介に言う。
「私の中には熾天使の力が眠ってるのかもしれない。
 でも、今はその力を解放するときじゃないと思う。大きすぎる力は私の身を滅ぼす可能性があるから。
 それに私はソーサルナイトとの絆を信じたい」
涼介が優しく頷きかける。クレアは体内にざわめく力の大きさに戸惑い、不安を持っていた。はたしてコントロールできるのか。万一暴走してしまったら? 自分のみならず、パートナーや僚機まで傷つけてしまったら……。彼女の中にはそんな思いもあった。
「無理にインテグラルビショップを倒す必要はないけど……。
 倒した方が後が楽ってんなら、多少の無茶はしとくべきだね」
メイクリヒカイト‐Bstに搭乗する十七夜 リオ(かなき・りお)の声も入る。
「そうだな。いっせいに攻撃を仕掛けるのがいいと思う」
涼介が応じる。リオからフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)にテレパシーが届く。
『まぁ、僕らは此処が何処で、相手が誰だろうと……無理せず、無茶していくよ! フェル!』
『……なんかそれ、矛盾してません?』
フェルクレールトが思念を投げ返す。
『細かいことは気にすんな』
「せっかく『覚醒』も使えるので、それらも駆使して皆をインテグラルビショップから守りたいです!
 僕も参戦します!」
端守 秋穂(はなもり・あいお)が名乗りを上げる。ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)セレナイトの各種センサーやレーダーのチェックをしながら秋穂に声をかける。
「ユメミは攻撃以外を担当するのー! 秋穂ちゃんが攻撃しやすい位置取りを意識しつつ機体を動かすよ」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)のジェファルコンセラフィートからも同意の声が上がる。
「俺も参戦する! ヤツを倒して世界樹までの道を切り開くぞ!」
「あたしと煉の呼吸は完璧さ。にあわせて機体の制御をサポートするよっ!」
エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が請合う。
皆の通信を聞いていた柊 真司(ひいらぎ・しんじ)はもとより自機ゼノガイストの覚醒タイミングにあわせ、源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)らの持つ熾天使の力を合わせ、インテグラルビショップに挑むつもりでいた。ほかにも協力するメンバーがいるならば心強い。真司のパートナーヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)も頷く。
「協力戦で行くのがよろしいかと思います」
真司は通信機を開いた。鉄心らとの協力体制にも触れ、皆に挨拶する。
「よろしく」
鉄心も応じた。
「仲間を守るため、敵を討つ。活活三昧、殺殺三昧といこうか」
イコン部隊とともに、鉄心らは微動だにしないインテグラルビショップの元へと向かった。
 少し離れてレイヴンTYPE―C内で通信を傍受していた葛葉 杏(くずのは・あん)は、パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)に声をかけた。
「インテグラルビショップ、あれを倒せば間違いなく目立つ。
 行くわよ早苗、あのでかいのを倒して、私が最強のイコンパイロットって所を見せ付けてやるのよ!」
「了解です、杏さん」

 巨大なインテグラルビショップの真上に到達した甚五郎は一気に変形すると急降下しつつレールガンを構え、ビショップの胸部めがけて落下の勢いを加えて打ち込み、さらにほぼ同格の巨体を生かして加速度の加わった重い蹴りを入れる。
「な、なにっ!!?」
ビショップは微動だにしなかった。涼介が冷凍ビーム、ウィッチクラフトピストルを打ち込む。
「皆が進む道を切り開くため、巨悪を打ち砕くため我が剣に絆という光を!」
聖剣を振り下ろすが、いずれもかすり傷ひとつ負わせることができない。
「そんな! ……ソーサルナイトが?!」
クレアの全身に熾天使の圧倒的な力が凄まじいざわめきを引き起こす。思わず身を縮めるクレア。ビショップがうるさいハエでも払うかのように、腕を一振りする。涼介の機体はかろうじて避けたが、抑えにかかっていた甚五郎のイコンはもろにその一撃を受けた。ガキンッ! 嫌な音がして外部装甲の一部がめくれ上がる。さらに押さえ込もうとする甚五郎をホリイがあわてて止めた。
「甚五郎! 無茶しすぎです! これだけの厚い装甲が一撃でっ!!」
杏の機体がその隙をつく。
「あいつ動いてない。簡単に当たるわね!」
早苗が反撃を計算に入れ、武器の射程ぎりぎりの位置でビショップの背後を取る。両手に持ったバズーカでインテグラルビショップの頭部を狙い、覚醒を発動する。イコンが淡い光輝に包まれる。
「こいつでとどめよっ!」
バズーカが咆哮した。だが、ビショップの頭部を覆う兜状の装甲が幾分傷ついただけだった。
「なにっ!」
すかさずサイコビームキャノンで畳み掛けるが、思いもかけぬすばやさでビショップは動き、杏のイコンを数百メートルあまり、玩具か何かのようにすっ飛ばした。踏みとどまったものの、着地の衝撃で脚部が大破する。
リオの機体が出る。
「細かい調整はこっちで引き受けるっ! 思う存分やっちゃいな、フェル!」
「行くよ、メイクリヒカイト……ワタシの翼!」
リオの呼びかけにフェルクレールトが応じる。リオのフルスロットル発動に併せて、リミッター解除に加速力を加えた風斬剣で斬りつける。
「腕の一つ位は貰ってく」
もろにヒットした攻撃は会心の一撃、の、はずだった。だが、片腕の装甲に亀裂が入った程度の損傷しかない。
「こ、この程度なの?!」
リオが叫ぶ。そこに秋穂の機体が突っ込んでくる。
「イコンも含めて、『自分』になる。僕達三人全てが自分自身……セレナイトとして戦う! 覚醒っ!」
セレナイトがまぶしく輝く。亀裂の入った箇所に攻撃を畳み掛ける。腕の装甲がかなり大きく剥がれた。だが同時にビショップの反対側の腕が、セレナイトを叩く。覚醒で強化されたはずの装甲が、大きくめくれ上がる。
「まずい! 力及ばずっ! ……後はよろしくお願いしますっ!」
秋穂らはすばやく撤退する。入れ替わりに中距離から射撃援護していた煉の機体が熾天使を模した6枚のエネルギー翼を羽ばたかせるように舞い、ビショップに対峙する。覚醒した熾天使のごとき機体は、高速で飛び回りつつ隙を突いて、胸部めがけてファイナルイコンソードを放った。だが貫くにいたらず、胸の装甲に小さな裂け目を作るだけに終わった。
「化け物かっ! こいつ!」
エヴァが叫ぶ。さらに胸部を追撃するが、ビショップは驚くほどの速さでその攻撃をよける。真司が両肩のウインドシールドを展開し、エナジーバーストで突っ込んでくる。
「切り札を切らせて貰う……こいつでトドメだ。受け取れ!」
覚醒。淡い光輝に包まれた機体が一気にビショップの懐に飛び込む。捨て身の攻撃だ。ファイナルイコンソードで胸部の裂け目を猛撃する。
「ターゲットの分析を開始……装甲の裂け目がさらに広がっただけです。内部組織まで達していません」
「なにっ?」
ビショップが反撃を加えようとしたそのとき、鉄心とティーが熾天使の力を解き放った。
「この身を盾にし、砕けてもティーを守る!」
「私の力が皆のお役に立てるなら、嬉しいです。
 鉄心が守ってくている……何も怖くないです
羅刹解刀した居合いの刀で、跳ね上げるように一撃を加え、ジャマダハルに持ち替え居合いで胸部の裂け目を猛撃する。
「ガァアアアアアアアアアア」
あたりがびりびりと振動するほどの声でビショップが吼えた。熾天使の力が装甲を破り、胸部を傷つけたのだ。闇のような色の瘴気が迸る。消え去る熾天使から落下しかける鉄心とティーを、真司がすばやく救い上げ、退避した。ほかの連携メンバーも覚醒の効果切れ、装甲の破損などで退避する。
ビショップは呻くような声を上げつつも依然としてその場から動かない。
「通常イコンの攻撃では、まったく歯が立ちません……覚醒イコンでも幾分か傷つけられるだけです。
甚五郎がメルヴィアにあわただしく伝える。
「熾天使の力のみ、それなりの効果があるようです」
涼介がそう言ったとき、ホリィが叫んだ。
「見て! 修復している!」
装甲の裂け目から黒い瘴気が漏れ出す箇所に、体内から腐肉のような色彩の肉芽が萌じて来て傷口をふさいだ。リオが叫ぶ。
「つまり……修復しないうちに倒しきらないとダメってことか?!」
インテグラルビショップはどうやら以前基地を襲った超巨大イレイザーのように、再生能力を持つらしい。
マリエルの声がした。
「私たちも、行きます」
そのときだった。ビショップの頭部に目のような光が現れ、両腕と翼を広げた。マリエルの声を聞きとったかのように、ゆっくりと愛美とマリエルのいるほうを向き、凄まじい咆哮をあげた。それが挑戦の雄叫びだという事を、何故ともなく皆はっきりと感じ取っていた。